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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode29




 情熱的なキスを何度も交わして、いつしか枝真は体に力が入らなくなっていた。



 キスの合間に旭日の手が服に伸びてきて、驚いた枝真は力なく自分の手を重ねて阻んだ。けれども、旭日にそれをいとも簡単に振りほどかれて、逆に掴まれてしまう。これ以上は、駄目!と枝真は目配せをした。



「嫌なら本気で抵抗しろよ」



 握られた手にそっとキスをされ、枝真は体がビクッと跳ね上がった。

 


「……でないと、やめてやれないぞ」



 旭日はさらに距離を詰めて、枝真の耳元に熱っぽく囁くと優しく唇を押し当てた。旭日の行為に枝真はいちいち反応を示してしまう。



「旭日くん……っ、あ、あのね、あのっ」



 声を振り絞って枝真が言うと、組み敷いていた旭日が動きを止めて顔を覗き込んできた。



「何?」



 返事はそっけない物で、旭日はいくらか息が上がってきているようだった。

 切羽詰っているように見え、早く行為を進ませようとしているのが、肌から伝わってくるようだった。




「この間からずっと言おうと思っていた事があるんだけど」


「うん?」


「こういうことは、私とじゃなくてちゃんと好きな人としたほうがいいと思うよ……っ」




 枝真が消え入りそうな声で呟くと。旭日はポカンと口を開けたまま黙ってしまった、そして終いには肩を揺らして笑い出した。



「なっ、何で笑うの」



 怒った様子で枝真が問いかけると、ひとしきり笑った旭日が「だって」と枝真を見た。



「散々キスしといて今それを言うのか、と思って」



「それは……。でも、好きでもない相手とこんなことするのおかしいでしょ……、絶対」



 気落ちしたように目を伏せた枝真を見て、旭日は「ごめん」と言って枝真の上から退けた。



「枝真の気持ちも確認せず、やっぱり強引だったよな」



 言いながら、旭日は枝真の隣に体を横たえた。



「枝真は、俺が嫌い?」


「そ、そんな事ないよ。嫌いだったら一緒に寝てほしいなんて言わないよ」


「だったら好き?」



 真剣な眼差しでそう尋ねられ、枝真は返事に困った。



 嫌いかと言われれば、それは「NO」だと即答できる。

 けれど好きかと聞かれたらどうだろう。

 旭日のことは、確かに好きだけれどそれは恋愛の好きなのか。

 今こうやって聞かれて見て、即座に回答できない自分がいる。



「えーっと……」



 枝真が言葉を濁して考え込んでいると、旭日が「もういい」と一言漏らした。



 怒ったのかと思い、枝真が旭日の顔に恐々視線を向けると、困ったように笑みを作って何ともいえない表情でこちらを眺めていた。



「いや、いいんだ。俺が悪い」


「え?」



 旭日の発言が理解できず、枝真は疑問符を浮かべる。



「だからお前を連れてきたくなかった」


「何が?」


 旭日の唐突な物言いに枝真は、首を傾げた。



「俺が無理ばかり言って、枝真を困らせてしまうのが分かっていたからな。お前に意地悪をするつもりでこんなことしたわけじゃないんだ。俺は、本気だから……っ」



 旭日は言葉を区切ると、枝真の頭に優しく指を滑らせた。



「素直にお前の身を案じて危険から遠ざけたいと思った。それは本当だ。でも、連れてきたくなかった理由はそれだけじゃない」



 枝真は、旭日に撫でられながら黙って耳を傾けていた。



「こういう状況になった時、自分を保てる自信がなかった。勢いに身を任せて、お前を傷つけたらと思うと、嫌われたらと思うと怖かった」



 「まあ、散々あんなことをしておいて、今更嫌われたらどうしようなんておかしな話だよな」と自嘲気味に笑うと、旭日は体を起こしてベッドの端に座る体制をとる。



「もう、変な事はしない。ここでお前が眠るのを見届けたら俺は部屋を出て行く。だから安心して寝てくれ」



 旭日が言うと、枝真が小さく首を振ってベッドに引き戻すように腕を引っ張った。



「私、旭日くんの事好きだよ。……それは、恋愛なのか何なのか自分でもまだよくわからなくて。でも、いきなり嫌いになったりとかそんなことはしないよ」



 「嫌いになったりはしない」の枝真の言葉に、旭日は安堵したように「ありがとう」と笑みをこぼした。



「だから、ベッドに戻って一緒に寝よう。寝るだけ……ね」



 もう一度枝真に腕を引かれ、旭日は「わかった。寝るだけ」と言ってベッドに戻った。

 旭日がベッドに戻り安心したのか、枝真は旭日を抱き枕のようにして抱きつくとギュッと目を閉じた。



「また、変な気起こしそう……」


「それは、駄目」


「お前、実はSなのか? そんなに密着されてると辛い……色々」



 枝真を軽く引き離すと、旭日は自分の腕を差し出して空いた手でポンと叩いた。



「旭日くん、何?」


「腕枕だったら大丈夫」



 旭日が、目を細め「おいで」と小さく誘った。


 向かい合わせの状態で枝真は、おずおずと自分の頭を旭日の右腕に乗せる。



「旭日くん」


「ん?」


「寝苦しくない? ……というか重くない?」


「暖かくて気持ちいいけど。枝真の体温。それと、重量も丁度いい」



 そう言って、旭日は目を閉じた。枝真もつられて一緒に目を閉じる。



「枝真、今日もしも一緒に来たのが俺じゃなくて壮介だったら……」



 旭日が、小声で枝真に尋ねたが既に寝息が聞こえてきていた。

 この一瞬で少女は眠りについたというのか。



 目を開けると、すやすやと気持ちよさそうに眠る枝真の顔があった。



「おやすみ……」



 旭日が目の前のおでこキスをしても、枝真はよく眠っていて起きることはなかった。

 




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