事件当日から一週間前 ゲームの始まり
「お願い。モンスター・テイマー・アドベンチャーのテストプレイをしてちょうだい」
と、俺にそのテストプレイが始まる当日の朝に、そう頼んできたのは姉ちゃんだった。
桜田 美香。年は二十三才と大学を卒業して、敏腕記者として日々、常人している自慢の姉である。運動神経は良く容姿は端麗。なおかつ、性格は良い。
まあ、掃除洗濯料理と言った家事がおろそかであるバリバリの仕事人間と言うのは、少しばかり欠点かも知れないが……。
その姉が俺が作った朝ご飯。昨日の晩からつけておいたミルクと卵にバニラエッセンスに塩と砂糖を少々混ぜた卵液につけ込んだパンを焼いたフレンチトースト。厚切りベーコンを焼いた品。アスパラとブロッコリーの塩ゆでにレタスにマカロニのサラダ。そして、市販のコーンポタージュを温めたものを用意していたら、そう頼まれた。
休日の日曜日と言う事なのだが、姉ちゃんの仕事は土日は無関係だ。
「モンスター・テイマー・アドベンチャーって……新型のVRMMORPGと言うゲームのやつだよな」
「そうよ。うちの方での新作のテストプレイを出来る事が解ったんだけれどね。今になって年齢制限がある事が解ったのよ」
「年齢制限?」
「そう。本格始動となれば年齢制限は無いんだけれど、テストプレイは子供向けと言う事もあって十八才以下と言う制限があったのよ」
「なるほどな。徹底的に情報を独占するというわけか」
その方法は納得できる。商売的にはいずれ、VRの技術は世界に広がる。それこそ、似たようなシステムのゲームがある。ならば、情報を出来るだけ独占しておきたいはずだ。
「けれど、情報は欲しいのよ。だから、なんとか体験ができる事が出来るわ。
だから、テストプレイヤーをしてほしいのよ」
「……まあ、良いけれどさ。
俺、あんまりゲームは得意じゃないよ」
「体験版よ。体験版。むしろ、素人目線が良いわよ。
無駄に知識を持っているマニアよりも、助かるわよ」
と、姉ちゃんに言われて俺はそのモンスター・テイマー・アドベンチャーをする事になったのであった。
その後、礼服……とは言え、スーツなんて持って無いので制服を着て(冠婚葬祭に使える制服は便利だ)パーティーに行く。
興奮しているゲーマーやら目の色を変えている同じゲーム業界。そして、ゲームに出資したスポンサーやテレビや雑誌、新聞記者などがいる。
その前祝いのパーティーで立食形式の食事を楽しんだ後、ついにゲームが始まる。
俺達は用意されたゲームをする場所へと向かう。
先ほども言ったような装置を身に着けると、用意された椅子に座る。椅子は専用ではないので、別に家にある家庭用の椅子や勉強机でも、ソファーでも良い。正直名はなし、椅子じゃなくてベッドやソファーでも良い。
まあ、意識が失われるので経ったままやるのは望まれない。
ちなみに、渡された椅子はふかふかで一時間は座りっぱなしだとしても不満はない上等な椅子であった。とにかく、備え付けのパソコンにコードを差し込んで俺はゲームの世界へと意識を飛ばした。
ちなみに、現実では一時間の体験であるがゲームの世界では一週間である。その経験を元に、一週間後に販売を開始するらしい。
まあ、とは言えそれはさておき俺はその装置を頭につけた途端だった。
『それでは、皆様。ゲームの世界へとご案内します』
と、言う言葉と共に一瞬、意識が遠くなる。
次に目を覚ましたときには、何も無い虚空の空間だった。
「ゲームの世界でも、外見は同じなんだな」
と、俺は自分の手足をみながら言う。ゲームの世界で、年齢や性別、外見を詐称すると言うのは珍しく無いはずなのだが……。
MMORPGでは、そう言う人間はけして珍しく無いのだ。そう思っている中で虚空に画面が現れる。
『初めまして。まずお名前を決めて下さい』
と、言う言葉と共に虚空にキーボードが現れる。
名前は……ユウで良いだろう。本名をバカ正直に記入するつもりはない。ユウと言う名前を記入すると、続いて主職と副職を、決めて欲しいと言われる。
『皆様は、魔物と契約して使役する魔物使いですが、それとは別の職業として主要職業と副業職業を決めて頂きます』
今度は、そう書かれた文字が画面に浮かび上がる。
ちなみに、主職は、戦闘などに使われる職業で、副職はその他を手伝う職業だ。
副職は、途中で変更が可能だが主職は変更がきかない。と、言われた。
さらに、主職で契約しやすい魔物と契約しにくい魔物がきまる。さらに、副職はその職業や行動に影響を一部、与えるらしい。
そんな中で虚空に浮かぶ主職のリストが浮かび上がる。
水兵や傭兵に空兵と言うどんな職業なんだか? と、疑問を抱くような職業の他に魔法使いや騎士や戦士に盗賊と言うポピュラーな職業などがある。
その横には、どんな魔物と相性がよく相性が悪いのか、どんな武器が使えるのか。また、他にも利点や欠点などが調べて見ると、浮かび上がる。
俺はしばらく考えて、魔法使いを選ぶ。物理攻撃はまったく無く、物理攻撃にも弱いが遠距離からの魔法攻撃が可能。回復や攻撃に結界を生み出す事も可能らしい。
ただし、相手や自分を状態や攻撃力や防御力を上げる魔法は使えないそうだ。
妖精系と呼ばれる魔物とは相性が良いが、獣人系と呼ばれる魔物とは相性が悪く、契約は難しいらしい。
続いて、副職を決める。副職は戦闘のための職業ではなかった。執事や踊り子、薬剤師の他に料理人やマッサージ師や保育士などがある。しばらく考えて、料理人を選ぶ。
料理人は料理の作成が出来るらしい。美味しい料理などを魔物にあげると友好度が上がるらしい。ちなみに、魔物と契約をするには信頼度や友好度のいずれかが一定以上、必要らしい。そして、友好度と信頼度が高いと契約した魔物を召喚し、使役しやすいらしい。
まあ、友好度を上げたいからではなくただたんに料理が趣味だからなだけである。ゲームの中でまで料理を作るのか? と、疾風が呆れそうだがそれは無視する。
続いて、初期装備が渡される。初期の装備はみんな統一されているらしい。まあ、それは当たり前と言えば当たり前だった。
続いて、魔法使いと料理人としてのスキルを決める。スキルポイントでスキルが選べて、レベルアップや購入することでスキルがさらに増やせるそうだ。
やがて、ゲームの中での俺の姿がきまる。
『ユウ レベル1 主職/魔法使い 副職/料理人
HP35/35 体力。0になると、死亡。死亡すると、最後に立ち寄った街の入り口に矯正転移。持ち物がランダムで減り、所持金が半分になるので注意。宿屋や薬、魔法などで回復がする。
MP65(+3)/65(+3) 魔力。魔法やスキルを使うのに必要。0になると、そういったスキルなどが使えなくなるので注意。宿屋や薬で回復がする。
SP25/25 召喚力。契約した魔物を呼び出すのに必要。0になると、召喚が出来なく成る。魔法や宿屋で回復する。
CP75/75 使役力。契約した魔物を使役するのに必要。0になると、召喚した魔物が還ってしまう。魔法や宿屋で回復する。
PA(物理攻撃力)5 PD(物理防御力)5
MA(魔法攻撃力)18 MD(魔法防御力)18
所持スキル 『火魔法』レベル1【ファイヤー】 火の魔法が使えるようになるスキル。まだまだ駆け出しだから、初歩の火を生み出す魔法しか使えない。
『水魔法』レベル1【アクア】 水の魔法が使えるようになるスキル。まだまだ駆け出しだから、初歩の水を生み出す魔法しか使えない。
『光魔法』レベル1【ライト】 光の魔法が使えるようになるスキル。まだまだ駆け出しだから、周囲を照らす魔法しか使えない。
『料理』レベル1 調理器具を使って料理が作れる。まだまだ見習いなので、あまり美味しい料理は出来ない。
『毒物鑑定』レベル1 手にした物が食材に出来るかどうかが判定可能。ただし、毒物があるかもしれないので注意が必要。毒物があったらそれは食べない方がよい。
『保存』レベル1 調理した食べ物を腐らせないようにするスキル。ただし、あまり日持ちしない。
装備 頭/見習い魔法使いの帽子 見習い魔法使いの帽子。MPを3上げる。
武器/見習い魔法使いの杖 見習い魔法使いの杖。鈍器としては使えないが、魔法を使う上では必要。
服/見習い魔法使いのローブ 見習い魔法使いの服。魔法攻撃の威力の数値を1下げる。ただし、物理ダメージを下げることは出来ない。
所持金 1000M
持ち物 なし』
ステータスがばっと現れる。どんなスキルなのか、解るように説明が浮き出るのが楽だ。
召喚力……SPはスキルポイントではなく召喚ポイントだろう。
使役力は使役ポイントと言う意味なのだろう。
服装は、まあ最初の頃には相応しいシンプルと言えば聞こえが良い捻れた気の杖。黒い三角帽子に黒いローブとシンプルなものだ。
たしか、鍛冶屋や彫金師などがあったので自力で防具なども作れるのだろう。あるいは、イベントなどでクリアすることで限定的な防具や武器もあるのだろう。
もちろん、お金などで購入も可能。
体力は魔法で回復するが、魔力といった他は宿屋か薬以外では回復しないらしい。
『それでは、準備は良いですか?
モンスター・テイマー・ゲームの世界へ……
Let's World Dive!!』
そう、言われた瞬間に周囲が輝く。
やがて俺の前に現れたのは町中だった。