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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第四話】 俺軍、暁の出撃

「成功しますかね?」

 莉乃がふと口を開いた。


「奴ならやってくれるさ」

 莉乃が急に俺の前に立ってじーつと俺を見つめ始めた。

 こーゆときはどうすればいいか本当に困る。見つめ返すべきか目を反らすべきか。


「また本心では思ってないような事を適当に言っちゃって~」

 意味ありげな顔をして俺を見られても正直分からないし、詮索する気にすらならない。

 俺も莉乃に胡乱気な視線を送った。

「いやここは本気で成功すると思っているんだが」

 莉乃が軽くため息を吐いた。

「そーゆ意味で言った訳ではありませんよ」

 そうかいそうかい。あーもうめんどくさくなってきた。


「そうか……。 でしょっ」

 此方に目配せをしながらなんとも自信たっぷりに彼女はそう言い放った。

「では大和君をからかうのもここら辺にしといてそろそろ行きましょうか」

 何でお前が仕切ってんだよ、まあいいか。

 別に俺が仕切る必要もないんだし。

 委任じゃ委任。面倒だから勝手に内政とかしといてくれ。


「俺はお前の事守らないぞ、後ろをおっかなびっくりついてくるか、せいぜい足掻いて勝手に死んでろ」

 これだけははっきりと伝えておかなければならない。

 変な期待をされたら困るからな。

 それに、此奴に構っている暇は正直ないと思う。


「今更そんな事ですか、分かってますよ。では行きましょうあそこに行きたくてうずうずしているのが丸わかりです」

 莉乃の言葉に何も応じず俺は梯子の方に向かって歩いた。

 ああそうだ、内心胸の高鳴りが抑えられねぇ、早く早くともう一人の俺が渇望してるみたいに脳内に声が流れてくる。

「俺は彼らを救うぞ」

 薄ら笑いの俺はそんな心にもない事を大義名分に出撃を開始した。

   

-----------------------


 人間とはカードというものをいくつか持って生まれてくる。それが才能であったり、性格であったり、体質であったり、顔であったり。

 それに努力や目標などのカードをデッキに足して強化していける。人と競い合ったりしてそれを高めたりすることだって出来る。

 ただ俺は今までにそれをやってこなかった。精々俺のデッキは中級以下の雑魚カードの寄せ集めのデッキだ。

 特に努力も目標も掲げていない。敢えて掲げていたとするならばレート2000越え。

 しかしそれでは意味がない。そんな目標は俺にある一部へのやる気以外の何物も齎さなかった。


 こんなカードやデッキで戦っても負けてばかりだった。己とも、限界とも、友とも。

 ただな、こんなデッキでもバカみたいに理不尽なモノを相手どらなければいけないこともある。負けると分かっている相手とも戦わなければならない時がある。


 自分の命を懸けた闇のゲームをしなければならない世の中もある。

 しかし負けると分かっているからと言ってその理不尽な相手に無抵抗なまま負かされ完膚なきまでの蹂躙を受けていいのか?


 否。

 ならば戦うしかない。

 ならば勝つしかない。

 ならばその理不尽を征する必要がある。こんな弱小なデッキで。

 

 こんな状況でどうやって勝てばいいか、答えは簡単である。

 平和な時の話だが、俺が見ていたアニメに答えはある。



 ――それはカードを書き換える事だ


 ――カードを作り出すのもいい。



 あのアニメで主人公サイドが強大な敵との決闘でいつもなら活躍してくれる頼れる相棒カードが敵に破壊され、ボロボロになりながらも勝利を信じて戦ったときにそれはいつも起こった。

 本来なら無いはずのカードがデッキに入っていたり、何が出るか分からないカードの山から意図して場を逆転させるカードを引いたり。これを混ぜ合わせて、意図して寸前までは存在しないカードを作り出し、手札に加えたり。

 理不尽に対抗するのはまた理不尽だ。


 現実だってそうだ、無いはずの自分の持つカードを作り出し場に出す。

 智も、才も、持たざる者が持つべき者や法外な力を手に入れたモノを相手どるにはそれしかない。

 俺はそう思付ている。

 ないモノを無理にでも作り出すしかないのだ。

 彼らの心から。自らの心から。

 

 ――眼前に戦場が広がっている。昼だというのに敵は廃屋や破壊され瓦礫の山となったところに火を付け回し、黒煙を振りまいている。


 上から見た景色は一方的な殲滅戦だ。戦意なんてとうに失って総崩れになっていいころだ。

 鬼たちは周りを気にせずただ目の前の獲物を狩り尽くすだけの乱獲者となり果てていた。


 まるであの時のように。

 ただしあの時とは違う点はいくつもある。 

 

「大和君、まだですよ。ハリマの事信用していないのですか?」

 そー言われたら言うことはひとつしかない。


「「少しは信用している」だよね」

 

 ハモッたというより被せられた、しかもドヤ顔で。


「じゃあ何なら信用しているのですか?」

「嫁、二次元、ゲーム」

 思った以上にさらりと答えていた。

「落ちぶれてしまったけど、高い高い地位と財力を持っている女の子ってのはどうですか。てか嫁って誰の事なの……。大和君にそんな人いたの……」

 後ろから肩をバンバン叩きながら莉乃は聞いてくる。答えなど分かっているくせに。


「行くぞ、敵の小部隊の隊長らしき鬼が見えた」


 建物の陰から遠巻きに鬼の様子を見ていたが、周りの建物が破壊され道幅が随分、というか大都市の交差点みたく広くなっている旧県道を駅に向かって走る鬼たちの中に明らかに周りを知性の乏しそうな鬼で身を固めて指示をしている鬼が視界に映った。


 奇しくもここは俺が通っていたあの忌まわしき中学の近く、そして敵の進軍先は大体読めてる、本陣真清田神社に向かっているのだろう。


 だがそこに行くには砦と化している一宮駅を越えなければならない。ただ一宮駅の西口には2~4小隊の鬼が戦意の失った大人の塊との競り合いが起こっている。


軍の敵地への進軍手段として使われているのが高速や鉄道の高架や道の残骸。

 あそこさえ押さえてしまったのならゲートや兵をそこに固めるだけで敵が前からしかやってこない直通進軍道路が出来上がってしまう。


 俺たちがいきなり市内の中心に陣取れたのも高速道路を進軍してきたからだ。

 市街は所々破壊されたり昔の頃より時より道幅が広げられているところもあるが、ギリギリ原型だけは留めている。軍の進軍手段として使っている高速や鉄道の高架は手付かずのまま残っている限りだ。


 それは一重にその重要な拠点を本軍の到達まで守り切った兵士たちのお陰だ。



 しかし一宮駅を落とされたとするなら軍が整備した清州までの道を使用することが出来、鬼たちは清州を即急に狙い撃つことが可能になってしまう。

 一宮駅あそこは鬼にとってどれだけ戦略的価値のあるかは分からないが人類にとっては最重要拠点の筈なのだ。


 筈なのだ。


 しかし、一宮は名鉄、JR、挙句の果てには高速道路が折り重なるように位置している為。この部隊がやられようとも、一宮駅が落されようとも清和軍は非常に数ある進軍、撤退手段を取れることが出来る。だから軍はこんな暴挙に及んだんだろう。



 そもそも敵八千に対してこちらは三千……。

 足すことの自衛隊の皆様を頭数に入れて三千五百。

 足すことの先の押さえとして奮戦していた部隊千との合流。

 足すことの少しばかり前線に軍を投入したものの敵本体二千は後方に位置して動く気配なし。


 引くことの圧倒的な士気の低下。

 引くことの動かぬ本隊が武勇に秀た軍人ばかりで固め、逆に最前線が新兵ばかり。

 引くことの本部が無能。

 引くことの……。


 手袋を引っ張りしっかりと付けて、軍帽を被り直す。

「物事には頃合いと言ものが有る。今こそそれだ。今こそが好機だ」


「待ってください、ハリマが事を成してあの軍が乱れてからの方がいいじゃないんですか」


「それじゃあ俺の功績にはならないだろうが。味方同士で同士討ちが起こってもいいような状況にするんだよ。さっきみたいなことをこそこそ隠れてするんじゃなくて、大人の権力とやらが搔き消してくれるような地位を俺はこの戦いで手に入れるんだ」


 莉乃の返事さえも聞かず俺は戦場に向かっていた。

 数匹の鬼が俺を発見し進行方向を駅の方から細い道の方に切り替えた。


 スピードを落とすことなく鬼に突進する。

 間合いにすら入っていないのに真ん中の鬼は刀を振るう、両翼の鬼は囲むように両脇の視界から外れていく。


 背を低くして、伸びるように神剣を抜刀、中央の鬼の首が地面に落ちる、と同時に両脇から鬼が斬りかかる。


 頭上で両手持ちに切り替え、身をよじらせながら横に振れる限界の所までまで刀を振るう。


 一匹は陣笠ごと首が飛び、また別の鬼は深手を負い地に伏した。

 此方に構うことなく駅に向かって進軍している大軍の鬼たちに向かって側面から突進し、二体をすんなりと手打ちにする。


 そのまま刀を振るいながら隙間に上手く入り込んで敵の中心部まで走る。


 指揮官と思わしき鬼の命令により下っ端の鬼は刀を構えながら距離を詰め、押し殺そうとする作戦に切り替えて来た。

 一部は反応したものの、周りは以前俺達を無視して進行している。


 指揮官のいる方向の鬼に構えていた神剣を投げ、一匹を刺し殺す。間髪入れず武器を持たぬまま、武器無しで攻めてくる、敵の血迷った行動と味方の死に動揺している鬼に向かって走る。


 鬼の刀の一振りが頭上に迫る……。


 刀を取り出したら力を入れずとも串刺しになる位置まで迫り斎藤家家臣から譲り受けた山城を取り出す。


 串刺しになった鬼を蹴り倒し刀を抜き、取り巻きの一匹の鬼を胴への横薙ぎで深手を負わせ、倒れている餓鬼の死体から神剣を抜き鞘に納刀した。


 周りのいかにも知性の乏しそうな鬼たちは怖気付いてしまい、俺から距離を離していく。


「ええい、これではらちが開かぬ。その少年はこの山内 但馬守たじまのかみが討ち果たして進ぜよ」


 俺を囲んでいた鬼が一気に引いていき一騎打ちの出来る空間が作られた。

 相手は具足を着込み、兜からは大きめのこれぞ鬼って角を生やした、知性のありそうな鬼の小隊長風の中年男が出て来た。


「いざ参るぞ少年、我が手柄となれ」

 敵は明らかに俺を侮っていた。武器が槍でリーチが勝っているからであろうか。

 だが本当にリーチで勝っているのは俺の方だ。


 こちらの間合いに入っていないのを見越して狙いすました一閃が飛んでくる。


「との~」

「との~」 

「タイチョウドノッ」


 一瞬だった、山城の影によって決着がつくまでに。


 敵の首が血を巻き散らかしながら飛んだ、こいつの指揮下であろう餓鬼たちは唖然として声を上げる事しかできない。


「誰か、武辺物はいないのか? 俺に一騎打ちを申し込めるような。このまま俺を野放しにしておいてもいいのか?」 

 大きく息を吸った。

「人外勢百万と候え、男はひとりもなく候。さぁ掛かって来い。こいつと同じになりたい奴はかかって来い」


 人間を捕食して多少なりとも知性を得たであろう鬼はまた少し足を後ろに下げた。

 これではあまり効果が無かったようだ。

 さてどうしたものか。

 どんな言葉のチョイスなら敵は臆すのだろうか。


 馬鹿には通じんか。


 山城の影を伸ばし眼前に位置する鬼の首を飛ばす。

 一騎打ちで首を落とされた指揮官の顔に山城を突刺し、持ち上げ、手に持ち、囲みが乱れたところに向かって投げつける。


 クレーターが出来るように首から皆遠ざかる。

 落下地点から逃げることに夢中になって剣を振るえない鬼に深手を負わせ、また別の物は首を刎ねられる。首が地に着く前にまた新しく首を作る。


「首置いてけ……。首置いてけ……。なぁ首置いてけよ」


 俺がこの一瞬で必死に考え、敵の士気を最も下げれると思った簡単な言葉だ。

 まぁ、俺の尊敬する漫画家のキャラクターの真似だが。


「首置いてけよ」

 乱獲者であった鬼たちが突如獲物になってしまったということに馬鹿な奴らも察してしまってか、手足や全体的な行動が鈍くなっている。


 山城を振るい敵をまた一つモノに変える。

 地面に倒れた鬼の胴と頭を切り離し、敵囲みに向かって首をボールの如く蹴り放つ。


「立て直すぞ。退け~ 退け~」

 何処かなともなく敵の大軍の後方から声が聞こえた。

 線が切れたように俺の眼前の鬼たちは俺に背を向け、ある程度の距離を取りながら駅とは逆の方向に走って言っている。

 まるで狩人から逃げる子兎のように。

 

 気が付いたら周りに隠れ気を窺っていた学生たちが次々と敵の側面から強襲を行っていた。


「首置いてけ、俺の手柄に成れよ」

 影による突きでまた一つ鬼の命を奪う。

 背中を見せている鬼の追撃を開始するが、命令を下した鬼であろうか。鬼が一人前に出てきて、俺に立ちはだかる。


「小僧名を何という」


 問答無用ッ。


 刀を構える前の鬼に突っ込んでいき甲冑共々、心臓に刀を打ち込む。

 逃げた鬼たちは戦場にでていく隙気を見ていた学生共が建物などから現れ蹂躙され、化け物を、鬼を見たような目をして少しでも前に逃げる事だけを考えて走っている。


 刀を抜いて前の物を斬り付け踏み倒す者すら出て来た。


「こら逃げるな、逃げるモノも敵と心得よ。 抜刀!」


 通りに大音声が響いた、この一部隊を率いる将はこいつだと。学生共はそいつのいる大部隊目掛けて鬼を追い立て一斉に走り出す。


 状況も知らない後方の部隊は刀を抜いてまでして味方の逃走を抑えようとする中、それは起きた。


 晴天の霹靂。正しくその言葉通りだ。

 こんな晴れ渡った空から稲妻は駆け堕ち、この場にいるモノ全てを衝撃で包んだ。


 一行でも早く目先の恐怖から逃げようとするモノ、憎しみに駆り立てられた学生、敵を討ち果たそうとするものが入り乱れて大混乱に陥った集団の中、突如指揮官の首が一匹の知性の無さそうな餓鬼と呼ばれる足軽装備の痩せ細った鬼に落された。


 人々が、この場が、世界が、一瞬止まった。


 鋭い斬撃だったのか首の滞空時間が長い……。


 首より胴が先に倒れた、と同時に剣を振るうことが出来たその指揮官の近辺の強者の剣が吹き飛ばされ、宙を舞う。


 鬼共は皆揃って後ずさりをした。

 鮮血、血の沼の中央に首が落ち、その首を掠めるように割れたコンクリートの隙間に刀が刺さる。

 

 ――一同の恐怖の線が切れた。


 皆が悲鳴を上げて、無規則的に逃げ回る。


 転び、足を掴み、蹴落とし、自ら仲間を引き裂き活路を開く。

 まるであの時のようだ。人間の今までの怒りが、屈辱がこの場を覆いつくしている。人間は乱獲者ではもはやない、皆が皆獲る事を止めている。皆狩っているのだ、自分の恐怖を。

 恐怖の象徴であったモノを。


「敵の隊列が崩れたぞおおお」

 上空で戦況の変化を眺めていた者たちが口々に伝言ゲームのように、木霊し、後ろの者たちに伝えられていく。

 戦場に一種の電流が走った。

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