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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
33/68

episode32






 バサバサと頭上で一斉に飛び立った数羽の鳥を旭日は、見上げた。



 だだっ広い山中を一人、同僚の千颯を探して模索している途中、物々しい雰囲気に何かを察知した旭日は、急ぎ足でペンションへと戻ってきていたのだった。



 ノブに手をかけると、鍵はかかっておらず容易く扉が開いてしまう。抱いていた予感が的中して、旭日は顔を歪めると腰の拳銃ホルダーから銃を引き抜いた。



 銃を構えた状態で室内へ滑り込むと、リビングの方で物音が聞こえる。足音を潜め、ドアの前へ移動し、横の壁に背を預けた。



 そして銃口を天井に向けて、セーフティをガチャリと外す。



 リビング内の物音が止んだのを確認して、すかさず扉を開いた。

 躊躇いなく、向けた銃口の先には驚いた顔をした壮介の姿があった。



「枝真は、どこだ?!」



 旭日は怒号すると両手で構えた銃で、壮介の心臓に狙いを定めた。



「旭日くん、君を待ってたよ」



 壮介は、現状に取り乱した様子もなく、ソファーに足を組んで座っている。



「枝真は、どこだと聞いている。そして、何故お前がこの場所を知ってるんだ」



 旭日はズカズカと、室内へ入り込み壮介の胸倉を掴むと銃を額につきつけた。余裕のない様子の旭日を、壮介は涼しい顔で見上げている。



「俺がここへきた時にはもう、枝真はいなかったよ」



 「それから……」と、つけたして壮介は片手で耳からピアスをつまんで取り外すと旭日の目の前でちらつかせた。



 旭日は、赤く光るルビーのピアスを見て「やはりな」と眉根を寄せた。



「悪いけど、枝真が家を出て行ってから一部始終君たちの話は聞かせてもらったよ」



「枝真の体を探ったが、見当たらなかったぞ。いったいどこにつけたんだ」



「さすがの俺も、女の子の服に盗聴器を仕掛けるなんて卑劣な真似はできないなぁ。ましてや、無理やり脱がせて下着を壊した上にノーブラで生活させるなんてさぁ」



「なにがいいたい?」



 遠い目をして、棒読みでしゃべりだした壮介に旭日が怪訝そうに尋ねたが、白金色の頭をした男は「別に?」と首を傾げるだけだった。



 旭日は、舌打ちし壮介を乱暴に突き放すと、銃をホルダーに納めた。



「枝真の居場所は?」



「それがわかっていたら、ここで君が帰ってくるのを待っていたりしないよ」



 壮介は、肩をすくめた。



「ところで旭日くん、枝真にとりつけたワイヤータップの件だけど音声を録音しておいたんだ。よかったら君も聞いてみてほしい」



 言いながら、壮介は自分の足元に置いていたボストンバッグのジッパーに手を掛け、テキパキと準備をしだした。



 壮介がテーブルに広げたものは、旭日も見たことのない様な、特殊な機具ばかりだった。



 正方形で平べったいガラス細工のようなものをテーブルに置き、壮介が軽く手をかざす。透明なガラスにカラフルな配色で電子回路が刻まれていき、ホログラムとともに半透明のパネルが何層にもなって宙に浮かび上がってきた、指を使ってそれを操作し、空いた手で先ほどのルビーのピアスを別の機具にとりつける。



 旭日が壮介の一連の動作に目を見開いて驚いていると、旭日の思考を察したのか壮介が口を開いた。



「どうしてこの時代でホロを投影できるのか? と言いたげな目だね」



「この時代にはまだ、総轄しているノアが開発されていないはずだ……。それなのに」



 旭日の言葉にひとつため息を漏らすと、壮介は話を続けた。



「これに、ノアのイミテーションを凝縮して埋め込んでいる。さしずめ、リトルノアってところかな? いちいち携帯していないと使えないのが難点だけど」



「お前……っ」



「はいはい、小難しい話はここまで。準備が整ったから、音声を流すよ」



 壮介が、英字でプレイと書かれたコマンドに指を滑らせると、直ぐに鮮明な音声が室内に流れた。



 録音が流れた場面は、枝真が佐伯に人質にとられ、千颯に鉛弾を撃ち込まれた所でノイズが入っていた。



 音声を聞いて、旭日は壮介に声を荒げた。



「枝真は、千颯に打たれたのか?!」



「音声を聞く限りでは、そうだろうね」










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