episode39
「もーうさぎだのゾウだのうるさくて眠れないよ!」
壮介が、むくりと起き上がると気怠そうにそう叫んだ。
「永遠に眠っていればいいものを……」
壮介の声に、旭日は眉根を寄せる。
「壮介、おはよう」
枝真は、振り返って壮介に笑顔を向けた。
「旭日くん何か言った? 枝真、おはようじゃないよ。まったく」
欠伸をかみ殺しながら、寝相で乱れた着衣を直す。熟睡していたようだ。
「うるさくしてごめんね」
「なんで枝真が謝るんだよ。この一大事に呑気に寝こけやがってこの野郎」
間髪いれずに旭日はつっこむと、ミラー越しに後部座席の壮介をねめつけた。
「いいじゃない。とりあえずあの場は収まったわけだし。今後のことは家に帰ってからゆっくり考えたらいいさ」
壮介はミラー越しに旭日と視線を交えると、にこりと微笑んで片手を振ってみせる。
「マイペースなやつ……」
「それはさておき、枝真。ゾウが好きだなんて、いけない子だなぁ」
眠気が覚めてきたのか、壮介はいつもの調子が戻ってきたようだ。枝真の座席と旭日の座席の間から身を乗り出してきた。
「何が?」
「だって、ゾウが好きだなんてまるで……」
壮介が台詞を言い終わらないうちに、旭日は片手で銃を取り出すと壮介の目の前にちらつかせた。
「おい、それ以上言ったら撃つぞ」
ドスの聞いた低い声で脅しをかけたが、壮介はそれを気にすることなく話を続けていく。
「いやぁ、そんなに好きなら俺のゾウも枝真に可愛がってほしいなぁって」
「頭湧いてるだろお前! いい加減にしろよ!」
旭日は怒鳴ると、持っていた銃を物理的に壮介に投げつけた。壮介は、颯爽とそれを受け止め「運転中は、前を見ないと危ないよ」と笑った。
「ん? 壮介ゾウを飼ってるの?」
「飼ってるよ。立派なゾウさんをね。見る?」
言いながら嬉々と自分のベルトに手を掛けたところでまたもや、旭日の怒号が飛んでくる。
「汚ないものを枝真の目に晒すな! おぞましい!」
「同じものがついてるのに、その言い方は酷いよ。旭日くん」
悲しげな瞳で呟いた壮介に、旭日は「このやろう……」と殺意を覚えた。
「旭日くんも飼ってるの?」
純粋に枝真に問われて、旭日は動揺してハンドル操作を誤りそうになったが、なんとか持ちこたえた。
「もう、お前ら黙れ」
力なく旭日がボヤいたが、壮介の空気の読めない下ネタは帰宅するまで続いたのだった。




