episode33
言葉を失った旭日を見て、壮介は諭すように話しかける。
「旭日くん、枝真は今危険な状態だ。けれど、君の協力次第では助けることができるかもしれない」
「協力?」
「まず、千颯という男が何者で、何故佐伯という男が追われる事になったのか話してもらおうかな」
「組織の機密情報だ」
「ふーん……。こうしている間にも枝真の命がどんどん削られていくんだけど?」
なかなか口を割らない旭日に、壮介が苛立ったように追い打ちをかけた。
旭日は暫くの間だんまりを続けていたが、根気負けしたのか「わかった」と呟くと事の真相を語り始めた。
「千颯は、俺の同期で幼馴染なんだ。もう、十年近い付き合いがある。組織に入ってからのあいつは、上から下された命令に忠実従い逆らった事は一度も無い。まあ、命令に背いてばかりいる俺が異端者なのかもしれないが。どんなに浅はかな内容であっても、全てこなしてきた。今回万が一あいつに、枝真の殺害の任務がおりていたとすれば枝真に危害を加えてきてもおかしくはないだろうな」
「なるほどね……。それで、佐伯に関しては?」
「これは俺独自で調べた情報だが。佐伯は、中小企業の社長を務めていた。けれど、経営が思うようにいかず会社は倒産。自己破産をして土地、金融資産も全てもっていかれた。それでも億の借金を精算することはできなかった。そこで佐伯が思いついたのが、株の時価変動と結果を不正入手する手段だ。おおかたこれで一儲けして借金返済に当てようとしたんだろうが詰めが甘かったな」
「それが理由で、千颯が佐伯を血眼になっておっかけてるわけだね」
「表向きは……、そういう話になっているみたいだが。組織が躍起になって佐伯を潰しに掛かっているところをみると他にも理由はありそうだな。……さあ、協力はしたんだ。枝真を助けにいくぞ」
「うーん、そうだねぇ。とりあえずさ……」
「なんだ?」
「そのスーツを脱いでもらおうかな」
壮介が真顔でそう言い放った直後、その場の空気が凍りつく。
「……お前」
「いっておくけど、上着だけだよ。変な勘違いしないでよね」
旭日は言われた通りに、スーツの袖から手を引き抜き壮介に放った。
「何に使うんだよ?」
「まあ、黙って見ててよ」
片手で旭日のジャケットを受け取り、壮介はまたもやボストンバッグに手を突っ込んだ。しかし、お目当てのものが見つからないのか壮介は小首を傾げながらバッグの中をぐるぐるとかきまわす。
「おい、一刻を争ってるんだぞ。早くしろよ」
「あ、見つかった」
表情を明るくして壮介がバッグから引っ張り出したのは、犬の形をしたロボットだった。よく、おもちゃ屋等で売っているあれである。
それを見て旭日は、ふう、と大きくため息をつき。つかつかと壮介の前まで歩いていく。そして、壮介を力任せに足蹴にした。
「旭日くん、痛いじゃない」
「犬のおもちゃで遊んでる暇は俺たちにはないぞ」




