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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第三十三話】 リビングデッド・ユース

 とある少年は岐阜の出身であった。鬼の襲来時、何をすることもなくただただ逃げ惑っていた。

 家族に付き従い何とか、何となくだが生き残ってしまったようだ。

 敵地で生き残った人間の末路。抵抗虚しく殺されること、諦めを捨てきれず食われること、全てを諦め敵の餌となること。


 それともう一つ。


 鬼を信仰し、鬼の奴隷になること。恥も外聞も己も人も全てを捨てただ隷属として生き永らえる事。

 抵抗した人間は皆、撫で斬られた。ならもう残った抵抗する気のない人間の取るべき手段は逃げるか従うか。

 

 殆どの人は信仰の道を選んだ。


 鬼を崇拝し、信仰し少年の家族は周囲と共に催眠に掛けられていった、狂いに狂って人の道を段々と外れさせられていった。

 始まりは確かに生き永らえるつもりであった、しかし何時しか身も心も完全に全てを自らの命を握る者たちに奉げてしまっていた。彼らは本当に命を自由に出来る者たちを神として崇め奉っていたのだ。


 それは少年の家族も少年も例外ではない。この少年も家族も鬼神教の信者、だった。


 鬼神教には、鬼神教信者内には独自の掟や仕来りが存在する。


 鬼神様が差し出せと言ったら拒むことなく一切を差し出すこと、鬼神の命を拒まない事、そして……。

 月に一度、門徒全員が教会に集まりくじ引きで供物となる人間を決める。


 少年の母親は無事に仕来りにより供物として鬼に奉げられた。供物となることが決定した瞬間に父親は鬼神の洗脳から目を覚まし邪教徒に争った。

 争いはしたが、鬼神教の信者から見たらその父親もまた異端であり邪教であり逆徒。彼の父親は皆の前で、少年の前で見せしめとして火刑に処され処刑された。


 そしてこの少年、水無伊織みなしいおりも父の火刑を目の前で見せられ目を覚ました。

 少年は人知れず人に戻った。人として教会の奥に存在する刀を取って暴れまわった、が残念ながら、ただ少年一人では如何する事も出来ない。


 数に押された少年はその場を逃げた、鬼神教の連中も後を追うのだが運よくか運悪くか、この少年は見事鬼神教の追撃を振り切ることが出来た。

 それは少年がその場を逃げ出して直ぐに軍が教会を襲撃し、追撃に人を裂けなかったという点が大きいのだが。


 まぁ伊織は伊織の知らない所で運良くも軍に助けられ、この軍と教会の地で復讐を誓い何日か、たつはずのない計画を考えつつ過ごして来たという。

 残念なことに伊織の取った刀では人は斬れども鬼は斬ることは出来ない。あのまま鬼神教の、ご神体がおわす所にでも運悪く乗り込んでしまったならきっと簡単に殺されていたんだろうな。

 なんというか結果的に見てだがこの伊織はとても幸運だ。


 軍には未だに彼を疑う者や、あまりよく思っていない者も大勢いる、だからまぁ彼は内地には入れずに外にそのまま掘り出しておいた。


 彼の言う自らの手で復讐するならそれが一好面倒事が起きなく最適で好都合だから。

 今回俺は、零番の名を背負いし部隊は彼を使おうと思っている。鬼神教の総本山を取り囲んで門を壊し死闘の上で寺を落とすのではなく、信者として内部から潜入して中から崩す。


 あの少年が言っていること全てが嘘で演技だとしてもまぁいい。軍も軍で総攻めを掛けるらしいからあそこは遅かれ早かれもう終わり。


 ついでに言えば今回の総攻めの総大将は瀬戸家に任されることとなった。まぁ以前の戦いの責を負った瀬戸家では大それたこともできずに、瀬戸家で唯一真面に動ける零番隊に眼を付けられその指揮権は一切合切が俺に渡され、今回草薙大和君、鬼神教本営攻めの総大将なんですよ。


 これもこれで俺は軍の上層部の策略だと睨んでいるんだがなぁ

 ここまで回ってくる事を想定しいて本営は瀬戸家に任せたんじゃないかな? それと先の戦いでアポカリプスapocalypseの主様が俺より頭一つ抜けた武功を上げちゃったんで、ここで功績を上げて来いと言っているように見えるな。


 これ以上アポカリプスとその王様である英雄さんに信仰を集めて欲しくないんだろうな、本営としては。まぁあの集団は放置しておくと勝手にクーデターなんて起こしちゃいそうな奴らだから抑止力になって欲しいんだろうな。


 ついでで、ついでで、ここで俺が瀬戸家の隊として軍功を上げて瀬戸家の責も軽減して来いとこんなところかな?



 まぁ、その提案を俺は丁重にお断りしてきました。



 俺も俺で今回の戦いを利用しようと思う。


 前の戦いで一部だけれども敵の手先が一宮に侵入し、命の限り周囲のモノを襲い尽くした。民衆はその事もあり鬼神教を人として救うべきという声は少なく、現状敵として壊滅させろという声も多い。

 ここで敵を倒せば民衆の支持を得やすくなる、一身にその称賛を得ることが出来ると。


 だから……。


 俺は莉乃を総大将に担ぎ上げといた。

 これで一様復権で来た莉乃の家を周囲に認めさせるというのが狙い。

 普通に考えて土岐家に喧嘩を売る行為だが幸いにも今土岐家はアポカリプスとの睨み合いの真っただ中、ということでその間に莉乃の家を大きくさせていただきます。



-----------------------


 

 二〇一八年 四月 六日 金曜日


 なんだかんだでいつの間にか四月になり際限なく周囲には桜が咲き誇っている。ここから攻める教団本部も吹雪のドローンによる調査が行われており周囲に桜が咲き誇っているというのだが。


「で、なんだこの格好は……」

 真っ黒なローブに浪人笠に仏教に関連する道具らしきもの? そう言えばだが過去に襲った敵の教会らしきところで不動明王が飾られているのを見たことあるな。


「何故俺が彼奴らのマネみたいなこのしなきゃいけないんだよ」

 伊織は不満げに言葉を漏らした。


「それにこれなんだか匂うし」

「まぁ殺した奴らの服をそのまま使っているんだからそこは我慢だ」

 大河がそう皆に言い聞かせるものの、皆やはりこれはきついみたいです。


 無駄にこの鬼神教の正装の洗濯とかをしてしまうと鬼神教徒との接触の際に匂いやらなんやらでバレてしまいそうなのでこんなちょっとやばい服の使い捨てを着さされているというわけだ。

 普通に死臭がします、血生臭い匂いです。


「ああ、なんでこんなのを着なければならんのだよ」

「大丈夫です、大和君は臭くないです」

「いいや、普通にあれだわ、大和。私はそんなもの着たくないからこっちで貴方たちの活躍を見させてもらうわ」

 ひょっこりと現れた美優がそんな事を言った。まぁまだあれとぼかされているだけいいとしよう。


「いいよな、本陣組は気楽でねぇ。お大将様」

 下は軍服など斬る事が許されず良くあるズボンにカッターシャツ、そして申し訳ない程度には鎖帷子を着ている。


「まぁ変わりというか、大和君の傍に居たい気持ちはありますがその服じゃねぇ。響が止めるので今回は指揮官として本陣で指揮を執るということで」

 その止めた響さんもちゃっかり本陣におられるようで……。


「で、お前ら刀を無しで如何鬼やあの鬼神教共と戦う気なんだ?」

 伊織は疑問を口にする。

 鬼神教徒の振りしてはいるんだから軍の刀なんて腰に下げてノコノコ出て行けるわけがない。

 俺は少年の前で何もない所から刀を取り出して見せた。


「なっ、なんだそれ?」

「これが無敵の鬼に刃を入れられる我々人類の切り札。それにこのように……」

 その言葉と共に手の中から刀を消して見せた。


「態々帯刀してなくてもいいって訳だ。これで敵に悟られずに武器を持ち込める」

 今回の部隊の選抜の基準は刀を瞬時に実体化させたり、消したりできるかどうか。残念ながら新人たちの殆どは神性の高い武器は渡されていない。よって古参の、いや那智との関わりの深い人が多い。

 勿論新人の中にも幾らかは参加してもらうし、響のようにズルしてるやつだっている。


「お前にはちゃんと後でちゃんと貸してやるよ」

 そういって腰に差している神剣を莉乃に渡した。

 何時も適当に使い捨てにしている剣なんで大した愛着もないが莉乃はその刀を大事そうに受け取ると。


「大和君、ちゃんと生きて帰って来てくださいよ」

 大体理由は分かっているが、ここはひとつ何故だかと称しておこう。さっきまで何故だか胡乱気な目で俺を見ていた莉乃が元に戻り此方の手を握りそう問いかける。

 体が少しだけのけぞってしまった。

 莉乃も莉乃でそれに気が付いたらしく、優しげな顔から優しげなを必死に作った顔絵と変わっていく。


「俺は生きて帰った来るよ」

 今回は那智の復讐、それ以下でもそれ以上でもない。


 これは本当のキモチ……。 なのか?


 莉乃は少し控えめに微笑み、俺の手を開放する。


「今回は心配なので莉乃ちゃん、大和君に護衛を付けることとします」

 は?

「やっと、俺たちの事に触れていただきましたね」

「この時を待っていましたッ」

 あ? 莉乃の後ろに現れた黒いローブに身を包んだ人、四人。

 二人はやけにやる気に満ち溢れているが一人はぼーっと佇み、もう一人はどうやら顔を見なくても分かるくらいに複雑な心持となっているようだ。


「さぁ、これが私の用意した護衛。大和君親衛隊です」

 あー、もう何も言うまい。何故だか莉乃の頭に花が一本咲いているように見える。

 莉乃の言葉と共に後ろの二人がフードを下ろし素顔を見せる、それにつられて後ろの二人も申し訳ない程度に同じことをする。


「あ? なんだお前ら。それにまひる、なんでお前までそっちに」

 見たことはあるけど良く知らん新人の奴ら×3人にまひる。

「あー、莉乃に監視の任についている事がバレた。というか当主様が私の正体を明かした」

 淡々と喋るまひるだが何故其方にいるかという理由にはなっていない。


「で、お前らは。どっかで見たことあがあるぞ」

「失礼な、私たち皆、あの地下施設の時から居ましたよ隊長」

「そーゆ意味じゃなくてさぁ」

 2人は同時にハッとした顔で同時にこう言うのだ。


「はっはーん、よくぞお気づきで隊長。我々は天童家の、そして莉乃様の忠臣」


北野勝巳きたのかつみ


丹羽竜弥にわりゅうや

 多分自分よりも年上であろう二人は随分と考えてきただろう謎のきめポーズと共に名乗りを上げる。


「はっ? 誰?」

「えっ」


「ほらほら、あの瀬戸家の家であった北野と丹羽の嫡男ですよ」

 莉乃が耳元でそう言う。


「土下座の奴か!」

 二人はぐっと胸のあたりを押さえた。

「それは父たちの話だ」

「一族の醜態をそんなおっきな声で言わなくてもいいじゃないか、大和隊長」


「彼らの父親は確かに土岐家に寝返っていましたけど、彼らは家族と縁を切ってまで私の味方でいてくれた者達ですよ、一応。味方というだけで何かしてくれたという訳ではないですが、というか味方と言っただけでただ洞ヶ峠を決め込んでいただけな様な気もしますが……。多分縁を切ってくれたくらいなんで味方です」

 申し訳なさそうに俺にだけ莉乃はフォロー? を入れる。途中からはディスリになっていた気もするが。

「そんな敵味方の基準でいいのか……」


「まぁ一族の汚点の話はさておきたいところだが、それでも一応は家族だ。だから俺たちがここで莉乃様の為に働き汚名を返上しようとおもう」


「まぁ分かった、分かった。でお前は?」

 最後の一人の方を向く。


「はわわ、莉乃様のちゅうしんのひとおーり」

 恥ずかしそうにローブの裾を靡かせ謎のポーズを顔を赤らめながら決める。

楢柴楓ならしばかえでッ、であります。隊長殿」

 灰色の髪を昔の莉乃みたく中途半端に伸ばした少女は全身を震わせ今にも消えてしまいそうな感じになっている。


「おい莉乃この面々人選ミスじゃね?」

 後ろでは半泣きになっている楓がここに入れられなくて良かったという目をした響に撫でられている。

「兎に角こんな奴らすけど、選りすぐって腕は一流ばかりです」

「こんな奴らって……」

 男共が不満そうに声を上げる。

 後ろで楓だけが申し訳なさそうに何度も頭を下げているのだ。

「お前選りすぐれるほど部下いるん?」

 すっと莉乃は目を逸らす。

「それは、なんというか。ノーコメントです」

「お前らそんなことしてて恥ずかしくないの?」

 伊織は彼らを見て呟いた。

 ただしそれで撃沈したのは真面な子である楓のみ。

「なぁ伊織よ、こーゆのは触れないであげるのが一番なんだよ」

「それいつも恥ずかしいことばっかり言っている厨二病真っ盛りな貴方が言いますか」

 そんなことを響が言う。


「お前守ってもらう側の立場だろ?」


「いや、誰も此奴らには守ってなんて言ってないし」

 一斉に周囲の人間が苦笑を浮かべる。


「じゃぁ誰に守って貰うつもりなんだ? 自分の身は自分で守るとか言わんよな」

「それはないよ」

 そう言って一人の臣の名を口にすると、何時も遠くに捌けているその臣は傍までやってくる。

「此奴が命令しなくても勝手になんとかやってくれるよ」

 ハリマは眼を潤ませた。


「殿っ、あんな変な部隊に浮気なされず私を信じて下されるとわっ」

「変なって言われた」


「俺は此奴をそれなりに信用してる、だからあんな変な親衛隊なんていらんよ」

「また変なって言われた」

 楓は隅で響に撫でられながらしくしくと泣いていた。ちょっと不憫になってきたよ。


「それより、お前はいいのか? お前の方が守って貰った方がいいだろ」

「俺はいい俺はもう逃げない、俺は戦う、奴らを倒す」

 伊織はぐっと拳を握った。

「じゃぁそんな君にお願いがある」

「なんだよ」

「敵の司祭様を殺してきてくれ」

 少年は少し驚いた顔をしたがすぐさまこくりと頷いた。

「ん」

 少年は照れくさそうに拳を突き出してきた。

「あ?」

「いいからお前も拳を当てろ」

 その言葉と共に握った拳を少年の拳に当てた。

「いいぜ、司祭の一人や二人俺が殺してこよう」

 気迫とやる気に満ちた伊織の眼、俺は此奴を信じてみようと思う。


「隊長、そろそろ時間です」

 大河が自らの傍に来てそっとその事を告げる。

 此奴は言いつけ通りに伊織を見張っている、すぐさま伊織を殺せるようにしっかりと覚悟も決めているそんな眼だ。

「莉乃、外の指揮は頼んだぞ」

 静かに莉乃は頷いた。

「そろそろ行くとしますか」

 その言葉と共に皆黒いローブで頭を包み隠して立ち上がる。

「では復讐を始めようか」

   

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