プロローグ 三ヶ月前
新連載を始めました。
俺の名前は、桜田裕樹。
この世界では、ユウと言う名前で登録している。
得に際立った価値のない世界的に見たら存在してもしなくても変化のない人間である。 今、俺はゲームの世界に推定、五十人の少年少女たちと共に閉じ込められている。
新型にして新世代のゲームであるVRMMORPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)。
ヘッドフォンとサングラスとヘルメットを足して合体させたようなVRD(Virtual Reality Dive)ゲーム機と言う装置とインターネットを繋ぐ事で出来るゲーム。その名もモンスター・テイマー・アドベンチャー。
コンピューターネットワークに繋いだことにより、世界中の人たちとリアルな会話が可能となっている。さらに、親機であるVRDゲーム機によって脳に直接、刺激を与えて架空の世界をリアルに体験する事が出来る。
そして、そのリアルな世界の中で君達は新しい姿、新しい自分を作り出すのだ。
新しい自分となって、魔物と契約して世界を冒険しよう。
契約した魔物と仲良くなって無限に広がっていく世界を旅して回るのも良い。召喚した魔物と共に世界一を目指すのも良い。
新しい世界で新しい自分でまったく違う自分になって楽しんで遊んでみよう。
と、言う宣伝文句が世間に広まったのは半年前……いや、三ヶ月前の事だった。
事件当日、三ヶ月前。
「いや、すごいんだって! まず、なによりもすごいのがこのVRDゲーム。
バーチャルリアリティなんてまさに夢物語と思われていたのが、現実になるんだぜ。ゲームの世界に自分が入る事が出来るなんて、ゲーマーなら誰もが夢見た世界。
このゲーム機の登場でこれからのゲーム業界は大きく変わると言われて居るんだ。
さらに、ネット回線による確実性。
脳に直接、影響を与えて体感時間は一週間と半日が現実の世界ではなんと三時間。つまり、ゲームの世界で二日と半日遊んでも現実ではわずか一時間だ。
さらに、モンスター・テイマーと言う職業の他にも剣士に魔法使いに神官と多種多様な職業も存在するんだ。
キャラメイクは現実の自分の姿を元にしていて、性別や年齢の詐称は出来ない。だから、ネカマとかそう言うのは無いんだ。
今まで画面でいくら立体的なゲームを見せても、所詮は二次元だったんだ。立体映像システムがあったとしても、違う。まったく違う世界へと入る事が出来るんだ。
このゲーム機で他にも、沢山のゲームが生まれるに違いないんだ」
と、熱く俺に語るのは幼なじみの佐藤疾風だ。
「あー。はいはい。すごいすごい」
と、俺は適当に頷く。
佐藤疾風。やや筋肉質で日焼けした肌に爽やかな笑みを浮かべているその容姿は、人好きさせる印象がある。事実、人付き合いが上手であり当人は部活動に入っていないのだが、運動部から文芸部に委員会と顔見知りは豊富だ。
成績も運動神経も際だって良いわけではなく、かといって悪いわけではない。ただ、際だって高いのはその人付き合いの上手さだろう。
「けれど、技術の進歩はすごいな」
と、俺は本を読み続けながら言う。
「ああ。世界初の技術だ。
まさしくゲームなどにあるネットダイブだ。ゲームの世界に入り込む事が出来る。
まったく新しい可能性のゲームだ」
「気をつけろよ。ラノベや漫画にアニメでは、ゲームやネットの世界に入って現実世界に意識が戻らない。と、言う話がある。
お前が意識不明になれば、悲しいぞ。お前は沢山の人との知り合いがいるんだからな。
俺なら別に問題は無いけれどな」
「いや。お前……そう自分を卑下するのは止めろよ」
俺の言葉に疾風は困惑したように言う。
「お前、顔立ちは整っているし成績も運動神経もわりと良い方。少なくとも、俺も良い成績だろ。それに、料理上手で家事の腕も良い。
はっきり言って、顔を隠すくせさえなければ女子にだってモテるぞ」
「顔がイケメンなのは認める」
「いや、認めるのかよ!!」
疾風の言葉に、俺が頷けば逆にツッコミを入れる。
「けれど、顔がいくら良くても……俺は生まれただけで人を三人も殺して一人を不幸にしたんだぞ」
「あのな。それに関しては、否定はしねえ。
だが、お前が責任を感じる必要は無いはずだぞ」
と、俺の言葉に疾風は言う。
「だとしても、俺は俺の顔が嫌いだ」
なにしろ、俺は自分で言うのもなんだかイケメンだ。
イケメンで……そして、あの男によく似ている顔をしているのだ。
「まあ、俺は新型ゲームには興味がないよ。
姉ちゃんは興味があるみたいだけれどな」
「そりゃ、そうだろ。
今や雑誌記者ならみんなあのゲームについて興味があるさ。
なにより、お前の姉ちゃんはゲーム雑誌の記者なんだからさ。
つか、お前も姉ちゃんがゲーム雑誌の記者なんだからもう少し、ゲームに興味を持てよ」
「仕事の手伝いが出来る程度の知識はある。
それに、素人ならではの目線で助かると姉ちゃんは言って居る。
なら、その目線のままが良いだろう」
「お前って、複雑なシスコンだよな」
俺の言葉に疾風はため息混じりに言う。
「で、その新型ゲームを買うのか?」
「変えたら良いんだろうが、高いんだよ。装置一つで五万円ぐらいするんだぞ。
両親に土下座しても買ってくれないし、貯金を全部、使っても無理だ。だが、天は俺を見捨てなかったんだ」
俺の質問に疾風は言うと盛大に椅子の上に立ち上がった。
「見よ! このゲーム機を作るゲーム会社のスポンサーとなった多種多様な会社や大財閥のご子息ご令嬢を中心にしてプレイできるゲームのテストプレイ。テストプレイヤーには、なんとその新型ゲームの機材とデータがそのまま無料で渡される。
その中でわずか十名までのごく少数な一般参加者の枠を俺は見事に射止めたのだ」
「双六。双六」
「は?」
パチパチと拍手をしながら言えば、困惑する疾風。
「すごい。と、双六をかけてみたわけであって」
「……お前、そのわかりにくいギャグを言うのは止めろよ」
俺が解説をするとため息混じりに言われてしまう。
うむ。俺がギャグを言うと誰も笑ってくれずにむしろ、困惑する。そして、解説を刷ると全員が疲れたような顔をする。どうやったら人に笑って貰えるのだろうか?
「まあ。楽しめよ」
と、俺は言う。まあ、その時までは俺にとってはそのテストプレイは他人事だったのだ。 それが他人事じゃなくなったのは、事件が起きる一週間前の事だった。
気長に読んでくれるとうれしいです。