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ホラーシリーズ

5リズム


 推理小説……ではない気がする。

 あくまでも、これはこんな小説なんだ。そして。

 作者、相変わらずジャンル分けが苦手。適当もさじ加減が重要。

 さあ解け!(適当)



 朝。俺は制服のネクタイを締めながら、TV画面をたまたま見た。

 別に習慣づけているわけではないけど、ちょうど……元気・パワフル・無敵の二本足直立歩行のキャラクターのゾウ「ミーナ」ちゃん(たぶんメス)が、つぶらな瞳でウインクしながら。

 今日一日の星座占いの結果を読み上げていた。


『顔を洗って、「5」に気をつけよう!』


 俺に当てはまる星座は、そのように。

「5……?」

 顔を洗うはいいとして、どうやって気をつけろと? ミーナちゃん。

「まあいい。遅刻する」

 俺はサッサと鞄を持って玄関へ向かった。


 玄関で座って靴を履いていると、妹のアキが、見ようによっては気味の悪いほど笑顔で やって来た。「お兄ちゃん。頼みがあるんだけど」

「何だよ」

「5000円貸して」

「却下。オカンに言え」

 中学生の分際で高額な。高校生の俺ですら そんな大金、と感じるんだぞ。

「ブー」「何とでも言え」

 俺は玄関のドアを普通に閉めた。急がないと学校に遅刻する。


 歩きながら気がついたのだが、「5000円」だったな……。

 ただの偶然と、気にしすぎだろうけど。それを言ったら、さっきの占いだって7時55分だったじゃないか。……はは! 何でも こじつけ論だ。

 俺は携帯電話を いじりながら、早歩きで静かな住宅地を通り抜けていた。ここから学校までの距離は、徒歩15分ほど。こうやって携帯を いじりながら歩いていると、すぐに着ける。

 メールボックスを見ると、ショッピングサイトから宣伝メールが届いていた。うっとうしいな。


『健康グッズ! この冬ポッカポカアイテム・白の5本指ソックス! 今なら、5%オフ商品! なんと5足組525円!!』


「買わねーーよ!」

 つい声を張り上げてしまった。幸い周りには誰もいないは……ず?

「何を買わないの?」


 ぎくり。子供がいた。

 たまたま、俺は その子の横を通りがかったようだ。

 子供は幼稚園児の格好で、黄色い帽子に黄色い肩掛けバッグ。胸のチューリップ型の名札に、「ふゆおか みゆう」と名前が。すぐ前の家の門の表札には、「冬丘 正・加代・未由」と書かれている。

 一人で、家の前に しゃがみこんで遊んでいたようだ。地面に『ゴレンジャー』の人形が落ちている。

 5歳児……ゴレンジャー……。

 どうにも、「5」が頭に付きまとう。

『「5」に気をつけよう!』

 ミーナちゃんの愛想のよい顔が ついでに浮かぶ。消えろ! エレファント!!

「ねーねー。何を買わないのさぁ」

 やけにこの子供は聞いてくる。どう答えてよいものか……。

「何でもないよ。じゃあな」

と、サッサと去ろうとした。しかし、歩き始めてすぐ横断歩道だったので立ち止まった。

 信号は赤。

「お兄ちゃん。コレあげる!」

 運の悪い事に、さっきの子供が俺を追いかけてきて また呼びかけた。手に何かを持っていて、「ハイ」と俺の前に見せた。

 ちくしょう、相手にするのが面倒だなあ……俺は仕方なくタメ息をついた。

 子供の手のひらを広げて見せたそれは、丸まった団子。素材は、粘土だろうか。

「食べちゃダメだよ? ママがそう言ってた。怖〜い顔で」

 そりゃダメだろう。粘土なんだから。

「いいよ、いらない。急ぐから、またな」

と、手を振るが……子供が、今にも泣きそうな顔をした。そんな顔をされても……。

 俺は団子を手にとる。するとパッと、子供に笑顔が戻った。

「未由ちゃ〜〜ん! どこなのーー!!」

 少し遠くで、この子のママらしき人の声がした。「そら、呼んでるぞ」と言ってあげると、子供は「ハーイ!」と元気よく返事をして駆けて去って行った。

 やれやれ。朝から子供の お守りなんて。

 俺はフウ、と信号を見直すと、青になっていた。当然、横断歩道を渡ろうとする。

「おーい! 広平!! オハヨー!!」

 渡った先には、クラスメイトの四矢 礼司が待ち構えていた。「おはよう、礼司」「昨日、広末玉生がよぉ……」

 会って そうそう、アイドルの話を し始める。俺は あまり興味が無いので、黙ってえんえんと続く広末玉生の話を聞いていた。歩きながら そのうち、昨日観たTVの話になっていった。「インドの計算方式っていうのがあってさ……」

 アイドルよりはまだ興味が起きたので、「どんな?」と反応すると、

「一の位が『5』の場合に限るんだけどさ。例えば……」

「ストップ!! その話は終わりだ。違う話にしてくれ」

 俺は5、と聞いて過敏に反応しすぎた。おかげで礼司は驚いた顔をする。

「何だよ急に……。ん? お前、手に持っているソレ、何?」

と、礼司が俺の手を指さした。さっき園児にもらった団子。

 ダン、「ゴ」……ね……。

 ああまただ! 「5」! 「ご」! 「ゴ」!!

「何でもないよ。ちょっと調子が おかしいんだ」俺は力なく笑って見せた。

「ふうん? ……わわっ、ととっ」

 俺が見せたのを つまもうとして、礼司の指からスルリと団子が落ちた。

 トンッ、コロコロコロ……止まる気配を見せず、調子よく転がっていく団子。俺はつい追いかけた。


 キキキギギ……ッ!! ダァンッ!! ……


 ……


 何が起こったのかが、わからない。


 どうしたんだ? 俺……?


「広平ッ!!」

 礼司の叫び声だ。

「キャーーーーッ!! 人がッ……!!」

「誰かっ、救急車っ!!」

「人がトラックに ひかれたぞ!!」

 あちこちで声がする。え? ……救急車? トラックに、ひかれた?

 誰が……?

 目を、開けた。

 数字が並んでいる。「55−55」……四角いプレートに、そう。

 そうか わかったぞ。車のナンバープレートだ。そして、俺の目線と平行に数字が並んでいるという事は。

 俺も この軽トラックも、横転もしくは倒れている。

「救急車を1台お願いしますっ。住所は、ええと……矢立市、叶 5 丁目ですっ」

 声が聞こえる……ここ、5丁目かよ……。救急車は1台でいいぞ。

「私ですか? 石本弘史といいます。ちょうど通りがかって……」

 ありがとう通報してくれて。石本さんとやら。

「しっかりしろよ、広平! 今、救急車を呼んでいるからな」

 あまり肌に感じないが、礼司が俺の肩を触って励ましてくれている。

「君、この子の名前は?」「北 広平です!」礼司が代わりに答えてくれる。

「頑張れ! 広平くん!! すぐ来るからね!」

 サラリーマン風の男の人……声からして、通報してくれた石本さんだろう。

 石本さんだけでない。何人かの人が俺の周りに集まって、「しっかり!」「もうすぐだからね!」とエールを送ってくれていた。他人の俺なんかのために、皆が声をかけてくれる。俺の体はピクリとも動かないが、目に涙が にじんできていた。

 どうして、こんな目に……。

「キャーーッ!! 犬がッッ……!!」

 突然、様子が変わった。

 その場にいた全員が振り向く。声のした方を求めて。

「犬が……死んでいる……!」

 その声で、空気が固まったように感じた。

 俺を見ていた誰かが、どこかへ駆けて行く。「犬が!?」

 俺のそばから人が消えたおかげで、俺の視界が開けた。数メートル先の向こうで、成犬が一匹、ダランと体を地面に預けた格好で倒れている。よく見ると、何かを吐いているようにも見えた。何かを食べたのか……?

 俺はハッとした。

 俺の手から、団子が消えている。

 ……一体、どこへ。

「おい広平。まさか あの団子、ホウ酸団子じゃねえ?」

 礼司がズバリと言った。言葉が、矢のように俺の胸に突き刺さった。

 ホウ酸。ホウ素。


 原子番号 5。


 ……だったような……。


 俺は目を閉じた。

 もう、何の音も聞こえない。


 ……



「あーあ。死んじゃったね。北 広平クン!」

 暗い闇の中で、似合わない明るい声がした。ええと、姿が わからないが、誰なんだろう?

「もう一度、今朝からここまでを振り返ってごらんなよ」

 今朝からここまでを? なぜ? 振り返って、どうする。

「反省会よ。あなた、気がついてないわね。あなただけでなく、読者も」

 読者?

「……コホン。とにかく、気がついてないだろうから、教えてあげるわ」

 教えてあげるって、……何を?

「あなたが死なずに済んだ方法。今朝からここまでの間でね」

 そうか……俺は死んだのか。何かと、「5」ばかりを気にしてしまって……。いっそ、気にしなきゃよかったんだ。アキの5000円はイタイが、子供の相手でも ちゃんとしてやればよかったのか……それとも、通販の足指ソックスを衝動買いすべきだったとか?

「アハハハハッ!! 違う違う。そんな事をしても、結末は同じ。あなたは『5』にヤラレていたわ」

「5」の罠。「5」に翻弄され殺された俺?

 どうしたら助かったんだ? 「5」の魔のルートから抜け出して。


 ……


 少し、間が空いた。

「私の言う事を聞けばよかったのよ。もう一度、今朝の始まりに戻って」

 少しトーンの下がった声だった。俺は少し怖かった。

「顔を洗って、出直しておいで」

 プツリ。

 それきり、声が途絶えた。辺りがまた暗い、静寂になる。

 死ぬ前に、もう一度考えよう。


 誰の言う事を聞けばよかったって? もう一度、今朝の始まりに戻っ……。


『 顔 を 洗 っ て 出 直 し て お い で 』



 ミーナちゃん。


 そういえば、君だけが 名前が。



《END》




【あとがき】

 お読み頂き ありがとうございました。


 ……。


 さて……


 今朝の始まりに戻って。

 作品中に表記された全ての名前の画数を数えてみて下さい。

 仲間はずれは……

 作者は関係なしです。


※必要かどうか過去 長いこと悩みましたが【5リズム――解説編】をブログで書きました。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-54.html

 何かスッキリしないんだけど、という方に。作者の言い訳が窺えます。


※今作品は、あとがき修正されています(11/28)。

 ありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーの全体的な流れとしては悪くないです。 でも、ひとつだけ言うとすれば、 「ーー」と連続するのではなくて、「――」と、ダッシュ記号を使うとどうでしょう? 強いて言えば、これだけいい話を…
[一言] そんなにハッとする答えではありませんでした
[一言]  面白い謎解きでした。が・・・   降参。お手上げです。  もしかしたら、コレが答えかなぁ・・・というのは思い当たったのですが、イマイチ自信がないのです。やっぱり私はニブいかも・・・。  推…
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