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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode60







「枝真には俺を愛するように、絶対的な信頼を寄せるように、そうインプットさせたつもりだったのに……。どうしてお前は旭日くんを選んだのかな……?」


「……え?」


「俺はねぇ……今からお前をバラバラにして、皮膚をはぎ取って、臓器を取り出し、由梨の所へ届けないといけないんだ。だけど……、お前にも選択肢をあげるよ。お前だっていきなりこんな場所へ連れてこられて、はいそうですかと臓器を渡す気も到底起きないだろうしね? さて、……お前がここで俺を選んでくれるなら、お前を一生手元に置いて幸せにしてあげることもできるよ。……どうする?」



 何の気なしに話す壮介を見て、枝真は身の毛がよだった。冗談を言うにしても、もっとまともなものがあったはずだ。けれど彼は本気でこの選択肢を枝真に与えてきている。



「こんな事をされて、壮介を選ぶことなんてできるはずがないでしょ?」


「ふぅん、やっぱり……旭日くんを選ぶんだ……? 愛する枝真に振られちゃった……。悲しいなぁ」



 壮介はため息をつきながら床に転がっていたメスを手にとると、それを枝真のシャツに引っ掛けて乱暴に引き裂いた。ボタンがちぎれ飛び、少女の白い胸元が露になる。



「壮介は私の事なんて愛してないよ! 研究の成果としてのクローン技術の私のことを愛しているだけでしょ!?」


「……研究の成果……ね」


 

 壮介がかげりのある暗い瞳で枝真を見たかと思うと、今度は突然微笑んだ。



「何がおかしいの……」



 面白がる視線を向けられて、枝真訝しげに眉を顰める。



「いや、お前はバカだバカだとずっと思っていたけど……」



 言葉を切って、しゃがみ込んでいた壮介は重い腰を上げる。



「やっぱり本当のバカだね……」



 嘲りの笑みを浮かべ立ち上がると、壮介はゆっくりと壁に向かって歩いていく。それを枝真は目でゆっくりと追いかけ、その時に始めて室内の様子に気がつく。


 室内はまるで、牢獄のような作りになっており、四方の壁は石でできていて、床一面は木造だった。

 そして壁一面には、無数の刀が立てかけられており壮介は手近にあったその中のひとつを掴んだ。



「俺は、銃にはまったく造詣がないんだけど……、刀には精通していてね、コレクションがある。見てくれ、このカーブ。実に美しい……刀はね、切断力を増す為に反りのついている物が多いんだ。効率よく物を斬る為には反りが深く、刃渡りが長いほうが向いていると、前に何かの本で読んだことがあるよ。直刀も味があるが……俺はこっちの方が好きだなぁ」



 ギラつく刀に指を這わせて、うっとりと壮介が呟いた。



「壮介……何するの?」


「何って、お前のお望み通りにその体バラバラにしてあげるんだよ」


「やめてよ、壮介っ!」


「本当は俺もこんなことするのは気が引けるんだけどね。俺のものにならない枝真なんて……」


 「いらないんだよね」と壮介は言いながら刀を振りかぶると、それを思い切り床に打ちつける。寸でのところで枝真は体を転げて回避したが、刀は容赦なく少女の真横で床に突き刺さっている。それを見た枝真は、ぞわりと背中が泡立った。



「……もう、どうして逃げるのさ……。お前が望んだことだろう?」


「こんなこと私は望んでいない!」


「……これは最後の賭けだったんだ。ここでもしもお前が俺を選んでくれるなら、研究も何もかも全て捨てて二人で逃避行するのもありかなって……ね。俺にとって研究は命にも代え難い程大事な物だったけれど、お前と過ごしたこれまでの日々……気に入っていたし、このまま殺しちゃうのもなんだか惜しい気になってきたんだ……。だけど、お前が旭日くんを選ぶと言うのなら、俺はもう迷わないよ」


「壮介お願い、考えなおして! こんなことしなくても私、壮介のことは大事な幼馴染だと思ってるの。今までもこれからもそれは変わらないよ? だからやめて」


「だからさ……もう幼馴染ではいられないんだよ、枝真?」



 壮介がまた枝真の真上から刀を振り下ろした。









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