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世界にダンジョンが出来た理由  作者: つられるクマー
1章.ギルドマスターとダンジョンマスター
8/14

5.役割分担にも意味がある

 金属と金属がぶつかり擦れる甲高い音が響き、同時に地響きを伴った轟音に悲鳴や叫び声が聞こえる。

 探索者が駆ける足音と一緒に水を踏んだようなぴちゃぴちゃとした音も聞こえる。その度に粘度の高い水が宙へと跳ね上がり、探索者たちの靴やズボンにそのどす黒い水を染み込ませていく。


「アメリ、そろそろ解毒ポーションを飲め!」

「無理!」

「ムリでも何でも飲まねぇと死ぬぞ!お前が死んだら抜かれるだろ!」

「だったらコイツ、何とかしてっ!アタシだって死にたいワケじゃないわよっ!」


 大小さまざまな魔物(モンスター)がアメリをはじめとした盾と剣を持つ探索者たちに襲い掛かり、布製であろうズボンから滲みる毒に侵され、顔色が青く、そして白く変わっていく。

 それでも倒れずに怒鳴り返し、アメリは盾魔法を使う。前で戦う探索者たちの隙間を縫うようにやってくる魔物を後ろへと通さない為だ。


「――“蟻の子一匹通さない(インビエンスシールド)”、……っ」

「アメリっ!」

「だいじょ――」

「……祓い清めよ!“解毒(コントラック)”」


 盾魔法を使った直後にふらつくアメリに他の探索者から悲鳴が上がるが、その声を上書きするかのように彼女たちの後ろにいる探索者から魔法が飛んだ。

 アメリの死人のように白く――土気色にまでなっていた顔に血の気が戻り、ほんのりと朱色に色付く。

 先程まで全身がだるく鉛のように重く感じていた身体が嘘のように軽くなったアメリは、魔法が解毒魔法である事を理解した。視線は魔物へ向けたままに、後ろへと怒鳴った。


「解毒、ありがとっ」


 返事がないのは次に使うべき魔法の呪文を唱えているからだと、この場にいる誰もがわかっている。

 事実、アメリに解毒魔法をかけた探索者は魔力回復ポーションを飲み、すぐに次の呪文を唱え始めていた。


「――前衛マメ、ニイ、クロ!いったん後ろへ!替わりに、ルーズ、レティ、スズキが出ます!」

「了解!」

「助かるっ」

「うぃっす」


 イチコの指示が飛び、アメリの前方で戦っていた剣士のマメとニイ、槍士のクロが相手取っていた魔物にとどめを刺すとアメリの方へと駆け、助走の勢いを利用して道を遮る盾を飛び越えた。

 その際、クロの槍が盾の前に集まっていた魔物に刺さってしまい勢いが殺されて一騒動起きたが、後方から盾を飛び越えてきた3人――戦士のルーズとレティ、拳士のスズキによって無事交代できたので、問題はないだろう。

 ちなみに拳士のスズキであるが、さすがに毒を持つ魔物や毒のある罠の多いダンジョンの為、素手ではなく肘から指の先まで覆う形の皮のグローブを着けてあらゆるものを殴っている。


「解毒ポーションの補充です。1本は今すぐ飲んでください」


 下がってきた3人に鞄から出した解毒ポーションを数本ずつ渡しながらイチコが言う。

 3人は頷きながら受け取り1本を飲む。

 飲み終えると容器を用意されているゴミ袋へと投げ入れ、毒の付着した武具を置き、毒の染み込んだ服を脱いだ。荷物持ち役の探索者のネコネが差し出した服を受け取り、着替える。

 毒のついている武具は他の探索者が順番に拭いていき、着替えた3人は拭き終わって毒の消えた武具を新しい服の上から装着していく。


 それを横目にイチコは魔法使いたちの飲み干した魔力回復ポーションの容器を回収し、中身入りの物を彼らのベルトへと新しく補充する。

 明らかに限界であろう者と休憩の終わった者を交代させ、アイテムを使い切った者へはそれを補充し、空腹感があろうがなかろうが無理にでも食べろと携帯食と水を休憩中の探索者の口へと突っ込む。

 前衛の探索者たちの毒の染み込んだ服を魔法できれいにし、毒が消えた事を確かめた上でネコネに渡してたたませながら、そのネコネの口にも携帯食を突っ込んだ。


「イチコちゃんも食べないと~」

「はいはい食べますよー」


 携帯食を食べたネコネが手を動かしながらイチコへ言うと、イチコは場に合わない口調で頷きながら素直に携帯食のひとつを自分の口へと放り込んだ。

 食べながらも、回収、補充、洗浄、交代指示と忙しく動き回る。


「イチコちゃん、前衛2人、怪我だって!」

「おっけい、ミィとセンを下げて……悪いけどマメとニイ」

「了解」 「大丈夫、行けます」


 前方の声を聞き取ったネコネの言葉に頷き、イチコは休憩をはじめたばかりのマメとニイへと指示を出す。

 二人は心得たとばかりに頷き、武器を手に前方へと向かう。


「それからレン」

「わかった。横を抜けてくる魔物は任せて」


 魔法使い組の中で詠唱を続け、ちょうど魔法を唱え終わったレンへと声をかける。

 器用な事に詠唱をしながらもイチコたちのやり取りを聞いていたらしいレンは説明せずとも何をすればいいのかを理解していた。


「アメリ!」

「――“解除(リセ)”」


 いつでも前方へ行けるように構えるマメとニイ。入れ替えの際に魔物が盾の横を抜けて後方へ来た場合にそれを倒すべく呪文を唱えるレン。荷物を邪魔にならない場所へ置き、負傷者2人がいつ来ても庇えるようにと小さな盾を2枚用意して構えるネコネ。

 イチコは交代の際に動く事になる4人それぞれを確認し、レンの呪文が完成する直前を見計らって、盾役であるアメリへと声をかけた。

 アメリは合図と共に盾魔法を解いた。


 盾魔法によって横へと広がり隙間なく道を塞いでいたアメリの盾。

 その盾と壁の間にできた隙間からマメとニイが飛び出した直後、負傷者2人が滑り込む。

 ネコネが負傷者2人と隙間の間に立ち、隙間を埋めるように盾を構えた。

 一息分遅れて隙間ができたことに気が付いた魔物たちが我先にと後方へ入り込もうとする。


「焼き尽くし、滅ぼしつくし、なにものにも侵させない!“轟炎(バーヘル)”」


 魔物たちが後方へと入り込むべくネコネの盾へと攻撃を仕掛けるが、ネコネの盾が攻撃を受け止める直前にレンの魔法が完成した。

 その魔法によって、隙間へと集っていた魔物たちが1体残さず焼き尽くされる。

 灰すらも残っていない強力な魔法だった。


 それでも前方からまた数体、前方で戦う探索者たちの横を通り抜け、次から次へと後方へと――盾と壁の隙間を通ろうと、魔物たちが向かってくる。

 けれどその魔物たちの目的は達成される事はない。


「“蟻の子一匹通さない(インビエンスシールド)”」


 アメリの盾魔法が再び完成したからだ。

 盾魔法により横へ広がった盾にぶつかり、魔物たちは不満そうに声を上げて盾を攻撃する。

 それを見て、盾を構えていたネコネはホッと息を吐いた。

 振り返り、滑り込んできた2人がその状態のまま動いていない事に気が付くと慌てて盾を放り投げ、置いてある荷物へと必要なものを取りに走る。

 イチコとレンも慌てて駆け寄り、イチコが解毒ポーションを2人の口へと注ぎ、レンが毒で汚れるのも構わずに2人の武具と服を脱がしていく。


「……大丈夫!2人とも生きてる!」


 口へ入れた解毒ポーションに咽る2人を見たイチコが怒鳴ると、後方からも前方からも怒号のような歓声が上がった。

 2人の服を脱がし治療魔法を使っていたレンと、洗浄済みの服と武具についた毒を拭い取るための道具を持ってきたネコネもホッと息を吐いた。


「……すまない」

「あ゛ー、死ぬかと思った」


 怪我と猛毒によって死にかけていた2人は意識を取り戻して一瞬何が起こったのかという表情をしたが、すぐに状況を思い出し、治療されている事に気が付いた。

 片方は申し訳なさそうに謝り、もう片方は安心したような声でそうつぶやいた。


(…少しずつ毒が強くなっているのかなー。そろそろ魔物の群れも途切れる頃だと思うんだけど)


 治療を受け休憩へと入る2人の怪我と様子からイチコは考え、自分の鞄に入れてある解毒ポーションや魔力回復ポーションの残りの数を確かめる。数はまだあるが、ボス戦やダンジョンマスターとの戦いを思えばこれ以上使う訳にもいかないだろう。


「魔法使い隊!解毒系の魔法を使える子は全員、前衛へ解毒!それ以外はそのまま続行で!」


 魔物の勢いはまだ衰えていないので攻撃手が減るのは厳しいものがあるかもしれないが、魔物の数は着実に減っているはずである。今後の戦いも考え、消耗品を温存しつつ全員が生き残れるように努力する方が最終的な死人は少ないだろうと、イチコは予測を立てた。


 イチコの指示に魔法使いたちは呪文の変更や続行する事を返事とした。

 負傷者たちを迎え入れるために離れていたレンも2人が動けるまで回復したのを確認すると列へと戻り、指示通り――レンも解毒を使えるので解毒魔法の呪文を唱え始めた。


 その戦いが始まってから180分ほど経った辺りでようやく魔物の群れは途切れ、最後の1体を屠る。

 いつまで続くのかわからない戦いに疲弊していた探索者たちは、それでも勝利に沸き、勝ち(どき)を上げた。

 死亡者は0。逃亡者も0。


 ボス部屋へ5分とかからない位置で発生した長い戦いは、探索者たちが勝ちを収めた。

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