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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第六話】 バクチ・ダンサー

 

 此度の戦いは左翼、本陣が崩れたことにより右翼も撤退して勝利に終わった。

 敵を崩した俺は大人たちからの聴取に追われ遂には軍本部に呼び出しを受けた。


 戦火を逃れ神主などが逃げ出し管理する者が居なくなり、一時は鬼が本部として使っていたらしいがそんなことは我知らずと平然といつもの様に建ち尽くしている一宮市のシンボル真清田神社の本堂に軍の本部が置かれていた。


 勿論莉乃やハリマとは事前に口裏合わせをしているのでしくじらなくてもまぁしくじったとしても上が何とかもみ消してくれるだろうな。



 重々しい雰囲気……。

 口を開くのも憚られるような雰囲気を作り上げ俺を品定めする目で睨む軍の上層部。


 出口を覗き三方全てが敵だ。


 中心の席に斯波宗春市長、それを挟むように、土岐九十九大将、村木有義大将、瀬戸暮人中将、額田政中将、と軍の四大派閥の当主が揃いこみで座り込んでいた。


 話し声一つ聞こえない静けさに囲まれたこの空間。

 

「草薙准尉、此度の活躍耳にしたよ。皆君を褒め称えているよ」


 この戦の総大将である斯波市長がぼそりとこの作り上げられた雰囲気を壊すようなもの柔らかい口調で話を始めた。


「何を仰る、総大将。調べてみればこの男瀬戸家所属の一伝偵察兵だったとか。偵察兵が戦場で武器を取り何をやっているのかね。これは命令違反ではないのか」


 即座に口を開いたのは土岐九十九、四大派閥の中でダントツで若いのに、流石は織田家を乗っ取り破竹の勢いで出世街道を猛進してきただけはある。

 市長に威圧するように声を上げた。


「それには深い訳があってだな……」

 土岐九十九の話を諭すように四十後半から五十前半くらいの今でも鍛える事を怠っていないのであろう身体つきをした、誰よりも勲章を付けている瀬戸家当主が口を開いた。



「お前も部下の監督不行きとして責任を取ってもらわねばならぬ立場なのだが、瀬戸中将」

 今までより低いトーンで土岐九十九は首下で首を斬る仕草を付けていた。


「草薙君、君の班の班長はどうした」

 二人の一触即発の事態を避ける為村木大将が口を開いた。


「任務中に潜伏場所が鬼に発見されてしまい、鬼との混戦の中殉職なされました」

 村木大将は土岐九十九に視線を送った。


「彼の班長である萩原四朗少尉の遺体は彼の供述した場所の近くで発見され、その遺体にはしっかりと鬼の捕食跡が残っていました」


 会議場に伝わる単調な声で、手元の資料を見ながら額田中将は口を開けた。

「私と瀬戸中将立ち合いの上での死体確認でしたがあれは確実に鬼が人を喰らったものです」

 

「だとよ。あれは確実に鬼の喰い散らかしだ。まー鬼が人を喰った所を見たことも無いであろう御大将さんにゃぁ分からん話かもしれないがな」


 ガツン。


 九十九大将が机を叩いた。


「では何故この男はぬけぬけと偵察兵の分際で戦場で戦っていた」


 声を荒らげながら俺に鋭く尖れた剣幕を飛ばした。


「大和君、どうしてそんな事態になってしまったのかね」

 四大派閥の中で一番軍での地位が高い村木大将が俺に発言を求めて来る。

「草薙准尉発言を」

 周りの進行役が俺に発言の許可を下した。


「それは潜伏場所が鬼に囲まれていて、退くことも他部隊との合流も出来ず。どうしても戦うしかない状態に追いやられてしまったので剣を取りました」

 口から出まかせの嘘をさらりと言ってのけた。

 しかしあながち間違いではない。


「確かに彼の偵察活動を行っていた場所の近くで中から大規模な競り合いが起こっていたのは確かです。そこのでの鬼たちが彼の所に流れ着いたと考えると十分あり得る事です」


 自衛隊、その他大企業などとの繋がりが四大派閥で最も深く、現在は三河方面を拠点に活動を行っている額田家当主が俺の証言の裏付けを行った。


「おやおや、我が子のように可愛がっている娘が危険な戦場に立たされてしまったことにお怒りになってお出でですか。それならば止めれば良かったものをねぇ土岐大将」

 瀬戸中将が嘲るような口調で呟いた。


「その話は本件に全く関係していない」


「いやいや、彼女は彼と同じ班なのですよ。調べてみれば彼と彼女は同じ家に住んでいるとか。育ての親が娘の思い人に嫉妬とは情けない」

 時より笑みを浮かべて瀬戸中将が土岐大将を煽っている。


「いや私と彼女はそのような関係では御座いませんので、ご安心を」

「貴様は黙っておれ」

 土岐大将は荒らげた声で檄を飛ばした。


「これだから若い者は直ぐ頭に血が上る。で儂はちと老人でなぁ、その娘の名を忘れてしまったのだが名を何と言うのかね、土岐大将」

 瀬戸中将が飄々と演技をしながら土岐大将に質問を投げかける。

 おかしい……。瀬戸中将と土岐大将が不仲なのは誰が見ても明らかなのだが、誰一人としてこのやり取りを止めようとしていない。


「額田中将言ってやれ」

 額田中将はペットボトルの水をコップに注ぎ、徐に水を飲み始めた。


「土岐大将? ねぇワシャあんたに聞いてるんですよ」

 瀬戸中将の真っ黒に塗りつぶされたような瞳が土岐大将を覗く。


「明智莉奈だ、必要ならば彼女の記録を提出しようか? 名古屋に返ってからだが」


「天童莉乃?」

 耳に手を当て傾聴するポーズをとった。

 間に挟まれている村木大将は平然としているが、斯波市長はどうも居づらそうな雰囲気を醸し出している。


「だから、天童家の娘は父と共に事故で亡くなったと言ったであろう。なんだ、俺が天童家の跡取り騒動に勝って、後継者になった事がそんなにも気に入らないか?」


 天童莉乃は死んだことになっていた。表向きは……。

 やはり誰しもがそう思っている訳では無いようだ。この四大派閥の当主たちは皆知っている。天童莉乃が明智梨奈として生きていることが。

 しかしそれを立証することが出来ないからか?

 それともそれを立証できたとしても土岐家の権力に潰されることを恐れているのか?

 しかしだ。

 しかし何故土岐九十九は自らが立ち上げた土岐家の地盤を引っ繰り返すような危険因子を残しておいたんだ?

 何故そうまでして土岐九十九は莉乃を生かした?


「ただの年寄りの聞き間違えじゃ、そう怒らんでも」


「演技などしやがって、最前線で剣を振うことが出来る奴が年寄りなわけあるか」

 大体状況は掴めた……。


「まー脱線してしまったが、話を戻そう」

 村木大将は2人が静まり返るのをみて場を仕切り直した。


「それで戦闘に巻き込まれたのは分かった。だがどうして君が部隊を指揮して戦うまでの状態になってしまったのかね」


「戦況が余りにも一方的過ぎて、このままでは負けると思い文字通り命懸けに行動していたら気がついたらそのような状態になっていました」

 この空間のどこかから誰かの溜息が漏れて出たが誰のかは知る由もない。


「違うだろうが、何故下士官のお前が大部隊の指揮を執っているのだと聞いているのだが」


「一つ、間違っています。確かに私は指揮を執りました。しかし実質的な指揮者は御宅の所の明智梨奈様です」

 土岐家当主は俺を睨みつけて来る。適当に睨み返せばいいのかな?


「まぁ事はどうあれ彼の活躍によって救われる人も大勢いたのだからいいではないか」

 斯波市長が重く重く閉じられていた口を開いた。


「確かに彼の活躍により救われた命は少なくは有りません。現場の人間も救世主、英雄などといって持て囃しているくらいですから」

 額田家当主が資料を捲りながら、土岐大将をみて話した。

「しかし准尉が規則を破ったのも事実。何かしらの処断をせねば軍としての恰好が付かんだろう」

 土岐家大将が呟いた。


「それでは彼以外にも持ち場を離れて攻勢に出た兵士はいくらでもいます。それをいちいち処罰していくおつもりですか?」

 額田家当主が土岐家の意見に反論した。


「そうじゃ。態々現場であがめられている人間を処罰する必要などない。それでは士気が下がってしまう。それに彼の立ち回り次第では反乱が起きる可能性だってあるんだぞ。小童」

 

「しかしそれでは……」


「瀬戸家は処断の件については断固反対とする」

 土岐家当主の話を遮って瀬戸家当主が大きな声を上げた。



「その件については名古屋についてからの見送りと言うことで。それで准尉敵を追い落とせる策があるとか」

 村木大将が俺に問いかけて来た。


「こんな子供の策でも実行する気か? 正気かお前ら」

 土岐家大将だ大声を上げた。


 この時を待っていた。勢いよく立ち上がり椅子の音を響かせる。

「こんな子供の? 策すら考えずに前線部隊に突撃命令しか与えず、ただ悪戯に兵を死なせるあなた方には言われたくはない」

 怒りに肩を震わせ大きな声を上げた。しかし演技ってのも大変なんだな。

「草薙准尉貴方には発言の許可など降りていない」

 進行役の人間が声を上げた。

「私は亡き上官に変わって貴方方に問う権利がある」

 ポケットから萩原の階級バッチを取り出して自らの軍服に付けた。

 

「お答え願おう上層部の皆々様。何故に戦いと言うのに作戦が発表されなかったのか? どうして私の上官はあのような無駄と言っていいほどの死に方をせねばならなかったのですか? 」


「だとさ、土岐の小童。この作戦の指揮者は御前ではないか」


「作戦を立てるのは俺じゃない、それは総大将に言ってくれ」

 土岐大将がぼそりと呟いた。


「ならば総大将殿、作戦があるが聞いてくれないだろうか」

 音量を下げ、斯波市長をじっと見た。

「草薙准尉」

 進行役が先程よりも大きな声を上げた。


「申してみよ」

 斯波市長は少し笑みを見せ、こくりと頷いた。


「今宵急な反撃を喰らい敵が疲弊しきっているところを闇夜に紛れて夜討ちを掛けます」

 反論の言葉を待ったが何処からも反論は上がらなかった。

 ひとまず周りを見渡した。


「続け給え」

 村木大将が俺を見てそう言い放った。


「この作戦は二段階構成です。まず、自衛隊を中心とした軍団が、敵が眠りこくっている陣に向かって一斉に射撃を行います。一斉射撃を終えたらこの部隊は車などに乗って一斉に退避を開始します」


「効果の薄い銃での一斉砲火からの退散だと。それでは眠っている奴らを叩き起こしし、追撃され食い殺されるだけではないか」

 土岐大将は俺の案を鼻で笑いあしらった。

「ただただ敵を巻くために逃げるのではなく、逃げる道々には追撃を阻むための伏兵を置きます」


「それではその部隊が同じ運命を辿るだけではないか」


「この作戦の肝はここに有ります。その追撃を阻む部隊も敵がある程度近づいて来たら一斉に車に乗って退避します」

 車は馬よりも段違いに早い。だから一定の距離さえ保てれば基本的には襲われることなどないであろう。


「そして先に先行している最初に鬼を引き付けて来た部隊はその先のポイントで前の部隊を追ってきた敵の追撃を妨げます。最終的には敵陣から一番近くにある愛知と岐阜を繋ぐ橋まで誘導し、敵を橋の中心まで誘き寄せ部隊が岐阜方面に逃げ切ったのを見てそこで一気に橋を爆破し木曽川に叩き落します」


 部屋全体から急に紙をめくる音が盛んに聞こえるようになってきた。


「叩き落せなくとも敵を岐阜領に押し込めある程度の隙間を爆破により作ってしまえばそうそう徒歩で川を越えて渡ってくることは無いでしょう」


「笠間、これは可能なのか?」


「笠間耀司陸佐」

「ハッ」

 男は立ち上がり見事なまでの敬礼をした。


「橋を見ていないので詳しい事は余り言えませんが、爆破し橋自体を崩落させるのではなく、一部を断ち切る程度の爆破なら事多分可能です」

 左側の自衛隊の礼服? を着た集団の一人が立ち上がり意見を述べる。


「岐阜に行った奴らはどうする橋が無くなっては帰れんぞ。それにあそこは鬼の根城だ、そいつらは皆死ねと?」


「橋を渡り切った部隊は川縁で待機させ、チヌークか船か何かで回収すればいいのでは」

 ここの首脳部が逃げる為に用意している、チヌークが神社の敷地外にいくらか置かれていた。ついでに言えばだがコストは高いが安定して鬼を殺せる兵器として名高い戦車も外に置かれているが首脳部を守るためで実戦に出ることなど無かった。 


「だが敵はこちらの思ったようには動いてくれんぞ」

 歴戦の戦人である瀬戸中将が皆に向かって言い放った。


「そこで重要なのが第二陣です。一陣の引き付けに応じなかった敵を精鋭で撃破します。敵の大将は本陣に残ることが多いと思うのでここで敵の大将を討ち取れるか討ち取れないかが勝負の分け目になると思います」


 尾張の兵は弱い、昔からそれは有名な話だ。大将さえ討ち取ってしまえば軍は瞬時に解体されてしまう、大将を討ち取らなくても6割持っていけば自然と軍は崩れていく。そして相手は昔の軍隊正しく弱かった頃の尾張の兵共だ。


「どれだけ敵を本陣から離せられるかと、大将を討ち取れるかどうか。これがこの作戦の勝利の鍵を握るな」

 瀬戸中将が独り言のように呟いた。ただこの顎鬚を蓄えた男の目は闘志に燃え、早くもやる気に満ち溢れていた。


「大将が追撃軍の方に行ってくれると楽なんだがねぇ」

 村木大将がそう一言呟いた。


 どうしてだ?

 何故だ?

 こんな人たちがが何故、無秩序な突撃命令を出したんだ。

 戦う気しかないじゃないか。


「土岐家としてはその意見に反対する。よって兵は出さない」

 土岐家当主がそう呟くと、部屋中の活気が急に失われ、皆が黙りこくってしまった。


 この戦いは負ける為に動いている……。武器、弾薬、兵力、面子と今出し切れる軍の戦力を総出したと喧伝して。

 小競り合いを起こし、敵に撃ち破れ誰かに責任を負わす。


 ただ戦況はそんなに甘くない。敵は本気で尾張一国を落とせるくらいの兵力を動員しようとしてきている。


 この戦は土岐家の地位を確固たるものにするための戦なのではないか?


 総大将の斯波市長に責任を負わせ辞任させ、その隙に名古屋の支配権を握ろうと考えているのではないか?


 それとも村木大将を失脚させる為の策謀なのか?


 奴の狙いはなんだ、名古屋の実質的統治者である市長か? 


 空席になっている元帥の座か?


 それとも……。


 名古屋自体か。


 そもそも奴の目的はなんだ。


 織田家を乗っ取り、織田家の保有する神器を軍に提供し軍での頭角を現し、今や土岐家は軍への神器の提供は全体の7割を担っている。


 そして此奴はその先何がしたい……。


 まぁいいや。分かったことはただ一つ、清和軍の面々は土岐家に強く出る事が出来ない。勝手なことしたら神器を提供しないぞ的な事を言われ脅されているのでは。


 ならばとる手はひとつだ。軍の関係者が強く言えないなら軍外の人間に言わせればいい。


「土岐九十九大将貴方に決定権はない。俺は総大将の斯波宗春市長に言っているのだ」


「この作戦、もし失敗したら……」

 俯き表情を隠しながら斯波市長は俺に尋ねかけた。


「貴方の首と、私の首、そしてここにいる面々の幾らかはもうそこに座ることが出来ないでしょう。ただそれはこのまま勢いを盛り返してきた鬼たちにここを追われても同じことが言えるでしょう」

 左右に我関せずと座っている人々にも身振り手振りを使って自分にも関係のある話だということを伝えた。


「では勝ったらどうなる」

 周囲からまた紙の捲る音が強くなる中で斯波市長が質問を投げかけて来た。


「貴方の首は一先ずは繋がるでしょうね。それ以外は個人の要求によって変わって来るでしょうが」

 自分でも思った以上に低い声音が出ていた。


「仮にこの作戦が成功したとして、貴様の要望はそれなりに通るであろう。では貴様の望むことはなんだ? 一宮の統治か? 階級か? 金か? それともただただ復讐心をぶつける場所を作ってほしいだけか?」

 戦で清州と四大派閥の一角を掴み取った、瀬戸中将が口元で拳を握り、声音を低くして質問を投げかけた。


 周りからは椅子を動かす音や椅子に深く座り直したために生じる軋む音などが響く。 

 眼の前の土岐大将も額から一筋の汗を流し、皆歴戦の戦人瀬戸中将に怯えている様に見える。


「この作戦で勝利した暁に望むものは二つ」

 手でピースサインを作り皆に示した。


「一つ目は少佐の階級」

 いきなりの何階級もの特進の要求には左右の将校に位置するものから不満が漏れ聞こえてくる。


「二つ目……」

 間を置き顔に無理矢理に笑みを作り出した。まぁ、莉乃やハリマが良く知っている酷い作り笑いになっていそうだけれども。


「貴族権と爵位をとある家に与える事」


「そのとある家とは君の草薙の家の事か?」

 村木大将がしっかりと俺の目を見て問いかけて来た。


「いいえ違います。草薙家は私一人しかいませんし態々格式高い御家として認めてもらう必要などありません」

「では?」


 俺は皆の前で大げさな行動をとった。

「我が主に滝川の姓を与えられた家臣草薙大和が主君に変わり申し上げさせていただきます。我が主君の織田家にどうか貴族特権と最上位の爵位を」


 滝川云々の下りは嘘だがまぁいいや。あの織田家を連想させるにはそうゆう事を言っておかないと、一般人の織田さんだと思われてしまうしな。


 村木大将が水を飲もうと持っていた鉄製のコップを机に落した。

 鈍い音の後、孤を描くように水は手元の資料を濡らした。


「今何と……」

 額田中将が声を裏返した。


「言い直しましょう、この戦いにもし勝利することが出来たのなら。私じゃなくて、誰とは言わいいませんがとある少女に貴族権を与えて欲しいと要求しただけであります」


 目の前の四大派閥の当主共はこの一言で大いに動揺の色が隠せない状態になり、その動揺は今の発言の意味を分かっていない左右の将校共にも飛び火している。


 今がチャンスだ。


「総大将、貴方の一言で全てが決まります。どうでしょうか?」


 部屋中に沈黙が生まれた……。長いのだろうか、それともまだ全然時が過ぎていないのか、皆が感覚を麻痺させ総大将の言葉を待った。


「この作戦を支持する……」

 斯波市長が沈黙を破り小さく呟いた。

 椅子を勢いよく下げる音が響いた。


「瀬戸家もこの作戦を指示する」

 間髪入れず 横からも静かに椅子を引く音と共に……。


「我々自衛隊もこの作戦を指示する」

 言葉は発しなかったが村木大将と額田中将も共に手を挙げた。


「草薙大和初年兵ここへ」

 いつの間にか総大将は自分の席を立ち俺の眼の前にいた。

 無言で手を伸ばしたら触れそうな距離まで近づく。


 俺は一気に跪き総大将に忠誠を示した。

「そんなことしなくてもいい。立ち上がってくれ草薙君」

「感謝の極み」 


 そういって俺は立ち上がった。

「草薙大和准尉君は二階級特進で中尉に昇格だ。おめでとう」

 学校で散々やらされた敬礼を即座にした。


「そこでだ、草薙中尉に命令がある。このを提示したのは中尉だ、だから中尉はこの作戦で部隊を率いて勝利に導くために尽力する義務がある。だから……」

 総大将は羽織っていた真新しく、勲章も何一つついていない軍服を脱ぎ、俺に着せた。


 軍服から市長の証であるピンバッチを取り、自分の服に付けると。


「やはり俺には戦は向いていないよ……。これからは私は私にしかできない職務を果たすとする。だから中尉は中尉の職務を今果たせ。敵の大将を討ち取って来い」


 そこにはあの鬼の騒動以来長らく軍に統治権を渡さまいと必死に独り名古屋を守り続けて来た、偉大な市長がいた。

「はっ!」

 短くそして皆々に聞こえるよう返事を返した。


「君は君の仕事があるだろ。ならば早く現場に戻りなさい」

 会場一体が臨戦態勢に入っていくのが分かった。


 敬礼を戻し、中学の頃からよくやらされていた集団行動の回れ右わしてここから出ようとしたとき水を差す人間がいた。


「貴様は何故少佐の座を望む」

 それくらい自分で察してくれよ土岐大将……。神器の生成権が欲しいんだよ。


 だがこの場を、いや土岐家当主を掻き乱して去っていくのも悪くはない。


「諸君……。私は戦争が好きだ」

 右手を天井に張りこの場を後にした。

 それは一昔前に黒衣の軍服を着て戦った狂気の集団の敬礼。


 Sieg Heil、ジークハイル。

 

 

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