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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode22




 枝真は見つからないように、物陰に隠れて息を潜めた。なんとなく自分は呼ばれていないしこの場にいないほうがいいのかもしれない、と思ったので身を隠したのだ。


「で、俺を呼びつけてどうゆうつもり? まさか、俺にお見送りしてほしかった…… なんてことはないだろうし」


「気色悪いことをいうな……。今から、俺は家をあける。場合によっては三日……いや、一週間ぐらいか。戻ってこないかもしれない」


「何かトラブル?」


「同僚につけたワイヤータップが、まったく反応を示さなくなった。何か厄介な事件に巻き込まれているようでな。これから、援護しに行く」


「反発していた組織の人間を助けに行くの? 君も物好きだねぇ」


「同僚には向こうで色々世話になった。困っているなら助けたい。そこで俺が不在の間、お前に枝真の事を頼みたい」


「信用ならない俺に、枝真のことを預けるんだね。君が彼女を連れていくという選択肢もあるのに」


「出来る限りあいつを危険から遠ざけたい。お前と俺は今は協定を結んでいる。俺がいない間に組織の人間が枝真を襲ってこないという確証はないからな」


「まっ、わざわざ君に頼まれなくても俺は枝真の傍を離れる気はないけどね」


「頼んだぞ」


 鞄を肩に担いで、旭日は振り返る事もなく玄関扉に手を掛けその場を後にした。

 旭日の出て行った扉を暫く無言で見つめていた壮介は、ふう、と軽くため息を吐いて振り返る。


「……旭日くん、当分帰ってこないっていっているけど、どうする?」


 「そこにいるんでしょ? 枝真」と言いながら見透かしたような目を向けてくる壮介に、押し黙っていた枝真は、根負けして姿を見せる。


「壮介、ごめん私ちょっと内容聞いちゃった……っ」


「いいよ。どうせ意味わからなかっただろうしね……」


「旭日くん、危険な目に合うの?」


「わからないけど。その可能性があるから枝真を残していくと言っていたね」


「私も、旭日くんと一緒に行くといったら壮介は止める?」


「止めないよ。行きたかったらいけばいい」


「私、心配だし一緒についていきたい。もしかしたら何か役にたてるかもしれないし。絶対危ない真似はしないし」


「荷物をまとめておいで。今ならまだ自宅にいるかも。間に合うよ」



 壮介の言葉に、枝真はこくんと頷くとダッシュで自分の部屋へかけていった。


 残された壮介はやれやれとその場にしゃがみこむ。

 そして胸ポケットからチップを取り出すと、靴箱から枝真の靴を取り出し、靴底に貼り付けた。



 自室にかけあがった枝真は、旅行鞄をクローゼットから引っ張り出し衣類を片っ端から詰め込んでいた。

やがて、荷物の準備ができると急いで部屋を出る。

 後を追って階段を上がってきた壮介に、目もくれることなく横を通り過ぎた。


「もう、準備できたの?」


「うん! 壮介、春樹の事お願いね!」


「気をつけて」


 壮介の言葉を背に受けて、枝真はパタパタと音を立てて階段を下っていった。枝真の姿が見えなくなったのを確認して、壮介は少女の部屋へと歩いて行く。

 開け放たれたドアを見て、それに引き寄せられるようにゆっくり歩を進める。枝真の部屋は、泥棒でも入ったのかと思うぐらいに荒れていた。

 普段几帳面で、部屋を小奇麗に保っている枝真がこの有様で飛び出していったのだから、余程切羽詰っていたのが伺える。


 壮介は、部屋に滑り込むとベッドに向かう。

 そしてベットに腰を下ろし、そのまま倒れこむように仰向けに寝転んだ。


「約束、したのになぁ」


 小さく呟く白金頭の男の声は、伝えたい相手には届かない。


「ちょっと期待しちゃった俺も俺かな……」


 壮介は、自嘲気味に笑った。

 昼間、少女に言った「枝真がほしい」という自分の台詞を思い出していたのだ。


「枝真は、俺よりも旭日くんと一緒にいることを選ぶのか……」


 鼻から抜けるような、ため息をつく。

 気だるそうに体を起こすと枕に頭を持っていった。


「だけど、誰を選んでも。君は俺からは逃げられないけどね……っ」


 壮介は、髪の毛を耳に掛けた。

 すると耳元に、旭日が身に付けていたものとよく似たピアスが現れる。

 真っ赤な色をしたルビーのピアスが妖しく光る。

 それを壮介は指で軽く触ると、おかしそうにクツクツと笑い出した。


「絶対に……」


 そう小声で囁いた彼は、眼光鋭い狂気に満ちた表情をしていた。









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