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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第二章】The Time They Are A-Changin
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【二章第十五話】 果てない悪夢を終らせる者

「何だとオラぁ」


「実質戦力は十といった所かな」

 ったく、あれ程単騎は辞めろと言ったのに……。


 高校生かと疑いたくなるくらいの身体つきをした筋骨隆々の男のパンチをさらりと躱す。

 威力だけの狙いも次の動きも無い、一撃に全てを込めたノーガードの攻撃……。此奴どこぞの島津人かよ。

 そのまま突き出された腕を掴み取り敵に足を駆けて地面に討ち崩す。


「陣形くらい整えて戦えよ。おいそれでも軍の生徒か?」


「ふっ、テメェ絶対に泣かせてやるからな」

 男共は仲間が組み合っている最中に武装してニタニタと笑いながら俺の前に立ちはだかった。

 木刀四、金属バット三っと、いけるいける。

 倒れている男を踏み越え、男たちの隊列の中央部に向かって突撃する。


「馬鹿がぁ」

 中心に位置する男の大振りの一撃。

 握りも全然ダメ、力任せの一撃、片手によって振られた木刀が音を上げながら平行に突き進む。てか両手で振れんのか。


「振るのが早いんだよ。もっと引き付けて振らんか」

 難なくその一撃を躱して男の懐に入り込んで男の腕を捻り揚げつつ、そのまま膝に向かって足を振り払った。

 此奴が膝を抱えて崩れ落ちる寸前にその手から木刀を奪い取り、とっさに膝を押さえて固まっている目の前の男の顔に蹴りをお見舞いしておく。


「おいおい、これで王手だぞ」

 中央部を破ったことによりこのグループのリーダ格との差はほんの僅か、このまま突っ切れば……。

「みずき逃げろ」

 女王様にべったりと張り付いていた男が木刀を中段に構えて俺の前に立ちふさがって来た。


「馬鹿言え、こんな奴相手に逃げれるかよ」

 そりゃそうだ、こんな奴相手に逃げてたら此奴らもお前に二度とついて来なくなるぞ。


 っ……。

 ふぅ。


 背後からの攻撃を木刀で防ぎ、木刀をコンクリートに突刺すように下しそれを軸に回転する。

 勢いをそのままに木刀を持った逆の腕で刀を逆手に持ち直し、柄の頭を前方の敵に振り当てた。振りの一撃の力を後方に流して反りの利いた峰による逆手打ちを繰り出す。


 何者かを捉えたという刀身越しに伝わってくる衝撃、何者かを打ち付けたと言わんばかりの木剣の荒ぶり様。


 耳に響き渡る空気を落してきたかのような重厚な何かを振りつけるような音。

 振りつけられた金属バットを躱したことによって当たり一帯に響き渡る舗装された道路と金属が打ち合った甲高い音。


 この戦闘をご近所の人は見ているのだろうか? 例え見ていたとしても携帯も電話も使えないこの世の中、お巡りさんに連絡する手段がないか。


 そしてこんな大きな隙を見逃すわけが無いだろう。

 止まってしまったバットを踏み倒すように蹴りつけ、持ち主の手の中から鋼色の金棒を飛び出させた。


「さぁ早く武器を持って立ち上がれよ。早く、早く」

 ニヤリと笑みを浮かべながらバットを構えたまま動くことの無かった男に向かってゆっくりと歩みを進める。


「ほら、射程圏内。ここだ、ほらここにふ・れ・よ」

 あっけにとられて金棒を振るう事の出来なかった男の眼前に立ちはだかって男を鼓舞する。

 自らの頭の位置を示して彼に狙い所を教える。


「舐めやがって、うらっ」

 教えたところ、狙い通りの位置。

 男のバットは首を含む顔面に吸い寄せられながら、空を打ち付け加速する。



 お・そ・い。



 きっと対峙していた彼なら今の口をパクパクさせる動きも、口の動きから何を言っているか概ね理解できたであろう。

 一瞬の事だ。


 結果から先に言っておこう、俺の体にそれが達することは無かった。勿論俺は引きも逃げもしていない。


 バットが俺の顔面を強打しようと向かってくる刹那、彼に向けて放った突きが彼の体を人の骨の無い部分を捉え撃墜した。


「攻撃を当てられたとしてもその一撃の威力は殺すな」

 地に伏せている彼はピクピクと身体を振るわせ始めた。


「グォエエエ」

「うぁ、グロっ」

 そんな言葉を嬉しそうに言っているかもしれない。

 彼が腹の底からから吐瀉物をぶちまけた。


「ふぁ~、軍の生徒もこの程度か? おい誰か骨のある奴はおらんのか」

 此奴らの頭目に向かって手を向けた。


「早く何とかしないとお前もこの男みたく、皆に恥ずかしい所を見てもらう事になるよ」

 側近の男とあとは取り巻きの女子しかもう女王様の周りを守ってはいなかった。

 しっかしまぁ、女子までもが翼蔽よくへいして彼女を守っているとは相当慕われているようだな、御身内から。



「草薙大和ッ」

 一人の男が前に飛び出て来た。


「おっ、嬉しいねぇ、俺の名前を憶えてくれるなんて」


「戯言はいい」


「で、お前はどこぞの某だ?」

 男は木剣を握りしめたままに突撃を始めた。



「俺は豊明太一だっ!」

 パーンッ。


 木剣を木剣がぶつかり合い軋み音を上げた。

 眼の前の彼は驚愕していた。

 そう彼の手から木刀が落ちていたのだ。


「違う、そこじゃない。俺が聞きたかったのはお前の所属だ。お前は何組だ」

 俺と同じ制服を着た男に問いかける。


「B組」

 男は声を震わせながら俺の問いに答えた。


「B組だと……。くっ、B組の力でもこの程度か」

 全くもって手ごたえが無い。俺がいつもワザと負けているA組の特別採用枠の生徒や軍の高官の子息でも多分この囲みを抜けられるぞ。


「笑止、憐れなものだ。憐れな様だ。戦場で生き残るために剣の腕を高める学校の生徒が聞いて呆れる。剣に生きられないから、剣で生きていけないから道を外れたのだろう。お前達は」


「お前に何が分るっ」

 剣を無くした男は怒鳴り声を巻き散らかしながら俺に向かって突進し飛びかかって来た。

 彼を躱す。

 無様にも彼は自らアスファルトの海へと身を投げた。

 彼の経過を窺う為に後ろを振り返った。こうしてみると、多数の不良たちから俺がこの女王様を守っているみたいだな。


 彼らはもう殆ど戦意を喪失している、しかし駄目だ。


 彼らのやる気にまた火をくべねば。


「B組がぁ、B組の奴らが……。ふっ、無様だな。こんな名も知れぬ男に膝を屈して」

 持っていた刀を元の持ち主の頭に向かって投げつけた。

 数秒も経たないうちに一人の男が地に伏した。


「ほらほら敵は武器を持ってないぞ。ほらほら」

 諦めかけていた男たちの数名が転がっている武器を手に取った。


「そういえばみずきちゃんさぁ、お前本当の踏つけってのを知らんだろ? 銀雪がやってたあれはニセモノだ」 

 立ち上がろうと肘を天に向けて、地面に手を当てている男の腕に向かって足を振り下ろした。


「まー、見てろよ。部下にやってやると喜ぶ奴もいるかもよ」

 地面に顔を擦り付けた状態になった男の頭に足を振り落とす。


「うっ」


「二回目」


「グッ」


「三回目」


 男何度も何度も顎を道路に打ち付けさせられている。


「何をしている止めろ、止めさせろ」

 女王様は兵士に向かって号令を出した。


「ここからが本番だ」

 足を地面と体の間に滑り込ませて男の体の向きを変える。


「いいから早く、早く、太一を助けろ」

 男たちは震えながらもそろりそろりとハイエナのように近づいてくる。

 男の鳩尾に足を踏み入れ痛みにより抵抗させなくする。


「いいのか早く、助けなくても」

 男たちに向かって怪しく笑いかける。


「いいからや……」

 彼女が声を上げた瞬間に俺は足を地面に踏み下ろす。

 足に残る地面を踏んだという感覚。


「ヒッ」

 俺を囲んでいた男たちが一斉に震え上がった。取り巻きの女達からも意味が分かったものからは声が上がった。


「俺はやらんがお前はちゃんと踏み付けるんだぜ」

 まぁあれだ、俺の足は彼のモモとモモの間に振り落とされていた。つまりはそーゆーことだ、ナッツをクラッカーな一撃をあえて透かした。


「ごめんなさい」

「ごめんなさい、もう美浜に何もやらないから」

 女共が泣きながら訴え始めた。


 うん、よしよし。


「ふっふっふ、嫌だね。美浜? 知るか、もっと楽しもうぜぇ、お前らも楽しかっただろ? 銀雪にこんなことするの」 

 あっけにとられている男たちの一番俺に接近した奴に向かって飛び蹴りを喰らわす。

 普段はそんなことはしないけどね。躱されるし。


 男たちは仲間を守るために戦いを続行すると思いきや、俺を中心に円を作るばかりだ。

「おいおいこの男の仇討ちはせんでいいのか? おいおい」

 女共はぎゃぁぎゃぁと声を上げその恐怖は男にも次々に感染していっている。


「やれよ、いいからやれよ」

 足を前に進めた。


 男たちはその道を遮らずに俺の為に道を開けた。



 くっ。



 聞こえる、ああ聴こえる。


 本能に任せて道路の上を転がった。



「イイネ、今のは当たりかけたぞ」

 男が一人俺に向かってバットを薙いでいた。


 あーあ制服に変な傷と解れが……。


 仲間の事すら露知らず、もう無作為にバットを振り続けて威嚇している男の間合いギリギリに入った。

 それが振られたところで半歩間合いの外に出て攻撃をスカす。


 男はバットを手から捨てて拳による攻撃を行った。女子の方にバットが飛んだのもこの男の頭には入っていない。

「おお、その思い切り、いいと思うよ」


 男の拳を腕で受け、攻撃が緩んだところで顎に向かってアッパーをキメる。

 ふらついている男の襟首をつかみ上げ頬に向かって拳を飛ばしておく。 


「まだ、ほらほら一方的な蹂躙は嫌だろ? まだ戦えるって者は」

 じゃないと、じゃないと。

 俺は彼女に向かってずけずけと歩みを進める。


「ひっやめろ、来るな」

 もう誰も彼女を守ろうとはしていない。彼女の直属の兵隊は皆そこで戦意を喪失している。


 女を蹴るのもあれだしな、なーんて。

 地面に落ちている木刀を掴み上げ彼女の首下に脅すように当てる。


 この女王様は腰が抜けたように自ら地面に手を付けた。

「楽しかっただろ? そうやって一人の者を排斥するのは、さぞかし愉快だっただろ? 強姦魔のように一人を嬲るのは」

 俺は彼女越しに一人の男に向かってそれを言った。  

 多分彼らが学校の授業で使っていると思われる木刀を地面に打ち付け音を上げさせた。


「ねぇ?」

「お前は美浜のなんだ? どうして美浜の為に此処まで」

「えっ? 俺は美浜の為にやったわけではない」

 彼女は訳が分からなさそうな様子だ。


「お前、ここ最近美浜以外に誰かに何かやられだろう? それは誰だった?」


「もしかして」


「ああ、そうだ。お嬢様の手を暴力に染めさせるわけにはいかんだろう、ああ知ってるよな? A組の頭のイカれた連中は御貴族様とよくつるんでるってこと」

 まぁ、即興の嘘だが。とことん怯えさせるだけ怯えさせれればいい。


「莉奈様はお優しいお方だ。だからお前達の言動さえ変われば何もする気はないと仰られた。しかしお前たちは一向に変わる様子が見られない、というか逆に酷くなるばかりだ、そろそろ莉奈様も限界のご様子だった」

 口元が最大限まで引き上がっていく。


「だから私が来たのさ、梨奈様の代わりに。ああ、このことを学校に訴えようが勿論もみ消されるぞ。そしてこれはただのお前達同士の喧嘩扱いに」

 彼女にじろりと視線を向ける。


「それでお前らに変な事を喋られても困るので退学処分と……。ハイさよならーバイバイ。どっちにしても梨奈様の機嫌を損ねてしまっているお前らにあの学校に残れるって未来は無いだろうけどね」


 泣いたって無駄だ。


「ならどうしてお前が来たんだ? 退学処分にするならそれだけでいいじゃないか」

 泣きながら声を裏返しながら彼女は俺に向かって大声を出した。


「なもん学校辞めさせられたお前らが逆上してお嬢様や銀雪を襲撃したら元も子もないからな。だからそんな事を未然に防ぐためにお前らの心を先におらにゃぁならん、じゃろ?」

 おっとつい昔の癖が出てしまった。

 癖というか、マネというか、まぁいいや。


「完全に恐怖で心を折っても人ってのは何を仕出かすか分からない。恐怖が反転してしまう恐れもある」

 そうどっかの誰かみたく恐怖で心を追い詰め過ぎるとそれを克服したときにその恐怖という感情が反転してしまう恐れもある。


「なぁみずきちゃん、身内だけには口ではまだ勝てる、まだやり返せると言いながら、いざ本人を目にすると心が怯えて萎縮する。そんな人間が一番無害だと思わんか?」

つまりはそーゆ―ことだ。


 この女王様には危害を加えるつもりはない。


 この女王様には怯えるだけ怯えて貰わなけらばならない。その代わりお前が持っている物全てを叩きのめさせてもらう、何度も、何度でも。

 希望も、期待もいくらでも与え、無理にでも立ち上がらせ完全なる敗北ってのを彼らには味わってもらう。


「許してっ」

 彼女は声を震わせながら言葉を発した。


「いや」


 彼女に背を向けてくるりと男たちの方向に向き直る。


 男たちは未だに逃散せずにその場にだけはとどまり続けている。

 数名の男が武器を手に取り震える足を少しずつでも前に進めている。


「いいのか、戦わなくて? いま俺を倒すと望みの褒美を貰えるぞぉ~、運が良ければ傷心の彼女から惚れられるかもよ」

 単純な奴等め、しっかしこいつも相当愛されているんだな。じゃ無ければもうとっくに部隊はチリジリになっている筈だ。


 ここで、俺の読んでいる漫画ならハリー、ハリー、ハリーと鳴くんだろうな。

 敵の半数は紛いなりにも士気が回復した。さぁお楽しみはこれからだっ‼


「お前ら一体何をしているんだ?」

 男達は一斉に後ろを振り返った。


「俺の友達に何をしている? ほおっ、お前らぶち殺されたいのか?」

 一人の男が怒りに声を震わせこの場に現れたのだ。

 そう、ハリマの登場により皆唖然となっている。


「あれA組最強の楠木だろ」

「おいおい、負け無しで有名なハリマじゃないか」

「友達って……。まさか此奴と……」


 ハリマ一人の登場で大いに敵の指士気は下がっている。

 あーあ、せっかく上げた士気が……。


「あーあ、酷い事になってますねぇ。ねえ貴方たち、何をしているのかな?」

 ハリマの横に莉乃が並んだ。


「いいとこ持ってきやがって」


「ヒーローは遅れて登場するものですよ。ねっ大和君」


 莉乃とハリマの登場により男達は武器を地面に捨てた。いや捨てたというよりかは力が抜けて武器がずり落ちてしまったというような感じだった。


「逃げようとしても無駄ですよ? このハリマか、そっち側の大和君どっちかと戦って逃げれると思っているんですかねぇ」


 ハリマが木刀を取り出してブンッと皆の前で振るって見せた。

 敵は皆へたりと地面に倒れ込んだ。


 ――さてどうしてやろうか。

 俺の心の中のどす黒い魔物が遠吠えを上げ、心の中を走り回った。


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