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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第二章】The Time They Are A-Changin
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【二章幕間】 木瓜が咲いた時には

「あまっ、誰だよコーヒーにシロップを入れた奴は」

 俺はコップを地面に置き、俺は台所に向かってそんな風に声を上げる。


 俺はブラックが好きだと何度も何度も言っていた筈なのだが。

 珈琲は多分俺の中ではベスト3に入る位好きな食べ物だ。因みに嫌いな食べ物はワカメと昆布だ。しかしこいつ等量産が可能ということで今大量に市場に出回っていやがる。

 本当に嫌なものだ。

 存在と味と食感とか、もうほんとに嫌だ。何故みんなおいしそうに海藻とか食ってんの? それに味噌汁に白みそを使うな、甘いわ、ワカメとの相性が最悪出会ってはいけない組み合わせだ。

 はぁ、嫌な時代になったものだよ。学校の食堂では海藻メニューが週に一度出てくるし。

 

 ああ話が逸れてしまった。

 とにかく俺は珈琲が好きだ。何も手を加えていない状態の素の珈琲の酸味や苦みなどあの何とも言えない芳醇さが好きだ。


 一宮市民だった頃は近所の喫茶店に良く通ったものだ。

 そこでサービスでついてくる我が一宮市発祥のサービスで出てくるモーニングと共に休日の朝のひと時を静かに送っていたなぁ。

 願うならもう一度あのお店に行きたいものだ。


 しかしなんだこれ。このコーヒーに入ってるシロップはおそらく一個や二個じゃない。

 阿保みたいに甘ったるい。


「ああ、ごめんなさい。それ私のです」

 リビングで莉乃が持ってきた資料に眼を通していた時、台所から莉乃が顔を覗かせて此方に向かって悪戯っ子ぽく笑いかけて来た。


「あ? お前どれだけシロップ入れてんだよ。甘党か? これだから舌がお子ちゃまのお嬢様は」

「突っ込むのそこですか?」

「ん? 何で」

 莉乃はもじもじと恥ずかしそうに腕を組んだり戻したりしている。


「だから言ったじゃないですか。それ私のですと」

「だから?」

 莉乃は俺の近くに寄って来た。そして俺の置いたコップに向かって指をさすと。

 なんだか言っている意味は何となく察せられた。


「あーあ、言いたいことは分かった。だが何でお前俺のカップでコーヒー飲んでんだよ。お前は思春期真っただ中の男子か」

 もう俺は疑惑を通り越して哀れみの目を向ける。

 何してんだよ、此奴は。


「そーゆことは法師とやってくれ……」

 俺は机の上に置かれた資料を全部まとめてこの家の治外法権である自分の部屋に行こうとソファーから立ち上がった。

 もうこの場にいるのが面倒になってきた、五月蠅いのもいるし、一挙一動に対応するのがとてもめんどくさい。 


「いやいや、冗談ですよ。冗談」

 そんなことを無視して俺は部屋に戻ろうと……。

「ほんとに駆け引きに応じてくれない人ですね、ちょっとくらい照れてくれてもいいのに」

 莉乃は俺の服を掴んでジタバタとあざと気に暴れ始めた。


「で、お前は俺のでコーヒーを飲んだのか?」

 莉乃を睨みつけるようにぎょろりとその虚ろだとよく言われる目を向ける。

「そっ、それは何というか。ねぇ……」

 莉乃は俺の瞳から目を反らす。おいこっちを見ろと言わんばかりに莉乃の目を逸らした方に体を寄せる。


「それで、その資料の方はちゃんと読んでくれましたか」

 莉乃は手元の資料に眼を向ける。

「ああ、相当ヤバいな」

「ええ、全世界でそれが起きているんですもの」

 どうやら俺たちの正体は莉乃の上司であり、義父さんの部下の耳には伝わってないらしく、莉乃を使って軍にしか流れていない毎日発行されている新聞をもとに作った資料を横流しして貰ってあの事件以来の大体の世界情勢とはたまた東京の情勢とやらが分かってきた。


それとその裏切った部下の最後の情か情けなのか莉乃はかなり優遇されていることも分かった。その御貴族様はどうやら莉乃の殺気や憎しみが感じ取れていないみたいだ。それとも莉乃が本当にその気持ちをそいつの前で隠し通せていろと言うことかな?

 詳しくは知らん。


 俺は再びソファーに腰かけ机の上に資料を並べる。

「リビングデットにナチの再来、そして核戦争っと。ハリウッド映画ならもう没だな」

 世界ではミサイルの打ち合いで栄華を築いていた都市が荒野と化し、そのミサイル攻撃の発端のフランスに至っては電撃的に黒衣の軍服を身に纏い、ハーケンクロイツを掲げる時代遅れの狂気の集団に乗っ取られていたという。


「イギリスは四方八方を敵に囲まれ、ヨーロッパ本土ローマ帝国建国の伝説を持つロームルス王を名乗る鬼の挙兵と謎のキリスト王国の王の挙兵ですか」

 俺の傍に立っている莉乃が息交じりに呟いた。

「おお知っているのか」

 俺の日々の歴史ネタをことごとく返さなかった莉乃が歴史っぽい発言をしたことに素直に俺は驚いていた。


「まぁ多少は……。このプレスタージョン王は屋敷の書庫の本を見るまでは知りませんでしたが」

「それだけではない。ドラキュラさんのモデルもご登場になられている」

 莉乃の資料に添付されている写真を見るとトルコはワラキアの軍旗を掲げた集団により一種の森が作り上げられ、全土を海に守られた大英帝国は北方からはロングシップの艦隊が襲来し、南方からは統一感のないジョリー・ロジャーをぶら下げた船団が港を襲撃しまわっている模様だ。


「ヨーロッパの頼みのアメリカも自国の事で一杯一杯だと」

 アメリカは度重なるミサイル攻撃を受け、それに呼応するようにイスラム系の人間の略奪・テロ行為が横行していると資料に書いてある。

「そして中東では鬼ではなく人が銃を片手に兵を挙げましたね」

 そう莉乃が呟いた。

「ああ、あそこに送られていた各国の兵士さんたちは自国に撤退して、残った兵士さんたちは皆殺しらしいな」

 比較的被害の少ない中東はイスラム過激派組織が領土を増やし、大規模国家として独自に建国宣言をしていた。


 莉乃の持ってきた資料のアジアの紙の束を手に取り眺める。


「項王に呂布に関羽に岳飛とは、冗談の総動員だな。ただ項王と岳飛・関羽連合軍が争っているのは唯一の救いだな」

「あのっ~」

 莉乃は申し訳なさそうに手を挙げながら口を開く。

「項王って誰ですか?」

 俺は体の底から込み上がってきた息を莉乃の前で吐き捨てた。

「項羽だ。やらんかったか? 鴻門の会とか」

 莉乃は小さく頭を振った。

「勉強しておきます……」


 中国はアメリカ同様ミサイルの標的となり、荒廃しきっつた土地に、黄巾を掲げる集団や遊牧民族、岳飛と関羽と名乗る者たちの合同軍などが乱立し魔女の窯の底のようなありさまとなっていた。

 首都はどうやら落されてしまったようだ。

 沿岸部には日本の九州と同様倭寇という中国系海賊が襲来していた。


 北鮮、韓国は共にミサイルの打ち合いで廃土と化して、畳みかけるように戦死していった豊臣軍の復活。

 ベトナムでも密林の中でなんだかいろいろと鬼が暗躍している様だ。


 アジアの資料を机の上に置くと待ってましたというように莉乃が俺に日本の情勢についての資料を渡してきた。


 突如海上に謎の大艦隊が現れたとまでしか一般市民に伝えられていない東京の方は若手の指揮官九条叢雲くじょうむらくも提督の乗船する船の活躍によって見事撃退されたみたいだ。

 それからというもの東京は神奈川、千葉、埼玉、茨城の一部を取り込み東京としている。

「北では新選組と原住民の挙兵、西では倭寇わこう刀伊といに朝鮮水軍、大阪・神戸は鬼に占領と……。これは情報公開は簡単には出来んな」

「そうですね。まだ名古屋にも今の政府を良しとしない勢力が水面下で活動していますからね。静岡みたいにバリケードが内から破壊されたら元も子もないですし」

 福岡、京都、島根、札幌は名古屋と同様鬼との戦争の拮抗状態にあり独自の生活領域を築き上げていた。

 福岡に至っては、熊本を震源として起きた地震に乗じて熊本市を襲撃し、倒壊し使い物にならなくなった熊本城を放棄する為城の外に出ていた鬼の集団に奇襲をかけ、熊本市の人民の救助を行い戦果を挙げているらしい。

 東京以外での他都市との更新は出来ないに等しいらしくどれもこれも東京を仲介して伝わってきている情報なので眉唾ものである。


 名古屋は比較的にほかの市よりは戦いが少なく平穏だが、犬山は島左近に取られ岐阜に至ってはもう鬼のみやこと化しているみたいだ。三河に至ってはほとんどが敵の手の中にある。

 

「いやー、思ってる以上に乱世乱世。それで我が名古屋の守り神清和軍は何を目標に動いてるん?」

 俺は莉乃に向かって疑問をぶつけた。

「屋敷を出入りするあいつの部下の話を聞くなり、今は犬山攻略に力を注いでいるみたいですね」

 莉乃が屋敷でのことを顔を引きつらせて俺に伝える。

 一応だが俺はハリマに此奴の家を乗っ取った人間の事を調べさせたがそう簡単には情報を手に入れることは出来なかった。

 それもその筈、此奴の家、織田家を乗っ取った奴は今はもう四大派閥の一角に肩を並べるような勢力になってしまっているのだ。

 莉乃曰く織田家の力を使って。


 その男の名こそ、軍の四大派閥の一角にして清和軍の神器の管理を仰せつかっている数少ないお家の一つ土岐家の当主、土岐九十九ときつくも大将。


「そうか……」

 一通り資料を捲り眺め終えると俺は甘ったるいコーヒーを飲み干し立ち上がる。


「大和君……」

 莉乃が手を口に当てて声にならない声を上げた。少々頬を赤らめながら。

「あーあ、やっぱこのお嬢様ダメな子だ。変態だ、変態」

「ええ、ちょっと悪戯しただけで変態認定ですか。この変人」

 莉乃が頬を膨らませながら俺に向かって言い放った。


 いよいよ、めんどくさくなってきた。とにかく怠い、この役を誰かと変わってもらいたいくらいに。

 

「いいよ、いいよ。変人で。ではそーゆーことで」 

「ま、待って下さいよぉ。せっかく今回は行きたくもない家に帰ってあの土岐やその部下に媚び売って頑張ったんだから誉めてくれたって……」

 莉乃はシュンとして切なそうな声を上げる。それは構って欲しい猫のような感じだった。

 しかし俺は小動物がそれほど好きでもない。

 というより。

 此奴と関わると度々あの夜の夢が蘇ってくる。


 此奴を信じてもいいのかと。

 コイツハシンジラレルモノナノカト。

 俺は此奴に怯えているのかと。


 勿論そんなつもりはない。


「はいはい、頑張った頑張った。梨奈は偉いねー、偉いねー」

 莉乃に背を向けながら棒読みにそんな言葉を呟いていく。

「大和君は女の子の扱い方を覚えるべきです。その為にまず顔を見る事。そしてゆっくりと頭に手を置きその手で頭をを撫でる事、そして最後に頑張ったねの熱い抱擁を……」

 莉乃が独自の女の子の接し方的なものを語り始めた。かっこ、カッコいい男の子や好きな人に限るが入りそうだな

「舐めんな、なで斬りをするぞ。それか法師にやらせるぞ」

 

「ごめんなさい、調子に乗りました。それは無理です」

 莉乃は間髪入れずに俺に向って謝罪の言葉を発した。

 その言葉を無視して俺はそのまま部屋を出ようと歩き出す。

「まぁ、今はこれで満足してあげますよ」

 リビングの扉を閉める最中にそんな声が後ろから聞こえたような気がした。

 

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