初めての依頼(1) NPとは思えないほど感情豊か
一言で言うなら洋風の家だ。レンガの家なのだが、庭の外には沢山の植物があるし、温室なども複数ある。
俺はドアをノックしようとすると、
「ちわーす。三河屋ですでー」
「ミカワヤ?」
「なんで、通じないと考えれば解るギャグを……」
カエデの言葉に俺は思わず呆れまじりに呻く。
三河屋。わかりやすく言えば、わざわざお店の人がお客さんの家まで来てくれるお店のようなものだ。昔はわりとよくあったようだが、現代ではまずない。
いや、宅配サービスはあるのだが……。
そう言っている中、
「……ミカワヤ?」
と、困惑した様子でその家の人が現れた。
年の頃は、二十代後半と言った所だろう。ボサボサの髪の毛によれよれの白いローブは薄汚れている。ほのかに鼻につくのは薬草などの薬の匂い。
「すみません。無視してください。
ギルドから来た冒険者です」
と、俺が言えば、
「ああ、冒険者ですか。
チーム名がミカワヤなんですね」
その瞬間、カエデを咎める目で見る一同。
「いえ、違います。こいつの故郷の冗談です。
無視してください。スルーしてください。
……心配をされるかも知れませんが、初めての依頼でちょっと緊張している様子で」
と、俺はごまかす。
「ああ。そうですか……」
と、依頼人の男性は微妙な顔をする。
初めての依頼を受ける初心者。と、言う不安とその冗談に笑うべきだろうか? と、考えているのだろう。
……感情が豊かだ。と、俺は思う。
いくら、依頼をすると言う役割を与えられているとは言え、感情が豊富すぎる気がする。やっぱり、そこまでのをプログラムするのはものすごい根気と時間が必要だ。
そう思っていると、
「まあ、とにかくどうぞ」
と、家に案内してくれたのだった。
室内は、どちらかと言うと花屋みたいな感じだ。やたらと、植木鉢が多数にあって飾ってある。いや、育てている。と、言うべきだろうか?
ただし、全てに花が咲いているわけじゃない。花が咲いていない植木鉢の方が多い方だ。まあ、薬草なんだから当たり前かも知れない。
「いろいろと、育てているんですね」
と、言ったのはクレセントだ。
「ええ。家とか人工的に栽培が可能な薬草などは育てていた方が早いですし」
ま、そりゃそうだよな。
と、納得する。
日本でも人工的に栽培や養殖が可能な食料というのは、ばんばんと養殖している。まあ、養殖でも産卵させるのが難しいのは高価なままだ。
良い例がウナギだ。
卵をどうやったら産ませる事が出来るのか? そもそも、卵すら確認されていない。
卵と精子を受精させることも出来ないので、年々、ウナギは減っている。
食べ過ぎて絶滅させられそうな種の一つだ。
「けれど、今回、あなた方に依頼したのは野生じゃないと手に入らない薬草なんです」
「たしか、 十時花を三本に、地中花を五本。そして、髑髏根を一本でしたよね。
場所は、七色草原」
「はい。えっと……あなた方はそこがどんな場所かご存じですか?」
「すみません。情けない話し、この街に来て間が無いんです。
どんな場所なのか、どこら辺にあるのかを説明していただけないでしょうか?」
そう言って、この街に来てから購入したこの街近辺の地図を取り出す。
この街を中心に、近いダンジョンや森などの位置が書かれている。当然、七色草原の場所なども書かれているのだが出来れば、詳しく聞いておきたい。
「あ、はい。
いや、冒険者の方々にこうして尋ねていただけて嬉しいです。
なんと言いますが、冒険者という方々は時に、我々を冷たく見くだすというか……。
礼儀がなっていない方も多いので」
そう言って苦笑を浮かべる依頼人さん。
「あ、そう言えば名前をまだ名乗っていませんでしたね。
私はロイズと言います」
「ユウと申します」
「ハヤテです」
「クレセントです」
「スプリングです」
「カエデや」
「そうですか。冒険者の方は異国の方が多いと聞きますが……。
なるほど、たしかに変わったお名前の方が多い」
まあ、厳密に言えば違う世界だからな。この世界の人間と名前は違うだろうし、適当な名前をつけるやつもいるだろう。
場合によったらローマ字で適当な単語を並べるとかの人もいそうだ。
かといって、この世界で田中太郎ですとか、山田花子です。と、言われても困る。
いろいろと、運営にツッコミを入れたくなる。
まあ、現状は運営にツッコミではなく運営にクレームをつけたいような問題に陥っているのだが……。
まあ、クレセントとスプリングはさておいてユウとかハヤテにカエデはどっちかと言うと、日本人の名前だしな。
「それで、どんな品なんですか?
恥ずかしいのですが、不勉強でして……」
「あ、はい。こちらがその薬草の絵となります」
そう言って渡したのは薬草の絵が描かれた紙だ。
【依頼の品の絵を手に入れた】
と、ステータスが現れる。便利だな。
「手に入れる上での注意点などはありませんか?
たとえば、保存方法などで気をつけなければいけない。
あとは、どんな場所に多く生えているとか……。
あるいは、特定のモンスターを倒さないといけないとか……」
モンスターのドロップアイテムという可能性もあるのだ。
「いえ、モンスターを倒さなくても大丈夫です。
その場合は討伐の依頼になっていますよ」
「なるほど」
そう言うものなのか。
その後、それぞれのよくある場所を説明される。ちなみに、全員が採取スキルを手に入れた。
【採取スキルを手に入れた!
スキル・採取 草木などの薬草を採取する。レベルが上がると良い品を沢山手に入れやすくなる。あるいは、目的の品を手に入れやすくなる】
「良かったです」
と、嬉しそうに言ったのはスプリングだ。
「私、薬剤師のスキルなんですが……。
採取スキルが上がりました」
「おー」
それは良い。効率が跳ね上がる。と、俺は喜ぶ。
「ほな。行こうか。
夜遅くなると、モンスターが出るかもしれへんからな」
確かに、夜はモンスターが強力になる使用だったはずだ。
まだ、そんな無茶はしない。
「無理のないようにお願いしますね」
と、ロイズさんは言ったのだった。




