【三章外伝】 MEMORIA
【二人の英雄】
―――apocalypseの章―――
草薙大和それは誰しもが認める英雄だ。
彼が居なければ、彼の活躍がなければきっと我々は今頃仲良く鬼の腹の底で最後の時を最悪の気分で迎えることになっていただろう。
それ故に彼は英雄なのだ。
彼は私たちの生涯を、私達の生活を守ったいわば守護者だ。
彼は言うなれば盾なのだ、某をも通さない最強の盾なのだ。
そしてこれから始めるのは剣の話。
大和が盾なら彼は対になる矛であろう。
きっと何者でも貫き通すことが出来る究極の矛。
大空を翔る人類の片翼、きっと二人の英雄という両翼を持った人類は、剣と盾を構えた軍は負ける事の無い百戦錬磨の集団となり天を翔るであろう。
一色祐樹はあの戦いで一宮での戦には参加していない。
それもその筈だ。一色祐樹は瀬戸家の所属で犬山城攻略戦に当たっていたのだから。
尾張の国と美濃の国の境を意味する木曽川沿いに建てられたのが白帝城即ち犬山城だ。
しかし最初は城などとはお世辞にも呼べないただの砦である。
信長の叔父である人物がそんな砦紛いの城を改築して本物の城に変えてみせた。
ただし城と言っても姫路城や松本城のような城を想像してはいけない。
それから犬山城には母が織田信長の乳母であった池田恒興や織田信長の五男の勝長、秀吉の甥である豊臣秀次らも一時期は城主を務めている。
そんな犬山城を現在の形としたのが石川貞清その方である。
貞清は美濃の金山城の古材を譲り受けて犬山城を改築したのである。
時は1600年この年号を上げただけで教養のある読者諸君ならきっと頭に浮かぶ事件があるであろう。
そう関ヶ原の戦いの年だ。
言うまでもなく全国の大名は毛利輝元を総大将とした西軍とと徳川家康を総大将とした東軍に二分された状態であった。
石川貞清は豊臣秀頼の側近であったために西軍に属した。
そもそも関ヶ原の戦いとは当初三成たちは関ヶ原で戦うつもりなど微塵もなかった。
本当は尾張と三河の国境付近で敵を撃滅する予定だったのだ。そのために西軍は急速に伊勢、美濃、尾張の攻略をする必要があった。
諸君ら私が最初に述べた犬山の地を思い出して貰いたい。
そう、そうゆうことだ。つまりは犬山城は超重要拠点であったのだ。
ただ、東軍の動きは予想よりも格段に速く三成が伊勢をその手中に収めた頃には東軍の先鋒隊は清州城に入場していた。
福島正則、池田輝政、聞くものにはこの二方を上げるだけでそれはどれだけ勇猛な部隊かが容易に想像できるであろう。
彼らは清州に付くや否や、家康の命もあってかすぐさま木曽川を渡り美濃攻略を始めてしまった。
西軍の一隊を蹴散らし、木曽川を渡り、これまた西軍を蹴散らし岐阜城を囲んだ。
西軍はかなりの時を稼げるだろうと見込んでいた岐阜城も彼らはすんなりと落してしまったのである。
岐阜城を落されたことにより尾張はほぼ完全に東軍の手に落ちた、ほぼ完全にだ。
何故ほぼかというと……。
それは犬山城が未だ西軍として抵抗していたからである。
稲葉、関、竹中、この苗字を上げるだけでピンとくる読者はどれだけいるであろうか。
頑固一鉄と呼ばれた稲葉一鉄の次男、大坂夏の陣で京橋口を攻めて首級52を上げた関一政、天才軍師竹中半兵衛の嫡子である竹中重門そんな彼らが西軍として一所に集って抵抗したのである。
軍とは脆いモノである、これだけの面々が揃いながらも崩れるときは一瞬であった。
それは東軍が尾張をほぼ手中に収めた時……。
石川家を除く西軍の家の全てが東軍に寝返ったのである。
諸将が極秘裏に徳川四天王の一人である井伊直政に内通していたのだから。
そうして犬山城はいとも簡単に東軍に引き渡されてしまい、残された石川貞清は西軍本体に合流して運命の関ヶ原を迎えた。
貞清自身のお話はここで終了だ。
済まないがあともう少しだけこの話に付き合ってはくれないか。
貞清自身は関ヶ原の本戦は宇喜多隊の近くに布陣して奮戦、戦況不利と見るや逃走、そののにち東軍に投降し池田輝政の働きかけによって助命された。
まぁこんな話はどうでもいい。
ここで話の視点は切り替わる。
歴史にあまり詳しくない読者もいるであろうから隣のページに布陣図を載せて置いた。
先程の石川は宇喜多隊の傍に布陣していた。
宇喜多隊より遥か東、笹尾山に布陣した武将の名を見て貰いたい。
そう、石田三成である。
そして彼もそこに居た。
石田三成の配下で、杭瀬川の戦いなどで戦下手で有名なである三成に進言し、良き方向へと導こうと死力を尽くしてきた一人の武将がいた。
その男の名こそ島 清興 またの名島 左近だ。
本当はこの忌々しき鬼の名を彼などと敬意を払った呼び方をしてはならないのかもしれない。
しかしここでは私はこの鬼を彼を呼ばせてもらおう。
彼はそれは正しく東軍一の功労者であり、かの秀吉をも恐れた軍師官兵衛の息子である黒田長政相手に鬼の如く戦った。
黒田の兵士は関ヶ原での彼の武勇を若い兵士に語ったが、彼の服装について皆々の証言が違った。
つまり皆々が覚えていられに程に彼を恐ろしく恐れたという。
ただただ彼は恐れられたのだ。
しかし関ヶ原の結果は諸君らは知っているであろう。そうだ、西軍の敗北だ。
彼一人の奮闘だけでは決して戦の流れを変えることは出来なかった。そうして彼は黒田隊の放った銃弾を受け負傷、そして歴史の表舞台から姿を消した……。
と思われていた。
しかし彼は鬼となっていなのだ。
鬼に成って生きながらえ、遂にまた歴史の表側に姿を現したのだ。
彼は、彼ら西軍のさまよう怨嗟は現代に降り注ぎ犬山城を占拠した。
あの時寝返りによって簡単に落とされてっしまった石川氏の無念を餌に、鬼という鬼が城下に駆け付け人類を追い払い城に立て籠もった。
軍は幾度となくここを奪還しようと試みた、しかし敵は歴戦の、かの大戦にも参加経験のある将である。そう簡単には軍は犬山を奪還することは出来なかった。
人類は幾度となく彼に煮え湯を飲まされてきた。
随分と長い話となってしまったがそれは許していただきたい。
さぁて英雄譚でも始めようか。
最初に述べた通り一色祐樹は草薙大和が伝説的な武功を収めた一宮奪還作戦になど参加していない。
彼はそんな一宮奪還作戦を島左近率いる犬山城の鬼に妨害を受けないように対策として犬山城に張り付いていた。
それはそれはとても重要な仕事だ。
此処までの仕事は決して清和の剣である瀬戸家以外の何者でもやることは出来ないであろう。
一面を木曽川に向けている犬山城を瀬戸家の軍勢は囲んでいた。
そしてそこの本営の本営。
犬山攻略の総指揮官である柳沢海斗少将の幕下として一色は戦を眺めていた。
どれだけこの光景を見たであろうか、どれもどこのを見過ごしたのであろうか。
英雄は一人嘆いていた。
英雄は現時点で英雄であった。
筆者の取材で分かった事なのだが、草薙大和と違いもう既に彼は学校を救った英雄であった。
学生同士の抗争、学生同士の乱闘、そんな事件が日常茶飯事に起きている。荒れに荒れ、弱肉強食の縮図のような世界を終わりに導いたのも彼一色祐樹だ。
英雄は進展しない。全くもって動く事の無い戦況を拳を握りただひたすらに眺め続けていた。
それもその筈だ。
瀬戸家本体が未だに犬山に到着してないのだから。
そんな中草薙大和は一宮で一人主君である者の為に、隊長の仇を討つために静かに立ち上がっていた。
その日の夜。
この言葉も少し間違っている。ほぼ朝方。
英雄は目覚めた。
薄靄に、烈火で赤く照らされた山のような城をふと眺めたのである。
「今日必ず戦が動く」
英雄同志通じるものが有るのであろうか?
そうこの日この瞬間に草薙大和が、彼の主君である瀬戸暮人中将が鬼を撃滅していたのである。
しかしこの時点では一色は何も知らない。
一色どころか犬山の何処を捜してもそれを知る人間などはいなかった。
そうして英雄は気付いた。自分のほかにもこんな寒いそして日も登らぬ朝っぱらに誰かが犬山城を仰ぎ見ていると。
英雄ともう一人の男の目が合った。
英雄はその瞬間に敬礼をした。
目があった人物はそう、現時点での最高指揮官である、そして瀬戸家か重臣である柳沢海斗少将であったのだ。
「ああ、お前の言う通り今日戦は動く、今日でなくてはな、今日動かねばならぬのだ」
これは取材で分かった話なのだが、この時柳沢少将は瀬戸家と連帯していたからこんなセリフを吐いたわけでなない。彼の信奉する主君が事前に一宮奪還作戦での大規模攻勢に出る日を予想して彼に伝えていたのだ。
一宮での激突を知られて士気が上がりに上がった敵が押し寄せて来るのは避けねばなれない。
だから一宮での決戦が始まったと同時にこちらも城に取って付いて押し寄せそんな情報を入らないようにしなければなるまい。
だからこそ少将は決めていたのだ。この日に攻勢を仕掛けると、そして……。
「俺は平重衡に、俺は松永久秀に、アメリカ軍になることに、なってしまうだろうな。それでも俺は勝たねばなるまい。例え未来永劫語り継がれる大悪人になろうとも、歴史に残る悪人指揮官になろうともやらねばならない」
独り言のようにそして一色に語り掛けるように柳沢少将は呟いたという。
それからほどなくして集会が開かれた。
「これから犬山城を攻めようと思う」
中々城攻めが行われずに殺気立っていた皆々にはこれはやっとの決断だった。
ただこの集会は城攻めを行うと伝える為の集会などでは無かった。
「諸君らに一つ伝えねばならない事がある」
そうして少将は皆々を見渡した。
「俺はこの戦のあとに職を辞す」
それは衝撃的な言葉であった。柳沢少将の年齢は32、戦線を退くならまだまだ早い歳である。それに彼が高齢になりながらも前線で指揮棒を振るっている瀬戸暮人中将の一の信奉者であることを皆は知っていた。
ついぞ皆は中将の齢になるまで前線で剣を振るうと思っていたのだ。
「俺はこの戦で、この城攻めを成功させるために禁忌に手を出す。多分瀬戸中将もこれを望んでおられるのだろう。ただしこれは俺の独断だ。中将には迷惑をかけるつもりなどない、だから責任を取るのも辞さない覚悟で臨む」
「その作戦とは一体」
英雄は少将に向かって疑問をぶつけた。
「犬山城に火を放ち、国宝を爆破する」
静かに力強く少将は皆々に呟いた。
何か少将はいけないことをするのだろうと予想はしていたものの皆国宝を爆破し攻め入るということは考えてはいなかった。
少将は地面に置かれた地図に指をさした。
「まずは城の中の敵が密集しているところにに上空から火を放つ。これで運よく城に火が移ったら大いに良い事だ」
それから少将の指はとある地点を叩いた。
「次に敵の城門を爆破し敵に出口を与えてやる、勿論天守も爆破し圧力をかけ、どっと出てきたところを一気に叩く」
「しかしもし敵の勢いが強く我々の方が壊滅の危機に陥ったとしたら」
「そのための本軍だ。すぐさま本軍がここに到着し敵を強襲する。それにもうそうなった時点では敵に城は無い。我々が勝つにしろ負けるにしろ敵は犬山城は放棄するだろう。いいや、犬山城自体が無くなってしまうのだから、放棄するしかないだろう。つまりは我々は犬山城は落とせると言った訳だ」
この時静かに少将は目を閉じたという。
そうして薄く薄く息を吸い込んだ。
少将が本当の覚悟を決める瞬間を英雄は見逃さなかった。
「諸君らに言おう。もし敵の総大将 島左近を討ち取ったものの部隊には俺の地位全てをやろうではないか。次の隊の隊長はそいつだ、そいつの好きにすればいい」
柳沢の言葉にその場に居た人物は湧きに湧いた。思わぬ出世の瞬間が廻って来たのだと。
英雄には一つの夢があった。
英雄には一つの大きな目的があった。
虐げられた人類に救いを齎す。
虐げている鬼の世界に黙示を告げる。
それ故に彼はapocalypseであり英雄であるのだ。彼の学校でも間違えなく、間違えもなく彼は人々を救った。
そして驚くごとにこの部分を取材していた学生は皆揃えてこういうのであった。
「一色裕樹の為に戦おう。apocalypseの長を清和の隊長にしてやろう」と。
この場に居た学生たちは一人の英雄の下に集って隊を成していたのである。
彼は彼らの救いの象徴であったのだ。
そうしてそんな彼の宿命を皆が受け入れその助けになろうとしていたのだ。
少将がそう宣言してからの動きは一瞬であった。
まるで事前からこうすることを考えていたかのように。
わずかな間で城に紅蓮の海が広がった。
瞬く間に城の上空に現れた鉄の天馬に成す術もなく蹂躙された。
私の中では約70年前のとある光景の予想図が頭の中に過ってしまう。
名古屋城に落されるけたたましい数の焼夷弾。
炎上する国宝の天守閣。
広場に巻かれた紅蓮は徐々にだが建物までをも喰らい始めている。
だがそんな火焔が世界を飲み込むのを待っている暇などない。
もう一機のヘリに装備されてたロケット弾が天守そして城門に向かって掃射された。
天守はいとも簡単に弾け飛び今にも崩れ落ちそうな状態になったという。
場外に出てくる鬼に向かって雨のような矢が浴びせられた。
しかし……。
「お前らか、お前らが此度の敵か……」
恐ろし気な一人の大男を先頭に鬼の部隊が姿を現した。
「まるで松永だ。敵の指揮官はあの化け物のようなことをしてくれるのう」
敵の鬼は刀を抜き放ち鞘を投げ捨てたという。
刀を空に向かって振るうと共に。
「かかれぇいいいいいい」
この一言だ。何故かこの一言で清和の軍は間に憑りつかれたこの様に動きを止めた。
動くことが出来なかった。
息をするのすらやっとの状態であった。
清和の軍は石造りの置物のように動きを止めてしまったのである。
敵が烈火の如く、此方が撒いた日の如く迫ってきているのである。
全身を恐怖が支配している。
動きたくとも動くこのが出来ない。
息を吸うのも、息を吐くもの。
死……。そんな感情が皆の中に芽生えた。
先頭に立ち、先陣を切って島左近は向かってきている。
槍持ちも武者は三成に過ぎたるものとまで歌われた武者は刀を先頭に居た兵士に向かって薙いだ……。
止まっていた皆は悟った。
此奴は死んだと。そしてそいつが死ぬと自分たちの心が恐怖で満たされてしまうと。
「やれ武蔵」
一帯に響き渡る声……。
「はっ、兄者」
何処からともなく飛んできた矢が左近の横っ腹を貫いた。
「おいお前達、手足は動かす物だ。どうしてこんな風に棒立ちになっているのだ? いいのか? 俺に功績を奪われても?」
敵の大将に矢が当たる前に、敵の大将を貫き倒す前には何故か人類は石化を解かれていたという。
きっかけは英雄の言葉だと皆々は語るが。
急な大将の狙撃を受け驚いたのは敵方の方だ。
そして今までの恐怖を発散するかのように人類は鬼の形相で敵に向かって突撃を仕掛けた。
英雄も、英雄たちも奮戦した。
鬼よりも鬼の如く、まるで皆何かに憑りつかれたように刀を振るい続けた。
ただ英雄は振り向くことは無かった、後ろは義弟が守ってくれているのだから。
後ろでは盃を躱した相手が防いでいるのだから。
膝をついた大将を守るように鬼たちは布陣を固めた。
しかし英雄には仲間がいた。皆々は英雄の援護に周りその囲みに一点を破ったのであった。
そして英雄は鬼たちの囲みの中に入った。
刹那……。
刀が自らに向かって突き出された。
これを一色はひらりと回避して……。
後方に居た彼の義弟である吉良武蔵が射撃を加えまいと矢を放とうとした。
「止めよ」
突如として吉良は彼に向かって弓を引くのを止めてしまった。
吉良はぽたぽたと汗を流す事しか出来なかった。
それどころか島左近を囲んでいた学生たちは皆動きを止めていたのだ。
やはり皆々は困惑した。
どうしてこの体が動かなくなってしまったのかと。
「厄介な能力だよ」
死角から飛ばされる重く鋭い斬撃。
普通の相手ならここで死んでいただろうしかし相手は彼の天下の豪傑島左近だ。
いとも簡単に英雄の一撃を止めてみせた。
「伏せぃ」
気迫に満ちた鬼の一言が世界に響いた。
それは抗う事の出来ない絶対命令。
王を無くした家臣の無き王への忠誠の証。
パタリパタリと敵味方問わずに膝が地面に接触していっている。
ただし一人の男は地面に伏せることは無かった。ただ一人清和の英雄たる一色祐樹だけはピクリとも動くことは無かった。
英雄はただ一敵に向かって剣を薙いだ。
鋭く尖った斬撃は磨かれた腕によって厚みを増して具足を掠めた。
「お主には効かぬか」
「ああ、手も足も動くものだ。動けと言う動かない前提の考えでは決して動くことは無いだろうな」
刀と刀は擦れ合い火花を散らせた。
「何と心の強い者よ。何と芯の通ったものよ」
関ヶ原での英雄は現代の英雄を始めて褒め讃えたのであった。
両雄の凌ぎ合いは熾烈を極めた
どちらかが死にどちらかが生きるそんなただそれだけの事なのに男たちは綺羅星の如く輝いていた。
「俺は負けることなど出来ん。俺はお前に勝ってあの日常を取り戻す」
放たれる
皆の気持ちの籠った一撃……。
届けっ……。
一色の刀は敵の具足袈裟懸けに断った。
「なんと脆い斬撃……。笑止」
残された鎧を種朱に染めて朱塗り武者の一閃が英雄に向かって……。
英雄の口角は釣上った。
思った通り、思い通りに行ったからだ。
「武蔵」
一人で届かなくとも彼には仲間がいた、一人で戦況を変えた草薙大和とはそこが違う。
たった一人で戦い抜いて来た草薙大和では到底手にする事の出来ない力を英雄としての素質を一色祐樹は持っていたのである。
「不意打ち御免。実は最初から動けたんだよ、動けるってことを兄者が教えてくれた」
それは一人の名前を読んだ声だ。
一人はまた一人の名を読んだ。
弦音が響くと共に四方八方から鬼に向かって刃が迫った。
空を裂きながら矢は命中した、英雄の頭を裂く前に。
矢が命中したと思ったら体の至る所から剣が生えた。
海のように血を吐き出す鬼。
彼の意識が遠のいたことによって大人たちも、apocalypseの名を持たぬ者たちもそして敵の鬼たちも解放された。
「思いの強さだ。お前の力は差し詰め動かないモノだと、伏せてしまうモノだと思い込ませる能力だろう。だが俺の手も足も俺一人が動かしている訳じゃ無い。俺を動かしているのはこいつ等仲間だ」
一色は強く強く剣を握った。
そして……。
「眠れ。お前にも告げてやろう黙示を。今まで生き続けることしか出来なかった憐れなお前にも終末をくれてやろう」
私は最初に草薙大和の事を守護者だと述べた。
草薙大和が守護者なら一色祐樹は何なんであろうか?
解放者。
私は彼を解放者だと考える。
彼は敵の首を斬って落とした。
と共に彼の部下たちにこう告げたという。
迫り来る雑兵を目の前に突出し過ぎた総大将の首を宙に飛ばしこういった。
「俺たちの日常を取り返すぞ」
燃える燃える、塵芥にせんと烈火は国宝を飲み込んだ。
帛が引き裂れただけではまだ足りない。
英雄の慟哭は世界に木霊した。
そして英雄の部下たちは皆心の中で彼に伏せた。
世界を解放せよ。
セカイを取り戻せ。




