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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode46







「それじゃ、枝真。いい子だから大人しく待っててね」



 壮介は、枝真の頭を撫でながら玄関先で別れを惜しんでいる。

 少女からなかなか離れようとしない壮介に、旭日は「いつまでやってるんだよ」と蹴りを一発いれた。



「銃は、こちらから支給させてもらう。サプレッサー付きのものを使用してくれ」



 千颯は持参してきたと思われるアタッシュケースを開くと、そこから二丁拳銃を取り出して旭日と壮介に手渡した。



「サプレッサー? 何の事だい?」



 ぶつを受けとりながら壮介が、首を傾げる。



「銃の発射音と閃光を軽減するために取り付ける装置の事だ。銃の先端についている筒状のものがその役割を果たす。……サイレンサーと言ったほうが分かりやすかったかな。こちらの方が広く知られているから」



 千颯にそう言われて、壮介は「ふぅん」と握った銃を物珍しそうに色々な角度から眺めていた。



街中まちなかで、銃声なんぞが聞こえてきたら大騒ぎだろうしな。それにしても準備が良すぎやしないか?」


 

 旭日に問われると、千颯はとぼけながら目を逸らした。



「正直言うと最初から協力を求める気でいたんだ。でも、枝真さんを傷物にした僕の言うことなんて素直に聞いてくれなかっただろ? だから、枝真さんを引き合いに出せば、どんな話にでも乗ってくれるだろうっていう算段で……っ」


「もういい、時間がないんだろ? とっとと仕事にかかるぞ」



 言いたい事の察しがつき、旭日は面倒くさそうに千颯の話を遮ると、性懲りもなくまたしても枝真にくっついていた壮介の首根っこを掴んで引きずっていった。



「三人より四人のほうが心強くない……?」



 玄関に向かいながらそれとなく枝真が言うと、旭日が渋い表情を作る。



「枝真は、留守番」



 即答で切り返されて「でも」と枝真は食い下がった。



「まだ痛み止めを服用している状態だろう? さっきも言ったはずだ、無理はするなと。それに、今は家にいた方が安全だ」



 断固たる口調で旭日に告げられ、枝真は頷くしかなかった。

 浅間山の一件でお留守番に関してはすっかり信用を無くしてしまっていたのでやむをえない。反論はせず、大人しく三人を送り出した。







                     *                       *







 枝真がリビングに戻ると、愛犬のゲイリンがけたたましく騒いでいた。


 毛を逆立てて、呼吸を荒くし出窓の方に向かってキャンキャンと吠えている。


 疑問を抱いた枝真が窓にゆっくりと近づき、おそるおそるカーテンを開けると、そこには先ほど散々話題に出ていた佐伯が立っていた。


 枝真は驚いた拍子にその場で尻餅をついてしまう。そのまま後ずさりして、すぐに旭日達に連絡をとろうとスマホを手にする。



「ちょっと待って! 話を聞いてください!」



 佐伯が言葉を発し、焦ったように窓を叩く。それでも警戒心を露わにしている枝真に、佐伯は困ったように自分のポケットからキラキラと光る物体を取り出して窓越しに見せつけた。



「これをっ……、忘れ物を届けにきたんです……っ」



 佐伯の手には、枝真が山小屋で無くしたと思っていたゾウのネックレスが握られていた。

 実は、千颯の銃撃を受けたとき倒れた衝撃で首につけていたネックレスがどこかへいってしまっていたのだ。その事をあとで旭日に相談すると「また同じものを買いにいけばいい」と答えが返ってきたが、枝真がどうしてもあれがいいと駄々をこねたところ「枝真が治ったら一緒に探しにいこう」と言ってくれていた。何故そのネックレスを今目の前の佐伯が手に持っているのか、枝真は不思議でならなかった。



「何で、それを……っ」


「あなたが……あの時私を庇ってくれて……、嬉しかったんです。罪を犯した私にチャンスを与えてくれとあなたが言ってくれたことが。私はあなたに酷いことをした上に逃げたのに……。あの後謝ろうと山小屋に戻ったのですが、もう姿が見えなかったので……。その時床に落ちていたネックレスを見つけたんです」



 佐伯が申し訳なさそうにポツリポツリと話し出す。枝真は窓を開けて、そっとネックレスを受け取ると静かに佐伯を見つめた。佐伯は前回会った時よりも幾分か落ち着きを取り戻しているようだった。

 先日感じた恐ろしさは今の佐伯からは皆無で、毒気が完全に抜けているようにも見えた。



「とりあえず、中へ入ってください」



 枝真は出窓から室内へ佐伯を招き入れると、リビングのソファに座らせた。

 そして、自分もテーブルを挟んだ椅子へ腰かけた。



「佐伯さん、謝りにいきましょう。今、この間のメンバーがあなたを追って探しに出ています」


「……」


「罪を自覚したのなら、今後同じ過ちを繰り返さないようにすればいいんです。私も一緒に謝ってあげます」


「そのつもりでここまで来たのです」



 佐伯は「ただ……」と付け足すと、目を伏せた。



「私は、許されない過ちを犯してしまいました。自首した時点でおそらく射殺されるでしょう」



 佐伯の言葉に、枝真は目を見開いた。



「……私には、妻と四歳になる娘がいます……。娘は生意気盛りで、最近は言うことを聞いてくれなくなりましたが、本当にかわいい娘です。言い訳になってしまうかもしれませんが、家族を守るためにどうしようもなかった……。犯罪者が何を言っているんだと思われても仕方ありません。でも……射殺される前に、最後に娘と妻の顔を一目見たいんです」



 身の上話を始めた佐伯は、胸ポケットからくしゃくしゃになった家族の写真を大事そうに取り出してテーブルへと置いた。



 佐伯と、奥さんと、娘の三人が幸せそうに笑っている家族写真だ。

 枝真は、それを見て小さく頷いた。



「可愛い娘さんですね。だったら尚更です。状況を説明して、少し猶予ゆうよをもらいましょう」


「え……」


「私も、佐伯さんの娘さんと奥さんに会ってみたくなりました」



 「だから、ね!」と枝真が微笑んで言うと、佐伯は「ご迷惑ばかりかけてすみません」と目頭を押さえた。









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