事件当日から三日前 (前編) 体術士クレセントと突発的な迷宮挑戦
とりあえず、ウィンディを育てるために最初の頃の場所で戦う事にしていたが、
「キュー」
「落ち着け。大丈夫だ」
使いこなすのが難しそうだ。
しょうがないので、頭の上にいさせるのだが維持やらなんやらにもCPが減っている。だいたい、一分に一減っていく形だ。これが早いのか遅いのかは解らない。
だが、戦闘に対しては何も出来ていないに正しい。
とは言え、ただそばに居るだけでも経験値が手に入るらしい。ついでに、弱い分だけレベルも上がりやすいのだろう。
だが、連発した戦いに興奮したらしくなにやら騒いでいるウィンディ。そこに、
「あ、なんか大きな声が聞こえると思ったら……あんたたち」
と、言う声がしてそちらを見ると、ポニーテールにつり目気味のボーイッシュな少女。……たしか、
「クレセント……」
「あら、今度は顔を見ても吐かないのね」
俺の言葉にクレセントが安堵している表情で言う。
「サングラスをしているからな」
そもそも、俺は美人と顔を合わせる。正確に言えば、美人に俺の顔を見られることが理由で吐いてしまうのだ。
つまり、俺自身が顔を隠して居れば問題が無いのだ。
「本当に変な奴ね。
あ、新しい仲間……それ、へー。結構、レアなサリュ・ドラゴン・エッグじゃない。そうそう現れたりはしないわよ」
「詳しいな」
クレセントの言葉に疾風が言う。確かに、ゲームはまだテストプレイの状況だ。どんなモンスターがいるのかも解らないのが正直な話のはずだ。
「まあ、別に良いじゃない。その子、ちゃんと育ててあげなさいよ。
大変だろうけれど、後悔はしないはずよ」
「みょうに語るな」
と、クレセントの言葉に口にする。
と、言うか詳しすぎる印象を与える。
「……ちょっとね」
そう言っている間だった。突如として地面が無くなった。否、無くなったと言うのはあまり正しくないだろう。地面が急に陥没したのだ。
「ぬどわあああ」
慌てた感じで俺達は落下した。
ごちんと落下した瞬間、
『イベント・落下に失敗しました。体力が減りました』
と、言う文字が浮かぶ。
「落下でダメージがあるのね」
と、俺は呟く。
たぶん、着地に成功していたらそのイベントは成功していたのだろう。
何が、良い事があるのかは解らないけれど少なくとも体力は減らなかっただろう。
そう思いながら、ステータスを確認する。
『ユウ HP35/55
メロン 8/15』
「体力は大丈夫か?」
「あー。なんとかな。まったく、なんだよ? ここは?」
そう言いながら周囲を見渡す。
洞窟のような場所であり、上を見上げてもうっすらと上空に日の光が覗いているだけだ。
『イベント・迷宮迷子が発動しました』
「迷宮迷子?」
疑問を浮かべる中で、イベント内容が現れる。
『イベント・迷宮迷子 難易度4 レア度17
発動条件
一定の場所で一定の時間以内に一定の数以上の戦闘を行う。(草原・戦闘回数45・一週間以内)
その場にいる面子が一定数を超える。(3人以上)
特定の時間・(昼間13時)
これらを満たしたとき発動される』
「難易度は低いけれど、条件は厳しいわね」
と、ステータスを呼んでいたクレセントが言う。
確かに、難易度は低いがレア度が高い。
だが、考えて見れば当たり前だ。
戦闘を何度も繰り返して、しかも人数にも条件がある。
そんな中で、戦闘を見る。
『迷宮迷子 内容・突発的に迷宮に入ってしまう。脱出するが攻略するかしよう』
と、書かれている。つまり、迷宮に迷い込んでしまったと言う事である。
「空を飛んで移動……は、このメンバーでは無理だろうな」
「たしかになぁ」
疾風の言葉に僕も頷く。
魔法の中には空を飛べる事が出来る魔法とかがあるかもしれないが、俺のレベルではまだ覚えていない。
「まあ、とりあえずは先に進むか? いざとなったら、救済蜘蛛の糸を使うからさ」
と、僕は今まで使わずにいたアイテムを見せて言ったのだった。
せっかくのレアなイベントだから楽しみたい。と、言う疾風の意見も採用して、臨時だがクレセントとパーティーを組みながら進む事になった。
「前衛型の体術士のクレセントに後衛のユウ。で、防御役の俺。
うん。バランスは良いな」
と、疾風は機嫌が良さそうに言いながら周囲を見渡す。
「けれど、回復役が居ないから気をつけような。
メロンが使える回復魔法は太陽の光に影響を受けるんだろ」
「まあね」
オレの言葉にメロンが頷く。ちなみに、まだメロンもウィンディもいる。
ウィンディの成長が目的の一つだからだ。
召喚する度にSPの消費をするはめになる。
ちなみに、CPやSPを回復させるアイテムもすでに購入している。
本来ならば、メロンと契約した時点で買うべき品だっただろうが…。
メロンは消費しないので、ほとんど買う必要が無かったのだ。
ちなみに、肉とか料理とかも食べないと空腹や渇きを感じる。
別に感じて、なにかデメリットがあるわけじゃないが……。
苦痛と言うのはあるのだから、食べたくなる。
保存が利く料理ばかりを突くっておいてよかった。
と、思いながら俺はメモで地図を作っていく。
明かりの魔法を覚えておいて良かった。薄暗い洞窟でもしっかりと見る事が出来る。
「明かりの魔法ってこういうのに使うのね」
と、クレセントが言う。
おそらく明かりの魔法が使えない人用には、ランプの魔法などがあるだろう。
そう思いながら、俺達は壁に手を宛てて進む。
迷路を脱出する方法の一つに壁の片面に手を触れてその通りへと進む。と、言う方法がある。時間がかかるが、必ずゴールへとたどり着くと言う手段だ。
別に急いで出なければならないわけではないので、地図を作る上で楽な方法などをやった。ついでに、ひょっとしたら宝箱とかあるかもしれない。と、言う理由だ。
とは言え、
「本当に罠とかあるんだな」
と、俺は落とし穴に落ちかけた疾風を見て言う。
「冷静に言ってないで、助けてくれよ」
と、なんとか落ちないようにぶら下がっている状態の疾風が叫ぶように言う。
「悪かったよ。大丈夫か?」
と、俺は明かりで下を見る。ひょっとしたら地下室とかがあるかもしれない。と、思ったが……。
「うーん。妙な所で現実的」
下には鋭い木の杭があった。落ちていたらおそらく大怪我……体力をかなり消耗していただろう。と、冷静に判断する。
そんな中で、俺たちは静かに落とし穴を避けて移動をする。
もちろん、罠だけではなく魔物もいる。
「キー」
「うおっと!」
襲ってきたのは蝙蝠のモンスターだ。
『スモール・バッツ・モール 獣族 土属性 レベル4 攻撃意志あり
HP20/20 MP10/10』
そのモンスターが四体、襲ってくる。
空を飛べる蝙蝠のようなモンスターだが、外見はモグラのような外見をしている。
モグラと蝙蝠を足して二で割ったモンスターと言う感じだ。
俺は瞬時に明かりの魔法を相手にぶつける。
このダンジョンでの戦いを繰り返して居る中で気づいたのだが、明かりをぶつけると眼を眩まされて命中率を下げることが出来るらしい。
ずいぶんと細かいところが多いらしい。
ひょっとしたら火の魔法でものを焼いたり、水の魔法で飲み水を調達できるかも知れない。なにしろ、このゲームは細かいところがある。
と、俺は思いながらゲームを続けて行く。
なんとかモンスターを倒すと、
「あ、レベルアップした」
と、クレセントが呟く。
その言葉を聞きながら、俺も肩をすくめるつつ様子を見る。
俺のレベルも上がっているし、メロンのレベルも上がっている。
だが、問題としてはレベルが上がっていても体力も魔力も一瞬で回復しないところだ。
ゲームなどでは、レベルアップで体力や魔力が回復するのだが……。
このゲームではそうではないらしい。
なにげに難易度が高いな。
と、思っていると、
「おお。ウィンディなんかはすごくレベルが上がっている。もう、レベル6だぞ」
「お前よりレベルが上になるな。この調子なら」
「……けれど、体力も魔力も俺より下だ」
俺の言葉に疾風は顔をしかめて言った。