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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode6




 ショッピングモールは、オープンされたばかりということで大盛況だった。

 家族連れやカップルが所狭しとあふれかえり、枝真は旭日を見失わない様に追いかけるので精一杯だ。

 歩みを進める途中、目の前の旭日に気をとられ、足元の段差に躓きバランスを崩したが、咄嗟に振り返った旭日に抱きとめられる。


「おい、大丈夫か?」


 二人は密着する体制になった。枝真は耳元で旭日に囁かれ、顔を紅潮させる。


「……ごめん」


抱き起こされた時には、緊張のあまり硬直状態だった。


「いや、俺も。最初からこうすればよかった」


 そう言って少女の手を優しく引いて再び歩き出す。歩幅は枝真に合わせてくれているようだった。

 こんな風に誰かと手を繋いで歩いたのはいつぶりだろう、とギュッと握られた自分の手を見つめて枝真は思った。照れくささも少しあったが、旭日の手のぬくもりが心地よくて、嬉しくて、繋いだ手を思わず握り返した。


 旭日は腕時計に視線を落とし、時間を確認する。


「そろそろ昼時だな、混む前に先に何か食べとくか?」


「うん、お腹すいちゃったね。あ、ちょっと待ってあのお店見てもいい?」


 枝真が目を輝かせて視線を送る先には、こじんまりとしたアクセサリーショップ。

 とても、メルヘンチックな店で、ピンクの外壁にレースやら宝石がちりばめられていた。

 たくさんの女の子たちがきゃっきゃっと声を上げながら群がっている。その光景に旭日は眩暈めまいを覚え、枝真の背中をポンと叩き微笑む。


「俺は外で待ってるから。いってこい」

「なんで! 一緒に入ろうよ」

「あんな女だらけの店に俺が入ったら場違いだろ」

「そんなことないよ! 男の人も一人いるよ、ほらあそこに」


 枝真の指差す先には、女の子に紛れミニスカートから毛だらけの足を覗かせて、腰をくねらせ野太い声で騒いでるオカマがいた。


「余計にいきたくねぇ……っ」

「いいから、ほら早く! 旭日くん!」


 結局、枝真の粘り勝ちで旭日は店まで引っ張られていった。

 店内にはネックレスや指輪、キーホルダー等の装飾品が種類豊富に陳列してある。

 枝真は迷うことなくネックレスのコーナーにかけていく。


「わあ! 見てみて! 旭日くん」

「動物のシルバーアクセサリーか、好きなのいいな。買ってやる」

「え! いいの?」


 その場にしゃがんで自分の手のひらにいくつかネックレスを乗せると、枝真は旭日にそれを見せる。


「ゾウとかばとキリンのどれがいいと思う?」

「……お前そのチョイス絶対におかしいぞ」

「じゃあ、旭日くんはどれがいいと思うの?」


 頬を膨らませてねる少女に旭日は、気恥ずかしそうに小声で返答する。


「うさぎとか……」

「……うなぎ?」

「……もう、なんでもいいから好きなの早く選べ」


 盛大にため息をついて、旭日は財布を取り出したが、枝真は突然立ち上がり旭日を引き連れて店の外へ出てしまう。


「おい枝真、買わないのか?」

「うん」

「ゾウがほしかったんだろ?」

「うーん……うん」


 こくりと少女は頷くが「でも、いらない」の一点張り。

 実は先ほど選んでいる最中に値札をチラ見したところ、ゼロがたくさん並んでいたのが見えて、驚いてしまったのだ。これを旭日に買わせるのはちょっと……と気が引けて店を出てきてしまったのだ。


「旭日くん、お腹すいた。ごはん食べに行こう」

「……わかったよ、何食べたい?」

「……うさぎ」

「……うなぎな」



 時計は 正午を回っていたが、うなぎ屋は空いていて、席をすぐにとることができた。枝真は、うなぎの蒲焼を口いっぱいに頬張ってすっかり御満悦の様子だ。


「おいしい! すっごくおいしいよ」

「よかったな」


 言いながら早々に箸をおく旭日に、枝真がキョトンとして尋ねる。


「うなぎすきじゃなかった?」

「もう食った」

「えー早い。もっと味わって食べたらいいのに! 早喰いは体によくないよ!」


 ブーイングを交わして、旭日は自分の鞄からパンフレットを取り出すと机においた。


「ここのフロアガイド。メンズ用品置いてある場所全部チェックつけといたから、気になる場所あったら教えて。俺ちょっと電話してくるからこれ見ながらゆっくり食べてな」

「え?」

「十五分くらいで戻る。会計は済ませてあるから」

「えっと……。いってらっしゃい」


 その場を離れる旭日を見送り、ポツンとひとり取り残された枝真は言われた通りパンフレットに目を通して時間を過ごした。枝真が店を出る頃には旭日も戻ってきていた。


「待たせた」

「誰と電話してたの?」

「……誰でもいいだろ。そんなことより、春樹のプレゼント見に行くか」

「うん」


 自然と旭日に手を握られて、それに応える。

 今更だが、今日付き添いできてもらってるだけなんだけど、なんだか恋人同士になったような気分になる。

 二人でフロアガイドに載っていた何店舗かのスポーツ用品店を周り、目当てのプレゼントを購入することができた。

 綺麗にラッピングもしてもらい、枝真は早く春樹に渡したくて仕方がなかった。


「清水の舞台から飛び降りちゃった」

「きっと春樹も喜ぶ」

「うん! 旭日くん今日はつきあってくれてありがとうね」


 満面の笑みでお礼を言う少女に、旭日は急に真剣な表情になる。


「俺も行きたいところがあるんだけど、つきあってくれるか?」

「え? うん、いいよ。いつ行く?」

「今から」

「今から? どこに?」

「いってみてのお楽しみ」


 ボケッと突っ立ている枝真の手を引いて、旭日は車に乗り込むと、ショッピングモールを後にした。

 目的地にたどり着く頃には、とっぷり日も暮れていた。









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