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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode38






 怪訝そうな顔で旭日を凝視する。

 長い沈黙の後、枝真がゆっくりと口を開く。



「……また、冗談?」



 そう言い終わるか否か、赤信号に捕まって車体はぴたりと止まった。

 旭日は顔だけを助手席へと向ける。



「本気だ」


「嘘」



 旭日の目は真剣そのものだったが、枝真はからかわれていると思ったのか。少し怒った様に返した。



「嘘じゃない」


「だって、つきあってもいないのにいきなりお嫁さんとかっ」



 自分で言っていて恥ずかしくなったのか、声量が語尾になるにつれて小さくなっていく。いきなり結婚は、飛躍しすぎではないだろうか?枝真は頬を赤らめた。



「つきあっていたらいいのか?」



 旭日が、フフンと笑った。



「いや! なんていうか、そうゆう単純なものじゃないと思うんだよね結婚って」


「昨日は俺を受け入れようとしたくせに」



 狼狽えている枝真を、楽しげに眺めながら旭日は言う。枝真は、さらに動揺して混乱する頭で次の言葉を探した。



「それはっ、何というか雰囲気にのまれて……その」



 目を伏せてしどろもどろに話す枝真の顔を、旭日が不意に覗き込んだ。



「へぇ……、雰囲気にのまれれば誰とでもああいうことをしようと思うのか?」



 蠱惑的こわくてきな眼差しで枝真を見つめ、旭日はシートベルトを緩めると少女との距離を少し詰めてきた。突然のことに枝真は驚いて思わず「ひえっ」と声を上げた。



「違うよ! それを言うなら旭日くんだって」



 けれど、枝真も負けじと声を張って旭日に詰め寄り返した。



 旭日は、枝真の顔が突如目の前にきてひるんだが、すぐに嬉しそうな顔になって微笑んだ。



「枝真が好きだからしたんだよ」



 真摯に告げたが、後に「未遂に終わったけど」と小声で付け足した。



 枝真は、ポカンと口を開けたまま旭日の声を聞いていたが、みるみるうちに顔を真っ赤にした。



「え?! 私のどこが好きなの?」


「どこがって、全部」



 旭日は「青だ」と声を漏らすと、すぐさまシートベルトをつけなおしブレーキペダルから足を離した。

 車は緩やかに走行していく。



「全部って……主にどのへんが? なんで?! いつから?」



 枝真が畳み掛けるように質問を飛ばすと、旭日は「好きなもんは好きなんだから、理由なんてないんだよ……」と頭を掻いた。



「まあ、強いて言うなら……うさぎみたいに可愛いところが」


「うなぎ?」



 小首を傾げて尋ねてくる枝真に、旭日は「おい」と低い声で呟く。



「前にも同じくだりやっただろう。うさぎだよ!」



 旭日が、イラついたようにハンドルを片手でバシッと叩く。枝真は「そうだったけ?」と、とぼけた顔であさっての方向へ視線を向けた。



「というか、うさぎ。目が赤くて怖いよ! ゾウがいい」


「は? うさぎ可愛いだろ! 動物の中だったらダントツだろ!」


「ゾウのが可愛い!」



 話がかなり脱線していることにお互い気づいておらず。やんややんやと騒いでいたところ、後ろの方でもぞもぞと身じろぎする音が聞こえてきた。







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