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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第二話】 すべての歌に懺悔しな!!

  二〇一七年 十一月 十九日 日曜日


「一宮市に近くなってきましたね……」

 法師がポロリと言葉を漏らした。


 敵の奇襲は今のところなし、てか敵は奇襲なんぞ出来る訳が無い。多分。

 まぁここが落されたら一気に敵が清州まで駆け上がってきそうだな。


 清州を落されたら最後だにゃぁ。

 首脳部は三河に逃げ出して名古屋の滅亡エンドは免れんだろう。


 只今北名古屋市、名古屋と名の付くだけでほぼ名古屋と無縁の街。


 道はひたすら真っすぐ。

 もうここにこれば敵の発見も容易い、何故なら敵は前からしか出てこないから。


「ああそうだな」

 俺も朗らかにぽかぽかとした縁側に居るような気持ちで法師に返事をした。


「ちょっとは緊張感を持ったらどうですか? 敵は八千だそうですよ」

 莉乃はちょっとは緊張感を持ったらどうだと言わんばかりに少しトーンを低くして俺たちの朗らかな会話に割って入って来た。


「それが? 敵さんみんな千五百の部隊に押し留められているではないですか」


「それは! 敵の本隊四千が後方に位置したまま全く動く気が無いからだよ。こんな状況に持ち込めているのは」

 

「ふーん。随分と敵さんも悠長な真似を。起点にされるというのが分からんのかなぁ」

 そうそう、悠長なことしている間に積み技を積んで形勢を逆転させる。俺が好んでやっていたゲームで嫌と言うほど味わってきた。


「それも岐阜の本軍を待っているためだと言われていますよ。それにこの人たちには伝えられていませんが千五百の兵も、もう五百人は失っています」

 生暖かい吐息が肌に掛かる位の近さで少女は呟いた。


「まぁそんなもんなんだろ。この戦いどう見ても上には勝つ気が無いように見えるし、ついたころには部隊が全滅して至って落ちもあり得る」

 周りの人に聞き取られない位の小声で莉乃に向かって呟いた。


「大和君は前もそういっていましたがどうしてそんな風に思うわけですか」

 周りに悟られぬように小声で囁いてきた。


「まず配置も適当だし。作戦もいまだ発表されていないってのが根拠だ。そして何より今までの戦地での戦いを積んできた瀬戸家と額田家の本軍が一兵たりとも前線にいないってもの可笑しな話だ」


「しかし額田家の兵は後方にはいくらかはいますよ」


「それでも本軍は自領土に置きっぱなしじゃん、瀬戸家に関しては一兵たりとも来てないし。まぁあれなんだよ。軍は重要重要と喧伝、宣伝を繰り返しているが大して一宮は重要な拠点じゃないということだ」


「瀬戸家ほ本軍は犬山の敵の抑えとして入ったんでは?」

 解せぬといった具合で莉乃は首を横に捻った。


「しかし最低限の防衛の為だけの兵士を残して置けば向こうの八千と同等の軍勢を集めることだって出来た筈だぞ。それなのにどうだこの有様は」

 身振り手振りで周りの風景と化した行軍する人々を莉乃に見させた。


「こちらは向こうの全体の半数以下。まぁ敵前線の四千を相手どるってなら話は別だがこの作戦は奪還が目的だ。それなのにこの兵力差」

 多分ってか勘のいいものはとっくに気が付いているだろう。この戦いは勝ち負け以外の何かが目的で始められたものなのだと。

 ただし前線のあの学生共が怪しいんだよな。

 彼奴ら功名取りや復讐に早ってそれどころじゃなさそうだから。


「包囲殲滅陣でも行う気じゃないんですかね? あれヨーロッパの軍法ですし、敵は多分知りませんよ」

 莉乃は何気なく呟いた。


「あれは平地用だぞ。俺たちが行うのは建物に視界などが遮られていたり、開けた道ではなく曲がったりくねったりしている市街地での戦い」

 少し力を持っておれは言葉を発した。


「それに包囲殲滅陣の肝である蓋となる騎兵はどうする? それに俺たちの装備はほとんど同じ。敵の攻撃を引き付け側面にズレていく雑兵も、攻撃を受け止める重歩兵もないではないか」


「騎兵ならあの自衛隊の車やバイクでどうにかなるんじゃ?」

 莉乃は周りを走っている車などに目を向けた。

「それでもまず八千の市街地から撃退して平地に引かせる必要がある、まっそこら辺は気が来たら作戦を始める」

 背後の方を莉乃だけに聞こえるようにか細くそして囁くように呟いた。


「しかし大和君の言っているような状況にならなかったらどうするんですか? 岐阜の本軍を待っているって噂もありますし」


「本軍ねぇ遂に源氏だか北畠だかなんだかがお出ましと言うわけか。あっ、案外お前の先祖のバカ息子さんが軍を率いてやって来るかもよ。あれ一応北畠の養子なんだし」

 しかし敵さんは笹竜胆の家紋の使用者としか伝わっておらず、軍は岐阜を治める総大将を未だ特定しきれてはいなかった。

 だがこの軍も源頼光を崇拝しているため。清和源氏だか何だかでエンブレムを笹竜胆を改造したような紋章を使っているために被っているのもいいところだ。

 

 即刻滅ぶか使う家紋も変えて貰いたいものだ。


「いやいや、一応信雄様は鬼になると言われている条件の人間では無いですから……」

「じゃぁ北畠具房きたばたけ ともふさか……。それなら勝ったな」

 そうそうあの大飯喰らいさんが敵なら多分勝った。

 てか島左近に乗っ取られるだろうな。


「また変な人物を……。じゃぁ逆に大和君は岐阜の本軍を率いている敵は誰なのが嫌なのですか?」

 うーん。

 あの学校でも習ったな。

 確か、鬼になるモノの条件(あくまで一説だが)


 ・非業の死。

 ・行方不明。

 ・重要な局面での病死や早すぎる死。

 

 こんなもんだったかな。

 なら……。


「竹中半兵衛」

「天才軍師ですね、私も知っています」

 莉乃がうんうんと頷いた。


「私もそのものの名くらいなら知っております」

 法師も同じく知っていると声を上げた。


北畠具教きたばたけとものり

 此奴は正直年を取り過ぎてるから鬼になったかすら怪しいが。

「それも知ってますよ。お父様の信雄様の歴史の話でよく出てきました」

「で……。お前は?」

 法師の方に顔を向けた。

「うーん。私は鬼の本軍に属していた時期が皆無ですからねぇ、全くもって聞かぬ名です」

 そうか。


「あとは。土岐頼遠ときよりとおとか」

 この人が自分的には一番鬼化が有り得るだろう人物なのだが。


「誰ですかそれ」

 法師が呟いた。

「土岐って」

「あああれと同じ土岐だ。関係あるかは知らんが」

 土岐の名に反応した莉乃に向かってそう補足しておいた。

「ついでで言うと土岐はかなりの名門だからな。松永と同郷の油売りに領土奪われてるけど。あとあれだ明智光秀も此処の分流じゃないかって言われているからな」

 ねっ、明智さん。

 とまぁ確かに土岐は同じだが岐阜県にも土岐市があるし、何よりこちらの土岐家が使っていた家紋って桔梗紋じゃ無くないか……。 

 木瓜紋を堂々と使っていた気も。

 まぁ天童こと織田家をあくまで継いだわけだし本来の家紋を使っていないというのも考えられる。


「てか斉藤三代も十分鬼化する可能性があるんだが」


「そっ、そうですか」


「おっおう」


「関ヶ原の死散兵辺りが出てくるってのも止めて欲しい。大谷刑部とか異世界行った彼奴とか水野とか」


「はっはい」


「はぁ~、そうなんですか」


「それと飛騨の帰雲城の兵士たちが一斉に出てくるってのとかも」


「そっ、そうですか」


「大和……」

 なんだか二人共から何とも言えない視線が此方に向けられた。

 一気に自分の中の沸点が下がり話す気もなくなってきた。

 ああ、やっぱりいつも通りのあれが一番いいのかな。


「急に喋らなくなるのも止めて下さいよ……。えっと確かもし大和君の言ったとおりにならなかったらどうするかという話でしたよね」

 ああ、そうそう。そんな話だったな。


「見捨てろ。もしまともに上層部が作戦を考えて鬼とぶつかり合って負けたならば素直に彼らの戦死を見届けて名古屋に撤退するのみだ」

 軍がまともな戦をしたというならば俺の作戦は完全に破綻する。

 しかし俺には確証はないが軍はそんな事をしないということを分かっていた。

 軍の敵は鬼なんかじゃない。

 軍の敵は自分の同胞だ。

 一心同体の心と胴がもう離れて互いに擦れ合い火花を散らせ合っているようにしか俺には見えなかった、今の軍の関係が。


「まぁ安心しろ。そんなことはまずない。だって今回の戦は総大将の命で動く戦だ。今までの作戦が降りてこない理由だってそれだっただろ」

 

「そっそうですね……。確かにそう大将は……」

 

「そうだあれだ」

 

「そうですよ梨奈。あれが総大将の時点で。あれが全てを指揮すると発表された時点で私も殿と同じ考えになりました」

 そうハリマが莉乃を諭した。


「だそうだ。まぁそうだろう。軍人でも何でもない市長を軍の大将に祭り上げた時点で今回の戦は負け戦と決まったようなものだ」

 そうなってしまえば、総大将にすべての責任を押し付けてあとは満を持して空いた席に軍の誰かが座れば完全な支配完了ってわけだ。

 それに額田家や土岐家の本軍はまだ名古屋やその近辺に位置している。俺たちがこんなことしている間に名古屋では軍によるクーデーターが起きて議会が乗っ取られているって可能性もあり得なくはないのだ。


 だれか個人がこれを先導しているのか、軍全体でこれを行っているのかは全く分からないが、まぁとにかくこれは言える。


 軍はこの戦に勝つ気などさらさらない。


 しかしそうなったときに俺のなかの全ての計画が始まる。

 いろい色な人に当てられていたスポットライトの光が一斉に俺に向かって浴びせられるそんな計画が開始される。


 まぁ失敗したら失敗したでその時はその時だ。

 それにうまく隠し通すさ。命令違反位かそれよりも軽い罪で済むだろう。

 生きて帰れた時の話はな。

 ただし失敗の先にあるのは死だ。


「今日中には一宮に付くが多分今日は進軍を遅めてギリギリのところで止まるだろう。明日からが勝負だ、明日からが本当の始まりだ」

 そう俺は2人の前で呟いた。


「おい草薙来てくれ」

 無駄話も此処までの様だ。我々の隊長が用事があるようで俺の名前を読んでいる。

 俺はすぐさま二人を置き去り、周りの人間に聞かれず無駄話が出来るほどに乱れ切っている行軍行列を囲むように人よりも遅くノロノロと走っている隊長のいる軍の車両に向かって走り出した。


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 二〇一七年 十一月 二十日 月曜日

 響き渡る強者の声、五感にヒシヒシと伝わってくる狂気、世界を覆いつくすほどの黒煙にまみれた暗黒。

 無尽蔵なまでの破壊と略奪が繰り返され荒廃した都市? いや一宮はどれだけ盛っても都市にはなれないな。

 それでもこの街に過去俺が住んでいた時の姿のまま有る物などもう何処にもない、ここは敵地であり俺が一年半もの間、恋い焦がれていた場所でもある。

 そんな戦場で半眼を開けた俺が狂気をもって口を開いた。


「ごめんね班長、ちょっと指揮権譲ってくんね? それが無理なら死ねよってな」

 


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