表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラストエンカウント  作者: 豊つくも
68/68

epilogue






 真っ白い病室のベッドの上で、亜麻色をしたロングヘアを弄りながら少女が壁に浮かび上がった半透明の液晶画面を静かに眺めていた。


 画面には、アイドルグループの男の子たちが切れのよい踊りと歌声を披露していたが、すぐに画面が切り替わり、いつの間にかニュース番組が始まっていて、スーツに身を包んだ女性が映りこむ。



『番組の途中ですがニュース速報をお伝えします。先ほど、200574便のアークが消息を絶ち、墜落した可能性が強まっています。なお、この件に関しては詳しい情報が入り次第……』



 それを見た少女は、くすりと笑うと画面から目を逸らして、窓の外へ目を向ける男へ視線を投げた。



「聞いた? アークが墜落ですって」



 少女の声に、男は「聞いてる」と短く答え振り返った。



「なあに? あんまり興味ないみたいね? ねぇ、最近先生ちょっと顔を出してすぐに帰ってしまうのだけど、そんなに研究がお忙しいのかしら? さっきも私の顔を見てすぐに出て行ってしまったのよ」



 少女が首を傾げて男に問いかける。


 男は、眼鏡を直しつつ窓に背を向けて少女の傍にある椅子へと移動すると、浅く腰掛けた。



「忙しいんじゃないか? お前の病気を治すために先生は研究に力を入れてくださっているんだ」


「そうね。先生には感謝しなくちゃいけないわね。私」


「最近、体調はどうなんだ? 病気の進行は?」


「変わらないわ、可もなく、不可もなく……。でも……そうね、できるだけ早く新しい体がほしいわ……」



 身を包んでいる病院服の袖をめくると、やけどのような傷が至る所に見られた。



「見て、ここ。昨日皮膚をとりかえたばっかりなのに……。また新しいのにとりかえなくちゃ」


「……全身を移植する以外に、他に方法はないのか?」


「少しでも、腐りかけの場所があるとそこから広範囲に広がっていくから……、一気にかたをつけないといけないのよ。仕方ないわね」



 忌々しそうに言い捨てた少女に、男は「そうか……」と小さく呟いた。



「どうしたのよ、今日はなんだか元気がないわね。……そういえば、あの子……。会ってきたのよね、千颯? どうだった?」


「……どうもこうも君に……。由梨にそっくりだったよ、見た目だけは」


「ふぅん」


「……」



 千颯は、短く息を吐くと椅子から勢いよく立ち上がった。そして、目の前の少女・由梨の頭を一撫でする。



「千颯、あなたクローンの存在意義についてどう思う?」


「それは……、僕たちが一番よく分かっている事じゃないか」


「……そうね、愚問だったわ。今の発言忘れてちょうだい」



 しばらく二人とも黙り込んだままだったが、沈黙を破るかのように千颯はドアに向かって歩き出した。



「どこへいくの?」


「総監のところだ」


「また、お叱り?」


「ま、そんなところさ」



 千颯が室内を後にしたのを確認すると、由梨は先ほどまで彼の座っていた椅子に視線を落とした。そして、何を思ったのか行き成りそれを足で蹴飛ばした。



「死んだほうがマシかも」



 小さく囁くと、床に音を立てて倒れた椅子を見て、由梨は眉を顰めた。










                     *                       *












「失礼いたします」



 深々と頭を下げて千颯が、重厚なドアを開ける。


 警視総監の部屋だ。


 室内の奥には、薄っすらと大きな人影が見える。しかし薄暗いのでその人物を鮮明に確認する事はできなかった。



「千颯か、待っていたぞ。旭日が戻らんのだがあいつは今どこで何をしている。まさかまだあのレプリカの女の尻を追いかけているのではなかろうな」


「……存じ上げません」


「まったく困ったやつだ。千颯、旭日は私の大事な後釜になる。あいつから目を離すな」


「承知しております、総監」


「いい返事だ。それから千颯、堅苦しいからそのかしこまった呼び方はやめろといつも言っているだろう。私とお前の仲だろう」


「……ですが」


「私がいいといってるんだ」


「はい、夕日……さん」


「宜しい」



 夕日と呼ばれた男は、大きな体を揺らしながら笑った。



「あの、……夕日さん折り入ってご相談が……」


「ん?」


「その、レプリカの件なのですが……由梨に瓜二つの彼女を手にかけるのは……僕には荷が重いというか……その……っ」


「千颯」


「……はい」


「私は、お前という男を親族の贔屓目なしに高く評価しているんだが……由梨の投薬代、入院費、手術費……誰のお陰でまかなえているか……賢いお前なら理解しているな?」


「申し訳ございません、口が過ぎました」


「よろしい。旭日が戻ったらすぐに私のもとへ連れてこい。期待しているぞ千颯。下がれ」


「……っはい」




 千颯は汗ばんだ拳を握り締めると、先ほどよりも一層深く頭を下げて、踵を返した。








--------


皆様、作者の豊つくもです。一応ここでひと段落で

無印は終了です。続編は、未来編という事で

『ラストエンカウント-アヴニール-』でお送りします。

ちなみに、アヴニールとはフランス語で、意味は、将来・未来などです。

無印からの変更点、申し訳ありませんがここから先は年齢制限R15とさせて頂きます。




こちらから→→http://ncode.syosetu.com/n1939dc/




ここまで私の拙い物語に貴重なブックマークをつけて応援してくださった7名のお優しい読者様、

初期から応援してくださっている方もいるのかな?

皆様が見てくださっていると思うと心の底からやる気が出て

執筆活動もより楽しく頑張れました。本当に本当にありがとうございました。

そして、この小説にアクセスしてくださった皆様もありがとうございました。


皆様のご期待に沿えるよう、邁進してまいりますので、

これからも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ