表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラストエンカウント  作者: 豊つくも
21/68

episode20





 入浴を終えた枝真達はリビングに集まっていた。


 リビングで黒いダイニングチェアをつき合わせ、壮介が優しい手つきで枝真の髪の毛にドライヤーをあててくれている。

 その様子を旭日は、少し離れたソファの上でおもしろくなさそうに見ていた。


「んー、こんなものかな」


 じと目を向けてくる漆黒の髪をした男を壮介は横目でチラ見するが、そんなことはおかまいなし。

 目の前の少女の髪の毛を人差し指と親指を使って、一房ひとふさすくう。それを指で軽く揉んで「うん、おっけー」と熱風を放っているドライヤーの電源を落とした。


「壮介、ありがとう」


「どういたしまして」


 枝真は上機嫌で壮介にお礼を言って、席を立つ。


「静も、やってあげようか? 髪の毛」


 椅子を離れた枝真を壮介は見届けると、壁にかけてある鏡の前で一生懸命化粧水を頬に叩き込んでいる静に声を掛けた。


「冗談! 旭日くんがやってくれるんだったら喜んでお願いするけどね」


 こちらを見向きもせずに鏡と睨めっこしている静に、壮介は肩をすくめた。


「俺は、お呼びじゃないわけね」


 しかし、彼はまったく落ちこんだ様子もなく楽しげだ。


 ソファに座っている旭日はいきなり自分の名前を出され「なんで俺」という顔で迷惑そうに静を見る。

 鏡越しに視線に気づいた静がニヤリと笑うと、旭日の座っているソファに歩み寄ってきた。


「旭日くん! お・ね・が・い!」


 猫なで声を上げてソファに乗り上げ、静は旭日の腕に絡みついた。

 だが、その行為に旭日は眉根を寄せる。


「あいつにやってもらえよ」


「私は、旭日くんにやってほしいの!」


 旭日のつれない態度に、静は拗ねたように頬を膨らませるが、めげずにべたべたとまとわりつく。一歩も引く気はないという様子だ。


「わかった! やるからとりあえず離れろ」


 諦める気配のない静に、小さくため息を漏らすと離れるように促す。


「もー! シャイなんだから! くっついてると興奮しちゃう? ねえ! ねえ!」


「暑苦しいんだよ!」


 旭日はのら犬でも追い払うかのように手でしっしっと静を、あしらった。

 そして、ソファに少し感覚をあけて座りなおす。


「ほら、後ろ向け」


「はーい!」


 片手を大きく上げて言われたとおり静は旭日に背中を向けた。旭日に触れられたくて今か今かと待ち望んでいる。


 一連の流れを、壮介の傍で黙って眺めていた枝真は目を細めた。

 先ほどバルコニーで自分に対して、旭日が行った行動を思い返した。

 抱きしめ、あまつさえキスまでしようとしたのに。


 今は別の女とよろしくやっている。


 まとわりついているのは静の方だが「やめろやめろ」という割に好き勝手触らせているのも事実。

 本当に嫌だったら突き飛ばすなりなんなりすればいいのに……と枝真は自分自身でも驚くほどに凶暴な気持ちに駆られていた。


 しかし枝真だって、壮介に事あるごとにちょっかいを出されているし。旭日だけ責めるのも何かおかしい。


 というか、特別な関係でもないのに何か言えた義理ではないのだ。


 そして、特別な関係でも無いのに、ああいうことをしてくる旭日と、それを受け入れようとしていた自分って……。



「ビッチなんだよ」



 悶々と脳内で葛藤を繰り広げていた枝真は、突如隣から聞こえてきた壮絶な言葉に、はたっと我に返った。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ