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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
22/68

episode21




「そういうのビッチっていうんだよ」



 壮介が黒いダイニングチェアに深く腰かけて、足を組み、いつもの調子でそう言い放った。


(ビッチ?! 私の事?!)


 長年連れ添ってきた幼馴染についに言われてしまった衝撃の一言。


「静は、顔が良い男とみれば本当に誰にでも尻尾をふるよね。そういうのよくないと思うなぁ」


「えー。でも私、旭日くんも渚くんも両方タイプなんだもーん。あ、渚くんっていうのは、私と同じテニスサークルの男の子なんだけどねぇ」


「渚? 女みてーな名前の男だな」


「キャー! 旭日くん嫉妬してるのね! 安心して! 旭日くんが一番で、渚くんが二番目だから!」


「……そりゃどーも」


 しかし、よくよく聞いているとどうやら全然関係のない話であった。


(……びっくりしたぁ)


 枝真は、自分の心の内を見透かされたのかと思って一瞬取り乱したが勘違いだとわかって胸を撫で下ろした。


 壮介と静が言い合いをしていて、旭日も二人の間に入りちょっかいを出していた。

 しかし、何かに気づき動きを止める。


 旭日は自分の耳元を片手で押さえてしばらく考え込む。

 やがて、はっと思い立ったようにソファから立ち上がった。


「すまん、急用を思い出した。俺は帰る」


 てきぱきと帰りの荷支度を始めた旭日に、静は「もう帰るの~?」と悲壮な声を上げる。枝真も驚いた様子で旭日に近づいた。


「旭日くん、何かあったの?」


「ちょっとな……、野暮用だ。春樹には宜しく伝えておいてくれ」


 現在入浴中であろう、春樹の方を見つめてそう言うと鞄を肩にかけてドアの方へ歩き出した。


「へぇー帰るんだね。旭日くんは、泊まっていかないのかぁ。俺は、一晩お世話になるけど。ね? 枝真」


 からかう壮介に、旭日は真剣な顔で目配せする。リビングから出ろと意を込めて。

 すると、壮介はそれを察知したように自分もチェアから立ち上がり旭日の後を追うようにリビングから出て行く。


「二人ともごめんね、ちょっと旭日くんを玄関まで送ってくるから」


 パタンと閉められたリビングのドア。その場に取り残された、枝真と静はお互いの顔を見合わせて首を傾げた。


「なんであいつが、旭日くんのお見送りなのよ?」


「さぁ……? なんでだろう」



 静の問いに答えながら枝真は、何か嫌な予感がしていた。


 文句を言いながら、自分で髪にドライヤーを当て始めた静を見て、枝真もこっそりとリビングを抜け出し玄関の方へそろそろと歩き出す。


 玄関先では、腰を下ろして靴紐を結ぶ旭日と、その後ろで仁王立ちして旭日を見つめる壮介の後ろ姿があった。








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