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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第三章】新世界より From the New World
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【三章第一話】 SWIM

 さてっと……。

 読んでいた漫画を本棚にしまい、クローゼットを開ける。

 ハンガーに掛かっている軍服を取ってパジャマを脱いで一つ一つそれらを着ていく。


 これから地獄に向かって進軍を始める軍隊に同行できる。

 あの戦場の土をまた踏むことが出来る。


 と言っても後備えだが……。


 そー言えばあの槍の人らのグループは無事前線行きが決定したらしい。

 ただし村木家としてではなく、土岐家所属の兵として


 陳情に行った彼らは陳情書を目の前で村木大将に破り捨てられたと、どっかの誰かは言ってたな? 班長だったっけな?

 

 まぁいいや。


 ただ話はこれでは終わらなかった。此処からは莉乃の話から聞いた話だが、途方にくれながら建物を出ようとしていた彼らを呼び止める者が居たそうな。

 その男の名こそ、軍の四大派閥の一角にして神器の管理を行っている土岐家当主、土岐九十九大将。


 この男こそが織田家を乗っ取った張本人であり莉乃の保護者(仮)にして、天童莉乃をこの世から消した人物。莉乃が倒さなくてはならない人物だ。

 九十九大将はすぐさまその生徒たちを本部の自室に連れていき親身になって彼らの話を聞き遂には自分の配下に組み込み前線に配置することを約束したんだと。

 そして彼らは無事土岐家所属として華の初陣を前線で飾ることになった。


 しかしこの戦いやはりおかしい……。 

 出兵の当日になったというのに全く作戦が公開されていないのだ。というか配置以外は殆どがノータッチになっていた。


 コンコン。

 ドアが数回叩かれた。

 と同時に机の上のスマホが音を上げた。毎度おなじみのアラームの音だ。


 今日から軍人と言う名の社会人。

 もう学生ではない。

 働くって青春だとか言ってられるようなゆるーい職場ではない。

 目を離したら、目を反らしたら、瞼を閉じてしまったら一瞬で者が物に変わってしまうブラックな職場だ。

 きっともう青春は聞こえてこないだろう。

 正直言って無かったに等しい青春だったのだが。全くそれを感じ取ることが出来んかった、ほぼ全く。まぁそれには俺が目を背けていたってこともあるが。


「殿起きていますか?」

 ドアの向こうから声が聞こえた。

 いかんいかん、なんだか我を忘れていた。


「起きてる起きてる」

 そういいながら俺は机に向かって歩き始めた。

 ついでにシャツのボタンを閉めながら。


 机の上で充電されているスマホを手に取りパスコードを入れてホーム画面を開きまた閉じる。

 急に自分の部屋が寂しくなったような気がした。


「もうすぐ着替え終わるから待っていてくれ」

 そういってボタンのシャツを閉め終え適当に穿かれてだぼだぼの状態のズボンのベルトを腰の所で固定して完全な状態にする。

 そしてもう一つのハンガーに掛かっているコートを取り出して羽織るように適当に着ておく。

 ついでにぼさぼさになった頭に軍帽を乗せれば一応現時点での準備が整った。


 ああ、いけない、いけない。

 机の上の充電が100%になっているスマホをポケットにねじ込んで部屋を出た。


「殿お早う御座います」

 いつも通りに法師がきっちりとした朝の挨拶をする。

「大和君おはよッ」

 何だかこいつはやけに浮かれている気がするんだが遠足気分か。


 これだから貴族の令嬢は考えが全く分からん。

 そして……。


「今日なんでこんなにも朝飯多いの?」

 テーブルに並べられた食事はそれはそれはいつもの夕食と同じくらいの品数があった。


 えー、形の違う数種類のパン、ジャムを添えて。バターは高級品になってしまったから殆ど食卓に並ぶことは無い。

 オニオンスープらしき飲み物。スクランブルエッグ擬き、そしてベーコンとソーセージ、それの付け合わせとしてグリルドトマトにハッシュブラウンポテト。

 レタスの上に大根の乗った大根サラダ。隣に青じそドレッシングが置いておるのは個人的には評価できる。ゴマドレはあんま好きじゃないからな、あの朝に合わないくどさ。野菜のフレッシュ感を掻き消してしまうどろどろの液体。あんまり好きではない。

 コーンフレークにフルーツ類も莉乃の好物なのか主にドライフルーツ多目だが。

 コップにはコーヒーの次位に飲んでいる飲み物のグレープフルーツジュースが注がれていた。

 

 いつもはまぁ3品くらいの朝食が今日は何故に。

 と言うか俺的にはコーヒーとトーストくらいでいいのだが。

 小倉トーストとか、フレンチトーストとか。

 欲を言うならサンドウィッチとかマフィンとかをやって欲しい。

 まぁ、今の食事でも文句はないけど。


「それは、戦場に行ってしまったらご飯なんて食べようと思っても食べられないと聞いています。だからちゃんと食べられるときに食べておかないとと思いまして」

 莉乃は電気ケトルに水を注ぎながら答えた。

 あーあれだろ、炭酸抜きコーラで良かった気も。


「ああ、そーゆ―ことか」

 しかし俺はあの場で普通に飲み食いできてたんだよな。吐いたりとは正しく食べ物が喉を通らないなんてことは無かったし。

「ええ、最後の晩餐は豪華に、盛大にやりませんと」

 電気ケトルにスイッチを入れた莉乃は俺の方を向けてそう言った。

「いやいややるとするなら昨日の夜だろ。しかもナチュラルにフラグを立てていくなよ」

 

「フラグ?」

 この場に居た二人が首を捻った。

 あー、めんどくせー。

 説明をする気にもなれなかったので俺はいつもの席に腰かけ、空いているスペースに帽子を置いた。

「まぁ出立は今日ですが一宮に付くのは3日後ですし。これが胃に響くってことは無いでしょう。一宮が落ちていて進軍中に奇襲ってことが無い限りは」

 莉乃が何の気なしに呟いた。

 しかし、それもフラグだ。

 どっかの異世界に行った自衛隊の人ならこのフラグの乱立でで戦場に行くの止めてたと思うな。

 

「私殿のフラグって言葉なんとなくわかった気がします……」

 ハリマがおずおずと呟いた。


「まぁ、食べようぜ……」

 机の上で手を合わせた。


「それと大和君ちゃんと行くときまでにはちゃんと髪を梳いといて下さいよ」

「はいはい」

 口の中の食べ物を飲み込んで俺は適当な返事を返した。


 食卓の飯を平らげ、食後のコーヒーを味わった。

 飯はいつも通り上手かったし、コーヒーも上手い。

 このほろ苦さがいい。


 そして食器を流し台に持っていき、そこで食器を洗った。と言うか拭いた。

 歯ブラシに歯磨き粉を付けて歯を磨き、髪の寝ぐせも櫛やらドライヤーやら寝癖を直せるスプレーやらを吹きかけ整えた。

 

 そうしていつもなら学校に登校と言いたいところだが今日は違う。

「殿」

 法師から一本の刀が手渡された。

 黒塗りの鞘に藍色の柄、至ってシンプルな形をした量産向けの魂の宿っていない刀だ。

 しかしこれこそが俺たちに支給された対鬼用の武器。


 人類が鬼の力を借りずに鬼に対抗できる唯一の存在。

 神剣を専用の道具で砕き刀剣に埋め込み鋳直し神剣の能力を継承させる。遥か昔越前の神官の織田家がより多くの人間が鬼と戦えるようにと編み出した秘術らしい。


 ただこの技術自体は明治には織田家が神帝軍に提供し一般化しているみたいだ。


言葉に表したら凄い事だが、支給される神器擬きは莉乃が使った神剣のような効果はさらさらなく。剣全体の五パーゼントきっちりしか神剣の欠片が溶かし込まれていない。


 しかしこの刀は鬼に刃が通る、錆びや刃毀れしにくい点以外では大して普通の剣と変わらないのだ。

 正直劣化版もいいとこだ。

 しかし軍から支給されたのは五パーセントの神剣、何もない人間は一パーセントに満たない本当に鬼を斬れるという点以外は普通の刀と全く変わらない神剣を渡されていたみたいなんだから多分それよりかはこれの方がましなんだろう。


 力や効力の強い神器を使いたいなら階級を上げるしかない。階級を上げる事によって神器の比重を上げて何もない所から剣を出したり、間合い外に斬撃を飛ばせる剣に変える事も出来るがあくまで上官や軍に申請書を出す必要がある、ただ少佐からは別で軍から自分や部下の武器強化に使える欠片を年に数回一定量支給され、その範疇なら申請書なしでその者の一存だけで神剣を作ることが出来る。


 それが本当に力で成り上がった将校よりコネでのさばっている非戦闘員の肩書だけの将校様の方が軍に多いという皮肉なことであるが。

 まぁ実際こんな紛い物だけではなく本物の武器というものを持っている俺には別に関係の無い話だが。

 

 ベルトの上にベルトを付けてそこから横に刀を差せるようにできているベルトを取り付けた。

 そうして刀を法師から受け取ってベルトの中にそれを差した。


 羽織っていた軍服にちゃんと出に腕を通してきっちりとボタンを閉じた。

 そんな事をノロノロとしていると莉乃が軍服に着替え終わって降りて来た。


「似合ってますか?」

 莉乃はスカートの端を軽く握りふわりと浮かせながらくるりと回った。


「何をいまさら……。 早く帯刀しろ。そしたら行くぞ」

 莉乃も刀を差したところで持ってこいと言われているものが入ったバッグをしょった。


 玄関に出て靴を履き……。

「おっといけない。いけない」

 すぐさま靴を脱いでリビングの食卓の上に置いてある帽子を取った。

 そしてまた靴を履き皆が出たのを確認して家の鍵を閉めた。


「もし俺の言ったとおりの状況になったら作戦通り動けよ」

「ええ、遂に始まりますね」

「承知」

 

 手に持っていた軍帽をしっかりと回すように被った。


「ならいい」


 敵によって総崩れ寸前まで来ている軍を立て直し、鬼に占拠された街から一匹残らず鬼を叩き出す。

 我が故郷を取り戻すこの一戦。

そうあの町をだ。

 あの忌まわしき、あの糞みたいな昔の俺がいた街だ。


 頭の中に燃えカス見たな断片的なノイズがかった記憶が再生されていく。

 全てがあの街での記憶だ。


 助ける価値もない自分の、救う価値もない自分の中の街。

 おぼれた自分の、もがいていた自分の、逃げても逃げても追い立て続けた、先送りにしてもしても必ず現れ出て来た俺の中の問題にそろそろ決着をつけてやろうじゃないか。なぁ一色。


 紫水。お前の墓の一つくらいは建ててやれるよう頑張るよ。

 お前を選ばなかったことにより得た力は、お前を選べなかったこの弱者でも何かの為になるってことを証明してやるよ。


 あの海の様に薄暗く泳いでいた俺をおぼれさせた街で。



 一宮奪還作戦の始まりだ。

 


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