11.話し合いにも意味はある
動きに合わせて揺れる二本のおさげは優しい亜麻色。
鏡に映るそれらを見つめるのは見慣れぬ青い瞳。
生まれ持ったものとは全く違う系統をした顔に低い身長。
くるくると回る度にふわりと花開く赤いチェックのスカートに、襟元にレースのついたブラウスを着た少女。
「顔はファッション雑誌を見て適当に造ったけど、こんなものかなー」
偽装魔法を使って別人へと変装したイチコは、前から後ろからとくるくると回って姿見に全身を映し、変なところはないかどうかと確認をする。
変装の参考にするために買ったファッション雑誌はソファの背の部分へと開いた状態で置いてあり、首を傾げながらイチコは鏡の中の自分とファッション雑誌に載っているモデルを見比べている。
「しかし一時的にとは言ってもさ。色彩だけでなく顔のパーツも身長も変えられるだなんて、すごいよねー」
ファッション雑誌を手に取り、本棚の空いている場所へと入れる。
全身を映していた姿見は念じてアイテムボックスへと放り入れた。
クローゼットの中から箱を取ると、その中からピンク色をした大人が使うにしては少し小さいショルダーバッグを取り出した。
この時の為に用意した花柄のがま口に小銭を約1000円分入れ、クリーム色のタオルハンカチとポケットティッシュと共にショルダーバッグへと入れて、それを肩にかける。
玄関に行き鍵がかかっていることを確認し、電話も留守電に設定。
契約しなおした携帯電話は置いていく方がいいだろうと判断し、充電器に差し込んだ。
テーブルの上に開いて置いた地図を見て、目的地に一番近い自分のダンジョンを確認。
「マイダンジョン転移、発動」
使い慣れた魔法を迷わず発動させる。
発動から五秒とかからずに、イチコは『マイルーム』から『正統派ダンジョン』へと転移した。
アイテムボックスから新品の赤い靴を取り出して履く。
メニューのマップを確認し、探索者がいないルートを通りダンジョンの入口へと向かう。
そうして『正統派ダンジョン』の入口へ着くと探索魔法をダンジョンの外へと向かって使い、周辺に誰もいない事を確認し、入り口から外へと出た。
そのまま人気のない道を歩き、大通りへと出る。
大通りはダンジョンのある道と違い、大小さまざまな車が通り、駅や商店街などを行き来する人が多く、賑やかだ。
イチコは駅へ向かう流れの中を歩き、駅前にあるバスターミナル付近の看板前で止まる。
周辺の地図と書かれた看板でもう一度、目的地の位置の確認。
駅の横にあるデパートの中を抜け、広場へと出た。
老若男女問わずあらゆる人が待ち合わせに使うらしいその広場は、たしかに待ち合わせに使われているらしく、すし詰めとまでは言わないが、お祭りでもあるのかと思えるくらいにたくさんの人間が居た。
パーティを組んだ事のある探索者も待ち合わせ中であるらしい人間たちの中に数名居る事に気付いたイチコはドキリとしたが、今は偽装魔法で変装しているのだからバレる事はないだろうと思い直す。
偽装魔法による変装やステータス偽装は鑑定魔法によって見抜くことは可能である。
可能ではあるのだが、その条件が鑑定魔法が見抜きたい対象の偽装魔法のレベルよりも高い事が条件である。
今のところ探索者の中に鑑定魔法のレベルが11以上の者はいない。
会った事のないダンジョンマスターたちの中には鑑定魔法がレベル11以上の者がいるかもしれないが、その場合でも問題はないだろうとイチコは踏んでいる。
なぜなら、イチコのステータスを見抜いた所で名前の欄が空欄であるのだし、職業欄を見られて敵対されるのであれば逃げればいい。
変装を見抜くにしても鑑定で分かる事は変装をしているという事実だけであり、イチコの元の姿が見える訳ではないのだから問題はない。
そもそも変装をしている人間なんて珍しいものではないだろう。コスプレにしたって、ある種の変装であるのだ。どこからどこまでが変装と判断されるのかはよくわからないが、イチコが変装をしていたとしても不思議ではないのだ。
そんなことを考えながらイチコは広場へと入り、きょろきょろと辺りを見回した。
待ち合わせの目印を持つ人間を探す。
「……あ」
目印――『ダンジョン研究同好会集合場所』と書かれたスケッチブックを持つスーツを着た大柄な男を発見し、イチコはその男の元へと歩き出した。
近づくイチコに、男の横に立っていたスーツ姿の女が気が付いた。
女は驚いた顔を見せた後、男に呼びかける。
男はイチコの方を見て、少し驚いた顔をすると女と共に近づいていくイチコの方へと近づいた。
お互いの間の距離が1メートルほどになったところで両者とも止まり、男と女は困った顔でイチコを見つめ、イチコは二人を見上げて首を傾げた。
「お二人だけ、ですかね?」
合言葉をイチコが言えば、男と女は顔を見合わせて頷き、女の方がイチコに答えた。
「ええ、そうよ。他にもたくさん居るのだけれど、皆いそがしいみたいなの」
打ち合わせた通りの返答にイチコは安堵し、二人へと笑顔を見せる。
「それは残念ですね。リアルでは、はじめまして、あたしがムエジです」
姿も声も魔法で変えているが、念のために話し方も意識をして変えてイチコが言った。
ムエジというのは偽名であり、今後、GMとして表だって動く時に使用するための名前である。
「はじめまして、ムエジちゃん。私はサヤカよ」
「僕はマサだよ。ムエジちゃんがそんなに小さい子だとは思っていなかったよ」
女――サヤカが挨拶を返し、男――マサが驚きを隠さずにそう付け足した。
ライトノベルでは定番とも言えるものらしかったのだが、何か変な部分でもあるのだろうかとイチコは不思議に思った。
「……あたし、何か変でしょうか」
自身のスカートの裾をつかんでイチコがそう言うと、二人は苦笑した。
「メールでのやり取りがしっかりしていたから、もっと大人だと思っていたよ」
「私もよ。若いかもしれないとは思っても、まさか小学生だとは思わなかったわ」
二人の言葉にイチコの目は点になる。
権力を持った人物が少女であったりする物語が多いからてっきり、この国もそういうものだと思っていたのだが、そうではないのだろうかと首を傾げた。
疑問符を顔につけたどこから見ても小学生なイチコを見たサヤカとマサは、アハハと乾いた笑いを漏らした。
「まあ、ここでも何だし、移動しよっか」
マサがそう提案するとサヤカも頷き、何から相談をするにしてもここでは話せない内容だとイチコもわかっているので頷いた。
この話し合いの数週間後。
東京都内の某所にて、試験的にギルド支部が設置される事になる。




