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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode5





 あれから二週間。旭日は週三回の約束だった家庭教師をほぼ毎日通いつめた。

 壮介とは、朝・夕学校への行き帰りを共にして、ストーカー被害にもここ最近あっていない。

 色々あったが、壮介も旭日も変わらず接してくるので枝真もいつも通りを意識していた。


 今日は日曜日で、朝から晴天。


「枝真、春樹は?」


 勝手知ったるなんとやら、旭日が合鍵で室内に入ってくる。

 あの出来事があった翌日から、旭日は枝真のことを名前で呼び出し、口調も砕けたものとなった。

 合鍵は弟の春樹の案で、どうせ毎日この家にくるのだからと数日前に作ったものだった。


「あれ? 春樹今日は部活の友達と遊びに言ってるけど」


 枝真の返答に、旭日は頭を掻いてため息をつく。


「あいつ……、今日はテキストを一緒に買いに行くといっておいたのに」


  ブツブツと文句を言いながら枝真の声のする方へ足を運ぶと、少女はドレッサーの前で髪の毛をブラシで梳き、念入りに自分の服装をチェックしていた。


「出かけるのか?」


「うん、ちょっとね」


 旭日は腕を組んで壁に背をもたれると、もの言いたげな目を枝真に向ける。


「なに? 私の顔になにかついてる?」

「……随分めかしこんで、男か?」

「ちっ、違うよ! 明日は春樹の誕生日だから、プレゼント買いに行こうと思って」

「……へぇー、誕生日」


 枝真は身支度を終えてドレッサーの前から立ち上がると、いそいそとバッグを手に玄関に向おうとするが、途中で旭日に行く手をはばまれてしまう。


「旭日くん何?」

「俺も行く」

「え?」

「今日車で来てるから、タクシーやってやるよ」


 枝真は全力で拒否したが、強引に腕を引っ張られて車まで連行されてしまう。本当は今日はひとりでゆっくりお店をみてプレゼントを決めたかったんだけど……。


 車に乗り込むと、旭日はキーを取り出してエンジンをつけ、シートベルトをしめる。

 助手席にちょこんと座り、同じくシートベルトに手を伸ばした枝真は、車内をキョロキョロと見回して落ち着きの無い様子だ。


「ねぇ、これ随分高そうな車だけど……。レンタルしてきたの?」

「いや、俺の」

「旭日くんの?!」


 カーナビを操作しながら、旭日は黙って頷く。

 前に、旭日は現在フリーターだと聞いたことがあったが、どこからこんな高級車を買うお金を捻出してきたのか。何か悪いことでも裏でしているのでは……と枝真は、まじまじと旭日の横顔を見つめた。


 少女の熱い視線に気づき、旭日は枝真に微笑みかける。


「どこにいきたい?」

「あ……。スポーツ用品店に」

「他には?」

「えーっと。男の子が好きそうなものが売ってる店?」

「アバウトだな」


 サイドブレーキを下げて、チェンジレバーを動かし、アクセルを踏み込むと車はゆるやかに動き出す。


「最近できたばかりのショッピングモールが、メンズ用品多くおいてたと思う。場所はそんな遠くないし、行ってみるか?」


「うん」


 枝真は旭日に頷くと、車窓の外を静かに眺めていた。

 車が高速に乗って加速すると、左右の景色がまたたくく間に流れていく。

 暫く順調に走行していたのだが途中、旭日がバックミラーをしきりに気にし始める。


「旭日くん? どうしたの?」


「……いや」


 枝真にたいして、なんでもないという素振りを見せるがあきらかに険しい顔つきになっていた。

 後ろになにかあるの?……と思った枝真が振り向こうとした瞬間、車体が大きく右に動いた。

 旭日がハンドルを切って、車線変更したのだ。その後は、目の前を走る車の間を縫って走行していく。まるで背後からくる何かから逃げるかのように。


 ひとしきり走った後に、車は無事目的地にたどり着いた。

 旭日は天を仰いで長嘆息ちょうたんそくをついた。


「悪い、酔ってないか?」

「ううん、なんかジェットコースターみたいだった。どうしたの? 何かあったの?」

「そうか……。なんでもないから気にしないでいい。いくか?」

「……え? うん」


 この間旭日は言っていた「まだ言えない」と。

 その話に関係しているのだろうか?自分が関わっていることは確かなのだが……。


 旭日が車から降りたのを見て枝真も後を追って降りた。






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