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逃走冒険者(エスケープ・チャレンジャー) ゲーム世界からの脱出計画日誌  作者: 茶山 紅
事件発生 現実に帰れない現実と新しい街へ
23/54

新しい街での二日目(4) スプリングの秘密


 その後、俺はスプリングとクレセントと合流し、ハヤテとカエデの方と食事をしながら話を聞く。

「この街は初心者用の基本の街。

 だから、いろんなダンジョンが近くにあるみたいよ」

 と、クレセントが言う。

 ダンジョンには種類があり、そこに住んでいる魔物もいろいろといるそうだ。

「スプリングの方はどうや?」

「……いろいろと興味深い事が解った」

 と、スプリングが言う。

「……実は、今まで黙っていたことがある。

 モルテと出会ったのは……このゲームの世界じゃないの」

 ……………。

『『『は?』』』

 その言葉に俺たちは思わず聞き返す。

「モルテは……現実の世界で出会った」

「現実の世界?」

 スプリングの言葉にメロンが聞き返す中、

「モルテ。……説明をする」

 と、口を開いた。

「……喋った」

 と、俺は驚く。今までモルテが喋ったことは一度として無かったのだ。

「モルテは無口なんで」

 今まで黙っていたのは、喋『れ』ないではなく喋『ら』ないだったらしい。

「モルテ達。異世界にいた。

 はるなたちが生活して成長した現実の世界でもない。

 このばーちゃるの世界とも違う。

 文字どおり、異世界から」

「は?」

 異世界? いや、と言うか……はるなって誰だ?

「なるな?」

「私の名前です。春夏秋冬の春に菜の花の菜で春菜です」

 ああ、だからスプリング……英語で春と言う意味の名前だったのか……。

 いや、そこは重要じゃない。と、俺は思う。

 それより、

「えっと……プログラムされた発言」

「違う」

 俺の言葉にモルテは否定した。

「そして、メロンもプログラムされた存在じゃない」

 俺はその言葉にメロンを見ると、メロンはきょとんと首を傾げている。

「ぷろぐらむ?」

「どう言うことだ?」

「かつて、この世界は現実に……だが、異界にあった」

 と、モルテが語り始める。

 異世界……その世界に名前はなかった。まあ、俺たちの世界もあえていうなら地球だろうが、正確に言えばそれは星の名前だ。もしも、地球以外に惑星があった場合、世界をどう言うのか? と、なれば困る。

 とにかく、その世界はある日突然だが終わりを告げた。

 終わりを告げたのは、天災だったのか人災だったのか厄災だったのか……。

 はたまた、太陽が年月を隔てることで寿命を終える。そんなふうに自然と、世界に寿命が訪れたのか……。そこまでは、わからない。

 モルテはただ、住んでいた世界が滅びた。としか言わなかった。

 辛うじて、それぞれの種族の最も力が強く最も始祖に近い。そんな存在だけは、世界から抜け出た。仲間を見捨てたわけではなく彼らしか生き延びる事が出来なかったのだ。

「……これが、力が強い?」

 と、俺はメロンを指さす。

「言っちゃあ難だけれど、お前も力が強いように見えないな」

「この世界にきた時に、大半の力を失ったのだ。

 そもそも、瀕死の重傷だったんだぞ」

 と、ハヤテの言葉に反論するモルテ。

「まあ、メロンの方は少し違う。

 正確に言えば、妖精族の最強の存在。その者が生んだ存在だろう」

「ああ、なるほど」

 要するに赤ん坊か。と、この無邪気で天真爛漫かつおバカな妖精の正体に納得する。

「じゃあ、お母様を知って居るの?」

 と、メロンが言う。

「そういや、そのメロンの母親は?」

 と、俺も気にする。

「……死んだ」

 と、メロンが俺の質問に答える。

「……そうか。妊娠した身の上で世界を超えたのだ。

 長くはないと思っていた。私の方は元々、そう簡単に死なないからな」

 いや、幽霊が死ぬのか? と、モルテの言葉に俺はそう内心でツッコミを入れる。

 さすがに、空気を読んでそう言う事は言わないでおいたけれど……。

「私も弱っていたところを春菜に救われた」

「同人誌売り専門の本屋の帰りに見つけた」

 微妙な状況の出会いだった。

 春菜スプリングはどうやら、現実ではかなりヘビーなオタク腐女子らしい。

 曰く、

「アニメもゲームも漫画も歴史も二次元も三次元も基本的には何でも食べる」

 だそうである。

「食べる? アニメとかゲームと言う食べ物があるの?」

 と、純粋無垢なメロンに癒されて思わず頭を撫でてやった。

 まあ、同人誌即売会で買えなかったいろいろな本を手に入れて、嬉々として買える。その途中で落ちていたのが、それだった。

「よく、こんなのを拾ったな」

 と、カエデがあきれたように言う。

 こんなの呼ばわりとは、モルテが怒りそうだが気持ちはわかる。

 これが、メロンならば可愛らしい姿に人形と思ったり好奇心を抱くだろう。物語だって偶然にも主人公が助けるのは可愛らしいなにかだ。

 たとえば、変身ヒロインだってヒロインが助けたのが可愛い猫やぬいぐるみのような生き物だからこそ、ヒロインは家までつれて行くのだ。

 これが……たとえば、ぬるぬるとかずるずるとした珍奇な生き物。奇抜な生き物。あるいは形容しがたい化け物だった場合、助けたとしても家までつれて行かない。

「……と、言うか勝手について来た」

「「「「なるほど」」」」

 スプリングの言葉に俺たちは思わず納得する。

 それなら、納得だ。

「いや、ちょうど波長があったのだ」

 とは言え、モルテの話などはスプリングにとってはとても興味深かったそうだ。

「元々、ゲームのシナリオライターになりたかった」

 シナリオライターなら知って居る。

 一応、異母姉がゲーム関係の仕事をしている事もあってそう言う知識ならある。

 ゲームのシナリオを書く人だ。わかりやすく言えば、劇の台本やアニメの脚本を書く人のようなものである。

 ゲームシナリオライターとしてもそう言う話は興味深いのだろう。

 そんな中で、新発売のゲームが発表された。

 そのゲームの世界観は、モルテの語る世界とあまりにも似すぎていた。

「なんで、発売前のゲームの世界観がそんなにわかるんだ?」

「お前は、詳しくないから知らなかったみたいだけれどな。

 このゲームの前評判は凄かったんだぞ。

 世界観とか設定とかいろいろと前もって言われて居たところが多かったぞ」

 と、ハヤテが言う。

 何でも前もっていろいろな世界観とか設定は簡単にだが、大々的に説明をされていたらしい。あいにくと、異母姉さんの頼み以外ではゲームをしない俺はあまり詳しくない。

 だが、その前評判の情報だけでもモルテの好奇心を刺激したのだろう。

「元々、好きで世界を捨てたわけではなかった。

 それに、お前らの言う現実は私にとっては生きづらい世界だった」

 ま、それはそうだろう。と、モルテの言葉に納得する。

 俺たちの世界では、妖精も幽霊も竜も全てがお伽話の存在だ。

 現実で彼らを確認されたら、研究施設で実験生命体の扱いだ。

 その先にあるのは、未来ではない。あるのは、絶望だけだ。

「だが、現実からこの世界へと来るのはそう難しい事では無かった」

 モルテにとっては、この世界は故郷の香りがする懐かしくそして、住みよい理想郷だったのだろう。

「まあ、あたしも興味があったから」

 と、スプリングが言う。

 まあ、これで大体の事は解った。

「偶然の一致……とは、思えないんだよな。それは」

 と、俺は呟く。

 偶然にもモルテの住んでいた世界と似ている。いや、似すぎているらしい。

「だとすると、このゲームはモルテの住んでいた世界となにかの関係がある?」

「どう言うことよ?」

 と、俺の言葉にクレセントが尋ねる。

「まあ、仮説なら色々とあるぞ。

 たとえば、モルテが言っていた同じ世界から脱出した存在。

 メロンの母親だってそうだからな……。

 だから、何者かが作製者。

 つまり、クレセントの兄と接触してこの世界を作って貰った」

 あくまで仮説と言うのを突きつけて俺は言う。

 その言葉に、クレセント達は息をのむ。

「とは言え、元の世界をプログラムして住民もプログラムした……。

 システム通りの存在じゃ、つまらないし寂しいだろう。

 だから、予想外の行動を取る存在を招待していた。

 つまり、俺たちのような存在だ」

 元々、こう言ったゲームにはクリアと言うのは存在していない。

 厳密上では目標とかあるだろうが、好きに楽しめば良いんですよ。と、言う対応だ。

 プレイヤーたちは思い思いの方法で楽しむ。

「事実、メロンだってこの世界を望んで来たわけだ。

 ひょっとしたら、ばらばらになった仲間に会えるかも知れない。

 そう言った可能性に賭けたと言うのもありえる」

「なら、このゲームから出られなくなった状況は?」

 と、俺の言葉にクレセントが言えば、俺はきっぱりと宣言した。

「そんなことまではわからん」

 その言葉に全員が転けたのだった。

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