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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章幕間】 コネクト

 勝利の歌は途絶えることは無い。

 例え奪還作戦終了から一か月近くたとうとも。


 死者・負傷者を大勢出したこの作戦も最終的には勝利という形で終わっている。

 人々はみな喜び、皆で勝利を分かち合った。


 例え事前に作戦を発表せずに事に当たらせたとしても、例え最前線では甚大なる学生兵の死傷者が出ようとも勝ってしまえば全く関係ない事だ。


 勝ちが全てをもみ消した。


 勝ちが彼らの死に社会的な意義を見出した、見出されてしまったのだ。

 戦友を仲間を失った者は嘆き悲しんだ、しかしそれも己が生き残ったということを実感した上でだ。

 嘆いた、嘆いたさ。ただし彼らは直ぐに気が付いてしまった、自分たちは積み上げられた死体で安寧という揺り篭に揺られらがら感傷に浸っているのだと。

 そもそも戦場なんだ。人が死ぬのは当たり前なのであり、彼らも彼らの仲間も死んでいったモノたちも重々承知でそこに立っている筈だ。


 戦火は祝宴と化していた。

 生き残ったことに安堵するモノ、自分の叩き出したスコアに誇る者、もう次の戦の事だけを考え剣を研ぎ始める者。


 兵士たちの反応も皆それぞれだ。

 行くも地獄、引くも地獄、進も地獄、逃げるのは無間地獄へってな。

 まぁまさに私達はこれからどうなろうと、何処に行こうが地獄が顔を開けているのだ。


 進んでも極楽浄土にはいけないらしい。

 進み逝く時だけが其処に行ける唯一の手段なのだ。


 等活地獄ああ、恐ろし。奴らがいる限りはこの世から戦火は絶えることは決してないであろう。

 揺り篭から墓場まで一生戦場、一生戦線、生まれたそこは地獄でした。


 生まれて初めて知ったのは戦禍。


 己の命の大切さを知っているからこそ、前よりは確実に命はあっさりと無くなってしまう者だと分かっているからこそ内地の人々は盛大に祝砲を打ち上げた。


 皆が軍人を讃えた、皆が軍人に優しく接した。


 それもその筈だ。一宮市に集結しつつあった鬼の大隊が岐阜に後退してしまったことによって大きく西尾張の情勢は変わり、今や一宮市・江南市・稲沢市の鬼の殲滅率は90パーセントを越え、愛西市、弥冨市、そして長島の当たりまで人類が優勢の地域が拡大された。


 つまりはほぼ尾張地方は此方の手によって統一されたってことだ。

 敵も無理に攻めてきたりはしない。

 清和軍はやっと安定的で安心な地域を作り上げられそうなのだ。

 清和軍勝利の知らせを聞き人々は三日三晩いやそれ以上に騒ぎ燥ぎ飛び上がった。

 そして軍もその勝利を奇跡の勝利の如く喧伝したのだ。


 戦場で生まれた嘘かほんとか分からない話を、陣中で兵士たちの間で実しやかに語られた憶測も、全部が全部まるで本当に起こっていたかのように書き綴り、民に知らせた。


 ドラマチックにエンタテイメント制に優れ、人々を感動させ、熱狂させ、煽動するそんな戦争譚がいつの間にか世に浸透していた。


 そんな中でも一段と人々に人気の話が『二人の英雄』という話だ。著者の名前は忘れてしまったが。

 それは異なる戦場で活躍した少年たちの話となっている。そこに出てくる少年は一人はとある没落した貴族の家に忠誠を捧げた騎士のような人物として、もう一人の少年は同年代の学生を率いる隊長で何よりも正義を重んじる人物として描かれていた。

 まぁ見事に人々はそれを信じてしまったのだ。


 出版に協力したのは瀬戸家の名は出ていないが瀬戸家中の人間だ、まぁお察しの通りだ。

 この一カ月間俺はというと戦後処理に追われていた。

 それと作家やいろんな軍人や他の業界の人となどいろいろな対談に追われていた。

 これもまぁ、軍が俺の活躍と功績を必要以上に讃えて回ったからである。

 あの土岐家ですら此方の功績や学生の功績を認めることで自身のミスを有耶無耶にして、勝利の美酒を啜った。


 戦を勝ちに導いた市長も決断力に富んだ人間だと皆から慕われ、四大派閥も大いに力を蓄えた。


 滝のような一か月間であった。

 しかしそれも今日でおしまい、今日でそれも果実となる。

 はぁ、しかし何でこんな奴らと同じ待合室になってしまったのだ……。


 紫煙とアルコールと生理的に受け付けない嫌な臭いが行きわたった部屋でお偉いさんの話に相打ちを討ち、時には空いたグラスにワインを注ぎ媚びを売っている。


 意味の分からない話で皆盛り上がっている。


 部屋の隅には襤褸切れのように服を破り取られた俺と同じくらいか俺より少し年下か? という少女が高級そうな毛布に包まり一塊に集められ虚ろな目をして宙を仰ぎ見ていたが気にしないでおこう。

 ふれないぞ、絶対にこの件にはふれない。


 絶対に戦に出れないだろって体格の人間も、なんだか訳の分からんうどんの会社の社長も、お偉い車の会社の幹部の右腕の右腕と名乗る男も俺よりも随分と高い階級を持っていらっしゃるのだ、それは媚びでも諂いでも売ってやらねばならない。


 残念ながら彼らは事実上は上官だから。

 形だけとはいえ俺よりも階級章の数が多いのだから。

 



 二〇一七年 十二月二十五日 月曜日 世間的には俗にいうあれだ。

 赤色の今にもリア充共の粛正を始めそうなお爺さんが夜空から舞い降りてくる日、誰かさんの誕生日でもある。


 いつも俺ならソシャゲやネトゲのクリスマスイベやクリスマスグラのガチャを楽み一喜一憂していた所だが……。もうそんなサービスを行っているところなど何処にも存在しない。

 十二月二十五日、聞いて呆れるあの日だが、孤独な一夜を凄くものが多いそんな日だが今日は違ったのである、もれなくあの戦場に赴いた皆がクリぼっちになることは無かった。


 軍はクリスマスに重ねるようにその日にあの戦での論功行賞、昇進式そして戦勝パーティー行ったのだ。

 まぁこれも実のところを言うとどさくさ紛れに企業の人間の階級を一斉に上げる式典となっているのだが。


 扉が数度ノックされる。


 一人の男の返事と共に一人の軍人が一糸乱れぬ敬礼をしてみせた。


「隊長! もうすぐ順番が回ってきます」

 不自然なほどに皴や解れのないきっちりとした軍服を着た那智伍長は新たに賜った伍長のバッチを輝かせながらそう俺に向かって声を上げた。


 会は戦死者の昇進、下士官の昇進などなどを終えてどうやらラストに向かって順調に突き進んでいるようだ。


「英雄殿、これからの活躍も期待してますよ」

 部屋の大人たちは一斉にそんな事を言いだしたがそれも金の為でしかないんだろ?


 英雄という名は経済を動かすのだ、英雄が良いと言った品、英雄が使用している物、英雄公認の食材、そんな勝手な草薙大和をパッケージに付けるだけで売れ行きが必ず跳ね上がる。

 新しい芸能も生まれてこない世界にとって英雄というのは久々の経済動物なのだ。


 勿論俺以前にも名古屋の世で持ち前の芸や巧みな漫才などの芸で世間から注目された人はいる、いはする。


 しかしそんな人たちのも政治を乱しかねない発言力も持ちそうなものとして、行方をくらませたり、二度と人前に立ち芸が出来なくなるような怖い思いをさせたり、軍と裏で繋がっている芸能プロダクションにスカウトとされ契約し無事軍信者の漫才師になったりなどその業界にも軍は蔓延っていた。


 つまり彼らは俺に良きことを言って貰いただ金儲けがしたいだけなんだ。

 そして軍はそんな彼らの一部を税金や賄賂、御布施として欲しいと。


「御期待に応えられるような活躍を出来るよう心掛けていきます」

 本当はこんな返事など返したくもない、でも彼らにはいいように思われたいのだ。ここ数週間こんな仕事ばかりを取って来たのはとある一つの理由の為だ。


 あのお嬢様の御家復興の為にコネクションを作っているのだ。それにお家を復興させるためにもこの人たちに口添えして貰い正式に爵位と天童家そのものを認めてもらう必要がある。

 そのための根回しだ。


 敵は人間でそしてこの名古屋の四本指に入る巨大な家、だからできるだけやれるだけの事をやっておいた方がいい。


 彼らは二ッコリと笑い送り出してくれた。しかしその眼はお前に期待しているぞという目をしていた。


「こう毎日接待接待だと疲れますよねぇ隊長」

 扉から抜け出た瞬間に身なりだけはいいただの京極那智に戻った。


「まぁな」


「じゃぁそろそろあれやっちゃいますか」

 那智は両手の中にコントローラーでもあるかのように指を軽快に動かして見せた。


「ああ、そうだな。明後日空いてるな?」


「あ~、いけないだ、いけないだ。莉乃ちゃんに言ってやろ」

 後ろから聞こえたどこか幼げな声は如何にも小学生が言いそうなメロディーに乗せられていた。


「誰此奴?」

 ギリギリ中学生扱いを受けなさそうな幼げな身体つきをした少女が上目遣いで此方を覗きながら、口先をとんがらせていた。


「大和お兄ちゃん、私のこと忘れたの?」

 少女は口に手を当て体を震わせ悲しそうな眼で此方を見つめて来た。


 うぁー、二次ならいいけど三次のそれは正直ないわ。ロリコンでもないし(三次)、妹属性も持っていない。

 妹は兄を好くものだと思った? 残念そんなの滅多にありません。あれは普通に俺の事を見下してました、なんてな。


 突如隣の那智が幼女に渾身のチョップを喰らわせた。


「いててぇ、酷いよぉ、京極君」

 自分でぶたれた位置を撫でながら幼女は京極を見た。


「おい、我らが英雄様に誤解されるようなこと止めろ、細川さん。ソビエト連邦の崩壊を体感してる癖して若作りが過ぎますよ」


 ん?

 なんかおかしい事を聞いた気がするよ。


「ソ連崩壊の一日前に生まれたってのが自慢ですもんね、だから確か昨日また御歳を……」 


 少女の見事な突きが那智の溝に吸い込まれた。

 那智は噎せ返り、お腹を押さえた。流石に倒れ込みまではしなかった。


「これだから三次のゴホン、ゴホン歳は……。そろそろ若作りばかりしてると婚期を」


「おいおい、京極君。年上のレディにそんな事を言ってもいいのかね?」

 幼女にフルボッコにされている青年という図を見せつけられているのだが時間は大丈夫なんだろうか?


「隊長殿さぁさ此方へ」

 二人のをまるでないモノのように扱い一人の男が道を示してくれた。


「済まんが、貴方は、誰なんだ? あと彼奴も。あの戦場にはいなかった気がするんだがもしや同じ隊の人間か?」

 男は慌てるように敬礼をした。


「隊長御多忙のゆえに挨拶に伺うのが遅れて申し訳ございません。私は旧神帝軍零番隊の通信関連の仕事を承らさせて頂いている赤松吹雪と申します」

 長身で寡黙そうな印象の男がそう答えた。


「通信関連とというと?」


「各々の会話を仲介したり、ドローンを飛ばして敵の現在地を伝えたりと主にそんな仕事をやらせていただいております」


「で?彼奴らは」

 俺は後方に胡乱気な視線を向けた。


「あの幼女みたいなのが細川響です。彼女は暗殺面で我が部隊一の実力者です」


「そーそー、いきなりあんな幼女が武器を振り回して殺しに掛かってくるなんて夢にまでも思わないでしょう隊長。彼奴の強みはそこなんですよ、無理なくギリギリまで警戒されずに目標に近付けるってことが」

 ひょっこりと京極出て来て解説を始めた。


「で、此奴は俺の元FPS仲間です」


「そうか、赤松もFPSやっていたのか?」


「次からは吹雪でいいですよ、大和隊長。FPSが一番好きですがゲームならオールマイティにやっています。隊長の話は那智から聞いていますので今度あのゲームの御手合わせを」

 吹雪の表情がぱぁっと明るくなり声のトーンも随分と高くなった。


「ああ、お前も明後日暇だな?」


「ええ、勿論」

 吹雪はニヤリと笑いそう答えたが……。


「たぁいちょう、わぁるい人だ~。わ~、莉乃ちゃんをほったらかしにして悪い人だ」

 彼女がそう騒ぎ立てているが……。


 開場の周辺までの所に足を踏み入れた瞬間に真剣な顔つきに変化した。

 そのまま神妙な顔をした部下たちを引き連れて会場の裏に辿り着いた。


 待たされること数分。


 彼らの中では何かしらの合図があるのであろう、裏方の一人が俺に会場内に入って下さいとそう告げられた。


「会場に入ったらそのまままっすぐ歩いて行ってください」

 扉の前に連れ出された俺の耳元で裏方の人がそう呟き大きくて重そうな扉を開けた。


 扉が開けるにつれて段々と会場から漏れだす拍手喝采の声。

 あの扉が完全に開ききったところで会場に一歩足を踏み入れた。

 より一層に強くなる喝采。


 一生続いてしまいそうな勢いで撃たれている拍手。


 見渡すばかりの自分を讃える人、誰がもが俺を祝い讃えているような気持にもなってくる。


 周りの気迫を体で実感しながら中央の開けた道を進んだ。



 一歩一歩踏みしめるようにゆっくりゆっくりとその道を進んでいく。



 壇上には清和軍大将の村木有義大将が拍手をしつつ俺の到着を待ち望んでいるような様子だった。



 一歩。




 一歩。




 また一歩。



 コツン。


 カツン。


 コツン。


 カツン。


 爆音のような喝采の中で二人の英雄はほんの一瞬だけだがついに相まみえることとなった。


 遂にあの小説の英雄が一つの大きな部屋に集う事となった。ただしお互いがお互い昔は小さな部屋にあつまっていた。


 彼奴もこの周りの人間もきっと俺の心情などは知らないだろう。


 男達はすれ違ったのだ。

 俺達はもう既に数年前にすれ違っている。


 音もなく、影も素振りすら相手には見せずお互いは彼奴は遂に運命の歯車を嚙み合わせ動くようにしてしまったのである。



 ふっふっふっ。こんな嬉しい日もあるのだなぁ。



 遂にだ。遂に。今度こそは、今回こそは。

 英雄たちは逆の方向をに進んでいっている。あのすれ違う瞬間俺は確実に口角が釣上った。 




 ――やっと見つけた……。




 悪意と殺意に満ちふれた少年は勇気と美談に満ち溢れた英雄に心の中でこう語りかけるであろう。




 ―――ゼ・ッ・タ・イ・オ・マ・エ・ニ・フ・ク・シ・ュ・ウ・シ・テ・ヤ・ル。マ・ッ・テ・イ・ロ・ヨ・イ・ッ・シ・キ―――




 そうして俺ともう一人の英雄である一色は見事少佐へと昇進した。


-----------------------


  

 二〇一八年 一月 十七日 水曜日

 

 新たなる年が始まり十六日が経つ。

 あれから二年、新世界より貴方に向けて。


 俺はこんな風になってしまった……。お前はこんな俺を見てどんな声を掛けてくれるのだろうな?


 この二年色々有り過ぎたよ。 


 だけどやっとお前の仇もお前のいた街も取り戻すことが出来た。


 ああ、正直俺は疲れたよ。でもやらなきゃいけない事があるんだ。


 例えお前が止めようとも。


 少佐になり年も越え今年初めての一宮に俺はいた。

 本当は一人で来るつもりだった……。


 だけれども二人は俺を一人にはさせてはくれなかった。


 目頭が熱くなり、目が極限まで潤いを失っていく。ああ、ヤバい泣きそうだ……。といくら思ったことか。

 結局は俺は名も知れぬ人々の、骨も遺物もないただの加工された石の置物の前で涙を流すことが出来なかった。


 こんなにも寂しくてつらいのに、こんなにも虚しいのに何故だかその先の言葉も涙も出てこない。


 何故だか、この墓からは何も聞こえてくることはない。


 それもそうだ。此処は紫水の墓ではないから。此処は一の市民の墓であり紫水個人の墓ではないのだ。

 この墓はあの事件で命を落とした人や行方不明で実質死亡扱いを受けている人々の墓である、つまりは俺の父母の墓でも紫水の墓でもある。


 この墓に手を合わせるということはつまりは親にも手を合わせているという事だ。そんな風に考え始めたら嫌悪感のようなものが溢れ出て止まらなくなり全然まともな思考が出来ていない。



 何者かに肩を叩かれる。


 ふわふわした世界に居たのがその手によって引き戻される。


「大和君。彼是これで一時間ですよ、大丈夫ですか?」


「ああすまん、いろいろと気持ちの整理と話をしていた」


「一時間もピクリとも動かずにですか」

 優し気な莉乃特有の暖かくて心地よい視線が向けられた。


「もういいよ、これで終わり。当分ここには来ない」

 岐阜を見つめるように、あの日岐阜方面に向かって逃げ殺された人々を見つけ出さんとその墓は138タワーパークの敷地の一角に作られた。

 それはあたかも岐阜からの敵を監視しているようにも見えた。


「行きましょうか殿」

 法師の一言に首肯して歩き始める。



 墓の周りにはほおづきやバラや缶の食品など様々なものが死者を退屈させないようにと置かれていた。

 その中に俺が持ってきた菊の花束もまるで古参の花ような顔をして紛れ込んでいた。



「じゃぁな紫水。また来るよ」



 次来るときは……。ちゃんと復讐を終えてから。




 段々と大きく整えられた石の塊から離れていっている。



 振り返りたい気持ちを押さえつつ一歩一歩重い足を前に突き出して進んでいる。


 


 そんな時だった。


 一月の割にはなんだか暖かく懐かしい匂いのする風がふんわりと全身を包んだ。



「草薙大和少佐。初めましてお会いできて光栄であります、私は二月から隊長の隊の一員とならせて頂きます……」

 ぞっとした。



 震えが止まらなくなるくらいに。心臓が機能を停止させてしまう位に。


 恐怖と嫌悪が全身を駆け巡った。

 それはそれはあんなにもされてもまだこんな感情を抱いている自分に対してだ。


 頭の中で一瞬で何度も何度もあの一言が再生される。


 何度も何度も。



 何度も何度も。



 何度も何度も。




 ――私は二月から隊長の隊の一員とならせて頂きます。   金剛美優です。





 ――隊長の隊の一員とならせて頂きます。   金剛美優です。





 ――金剛美優です。





「はじめまして・こちらこそよろしく……」

 声をがしているのか出していないのか正直分るような、冷静にモノや自分を見れるような状態ではなかった。

 ただ内から聞こえる声は随分と単調なものであった。

 ただ冷静であれるように、冷静に見えるように心掛けた。


 ああ、またこれか……。またあの言葉が。


 

 貴方が紫水を助けてあげなかったせいで、親友の貴方が紫水を裏切ったせいで。

 貴方のせいで私は彼への好きという気持ちが哀れみとかそんな感情に変わってしまったのだけど。

 私の好きだった気持ちを、私の大切な日々を返して。

 

《ヤマト……》



「大和、どうやら貴方は私の事を覚えていてくれたみたいね……」

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