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ラストエンカウント  作者: 豊つくも
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episode9



「ほぉ……。君は、組織を裏切るということだね?」


 嫌な薄ら笑いを浮かべる壮介に、旭日の眉尻が跳ね上がる。


「俺が組織の一員として動いていると思っているならそれは間違いだ。俺は独断と偏見で今ここにいる」


「つまり、組織からは命令を受けていないのに俺を捕まえにきたわけか……。まあ、俺が枝真に手を出す機会をうかがっている、それはまだ先のことだよ。オリジナルは今とても安定している。枝真にはもう少し可愛い俺の幼馴染として生きていてもらうつもりだよ」


 壮介の手が枝真の前髪をサラッと撫でる。それを見た旭日が乱暴に壮介の手を払いのける。


「触るな! 枝真は、お前のおもちゃじゃない! ……俺は、お前も組織も間違っていると思ってる。枝真は、どちらにも渡さない」


 語気を強める旭日に、喉の奥で押し殺すように笑う壮介。


「ふーん。どちらにも渡さない、ねぇ……。随分君は枝真に肩入れしてるみたいだけど、枝真のことを好きになってしまったのかな? 枝真は、オリジナルに似てとてもスタイルがいいよ。胸も大きいし、下の方も……女性として君が意識してしまうのも仕方の無いことかもね」


「くだらないことを言っている暇があったら自分の身の危険を心配した方がいいぞ。組織は枝真だけでなくお前も処分しようとしているんだからな」


「昼間、君と枝真を黒い車が追いかけていたね、君は捲いたようだけど。組織は確実に動いてきている。枝真はストーカーに怯えていたけれど、どうも組織が尾行していたようだ。俺と君が争っている間に組織に枝真が殺されてしまう、なんてことも……あるかもしれないよね」


「そんなことはさせない。俺が枝真を守る」


「守るなんて言うのは簡単だけどさぁ、君ひとりで枝真を俺と組織から守りきるのって結構リスキーだと思わない? 二十四時間張り付いていられるわけでもないし」


「リスクなど覚悟の上だ。最悪俺が住み込みの家庭教師ということにして枝真の家に転がりこんでもいい。それでも足りないようなら、学業は一通り終えてこちらにきているから大学の講師に転職するのも手だな。生半可なきもちで俺はここにいるわけじゃない。どんな方法を使ってでも守り抜く」


「まあまあ、そう力まないでさ……。ものは相談なんだけど。ここは一時休戦ということで、俺と暫くの間は協定を結ばない? 俺も今枝真を殺されてしまうのは色々と都合が悪いし……。君は枝真を守りたい……。利害は一致してるだろう?」


「お前は信用ならないからな。それは、ごめんだ」


「そこは信用してよ。君も組織の一員なら俺の目的を把握しているはずだ……。レプリカはオリジナルの危機にしか使いどころがないことをね」


「お前を信用したとして、裏切らないという保証は?」


「信用してもらうしかない、としか言えないけど。旭日くんはそれじゃ納得してくれそうもないしなぁ」


 壮介は、ふところから拳銃を取り出すと旭日に手渡す。ブローニングM1910だ。


「弾丸が装填そうてんされている小型自動拳銃だ。もしも、俺が裏切るようなことがあったらそれで頭を打ち抜いてくれよ。護身用に身に付けていたものだけど君にあげるよ」


「今ここで、俺がお前の頭を打ち抜く事も可能だがな」


 黒光りする銃を壮介に向ける。旭日の指は、しっかりと拳銃の引き金にかけられていて、銃口は確実に壮介の頭部を狙っている。


「君たちの所属している組織は、常にデリケートな現場を舞台に活動していると聞いたよ。ターゲットの犯行現場を押さえなければ、取り締まることも、殺処分することも認められないはずだ……。すなわち、俺が枝真に手を下さない限り君は俺を殺せない。……いや、言い方を変えようか、殺す権限がない。かな」


 銃を向けられているのにも関わらず、冷静沈着に受け答えをする壮介。普通ならここで命乞いをしてもいいはずだが、壮介はまったく恐れる様子はなく、ただじっと銃を向ける旭日から目を逸らさない。


「……壮介、俺はお前を信用したわけではないし、枝真にしたことは許せない。だが、当分の間友人ごっこにつきあってやるよ。枝真もお前との今までの関係を全てなかったことにするのは今すぐには無理だろう。ただ、少しでも変な真似をしてみろ、お前を撃ち殺す」


 強い口調で旭日は言い放ち、人差し指にこめていた力を緩めると、カチャリと音を立てて拳銃をおろした。


「……交渉成立ってことかな」


「……」


「それじゃあ、旭日くん。これから限られた期間、友人として仲睦まじくやっていこうじゃないか。よろしくね」


「友人ごっこはあくまで〝ごっこ〟だ、お前と馴れ合う気は無い」


「……はいはい、わかったよ」


 旭日が、また拳銃を構えそうな勢いだったので、壮介は両手を上げて降参のポーズを取る。

 そんな中、何も知らない枝真は旭日の腕の中で安らかな顔をして眠っていた。






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