二番目の街での日々(2) ダンジョンへの計画
「しかし、いろいろと冒険者も出てきたよな」
と、俺はしみじみと言った。
最初のころは、冒険者は全くいなかったが今は冒険者が見えてきている。
だから、冒険者ギルドでも賑やかだ。
とはいえ、
「ああ!? お前、本気で言っているのかよ?」
と、いう叫びが聞こえた。
「……『また』か……」
と、ハヤテが言う。
声がした方を見てみると、二人の冒険者が喧嘩をしていた。
「まあ、気持ちはわかるけれどねぇ」
と、やれやれとため息をつくスプリング。
そう。プレイヤー同士の喧嘩はこれが初めてではない。
かなり頻繁に、目撃されている。
無理はないだろう。
何しろ、いきなりゲームの世界に閉じ込められたのだ。
幸いなのは、料理に味を感じたりすることができることだろう。とはいえ、どうやったら現実に帰れるかというのも、一応は話として聞いている。
だが、それが真実という保証もないししっかりとした保証はない。
それを考えると、不安やらいらだち、戸惑いという精神的な負担は大きい。それが、普段なら笑って済ませたり気にしない。で、終わることが喧嘩に発展するのだろう。
とはいえ、その喧嘩もそれほどだんだんと、減っている。
まあ、当たり前といえば当たり前かもしれない。
なにしろ、
『プレイヤーの皆様方にご忠告します。
街中での戦闘行為は禁止されております。
公共の場での戦闘は禁止されております。
これ以上の行為は、違反行為と判断させていただきます』
その言葉と同時に、二人が喧嘩を止めた。
違反行為を続けると、かなり問答無用で痛い目を見る。
レベルが二割減少して、貯金や貯蓄が失ってしまうのだ。
そして、止まっていた宿に戻るというのだ。
これは、地味に嫌だ。しかも、死ぬときの感覚もかなりリアルだと聞く。しかも、違反行為での敗北は、一週間ほどどれだけ戦ってもレベルが上がらないのだ。
これは、嫌だ。
まあ、問題行為に対する禁足と考えれば、マナーを守るかもしれない。とはいえ、厳しすぎるという説があるだろう。
とはいえ、そういうのは徐々に改変されていくはずだった。
「まあ、NPCを被害を与えてはいけない。と、いうのは賛成だけれどな」
と、俺はつぶやいた。ごく一部のNPCを除いて基本的に非戦闘キャラクターへの乱暴は、このゲームでは禁止されている。
まあ、ゲームから出られない。と、いうことから自棄になった人間が何をしでかすか? と、いう不安や危険もあるのだ。
下手な暴動を許したら、何をしでかすかはわからない。
「それにしても、ギルドもできてきたな。
悪質なのができないといいんだけれど……」
と、俺はつぶやく。
俺たちのほかにもギルドができてきている。
まあ、大きなギルドはあまりないのも事実だ。
これが、たとえば大人気ゲームだとしたら高レベルプレイヤーの集団というギルドもあっただろう。大きなギルドがあったりして、新米プレイヤーとの楽さなどがあたかもしれない。だが、あいにくとこれはテストプレイ状態だ。
それほど、大きな違いもないというのも大きい。
だからこそ、まだ秩序があるように思える。
とはいえ、
「そろそろ、大幅な経験値が欲しいな」
と、俺は言う。
あれからもそれなりに依頼をためてお金もそれなりにためた。
そして、噂が聞こえたのだ。
「あ、ひょっとしてダンジョンへ行くの?」
と、スプリングが言う。
「ああ。ダンジョンはいろいろと手に入るしな。
俺のこの杖もダンジョンで手に入ったんだし」
と、俺は前に事故で入ったダンジョンでの戦利品を見せる。
俺たちもお金をためたりしているが、やはり装備は少し良くなった程度だ。
装備を一気に良いのを手に入れるとなると、やはりダンジョンだろう。事実、ダンジョンを突破した人たちはかなり良い装備やアイテムを手に入れている。
ただし、
「まあ、気をつけないと……。
死亡するからな」
と、俺はため息交じりに言う。
ダンジョンは儲けは大きいが、リスクも大きい。
何らかの形で死亡すれば、レベルアップできなくなるというリスクはないが所持品や所有物が一部、失われる。
まあ、違反行為よりは少ない。だが、やはり痛みがあるし挑戦して大切な道具がなくなって、うなだれる者たちも多い。
「お金はギルドに集めておいて、余分なアイテムも預けておこう」
と、俺は言ったのだった。
「とにかく、近くのダンジョンの情報だな」
大きな町なだけあって、この近辺には三つのダンジョンがあるそうだ。
「ダンジョンは、炎のダンジョン。水のダンジョン。森のダンジョンか」
炎のダンジョンは近くの活火山のダンジョンだ。炎系列の魔物が多く存在しており、攻撃力が高い魔物がたくさん、存在しているそうだ。
さらに、常に熱い気温から集中力が失われるそうだ。さらに、体術で戦えば手が火傷してしまうような魔物も多い。どちらかというと、魔法使いが有利なダンジョンだそうだ。
水のダンジョン。別に水中ではなく水辺近くのダンジョンだそうだ。
水陸でも活動が可能な魔物がたくさん現れる。魔法にたいする防御力が高く剣士といった物理的な攻撃を得意とする職業が有利なダンジョンだそうだ。
三つ目の森のダンジョンは植物や昆虫のダンジョンが多い。状態異常にさせたりする魔物や混乱させたり、姿を消したりする魔物が多い。そのために、支援に特化した能力の持ち主が居ないと不利だそうだ。
ギルドではダンジョンの情報などが、そう言って話題になっている。
ハヤテの情報屋のサブ職のおかげでその情報がわかる。
「で、どこへいくかだな。
俺としては水のダンジョンが良いと思うな」
「魔法使いには不利なんだろ」
「魔法使いメンバーが半数を占めていたら、話は別だけれどな。
主力なのは、物理的な攻撃ができるやつらだ」
と、俺は言う。
剣士のカエデに騎士のハヤテ。格闘家のクレセント。
そして、死霊術士のスプリングと魔法使いの俺。
まず、これで支援に特化した魔法使いがいないから森のダンジョンは無理だ。
いや、スプリングはたしかに支援が得意だが……。
何事も限界というか、無理なところがある。
やはり人数が多いところから考えるべきだ。
それを考えると水のダンジョンが良いはずだ。
それに、
「それにさ。
次の町なんだけれど、俺はこの街に行きたいと思うんだよ」
と、俺は地図をみせる。
俺が指さしたのは、海上都市のアクラリウム。
だが、アクラリウムが本来の目的地ではない。
「もっと、正確に言うならアクラリウムが目的地じゃない。
アトランティスに行ってみたいんだよな」
と、俺は言った。
太古の海中都市であるアトランティス。
古の歴史が刻まれた太古の知識が広がる都市である。
「この世界について知るためにも太古の知識を知っておきたい。
それに、ゲームをクリアというなら太古の知識があると思うぞ」
と、俺は言う。
「随分と、ゲームに詳しいんやな」
と、カエデが言う。
「ああ。ゲームのテストプレイとかは何度かしたことがあるんだよ。
義姉さんの手伝いでな」
と、俺は言う。
「お姉さん?」
「ああ。腹違いの姉だ。
ゲーム雑誌の記者をしているんだよ。
これも、義姉さんの頼みでプレイしたんだよ。
テストプレイの体験を俺が記事にして、姉さんが提出するという手伝いだよ。
義姉さんにはいつも迷惑をかけているからな。
生まれ時からさ……」
俺が生まれなければ、姉さんの家庭は壊れなかったかもしれない。まあ、あのクソ父親がすでに壊していたような気がするが……。
決定打になったのは、間違いなく俺の存在だ。
「義姉さんにしてみたら、俺の面倒を見る必要なんてないのにさ」
「ユウ。お前、それ以上の発言はやめておけよ。
お前の家庭事情を知っているから、言わないけれどはたから聞くとシスコンだからな」
と、ハヤテが言う。
「シスコンと呼ばれても構わないさ。
俺は生涯、独身を貫くんだ。
あの男の血をついている俺が結婚して、誰かを幸せにできるわけない。
不幸な人間を作ってしまうにきまっている」
と、俺は断言する。
「めちゃくちゃイケメンなのに残念。
残念なイケメン」
「俺はこの顔は嫌いだね。
あの男にそっくりで」
スプリングの言葉に俺はそっぽを向いて言う。
写真で何度か、見たことのある忌まわしい俺の父親。
その男とうり二つというべき顔立ちだ。
俺を産んだ母親に関しても思うところはあるが、恨むつもりはない。ただ、惚れた男が悪かったんだろうな。と、思う。
そして、父親には嫌悪しか抱かない。
「まあ、それはさておいて話を戻すぞ」
忌まわしい男のことなんて、なるべく忘れたい。と、俺は思いながら言う。
「そのアトランティスに行けば、この世界の歴史がわかる」
「なるほどな。
とにかく、それを考えればまずはダンジョンだよな。
それを考えると、水のダンジョンが良いよな」
水中に行くことを考えると、水の魔法も覚えたいものだ。
とにかく、水のダンジョンに行けばよいだろう。と、俺は思う。
「たしかに、それは確かに良いかもしれないわね」
と、スプリングがうなずく。
「それを、考えると水のダンジョン対策を考えないといけないな」
「そういうことだよな。
まあ、それに準備をお金を稼ぐことだな」
「了解」
「あたしも賛成です」
「それに、契約もしたいしね」
と、口々にうなずく。
「まあ、とにかく準備だな。
食料とかも準備していくか。
と、いうわけで俺は料理を作っていくな」
と、俺はいう。
「それは、賛成やな。
この世界の保存食はクソがつくほどまずいからな」
と、ため息まじりに言うカエデ。
この世界でも携帯食料がある。
とはいえ、あくまでゲームの食料の一部だ。
あまり味気なくしおっけもないし、固い。
そのために、あまり連続して食べたくないのが本音だ。
そのために、おいしい食料を作れる料理人という職業がひそかな人気だ。
もちろん、購入できる高い料理にもお弁当がある。
だが、かなり高いのだ。
それを考えれば、否定はできないのだ。
「あたし、焼きそばが食べたい」
「うちは、たこ焼き」
「私はお刺身」
と、口々に注文をする。
「お前ら……。お弁当に向いていない料理を言うなよ」
と、俺はため息をつく。
そもそも、まだ魚を手に入れたことはない。
俺はため息をつきながら、宿屋にある食堂に向かう。
食堂は、いろいろとあるのだ。この街には宿屋には料理人や調合士や彫金士、鍛冶師といった職人ができる工房があるのだ。
いや、料理人が作るのは工房ではなく台所というべきかもしれないけれどな。と、俺は思いながら料理を作り始めたのだった。




