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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第二章】The Time They Are A-Changin
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【二章第十三話】 日はまた昇る

「結局はそれなのね、聞いて呆れるわ。ちょっとでも期待した私が馬鹿だった」

 氷の様に冷たい彼女は崩れかけていた心をまたその凍てつく冷たさで固めた。


「なぁ? それの何処が悪いんだ?」


「馬鹿なの貴方? そういえば馬鹿そうな顔をしているわね」

 それで……。俺は彼女の答えを聞くまで黙ってお茶菓子に手を付けた。

 甘いな、ああ甘い。


「力でしか事を解決できないなんて獣と同じじゃない。私達は人よ、そんな野蛮なもの以外でも解決できる手段を十分に持ってるじゃない」

 俺は人差し指を親指で軽く何度か撫でていた。と同時にハリマが震え上がった。

 此奴はあれから俺が指を鳴らす音や仕草、それにその前の動作までもがトラウマになっている。

 俺も気を付けているつもりなのだが、ついあれから人差し指を撫でる仕草が癖になってしまっている。

 

「ほぉ、お前がそれを言うか。力で鬼を殺し、力で四夷を屠って来た軍の一員が何を言う。暴力でその手を汚したくないのなら軍の学校になんて来るな」

「あれは未知なる生物よ、人じゃない。常識と非常識の狭間に置き去られ取り残されたモノ達よ」

「軍は鬼と戦う前に何をした? 己を認めさせるために何をした? それとも今あげたような例じゃ通じないか、ならば過去の話でもしようか」


「貴方おかしいわ、狂ってる」

 彼女はそう一言だけ呟いた。


「ああなんとも前時代的な考え方で。狂ってるのは俺だけじゃない、世界も時代も常識も良識も何もかもが狂っているさ。逆に言えばお前の方こそ狂っているよ、狂っているというのが常識となったこの世界では」

 復讐、怨嗟、恨み、仇討ち、敵討ち。並べ出したらキリがない、今まさに世界は前、前時代的な考え方に戻ってきているのさ。

 ざっと百年、二百年前の考え方に戻っているんだ。狂った狂った戦いに塗れた戦乱の時代の方々が攻めて来ていると言うのに、戦いも無く最早戦うことを忘れてしまったメルヘンチックなこの国がこのままでどう戦えと?




 変わらなければならないんだよ、この国は、この国の民は。



 ――自身の狂気を受け入れねば戦えない。



「狂ってなんかいないわ」

「いいや狂っている。いつまで固執しているんだ? 過去の日本に。いつまで無関係を装っているつもりだ?」

 彼女の口からため息が漏れ出てくる。


「周りが狂っているからと言って自分も狂っていいという理由にはならないわ。私は心から軽蔑するわ、貴方たちのように狂気に身を染めた人たちを」


「そうか……。そうだよな」

「ええそうよ」


「お前は狂気を受け容れたくないんじゃなくて受け入れられないんだろ、変わらないんじゃなく変われないのだろ。お前は一度も変わったことが無いから」

 彼女に向かって俺は最初に口にしようとした事を言い放った。


「お前は変わったことが無いんだ。お前は変わり方を知らないんだ。だから仕方なくそれに固執している、いやそれに固執する事しかできないんだ」

 才ある者故の欠落か……。ある程度何をやっても普通に上手く行っている、何をやっても周りの人間の誰かは評価をしてくれる。何をしても誰かからは評価される、だから変わる必要性が見いだせない、自分は正しいそれ故に自分を認めてくれる者が居る。


 それ故そこで止まっているのだ。その己が正しき己として認知してしまっているのだ。だから根本的に高めることは出来ても改良するという心が欠けてしまっているのだ。

 完成系の自分に手を加えて劣化させるのを恐れて彼女は目を背けているのだ。


「一つ聞いていいか?」

「何か? 下らない質問なら答えないわ」

「お前の出身は名古屋じゃないだろ?」

「ええ、私は津島市出身よ。ついでに聞いておくけど貴方は?」

「俺は一宮だ」

「そう……。それで今の質問に何の意味が有った訳?」

 涼し気なそしてどこか冷めている彼女の問いかけを無視して、俺は言葉による刀の鯉口を切った。まぁ切羽詰まらなければいいがな。


「お前は本当は鬼を目の当たりにしていないんだろう、だからお前はそんな事を言ってられる」


「父も母も鬼に殺されたわ、それで何か?」


「ああ、あの時お前は鬼のを目の当たりにする前に避難場所に逃れた、そして別段避難場所が鬼に襲われる事無く軍や自衛隊に助けられて名古屋に来たと。そして父や母は名古屋に現れなかったので死亡扱いっと」


「その根拠は?」

「お前の眼だ。お前のその視線はまだ曇っても恐怖に歪んでもいない。少なくともあの戦場に居たものは確実にそんな眼にはなってはいない」

 まぁこんなことを言ってもあの場所に立っていない彼女は分からんだろうな。


「であっているのか?」

「ご名答と言いたいところだけど一つ間違っているわ。私はあの日周りの異様な空気につられたり避難勧告やSNSと投稿を見たから避難所に逃げた訳じゃ無いわ。もともと私は学校に居たの」

 あの日は休日だったのになぁ、多分部活動か何かであろう。 


「そして流されてきたんだろ。武器を手に取り戦うことはやりたくないし、そもそも理由すら見つかってないが、軍の学校に志願しないとご近所さんから白い目で見られる。だからお前はここに来たと軍の学校の技巧の方面に進んだと」


「それで何か悪いの? 誰しもが貴方のように簡単に狂気を受け容れられるわけないわ」

 彼女の口調が少し荒くなった。


「お前は取り残されているのさ、流れに流されるままにここに来た。それがこの様さ」

「だから何が言いたいの?」

 変わらないということは強さだ、しかし強くもないモノがただただそれに固執しているのは強さではない。ただただ滑稽な変われないという自分自身の弱さだ。

 この言葉どっかの誰かに言ってやりたいよ、変わりたくても変われない誰かさんに。


 だから俺は彼女に今の自分でいる事を諦めさせ自分を変わらせる勇気を与えねばならない。彼女に夜明けを齎せばならない。

 夜は暗くて不安で、そこにいると一歩も動けなくなってしまう。


「俺はお前自身の変革を望んでいるということだ。そろそろ目を背けるのを辞めろ、美浜銀雪。限界なんだろ、耐えるのに疲れたんだろ。ならばやり返したっていじゃないか」

 彼女は黙りこくったままだ。


「暴力でしかモノを訴えられないものは獣か、ならばお前はなんだ獣から獣以下に扱われているぞ。それでいいのか? 今のお前は人としての尊厳すらない獣以下の存在だ」


「それでも……。きっとそれ以外にいい方法がある筈よ」


 彼女は自嘲気にか細く呟いた。


「そうだな、うん。他に手はある筈だ。ならばお前が考えてみろ、お前は優秀なんだろ。ただし俺たちはこれ以上全く関与する気はないぞ」



「俺達ではないでしょう。関与しなくなるのは貴方と楠木君だけで梨奈さんならきっと……」

 ああ、本当に此奴は何にでも縋るな。そこまで自分を変えるのがが嫌か。


「梨奈、ハリマ、彼女が考えを改めない場合はこれ以上俺達はこの件に関与しない、いいな」


「仰せのままに」

 ハリマがすぐさま呟いた。


「ううぬ……。分かりました」

 莉乃は渋々半場無理矢理に口から言葉を捻り出して俺に賛同した。物分かりが良くて助かるよ。

 彼女を変えるにはまず彼女を追い詰めればならない。彼女から逃げる選択肢を無くさねばならない。


「梨奈……」

 彼女は一層悲し気な雰囲気を纏った。


「ああ、選択肢ならまだあった。学校を辞めるか、このまま彼女たちに飽きられるまで耐えるか」


「いやよ、これで学校に行かなくなったら彼女たちの思う壺じゃない」


「いいや、今でも十分思う壺だ、そしてイイカモだ。嫌だろそんなの?、嫌だろそんな自分? 変わりたくないか? 変えたくないか? ここで諦めれば全てが終わる、俺達と同じに成れば楽になれる、ここで変わらないと後悔する」

 彼女に向かって強く、真面目に力を込めて、過去の誰かに問いかけるように、過去の自分に問いかけるように俺は言い放つ。

 俺の親指は終始人差し指の付け根を撫でていた。


「今ここで決断しろ、変わるかこのままでいるか二つに一つだ選べ」




「っ……」

 彼女の口から言葉が出てこない。

 彼女は両手を額に当てて酷く頭が痛そうにしていた。いや……、彼女は泣いていた。彼女はきっと涙を隠しているんだろう。


 ああそうだな。自分を否定されるのは何よりも辛い事だ。それは俺が嫌というほど味和っている。



「別に言わんでいい、自分の心の内に留めて置け。まぁ腹は決まったようだな。決まってないとしても話はこれで終わりだ」

 椅子から立ち上がりコップを流し台に置く。


「まぁ晩御飯を食ってけ。まだまだウチの飯時まではまだ時間はあるがな。多分そこのお嬢様が料理の腕を振るってくれるはずだ」

「ええ、頑張りますよ」

 彼女は頭を抱えて家に帰れるような状態ではなさそうだった。


「辛いなら、梨奈の部屋でも貸して貰え、晩飯まで寝てろ」

「全然使って貰って結構ですよ」

「なら貸してもらえると有難いわ」

 彼女は涙をさり気無く拭きいつもの調子を無理にでも作り出して答えた。


「ついてきて、案内するよ。それと、制服では皴が付くから私の服を貸してあげるわ」

 お嬢様のお高い服を着るなんて悪いわーカッコボウ、張り付いたような顔で彼女は莉乃に返事をした。

 ただ莉乃の服のサイズって合うの? 主にバストのあたりって奴だな、莉乃と銀雪では明らかに銀雪の方が大……。

 莉乃は彼女を部屋に連れていくためにリビングから出ていった。彼女は少しでも早く一人にさせて欲しいような様子だった。


「よくやりましたね、大和」

「はぁぁぁ、疲れたぁぁぁぁ」

「久々ですね、大和がこんなにしゃべるなんて」

 法師が苦笑いを浮かべている。

 ああ本当に疲れたよ。


「ちょっとそこら辺を走って来るから莉奈に伝えておいてくれ、飯前には戻ってくる」

 そういって俺は静かに家を出て一人太陽が沈んでいっている世界に走りに行った。


 俺が……。俺が……。俺が……。



 よくもまぁあんな偉そうなことを言って。俺にそんなこと言う資格なんて無い癖に。

 

 

 ――貴方が紫水を助けてあげなかったせいで、親友の貴方が紫水を裏切ったせいで。貴方のせいで私は彼への好きという気持ちが哀れみとかそんな感情に変わってしまったのだけど。

 

 俺は戦わなかった。俺は戦わずに失ってしまった。

 親にも親友にも友達にも他人にも好きだった人にも見向きされなかった俺が何をいっている。

 こんな堂々と何を言ってやがる。

 オレガ。

 コンナオレガ。

 今更何をしたところで紫水への贖罪になる訳が無い。


 でも、彼奴とお前は多分似ていたからさ、ほっとけなかったんだよ

 けど俺は無能だからあんな事しか言ってやれなかった。


 お前ならもっと別の方法があったかもしれないな……。


 でも俺はお前にやり返してほしかった。


 でも俺はこれが手段として間違っているとは思っていない。

 

 The Time They Are A-Changin(時代は変わる)


 今はもうあの時のような手を出したら何があろうが負けだという変な常識が働く時代ではない。古い常識はもう捨てられた、ここからは己の力で全てを切り開いていく時代だ。

 

 己を変える為に、本当の己を取り戻すために戦え。

 

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