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世界にダンジョンが出来た理由  作者: つられるクマー
1章.ギルドマスターとダンジョンマスター
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幕間 その踏破に意味はあったのだろうか

 振り下ろした剣から確かな手ごたえを感じ、探索者の青年は口の端をわずかに上げた。

 切り口からあふれ出る毒性のある血から頭をかばうためにマントを使い、断末魔を上げる魔物から油断なく離れた。


「レイニー、大丈夫!?」

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ、セイル」


 ダンジョンボスである魔物にとどめを刺した青年――レイニーは声をかけられると手をあげて返事をした。

 セイルはその返事に安心したようで、死んだかと思ったよと気が抜けたように笑う。

 その笑い声に、ボスである魔物がまた動き出すのではないかと警戒していた男たちが警戒を解き、少しだけ緊張のゆるんだ空気になるのは仕方のない事であろう。


「あとはそこの青い玉を破壊すればいいんだよな」

「うん、それでこのダンジョンは踏破された事になるよ」


 濃い髭の男がセイルに確認しながらボス部屋の入り口から一番遠い位置にある石像へと近づいた。

 牛の顔を男と女の像の間に、青く輝くバスケットボール大のガラスのような質感の玉がはめ込まれている。


「壊すぞー」

「カイさん、おねがいします! レイニーは解毒ポーションを一応飲んでおいてね」


 髭の男――カイは持っていた斧を振り上げ、重力と斧の重さをそのままに玉へと降ろした。

 パリンと大きさの割には軽い音が部屋に響き、玉は割れる。すると不思議な事に割れた玉からは輝きが消えていき、やがて灰色をした決めの細かい石のように変化する。

 その変化に合わせるように、ダンジョン内のどんよりとしていた空気が変化する。


「なる。踏破するとこうなるのか」

「終わったならこっち手伝え、カイ」

「ああ、悪い。今いく」


 頷くカイにボスの死体を解体する男たちが声をかけると、そうだったとカイも解体組に加わった。

 レイニーは浴びた血……ほとんどマントで防いだが、それでも一部が腕や足のちょうど鎧の隙間へと入ってしまったらしく、セイルに手伝ってもらいながら重鎧を脱ぎ毒消しポーションを含ませた布で丁寧にボスの血を拭い取っていく。


「うわ、ヒリヒリするな」

「猛毒の血だからね。頭や目にかからなくてよかったよ」


 肌についてしまった血を拭うとそこは少し赤くなっていて、擦り傷のようにひりひりとした痛みがあった。

 服越しでそれなのだから、直に浴びてしまえばどうなったか。

 想像してしまったらしくレイニーが震えてみせると、セイルも真面目に頷いた。







「やっぱ便利だよなー、このカード」


 ギルドカードを空にかざして裏表を確認するかのようにカイが言うと、他の4人も頷いた。

 それぞれが自分のギルドカードを手に持ち、先程までいたダンジョンの暗いボス部屋から一瞬で入り口前まで、戻ってきたのだ。


「こんなカードを作れるギルドマスターって何者なんだろうね」

「ギルドマスター“さん”、だろ。さんを付けないと信者たちにどやされるぜ?」


 誰もが思っている疑問をセイルが口に出すと、それとは少しずれた部分を指摘し茶化すレイニー。

 カイと2人の男もレイニーに便乗し、信者は信者なだけあるよな。目を付けられたら大変だぜ。助けないけどがんばれよ!とそれぞれが笑いながら言う。

 そんなに突っ込まなくてもいいじゃないかとセイルが不貞腐れると、ますますレイニーたち4人は面白そうに笑う。


「そんな事より、踏破したらどうすりゃいいんだ?」

「えーとね、たしかそろそろ?」


 ひとしきり笑うとカイは真面目な顔に戻り、セイルへと問いかける。

 不貞腐れていたはずのセイルは、その質問に自分のギルドカードを見て、言いながら首を傾げた。


「そろそろって一体何が……」


 二人が何を言っているのかわかっていないレイニーが質問をしかけた時、ポンっとギルドカードから電子音が聞こえた。

 それぞれが自分のギルドカードを見ると、裏側が変化していた。



 ダンジョン踏破おめでとうございます

 コアの破壊を確認しました

 これにより踏破者であるあなた方には資質に応じた魔法をひとつ、覚えることができます

 >> 今すぐ受け取る <<



 電子音と共に表示されていた文章に5人は一瞬静まりかえり、そして歓声をあげる。

 同じ文章のかかれたカードの裏面をお互いに見せ合い、興奮したように5人は話す。


「まじか」

「マジマジ。うひょー!」

「お、オレも魔法を覚えられるのか?」

「できますって断言してありますし、覚えられますよ!」

「噂は本当だったんだな」


 まだ信じられないと言った顔をする者、単純に大喜びする者、魔法適正皆無でもいいのかと目を見開いて驚く者、そんな彼を励ますように声をかけ自分の事のように喜ぶ者、ダンジョンを踏破すると魔法が覚えられるという噂が本当の事だったのかと納得する者。

 5人がそれぞれに驚き、喜ぶ。

 その喜びのまま、今すぐ受け取れるみたいだけどどうするかと相談していると、そこに一人の幼い少年が現れた。


「おじさんたち、どうしたの?」


 5人の男たちは突然かけられたその声に驚き、見た目は幼い少年であるが彼が声を発するまでひとかけらの気配も感じなかった事に気付き、警戒をする。

 少年は警戒を知ってか知らずか、無邪気にもう一度訊ねた。


「おじさんたち、何か良い事でもあったの?」


 ここはダンジョンの中ではなく、そのダンジョンもコアを破壊し踏破した。もうしばらくすれば踏破されたダンジョンは崩壊をはじめ、二度とダンジョンの機能を有することはない。

 けれども。

 普通に考えて、ここはダンジョンの入り口だったのだ。

 いつ魔物が溢れだしてくるかわからない、危険地帯。

 そんな危険地帯へ、幼い少年がひとりで居る事はまずあり得ない。


「…君は1人かい?親御さんや兄弟はいるの?」


 少年の質問には答えず、セイルが代表して少年へと質問を返した。

 その後ろでは男たちが武器をいつでも抜けるように、柄へと手をかけている。


「質問を質問で返すのは失礼な事なんだよ?おじさんは先生に教わらなかったの?」


 少年はセイルと視線を合わせてそう言い、可愛らしく人差し指を立てた。

 そして内緒話でもするかのように指を口元へ持っていく。


「教わっていてもいなくてもどっちでもいいよね。ぼく、おじさんたちの事きらいだし」


 だから死んでね、と少年は軽く言う。

 セイルたち5人は少年が何を言ったのか、わからなかったであろう。

 何しろ少年がそう言った時。すでにセイルたち5人全員の腰から上は消えていたのだから。


「……お気に入りだったのになぁ」


 誰に言うでもなく少年はそう言って踏破されたダンジョンの入り口を眺め、ため息をついた。

 何気なく入り口に近づこうとするも弾かれ、その事に不貞腐れたような表情になる。


「ぼくのダンジョンだったのに!」


 怒ったようにそう言い、ダンジョンが崩壊するまで入り口のそばから動かずに眺め、ダンジョンが完全に崩壊するのを少年は見届けた。

 悔しそうに5人だったモノを一度だけ見る。

 そして少年は、転移魔法を使ってその場から消え去った。


 少年が去った後に残ったもの。

 それは、踏破を喜んでいた5人の二度と動くことのない下半身と、その足元に落ちた黒く染まった5枚のギルドカードだけだった。

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