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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
87/104

【番外編】 彼にいつまでも付きまとうモノ

これは【三章???】より前の話です

悲劇が起こる前のとても穏やかな日常の話

 

 いつも見ていた景色、見飽きてしまった日常。

 詰まらない。


 おもしろき こともなき 世を おもしろく


 すみなしものは 心なりけり


 そう言ったのは誰であっただろうか。彼は最後に心持ちの話を説いたのか、それとも彼自身が本当に面白い世界に変えようとしていたのか……。

 ただそんな言葉を聞いても、心持一つでは世界は180度変わる事なんて無いと思っていた。

 そうあの時までは。


 俺は彼女に出会えた。俺のセカイを、この詰まらない世は面白い事で溢れているんだってことを彼女は俺に教えてくれた。

 俺は彼女が好きだ。

 あの時から世界はとても煌煌と輝いてみる。


 俺は彼女が好きで好きでたまらない。心に問いかけても、声に出しても、何度も唱えても俺の気持ちは変わらない。

 きっとこれは恋なのでしょう。

 きっとこれが好きという事なんでしょう。

 俺にとって彼女は―― 特別というモノそのものなのでしょうか?


 溢れ出てしまうこのキモチ、抑えられないキモチ。伝えたい、知ってもらいたい、聞いて貰いたい、一緒になって欲しい。

 それはそれはとても身勝手なものだ。

 でも……。でも……。


 こんな身勝手くらい神様は許してくれると思う。

 キモチは声にしなくては、言葉にしなくてはきっと分からない。何も伝えずに分かり合えてしまう関係など稀有なものだ。 

 だから俺は伝えようと思う。

 俺は誰かが望んだ身勝手なホンモノなんてものは欲しない。


 だから俺はちゃんと心を籠める。

 ぎゅうぎゅうに、中身が潰れそうになるくらい、流れ出してしまうくらいに。いくら潰れても流れても入っているモノは一つ。

 もう誰もが中身を分かってしまうくらいに……。

 俺はちゃんと本当の自分自身って奴を詰める。


「莉乃、大好きだ」


「あー、はいはい。知ってる、知ってますよ」

 彼女は表情一つ、表現一つ変えずに面倒くさい気に俺の気持ちに答える。

 いつもの返しだ。そして俺もいつも伝えている。

 冷たくあしらう彼女だが全部を拒絶できない事くらい俺は分かっているよ。そんな思っていることを十分に表現できない彼女はとても可愛らしく、そして愛しくて。

 なんだが困らせたくなってしまう。

 だから俺は、何事も無かったように背を向けて歩いていく彼女に向かって。イタズラする。


 ふいに彼女を抱きしめる、急に彼女を包み込む。


「うざい」

 体をビクつかせ精一杯の拒絶している「ふり」をする彼女に囁く。とてもとてもシンプルな、彼女が今まで言われたことも無いような言葉。

 ただただ正直な気持ちを彼女に知ってもらうのだ。


「莉乃今日も可愛いね」

 これが俺の、草薙大和の正直な……。


 

                  ビリッ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おい誰だこんなふざけた文を書いたのは」

 机の上に置かれていた紙の束に何の疑問も持たずに目を通したものの……。

 なんだよこれ、俺の性格が完全崩壊してるぞ。誰だお前、アニメ化につき性格がクソ改変でもされたのか?


「どうです、那智先生渾身の力作は!」

「オマエカッ」

 気付けば俺は叫んでいた。そして那智を殴っていた。


「イタタぁ、酷いなぁ。隊長は」

「うるせぇ、何であんなもん書いたんだ。それになんだあの俺のクソ改変は」

「資料を作ったついでの暇つぶしですよぉ~」

 暇つぶしでそんなもんを作るなよ。

「あれですね、莉乃ちゃんと隊長の性格が逆転した世界的な」

「何の話をしているんですかっ?」

 ああ、一番現れて欲しくないタイミングで現れて欲しくない奴がひょっこりと現れた。

 ねぇ君は何時もこんな来て欲しくないときに来るよねぇ。


「おっ、いいタイミングで正妻が来た」


『正妻が居るってことは妾は誰』だ・なんですか」

 それは見事に同じ意味合いの事を同時に聞いてしまっていた。

「オー、仲いいね」

 茶化してくる那智。

 いやこれはこいつが合わせてきたというか。


「でしょー、大和君と莉乃ちゃんは仲がいいんです」

 ぐっと胸を張る莉乃を尻目に。

「で、お前は誰を俺の側室だと勘違いしているんだ?」

 拳を締め那智を睨む。回答によってはまたもや拳が飛ぶことになると思う。


「えっーと、あの隊長とたまに一緒にいる、あの長い黒髪でおっぱいが大きめで終始冷ややかな顔してる娘」

 誰そいつ。知らんぞ、俺にそんな知り合いいるの?

 

「あーユキの事ですね」

「そいつは、銀雪は友達だぁぁぁ」

 いつの間にか俺は叫んでいた。もう嫌だ、どうして俺はこんな勘違いばかりを受けるの……。 


「でなんの話をしていたんですか?」

 おっと、話が戻ってしまったな。そのまま忘れて欲しかったんだが。


「それはですねぇ~」

 ニヤケ顔た顔の那智先生(笑)、そしてウキウキと那智に駆け寄っていく莉乃。

 直感も本能も頭内会議の大和君全てがそう言っている、これは絶対にめんどくさい事になる。何かないか、何かこの先の予想された未来を変える手段は……。

はっ、そうか。

 俺は素直に地面に裂いた紙を拾い上げビリビリのバラバラにした。二度と読めない様に。


「残念、それは残像だ」

 そう言って那智は机の下から紙の束を取り出しそれを莉乃に……。


「ん? なんですかこれ?」

「とある小説のコピーです」

 

 そうして無事に那智先生の小説は莉乃に読まれてしまいました。

 ゲームオーバーが耳に響く、コンテニューは勿論出来ない。


「ねぇ、那智。君は私の頭がそんな御花畑な娘だとでも思っているの?」

 それはそれはちょっと斜め上な回答であり感想であった。

「えっ、間違ってないだろ」

「ですです」

 那智までもがうんうんと頷く。


「そもそも私は急に抱き付いたりなんてしませんよ」

「エッ、お前初めて会った時キスしようとして来ただろ」

「どうしたらそんな状況になるんですか?」

 確かにそれだけ伝えると確かにその疑問は生まれてくるな。

「説明が難しくてな。痴女って来たんだよ、なんか知らんけど初対面なのにこっちのこと知ってたりもするし。あれだ何もしてないのに好感度限界突破的な」


「なんと度し難い」


「いやぁ~、あれは私じゃない私がやったと言うか、なんというか。とにかくあれはノーカンです」

 珍しく顔を赤くして本格的に恥ずかしがっている莉乃。このまま莉乃のペースに戻されない様に話の支配権を奪いたいところ。

 そして有耶無耶にしたい。


「そうか、じゃあ俺はこの辺で」

「隊長あんた話を切るのが下手すぎるだろ、有耶無耶にしたいってこと丸わかりだぞ」


「逃がしませんよ~」

 去ろうとしたところ莉乃に服の袖を掴まれしまった、それに結構力が強い。


「なんだか、つついたり、嫌がることしたり、めんどくさいことしたくなりますね反応が面白いから、隊長って」

「おお、貴方も分かってくれましたか」

 めんどくさい奴が増えた。


「はぁ、お前らは好きな子に構ってほしくてイタズラしちゃう小学生か」

 口から自然とため息が漏れ出てくる。

 

「本当は嬉しい癖に~」

「うざ」

「またまたぁ~」

「けど隊長って以外にも心から拒絶はしてないですよね。隊長の性格的になんだか意外というかなんというか、実は気があったりして……」


「それはない、というかお前の方はどうなんだよ」

「えっ、即答ですか……」

 まぁ即答といえば即答だったな。


「お前の方とはどーゆー意味ですか隊長?」

 場の空気が凍る、言葉が失われる。

 あー。そうかそうか、こいつもこいつで残念な子だなぁ。

 美優の散々の押しにも気が付かなかった誰かさんと被るよ。


「大和君、大和君。この那智は大和君とは違う意味でかなり残念な子ですね」

「莉乃、莉乃。世の中には女の子の好意にも気が付かない鈍感男なんてたくさんいるぞ。それにその言い方だと大和君も残念な子扱いなんだが」

 笑顔で莉乃は頷くのであった。

 否定してほしいよ。

 

「あーあ、その小説の人物の名前、那智と榛名に変えた方がいいよ」

「うんうん」

 那智は意味が分からなさげに首を傾けた。

「どーして榛名の名前が?」


「大和君、大和君。重症ですよ那智は。榛名がかわいそうです」

「莉乃、莉乃。もうこれ以上は言わない方がいいぞ。こーゆのは放置しとくのが一番面白い。いつ榛名がプライドを捨てるか楽しみだな」

 目の間でこんな話をしているのに彼は未だに意味わからなさそうに困惑し続けているようだ。


「あれだな、ギャルゲーでは絶対にフラグを見逃さずに、分岐も間違えないのに現実では……」

「隊長……。とにかく目当ての女の子だけにいい顔さえしとけばギャルゲーなんていちころですよ」

「那智君よ、その攻略方法じゃ幼馴染の藤崎なんたらさんは堕とせないぞ」

 那智はその場でがくりと地面に崩れ落ちた。

 ただ今度は莉乃が訳が分からなそうになっている。


「そうだよ、そうですよ隊長。俺はできませんでした、俺は攻略サイトを見てしまいました」


「何が何だか……」

「はぁ、これだから那智君は」

「隊長、でもギャルゲと現実は違いますよ」

「でも君現実でも駄目じゃん」

「エッ、なんで?」

 多分莉乃も同じことを思っているだろうな。自然と自信満々の那智から目を反らしてしまった。

 莉乃も、莉乃で同時に顔をそらしてお互いがお互いを見る形となってしまっている。


「「あーあー」」

 

「んなこと言って隊長だって仲間内で発せられる下ネタに乗りも反応も悪い癖に、やること酷くて、残虐で、ムラッけオニゴーリ普通に使ってくるゲスなくせに心はまだピュアかよ」

 グザッ。

 心が大きな悲鳴に近い音を上げた。


「それはね、それはね。今まで人との関わり合いを避けてきたから中々下ネタにどう返していいか分からないんだよ……。ねぇ那智あれってどう返せばいいの」

「隊長、そんなに気にしてたとは……。すいませんね、そういえば隊長はプロなボッチでしたね」

 やめてそんな目で見ないで。でもねムラッけオニゴーリはそうやすやすとは使わないよ、ほんとだよ、ほんとにほんとに。

 そして君もそんな目を潤ませながらこっちを見ないで。


「大和君、可哀そうに」


「お前だって似たようなもんだろ。今時、時代遅れの名家のお嬢様で友達もいなくて、孤独で一人でボッチだったんだろ」

 ぷくっと莉乃はほほを膨らました。

「失礼な、私は友達くらいいましたよ。大和君と違って」

「いや俺だっていたよ、友達の一人や二人……」


「ネトゲの世界にとは言いませんよね」

 答えようとしたことを言われてしまった。

 いや、実際には友達はいたよ、中一までは。というかこれでも昔は友達が多かった方なんだぞ。

 莉乃は俺の近くまで顔をよせてきた。


「この際だから聞きますけど、私は大和君の昔が知りたいです。周りにどんな友達がいたり、どんなことをして毎日を過ごしていたんですか?」

 すっと血が引いていくような錯覚に囚われ、ずしんと全身が重たくひどく冷たく感じる。ぷつぷつと何かが湧き上がって心も頭も別のものになってしまいそうだ。


「いいだろ、俺の昔のことなんて」

 いつの間にかそんな事を言ってしまっていた。ひどくひどく重々し気に。

「大和君」

「隊長、隊長はそこまで友達いないことを気にしていたなんて……」

 的外れなことを言う那智だが……。

 俺は皆の前で笑って見せた。とても自然な引き攣っているだろういつも通りの不自然な笑顔なはずだろう。

 それを見るなりみんなもほっと胸を撫で下ろしたようにまた覚えすら出来ないような他愛もない話をした。

 それから先の話はいまいち覚えてはいない。

 なんだか触れられたくない点にぐさりとナイフを入れられた気分だ。

 


-----------------------



「隊長、今日はなんだかとっても楽しかったです」

 それは軍の本部ではない。日も暮れた野外とは違いとても明るい那智の部屋。

 そこにいるにはとても楽しい仲間であり久しぶりの友達。

 ただ今日はいつものメンバーである吹雪はいない。

 

 ここでたまに皆で集まり夜通し朝日が出るまで皆でアニメを見たりゲームをやったりする。とても楽しい集会。


「ふーん、そうか」

 そういって手元の3DSの画面をタッチする。


「あっ、一撃厨め」

 しかも外してる……。信仰心があれば技は当たるんじゃないのか。

「ふん、耐久受ループ使いに言われたかねーよ」 


「隊長、今日みたいな日がずっと続けばいいですね。俺がいて、仲間がいて、隊長がいて、莉乃がいて播磨がいるそんな日常が毎日続いて欲しいです」

 唐突に那智が真剣な顔をして言葉を漏らした。

 いやいやお前の小説のネタにされてめんどくさい奴にイジラれる日なんてずっと続いてほしくないよ。

 ただ那智は幸せそうに微笑むのである。


「そんなことを言って那智お前はいなくならないよな……」

 あいつ等の様にとまでは声にすることはなかった、いや出来なかった。ただいつの間にか俺の口からそんな言葉が漏れ出てしまっているのは事実である。

 那智の言葉を聞いた直後俺の脳裏には数人の人が過った。ネトゲの友であり、美優であり、大好きだった祖父でもある。みんな俺の傍から去っていった、みんな俺を残して消えてしまった。

 何故だか俺は目の前の此奴でさえも消えてしまいそうな、不安に似た感覚に襲われたからそんなような言葉を口にしてしまったんだろうな。


「ん?」

 那智はそう首をひねりながらを意地悪そうに笑って手元の3DSを叩くのであって。

「いやなんでもな……。あ? ムラッ気糞害悪ボール出してきやがって、ふざけんなよ」

 してやったりと那智の楽し気な笑い声が耳の中に響く。

 そして俺は頭を抱えながら次の一手と行動を必死に考え、ただ悪い引きをしてくれと祈るばかりであったが俺もちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、こんな日が、今のこの環境がこのままであって欲しいと心の中で思ってしまっている自分もいた。


そして那智は……。

彼は未だに失うばかりである。

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