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世界にダンジョンが出来た理由  作者: つられるクマー
1章.ギルドマスターとダンジョンマスター
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1.試験官にも意味はある

「――ごめん、そっち行った!」

「わかった止めるっ!」


 向かってくる魔物へ両手剣を振りおろし、けれど数匹の魔物はその両手剣の軌道からそれて脇をすり抜ける。

 すり抜けた魔物を認めた少年が少しでもその数を減らすべく両手剣を振り回しながら警告を発する。

 少年より後方に待機していた女がその言葉に何かを呟き始め、その横から少年の言葉に返事をしながら少女が魔物の方へと駆けつけ、少女の身体よりも大きな盾を思い切り突出した。

 突き出された盾は重力によってそのまま地面へドンと置かれると盾自身が左右に横へと広がり、少女たち3人へ向かう魔物たちの進路を遮った。

 魔物たちは盾にぶつかり足を止め、足止めされた魔物たちよりも先行していた魔物は不幸にも盾と壁に挟まれ身体が二つに別れ、絶命した。


「イチコ先輩!」

「……飲み込み捕らえよ、水の檻(ウォーターケージ)


 魔物の進行を止めた少女が呟く女――イチコへと声をかけるとイチコは杖をかかげて呪文を完成させた。

 イチコの呪文によって杖の先に付けられていた緑色の石が明るく輝いた。

 その輝きに応じたように、魔物たちの頭上に水球が現れ、無数の水の蔦が魔物たちを絡めとる。


 それを認めると少女は盾を持ち上げ――地面から離れると元の大きさへと戻った――背負う。

 イチコとその後ろに控えていた男は盾を背負った少女へと歩いて近づいた。


「…残念だったね」

「そうですね。もう少しだったのになぁ、ケンちゃんめ」


 男が少女に声をかけると、少女が悪態混じりにため息をつく。

 少女の様子に男とイチコは苦笑し、少年――ケンへと目を向けた。

 ケンは水の蔓に捕まった魔物にとどめを刺しながらこちらへと駆け寄ってくる。

 そこで少女の不満げな顔に気が付くと困ったように鼻の頭をかきながらイチコに質問をする。


「……もしかしてダメ、でしたか?」

「もしかしてもしなくてもダメに決まってるでしょー!」


 ケンの質問に答えたのはイチコではなく少女であった。

 怒ってますと言わんばかりに頬をふくらまし、両手を腰について仁王立ちをしている。


「メイには聞いてないよ」

「むっ! 心配してあげてるのに何よその言い方っ!」


 そっけなくケンが言えば、ますます剥れた表情になって少女――メイはケンへと詰め寄った。


「まあまあ、二人とも。帰るまでが試験だよー?」

「そうそう。無理に追いかけずに後方の私たちへと任せたのはいい判断だったと思うよ」


 痴話喧嘩でも始まってはたまらないと慌ててイチコが言えば、男も追従する。

 二人の取り成しにメイはケンの胸元をつかんでいた手を離し、フンと鼻息荒く魔物の死体の方へと歩いていった。

 ケンはイチコと男に頭を下げるとメイを追って走っていく。

 追いつくと二人は少し話をし、メイの鞄にぶら下がっている刃渡り20センチほどのナイフ2本をそれぞれが持ち、魔物の死体の解体を始めた。


「あー、ちゃんと剥ぐんですねー」


 その様子にイチコが関心したようにつぶやくと、男が小さく笑った。


「そりゃあね。小さな魔石でも素材でもポイントになるからね」


 ランクB越えの探索者ならばともかく、そうでなければ貴重な収入源だと男が続ける。

 イチコはそれもそうですねと頷きながら鞄から人が二人ほど座れそうなサイズのビニールシートを1枚取り出した。

 それを地面へと敷いてその上によいしょと座り、男へと笑いかける。


「少し時間がかかりそうだし、レンさんもお隣にどうですかー?」


 ぽんぽんと隣の空いた場所をたたいてイチコが言うと、男――レンは目を丸くして、それから困ったような顔になる。

 けれどイチコはその様子に頓着することなく、レンが口を開く前に鞄を漁りながら続けた。


「じゃっじゃじゃーん!これ、なーんだ!」


 イチコは得意げな声でレンへと道具を掲げた。

 人差し指と親指に挟まれたそれは、5センチくらいの高さの円錐形のピンク色をした小さな物だった。


「なんとなんと! 魔避けのお香という一定時間ある程度弱い魔物は近寄ってこない……というよりも逃げていく!便利なアイテムなのでーす!」

「お、用意がいいね」


 鼻を膨らませて威張るイチコになるほどと頷くレン。

 それならと納得し、レンはイチコの横へと座り込んだ。

 イチコは機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、魔避けのお香に火を付けてレンとは反対側の隣。地面の上へと直にそれを置いた。

 香から出た煙が薄く辺りに広がっていく。


「…実を言えば今回の試験管を受けるにあたって、ギルドマスターさんからもらった一品だったり?」

「なるほど。ギルドマスターさんからの依頼だったし、納得だね」


 煙がある程度広がった所でイチコがぼそっと言葉を足すと、レンはあっさりと納得して頷いた。


 ギルドマスター。

 力のない自分たちへと力を与え、探索者の生みの親でもある存在。

 直接会ったことのある者や会話をしたことのある者はいないらしく存在を疑問視する者も多い。

 が、「探索者になろう」という探索者を生み出しサポートしてくれる不思議なウェブサイトがあり、時折――今回のようなランクアップ試験をしたい時等に、探索者の証でもあるギルドカードを介して直接自分たち探索者に試験官役等の何かしらを個別に依頼してくる事がある。その際に危険度に応じてあると便利であろうアイテムを送ってくる事もある。

 なので、探索者たちの間では、ギルドマスターは間違いなく存在するという結論になっている。


「しかし、最初はどこのファンタジーRPGかと思ったけど、便利だよね。このカード」


 自身のギルドカードを出し、それを眺めながらしみじみとレンが言う。

 胸ポケットに入る――電車の定期入れにぴったりと入るサイズのそれほど分厚くない1枚のカード。

 探索者の簡単な情報が表示されている他、そのカードの裏面ではタブレット型パソコンやスマートフォンのようなタッチパネル式に使えるようになっている。

 その裏面では、探索者同士のメールやチャット・生死確認。「探索者になろう」のページ閲覧にとそのページ内に併設されている探索者専用の掲示板への書き込みと読み込み。それから、稀にギルドマスターからの直通メール(たまにアイテム付き)が着信するという、携帯電話のように使える便利なものである。

 探索者への登録申請をして登録者になると、いつの間にか“探索者のしおり”と一緒にギルドカードが登録者の手元へと出現している、不思議なカードである。


 不思議ついでに言えば、そのカードは持ち主自身にしか使えない。

 持ち主ではない探索者や普通の一般人が使おうとするとカード自身にロックがかかる上に、それでも解除して使おうとすると使おうとした者全員が一定時間マヒをして動けなくなり、それでもなおいじろうとすればその者は骨も残さず燃え尽くされる。

 セキュリティが万全過ぎて他人のカードが落ちていたとしても拾う者はひとりもいない。

 本人が拾いにくるまで寄らず触らず動かさず、が基本の危ないカードである。


「そのお陰でダンジョンなんていう人外魔境に来てもなんとかなるんだから、落とさないよーにねー?」


 見もせずに、イチコは言う。

 レンはその言葉にしっかりと頷き、カードを自身の手首へと持っていく。するとカードが光り手首をくるりと囲んで腕輪となった。

 持ち歩きにも便利な、不思議なカードである。

 しみじみとするレンを視界の端に収めつつ、魔物解体をする二人へと視線を向けてイチコは唸るように呟いた。


「今回はどうかなぁ」

「…さっきのはともかく、今のこれじゃダメかもね」


 イチコの視線の先を見てレンの言葉が続く。

 少し呆れたような声と言葉に気が付くことなく、視線の先の二人は順序良く解体していた。


「私たちがいるからと言ってもさー?」

「そうだね。今度は何も頼まれていない(・・・・・・・・・)からね」


 イチコが困ったように言えば、レンもわかってると言うように答えを言う。

 魔避けのお香はすでに半分ほど燃えている。


「…言うのが優しさかな?」

「ここで言うのは二人の為にならないよ。言うならダンジョンを出た後、だね」

「そっかー。そうだよね」


 首を傾げつつ呟くイチコの独り言にレンは律儀に応え、その内容にイチコは頷き納得する。

 二人の視線の先では、魔物の解体をし終わったらしきケンとメイが鞄に素材と魔石を詰めている所であった。

 メイがケンの鞄により多くの素材を詰め込もうとしてケンに嫌がられている。

 これが地上の町の中であれば微笑ましいと言えるのであるが、ここは人外魔境なダンジョンの内部である。緊張感がなさすぎる。


「残念だけど、今回は見送りだろうねー」

「そうだね。あの様子だとその可能性が高いね」


 そんなやり取りの後、イチコとレンは顔を見合わせて息を吐くのだった。

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