事件当日から三日前(後編) 迷宮探索と宝箱を守るゴーレム
「作ってて、後悔しない、お弁当」
「俳句を詠んでないできちんと見張りをしておいてくれよ」
空腹を覚えた俺たちは、ダンジョンの一室で食事を取っていた。
モンスターは徘徊しており、食事をしていると匂いに釣られてやってくる事もあり得る。と、言う事から食事は向き合った場所でありモンスターが来るとしたら、どこから来るのかが解る場所、なおかつ逃げ場があるようにしている場所で食べている。
ちなみに、お弁当と言ったが実際には違う。つくって居た、ラビットステーキとパンケーキと言う組み合わせだ。さっさと食べれるようにステーキを軽く薄切りにしてサンドイッチ形式にしている。唯一、普通のサンドイッチと違うのは野菜がないことだ。
適当にステーキをハヤテの剣を包丁変わりにして使ったのだが、
「まさか、ちゃんと料理になるとは」
と、オレは呟きながらサンドイッチを口にする。
『ラビット・ステーキのサンドイッチもどき 作製アイテム 料理 希少価値8 状態・出来たて
ラビット・ステーキをパンケーキで挟んだサンドイッチのようなもの。移動しながらでも食べられる。材料・ラビット・ステーキ×1 パンケーキ×2』
もぐもぐと食べながら一同は進む。
「食べても満腹感を感じるだけで、体力が回復しないのは理不尽だよなぁ」
「まあ、けれど食べるのも必要よ。
食事のない人生は味気ないし」
と、クレセントが言う。
まあ、そうかもしれないが……。ダンジョンでの探検での料理はどうなるかは、今後の課題だろう。このゲームでは食材にも鮮度がある。
多分、腐っているとか腐敗となると、食べたらどうなるのだろうか?
腹痛とかそう言う状態になりそうだ。
そう言えば、食料品とかで売っているので干し肉とかドライフルーツとかを売っていたな。と、俺は今さらながらに思い出した。
なるほど、そう言った保存食なども売っているのだろう。
と、思う。
それに、このフード・ボックス……持ち歩き冷蔵庫みたいなアイテムなども使うと言う事なのだろう。
そう思いながらパンケーキを食べる。
「そう言えば、他の街に向かうやつとかいるのかな?」
「まだ、居ないんじゃないのか?
そう言うのは、ゲームが本格的に始まってからだと思うぞ」
一週間後にはどうなるか解らないβ版……言ってしまえば、テストプレイだ。
そう思う。
「そう言えば、俺達はテストプレイ特典でそのゲーム機を無料で貰えるんだよな」
「ああ。めちゃくちゃ本来なら高いんだけれどな。
まあ、通信料とか今後は、課金アイテムもあるらしいけれど」
課金アイテム……。あまりゲームを真剣にやらない俺は使わないアイテム。言ってしまえば、本部にお金を払うことで手に入る現実有料のアイテムだ。
その分だけレアだったり貴重だったりするのだが、
「俺は課金アイテムは使わない派だな」
課金アイテムは金さえかければ、ものすごくレアな品も手に入る。とは言え、それ故に限度と言うのを飛び越えやすい気がする。
課金アイテムのためだけに、数万も使う人間もいると言うのだ。
「あー。この手のゲームってリアル感が半端ないからなぁ。
ゲーム中毒者が現れてゲーム課金で破産する可能性もあるしな。
商売としては成功かも知れないけれどよ」
「……そうよね」
ハヤテの言葉にクレセントが頷く。
と、言うか課金アイテムと言うのは財力をものを言う。俺やハヤテのような学生で親の庇護下にある人間にはあまり楽しめないシステムだ。
まあ、商業戦略としては解るんだが……。
オレはそう思いながらため息をついていると、
「ねえ。さっきから、なにを意味不明な言葉を言っているの?」
と、メロンが困惑した様子で尋ねてきたので、
「ま、ちょっとした雑談だ。気にするな」
と、俺はごまかした。
とにかく、俺達は冒険を続ける。
モンスターを倒して行き、経験値とついでにドロップアイテムを手に入れつつ罠を回避する。そんな中で、時たまに見つかる宝箱。
そして、
「宝箱にも罠があるのね」
と、ハヤテが宝箱を開けようとした上空からタライが落ちてくる。と、言う笑える罠に引っかかったのを見て、クレセントが呟いた。
笑える罠であるが、HPがかならず1つ減っており、しかもかなり精神にくる罠である。
【芸人トラップ(タライ)
空からタライがふってくる罠 HPを必ず一つ減らす。合計十回を超える度にお笑い芸人と言う称号が、丸三日間頭の上で輝き、行動を行う為に三分の一の確率で失敗する】
と、言う中々に笑えないトラップである。
「こういうの見ると、鍵開けとか罠を回避する魔法とかスキルが欲しいわよね」
「そういや、スキルとかのレベルアップはするけれど、新しいスキルとか魔法とかはどうやったら手に入る」
タライが落ちると言う経験と罠の地味に嫌な効果を見て落ち込んでいるハヤテを見ながら、クレセントと俺はそんな会話をする。
「ええい! 俺の貴重な何かを犠牲にしたんだ。
ちゃんと良い品が入っているんだろうな」
と、やけくそ気味にハヤテが宝箱を開ける。たしかに、これでミミックとかだったら嫌だろう。ちなみに、ミミックとは宝箱に擬態しているモンスターでこう言うRPG系列のゲームではわりと珍しく無いトラップだ。
二重トラップとは嫌だが、さすがに序盤のここらへんでそんな悪質な罠があるのは、無いだろう。そう言うのは、せめて新しいデータをアップロードしてからだ。
と、俺は思う。
まあ、実際にそんなミミックとかではなく宝箱の中には、
「これは……」
「また、なんとも」
何とも言えない道具だった。
【宝箱の中は体力薬飴×3だった】
と、現れたのは三つの飴玉だった。
【体力薬飴 アイテム レア6
回復薬を飴にしたものである。味はやや苦め。
使用する事で体力がゆっくりと回復していき、体力が5ずつ100まで回復し続ける。ただし、その間は魔法は使えなくなる】
「俺には使えないアイテムだな」
と、俺は飴玉を見ながら言う。魔法使いには使えないアイテムだが、魔法使い系以外の職業の人間には使えるだろう。
とは言え、クレセントやハヤテにはかなり便利なアイテムだ。
そのアイテムを二人に渡す。
役立たずのアイテムではないが、使う人間を選ぶと言う感じだ。
「なんというか、癖のあるアイテムが多いわね」
「まあ、それが面白いとも感じられるな」
クレセントの言葉にハヤテが言う。ちなみに、他に手に入れたアイテムは五点ほどある。
呪い止め薬 呪いの影響を3時間、止める事が出来る。解除は出来ず呪いを一時的に無効化する事が出来るだけ。
魔物媚薬(下級) 一時間、モンスターが懐きやすくなる。ただし、大量のモンスターも近づいて来るので注意が必要。下級モンスターのみ有効。
魔力封印お香 一定時間、周囲のスキルを無効化とする。ただし、敵味方関係がない。
強化チョコレート 30分間、MPを半分、消費するかわりにPAとMAを五倍に跳ね上げる事が出来る。ただし、30分後になると体力も半分に減る。
リーフフラワーの髪飾り 一度だけ身に着けている者を死亡から護る。死亡に至る攻撃を受けた場合、その攻撃を防ぐ。ただし、攻撃を防げるだけであり体力は回復しない。また、死亡しない程度の攻撃は効く。一度、身を守ると破壊される。
得に、リーフフラワーの髪飾りは身に着けられるのが女性だけと言う条件がある。そのために、リーフフラワーの首飾りは女性であるクレセントが身に着けている。
緑色の葉っぱで作られたような花の髪飾りでいささか、地味な印象すら感じさせる。
他のアイテムは、状況によったら使えるときがあるかも知れないが使えない時もありそうな……。そんな難しい所がある。
癖があるようなアイテムだ。
そう思っていると、
「なあ。なんか、音がしないか?」
と、ハヤテが言う。
そう言えば、ハヤテは現実では音楽家の家出身だった。
父親は有名なヴァイオリニスト、母親はピアニストでありついでに姉は有名な歌手である。当然ながら、幼少の頃からハヤテも音楽の英才教育を受けてきた。
だが、楽器を奏でる。歌を歌うと言う才能がまったく無かった。
感性は良いのだが、それを表現する才能が無いのだ。
わかりやすく言うと、書物の評価するのは上手だったり美食で料理を一口食べるだけで、使われている食材や調味料を事を細かく判断できる人などがいるだろう。だが、書物を評価するのが得意だからと言って、面白い本を書けるわけではない。
そして、味覚が鋭いからと言って美味しい料理が作れるとは限らない。
つまり、音楽の感性は高かったがそれを表現する才能が無かった。
とは言え、耳に関しては信用が出来るが……。このゲームの世界でそう言うのが反応するのだろうか? と、言う疑問もあるが否定するのも面倒なのでその音がするほうへと身長に向かう事になった。
そして、そちらへ行くと、
「「「おお~」」」
思わず俺だけではなく、ハヤテとクレセントまでも口を揃えて感嘆の声を上げた。
まず見えたのかなり広い部屋だ。天井には巨大な明かりが照らされており、周囲はよく見える。その部屋の奥には、あからさまに豪華な宝箱である。
俺達が今まで見てきたのは、木でできた宝箱であった。だが、あの宝箱は違う。金属で出来ている。鉄製の宝箱は見るからに頑丈そうであり、そしてなにやら特別そうだ。
だが、ただ宝箱があるわけではない。
その前には、巨大な岩の巨人がいた。
まず部屋のが拾い理由が解る。
ちなみに、広いのは……東京ドームで例えるべきだろうが、東京ドームを実際に見たことが無いので何とも言えない。ただ学校の体育館、二つ分ぐらいはありそうだ。
それだけ広いのは、その巨人が歩き回れるようにだろう。巨人と言っても、俺達の二倍半分ぐらいの大きさだ。デザインとしては、なんというか子供が粘度で作った巨人に近い。
お椀を逆さにしたような顔に四角い塊の体。そして、長方形の腕と脚。腕の先には、ちゃんと五本の指がついているが、細かい作業は無理そうな手だ。
ただし、その分だけパワーはあるだろう。結論。あれは、ボスだ。
「宝箱を守る守護者と言った所かな」
と、ハヤテが言う。
こう言うゲームだと、レアなアイテムを守るための存在というのは必ず存在する。お約束という奴だ。当然、宝箱から出てくるアイテムと言うのもボスの強さに比例して素敵な品物が多い。
まあ、初心者が突発的に落ちるダンジョンなので、強さもたかが知れていてレアさもたかが知れているが、それは、あくまで全体の話だ。
実際に俺達は初心者なので、強さも厄介だろうし出てくるアイテムも良い品……だと、思う。まあ、相手を軽んじていたら死亡と、言う可能性がある。
「まずは、腹ごしらえと体力を回復しておこう。
太陽の光じゃないけれど、光もあるから回復魔法も大丈夫だろ」
ボスの前には体力回復。
ゲームをそれほどしない俺でもそれは解る。
と、思って俺達は体力の回復と薬を使い魔力も回復する。
おそらく、この戦いがどんな結果になろうと、これで俺達は次にダンジョンを出るだろう。と、言う事は間違いが無い。
そう思いながら、俺達は部屋へと入る。その瞬間、その巨大な岩の巨人はこちらへと見た。その瞬間に、ステータスが現れる。
【岩石魔法人形 人工系 土属性 敵対(変動無し)
レベル10 HP70/70 MP25/25】
どうやら、本当に中々に初心者には厄介な相手らしいと俺達は判断した。