事件開始から三日目 パーティー結成旅立ちの時
「良いから、それを寄こせって言っているんだよ!」
「嫌です。これは、私がちゃんとお金をはらって購入したんです。
なんでそれをあなた方に渡さなければならないんですか?」
剣士三人組のようだが……。だいぶ、疲労している様子だ。
「おい。街中で乱闘はやめておいたほうが良いぞ」
と、そう言ったのはハヤテだ。
「ああ? なんだよ? こいつは、仲間の居ないソロだろ?
なんでこんな女を助けるんだよ?」
「ああ、たしかに彼女とはそれほど、親しくない。
けれど友人でね」
と、ハヤテが言う。
「まあ、女が不幸になるのを見過ごすような男にだけはなりたくないんでね」
と、追いついた俺は言う。
「うわ。キザ」
「なんや、芝居の台詞みたいやな」
と、呆れたように言うクレセントとカエデ。余計なお世話だ。
だが、躊躇のない本音だぞ。と、俺は顔をしかめる。
俺は産まれた瞬間に、三人もの女性を不幸にしてそのうち二人は自ら死ぬ。と、言う結末を選ばせてしまったほどだ。
なら、もっとさらに女を不幸にしたい。と、誰が思うのだ?
「へえ? やるか?」
そう剣士が言った瞬間に、びびっと目の前に現れるのは、
『決闘を申し込まれました。
受けますか?』
「なるほどね。宿屋の外なら問題は無いんだな」
と、僕は呟く。
宿屋で狼藉を働いて厳罰を受けたやつなら目の前で見た。
だが、そうじゃないならプレイヤー同士のバトルは良いらしい。
そのまま攻撃してくるが、
「……お前ら、馬鹿だろ」
と、僕は呟いた。
四対三と数の上では、大した違いは無く逆転の可能性も確かにあった。
だが、それはあくまで数の上でだ。
魔法使いに格闘家、剣士に騎士と言うレパートリー豊富な職業。
後衛と前衛、攻撃役に遊撃、盾役と言う全てが揃っている。
そんな状況で本気で勝てると思っていたのだろうか?
あっさりと、そしてけちょん! と、言う擬音がしっくり来るほどのあっけなさで三人は倒された。
さすがにHPを零にすることはなかったが、すでに瀕死の状態だ。
「まだやるか?」
と、冷静に言う。
「くっ! クソ。覚えていろ」
「嫌だね」
お前らみたいなのはとっとと忘れるに限る。が、僕の持論だ。
漫画に出てくるチンピラみたいな捨て台詞を吐いて立ち去る三人を見ながら、僕はスプリンドに近づく。
「大丈夫?」
と、僕が尋ねると、
「あなたは……妖精を連れた魔法使いさん」
「ああ。なんでまた、あんなのに絡まれていたんだ?」
と、スプリンドの言葉に僕はそう尋ねる。
「あ……その、私が購入していた回復薬を寄こせと……」
「盗賊かよ」
と、スプリンドの言葉に僕は呆れながら言った。
いや、たしか盗賊の職業もあったから盗賊の職業を選んで真面目にプレイしている人たちに対して、失礼だろう。だとしたら、強盗か?
考えて居ると、
「やっぱりやな」
と、カエデが言った。
「やっぱり?」
「噂で何度も聞いたんや。
道具が足りてへんってな。
村に来るものと冒険者が多すぎると言うことや。
おかげで道具不足が起きそうと言うやつやな。
得に、回復薬系列は需要と配給がおいついとらん。と、言う事や」
「たしかに、私が買った三つで最後でした」
「あ、なるほどな」
今後、また入荷されたとしても取り合いにはなるだろう。
それを、考えると、
「たしかに、競争になるな」
つまり、回復薬を手に入れる為にも町の外に出た方がよいと言う事だ。
「なら、明日から出た方が良いと言うことか……」
と、俺は呟く。
まあ、強行すればどうにかなるかもしれない。
そう思っていると、
「ねえ。一緒に行かない?」
と、ハヤテがスプリンドを誘う。
「おい。ハヤテ! また、お前は勝手に」
「いやさ。死霊魔法使いだろ。
つまり、後衛の攻撃専門だ。
後衛からの援護が増えると言う事は良いことだしさ」
「それを、他の人たちが良いというかは……」
「わては、かまわへんで……。
袖ふれ合うも他生の縁や」
「私も別に良いわよ。
……その幽霊に対してもちょっと興味があるしね」
俺の言葉にカエデとクレセントがそう言う。
……。女がまた増えるのか……。と、思うが、
「そ、そのご迷惑ですか?」
「いや、助けると言うか関わると決めたのは俺がきっかけだからさ。
文句を言うつもりは無いよ」
不安げに言うクレセントに僕はそう言ったのだった。
スプリングとフレンド登録をして、その翌朝に僕たちは向かう事になる。
余談だが、スプリングのステータスは、
『スプリング レベル6 主職/死霊使い 副職/考古学者
HP71/71 MP120/120
SP30/30 CP108/108
PA(物理攻撃力)12 PD(物理防御力)8
MA(魔法攻撃力)54 MD(魔法防御力)42
所持スキル
『降霊術』レベル2 【残留思念】【心霊騒動】『霊術』レベル3【人魂】【死の手】『暗視』『年代鑑定』レベル1『古代語解読』レベル1
装備 首/霊の護符(暗視が可能)
武器/死霊使いの杖
服/死霊使いの見習いローブ』
レベルは一人で活動していたためか、低めだがどちらかと言うと支援後衛向けの職業で立った一人だったのに、レベルが6なのだ。
むしろ、たいしたものである。
翌朝、いろいろと購入して俺は食材を調理したりして旅立つ。
すでに、混沌と言うか混乱が始まっている様子である。
「なんか、町を見捨てているような気分だけれど……」
と、俺は呟くが、
「まあ、狭い町だから誰もが気付くわよ。
このまま、ここに居ても意味が無いってね」
と、クレセントが言う。
意外とシビアだ。
「そ……それに、私としても別の町へと行きたかったですし」
「ま、同感やな。
それに、あのハッカーがほんまに真実を語っているかはしらんが……。
ずっと延々とそうやっていたとしても、意味が無いと思うで」
と、言ったのはスプリングとカエデだ。
「それに、賢い連中は町を出て行く準備を始めとるで」
と、指さしたとおり遠出用の準備をする人たちもいる。
すでに、旅立とうとしている人たちもいるあたり見切りをつけ始めたのだろう。
途中で購入した地図を見る。
「地図に現在地とかがわかったりはしないんだな」
と、ため息混じりに言えば、
「バカじゃないの。あんな田舎にそんな高性能な地図があるわけないじゃない」
「…………」
メロンが呆れて言えば、モルテが黙って頷く。
馬鹿にされていると怒るよりも、そう言う地図も存在していると言う事が解った。
やっぱりゲームの世界なんだな。と、今さらながらにしみじみとしたのだった。