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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第三十九話】 残酷な天使のテーゼ

何時もこれだ、何時も命の危機に立つとこうなる。


 時がとても遅くなり頭だけが周囲に反してグルグルと自らでも恐ろしくなるほどに良く回りだす。でも、今回は……。頭を回せば回すほどややこしくなり、絡まり、乱れ余計に訳が分からなくなる。


 ああ、俺マジで死んだ。

 いやさぁ、だって躱せないよ、ここまで迫った槍なんて。

 マジで。


 そもそも二人掛かりでやっと倒せたというのに、何この状況。相手に能力持ちが二人もいて、俺の周りを血の軍隊が囲んでいる。


 勝てっこないって。


 もういいでしょ? 俺は疲れたよ。復讐するとか言っておいて、もうこんな状況に陥っているし。

 莉乃? ああ、もういい、もういい。


 だってあんなこと言ったんだよ俺、このまま死んどいた方がきっといいって。

 俺にしては結構頑張った方ですよ、だからもういいって……。


 

 ――俺は必ずお前を助け出してやるからな、大和。俺は必ずお前を救う、そして一緒に世界を終わらせよう。

 脳裏にそんな言葉が過る。

 誰の記憶か? なんだこの言葉、どうしてこんな言葉が。


 ――必ずお前を……。


 何時ぞやの声が突如浮かび上がる。そうか、いつかのあの声はあの俺に流れ込んだ言葉はお前の者だったのか。


 最後に謎も解けたことだし、死ぬとしますかにゃぁ。 



 さて、オワリも終わり、俺のお話はここで終了、解散解散、これにてご免。さぁさぁ皆さまこれからは葛城紫水君とその仲間たちのお話でもお楽しみくださいな。

 オワオワリデース。

 

 ――何を勝手に諦めておる、草薙大和。我々が少し力を貸してやろうではないか。


 目の前が真っ白に染まる、眼の中が光りに蝕まれる。頭の全てが何かに乗っ取られ、体が勝手に動き始める。


 クッ、何かが肩を霞める、でも見れない、見えない。

 見えない、見えない、それなのに何故だか体だけが勝手に動き回る。もう何だか分からない、これは自分が自分を動かしているのか、それともレイや紫水が俺を動かしているのか。


 しかしあの声は誰だ?


 ――崇めよ、讃えよ、我らが主を信じろ。主に奉げろ、主を奉れ、我らが主の使いとなれ、我らが主の騎士となれ。

 主ってなんだよ。


 ――奉げよ、奉げよ、クサナギヤマト。我らが主、そして我らの神、そしてすべてのモノのハジマリである、万物の母。 ****を信仰しろ、信奉しろ、心中しろ。我々と共に来いクサナギヤマト。

 よく聞き取れなかった、奴らの主の名前が、その部分だけ音が割れ、声という声が砕かれ俺はその存在を認知できなかった。

 聞こえた、確かに聞こえた。

 でも思い出せない、思い返すことも思い出すこともできない。


 ――全てを捧げればお主に力を与えよう、そこの娘よりも、そなたの親友よりも随分と強力な神の御業を。主の力の一部をお主に割譲しよう。


 もういい、もういいんだ、疲れたんだよ、ほっとけよ。素直に殺してくれ。

 刀を振るう、刃が何かを斬り落とす。これは自分が望んで動かしているのか、自分の死にたくないという気持ちが暴れだしたのか?

 そうだとも違うとも言い切れない。


 ただ俺は未だ生きている。眼も見えない、周囲の音さえ聞こえない、ただ頭に何か他人の言葉の様な文字が浮かび上がってくるばかり。


 ――奉げろ、捧げろ、ささげろ、さ・さ・げ・ろ、にんげん。お主は我々と同じになるというのに、お主は主の一部となるというのに、なぜ拒む、何故受け入れない。


 目の奥の、頭の内部の、心の中心に位置する謎の存在を叩き斬った。勝手に俺を操ってんじゃねぇ、勝手に俺を動かしてんじゃねぇよ。

 俺を自由にしていいのは俺だけ、お前らなんかが好き勝手するな。


 ――ふふ、残念だ。してクサナギヤマトよ、過去にお前が取れなかった別の選択をした世界にお前は興味はないか? よく考えろ草薙大和。それにこの戦いお前が諦めると皆死ぬぞ、底の娘も、お前が気に掛けている織田の娘も。


 それは……。


 ――まぁここがお前お選択の場所ではない、幸いその場には我が使いがおる、お前はそれを頼れ。そして先ほどの言葉よく考えておけよ人間。お主は選択しなければならぬときが絶対にやってくるからな。


 霧が晴れるように眼を負っていた光の靄が何処かえと消えていく、そんな言葉を残して。

 

 ズシャッ。

 手元の刃は森長可を象られた血の塊を真っ二つに裂いていた。


「中々やるな英雄、だがもうお主は袋路ネズミであり、両脇を紐で縛られた小豆でもある」

 何時の間にか赤黒く染まった鬼神様を斬っていた、しかし敵のあのスタンドは消えない。両断された血の塊は在らぬ方へと飛んでいく。

 空から火炎に包まれた魔王が襲来する、四方八方は血の軍隊、完全に満身創痍なこの状況。

 肩は赤く滲み、全身が焼けるように熱い、息はもう上がっているし頭はさっきからガンガン痛む。記憶は朧気で訳の分からない他人の記憶と感情とそしてもっと訳の分からない声が入っていて……。

 思い出すだけでもう嫌になるこのピンクさと甘ったるいこの感情。


 もういっその事諦めてしまいたい、しかし俺がここで死ぬと皆死んでしまうらしい。莉乃も美優も法師も隊のみんなも此奴の作り出した死者の軍隊に殺されてしまうと……。

 ならもう限界まで抗うしかないだろう。


「やれ、長可そして我が信者達よ」

 その言葉で二つになった森が元の姿に立ち返る。第六天魔王な名付けられた化身が周囲に炎を振りまき迫ってくる。


「クサナギ、クサナギ、コロス、コロス、コロス」

 っ、尖れ、そして研ぎ澄ませ俺の感覚を……。

 左からの敵の斬り込み、回避。

 前からの敵の突きをすんでのところで躱し、後方からの飛び掛かる敵に当てる。上空からの魔王の一閃を剣で薙ぎ払い、両側からの攻撃を体を屈めて回避する。


 敵を斬ったという感覚があまり感じられない、なんだか柔らかい何かを叩いているような感じ。


 斬る、斬る、躱す、避ける、突く、後退する。

 斬る、躱す、飛ぶ、斬る、避ける。


 そうして、そうして、そうして。

 ああ? ええっと、もう本当に頭と体が別の動きをしている。キリも終わりも見えてこない。


 影を開放して正面の敵の頭を砕き割る。飛び散る血は細い針となり全身を切り裂いていく。

 それでも、それでもまだ止まってはいけない。


「シネ、シネ、シネ」

 足を取りに来た森の刃を飛翔して躱す、数秒う遅れて地面には炎が放出される。飛んだところを狙ってきた敵に向ってもう一本の刀を取り出し腹に突き当てそれを消す。



 着地際に影を開放しての一撃。

 前方の敵を一掃する。

 前方の敵を一掃したと思った……。

 軍隊は一重の囲みではなく、もう一重の囲みを作っていたのだ。


「我がこれだけ済ますと思ったか?」

 レイは手を横に振るう。それと同時に地面に散った血液がまた生前の形を取り戻し此方に牙を剥く。

 生前の形を取り戻したものだけではない、手足が刃のように鋭くなったり人の形を留めていなかったり、何人か組み合わさって全く別のモノに変わってしまったり。


「ここに森の血は存在する。我は血を操る、そして我は血を使役する。血とはその人を伝えるモノ、すなわち血さえあれば我も……」

 レイはサーベルを抜き放ち、何かの血を纏わせる。


 やばい。

 気が付いた時には既にそれは放出されている。

 レイの正面のモノ全てを焼いた。森の血を浴びたサーベルはレイの命により森の烈火をこの場に起こして見せた。


 当たれば終了、何とか躱すことが……。

 魔王の一閃を身を捩って回避。

 ああ、やばい。さっきからやばいやばいしか思ってない。まるで詰将棋のようだ、もうここまで来た時点で詰みへの道筋が出来ている。


 レイの勝ったなとさえ聞こえてきそうな面が俺の眼に映る。

 姫に焼かれた信者達は姫の命で再度立ち上がる、それどころじゃない。

 先ほどまでは囲みに徹していた後ろの信者達もいつの間にか装備を血の剣から血の槍に変え俺に向って突進してくる。

 この血の軍隊に死などはない、だから此奴らは普通の人間ではできない戦法を当たり前のように取ってくる。

 例えこの雑兵共が仲間を巻き込もうがレイを倒さない限りは永久に復活し続ける。

 此奴らは仲間を刺すこと前提で、そして意思を持っているのか持っていないのか分からないの血の塊の仲間も後ろから槍に刺され吹き飛ばされつつも俺を狙い続けてくる。


「もうお主の思いの女が乱入してくることもないぞ、あ奴の周りにも我の血の部隊を派遣しておいた、あの女はもうそこから動けぬ筈じゃ」


 ああ、もう無理、もう死んだ。

 どこも躱せないし、打つ手すらない、詰みだよ詰み、完全なまでの完璧なゲームセット。

 何処を見渡しても紅い刃。何処を見渡そうが俺に恨みを抱えた奴ばかり。

 そうだな、ぎりぎりまで抵抗するって決めたもんな。

 

 無駄だと分かってはいるが山城に影を纏わせレイに向って斬撃を……。 ああ、もう無理、周りの奴が邪魔で結局レイに刃は届かない。

 敵の武器が肌スレスレマまで迫って……。


「我の勝ちじゃ、英雄」





「あら、そうとは限らないみたいよ」

 周囲に突風が吹き荒れる、周りの血の全てが鎌風によって切り裂かれただの血の水疱へと変化する。

 レイの操る血の軍隊が雨風となってレイのもとへと帰っていく。

 銀髪の姫君は急な赤い暴風雨に濡れ、美しく輝く銀髪も綺麗な下ろしたての服も全て血に汚れる。


「残念っ」

 神風が周囲に吹いた。

 偶然? ではないな。多分これは鬼の力なのか、いやもっと別のモノの様な気がしてならない。


「貴様は……。紫水の幼馴染、そして神の使い、お主も我の前に立つか、なんだ主様からの命令か? この男を守れと」

 全身にこべり付いた血が勝手に服から離れレイの周りを勢い良く回る。

 膨大な量の血が周囲に点在する。


「いや、違う、これは私怨。貴様は、貴様からは我と我の母を殺した女と同じ匂いがする。とても悍ましく、とても恐ろしい。生まれる前から知ってしまっつたその狂気」

 レイは怯えていた、確実にその眼の底は恐怖の色で埋め尽くされている。


「ええ、私怨80パーセント、支援が10パーセント、指令が10パーセントで私は貴女を殺そうとしているわ、紫水を誑かしたバケモノめ」

 例の周りを舞っている血の流れを突風は木っ端微塵に粉砕した。

「ハハハ、そうか、そうか。これは負けられないな、これは負けるわけには行かないな。紫水の彼女として、神の黙示を記したものとして、そして紫水を守るものとして」


「貴女紫水の彼女なんかじゃないでしょ? それ冗談でも万死に値する言葉よ」


「おお、怖い怖い、このようなか弱い我が身にそのような言葉を吐き捨てるとは。ただの幼馴染の癖して紫水の特別である我に嫉妬しおって」


「死ねババア、どうせ見た目を好き勝手弄っているだけでしょ。紫水はそんな年増なんて好きじゃないんだよ」

 突風が吹き荒れる、赤口を纏った突風がレイに向って突き進む。

 一体俺は誰を敵として見ればいいのか? 美優も鬼の力を使ったというのか。ただ鬼の力を宿した人間を俺は昔見たことはある。

 

「大和、やはりここは協力しかないようね。最初で最後の共闘よ、あのバケモノをぶっ殺しましょう?」

「あのー、俺要りますか? 美優さんだけで良くないですか。見ての通り俺死にかけたんですよ、何度も」

 彼女は恨めしそうな顔で此方を見てきた。


「何を言っているの、私はめっちゃ弱いのよ。なに風の力って全然戦闘に使えないじゃない……。だから大和、貴方は私に協力しなさい」

「んなよくあれだけの啖呵を切っておいてそんな他力本願なこと言えるな」

 ふうぅぅぅ。

 息を吐くと共に張りつめていた緊張が抜け体も解れていく。

 

「クサナギ、コロス、トノノタメニ」

 敵の周りを浮く、森長可とその能力で作られた紅蓮化身。手に持ったサーベルは紅く輝き全く別の形状の武器へと変化し、周囲には信者たちの成れの果てである武器の形をした血が穂先を此方に向けて待機している。


「いい、大和。私が魔導士で、貴方が戦士。支援や補佐は任せなさい、ただあの銀髪の幼女を倒すのは貴女の役目よ。先ずはそのまま突っ込みなさい」

 無茶言うなよ、と思いながらもレイに向って刀を構える。


「負けない、負けるわけには行かない。神も運命も定めも愛も全て断ち切って見せる。もう我は生まれすらしていない胎児ではない。皆が紫水の敵に回ろうとも我だけは最後まで紫水の味方じゃ」


「それはそれはどうもでも、安心して私も紫水の味方だから。私が貴女の代わりを丸々引き継いであげるから貴女は安心してここで死になさい」

 


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