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7start  作者: 蒼ノ下雷太郎
RUN
8/20

RUN!

 VR


 プログラム1が、当初計画していたストーリーはこうだ。


 主人公・九鴉(くろう)は地下都市に絶望している。

 そんな彼が唯一、希望となるものを見出す。

 それがツバサ。

 だが、彼女は処刑されそうに――


 と、ここで九鴉が颯爽と登場し、救い出す。ここまでは完璧だったはずだ。

 九鴉一人だったら、問題なかったのだ。

 だが、五人も現れた。

 しかも、その五人というのが一人残らずクセ者揃いで――


「そもそも、九鴉ってのがよく分からないんだけど。あいつ、絶望してたの?」

 プログラム1と2の間に、3が割り込む。

 プログラム2がツッコミを入れる。

「それは冒頭からそうだったろ」

「冒頭?」

「ノザキ邸を襲撃したときからだよ」

「……?」

「あーもう、分からないかな。あそこで、何故バードスターが出たかというと!」

「ちょっと、そこまで説明しなくても」

 プログラム1が慌てて止める。

「だが、こいつは何も分かっておらん! ストーリーの裏にあるものを読み解こうと思わないのか!?」

「えぇ、行間を読むってやつ? いや、読んでるつもりなんだけどな。こう、まじまじと」「――っ」

 まぁまぁ、とプログラム1が2と3をなだめる。

(だが、彼みたいなのは一人や二人じゃないな。九鴉に共感できない者がいるのも確かだ)

 プログラム1は密かに、アクセス解析を使い、テレビ番組を見た観客がどういう反応をしたのかを探る。


(……ふむ、あいつは人殺しが嫌だって割にはあっさりと人殺すよね、か)


 それが、九鴉に共感しない理由らしい。

 いや、それは早い段階から提示してるはずだが。

 しかし、とプログラム1は思考する。

(悪くない展開か? 丁度、九鴉がどういう人物なのか。見直す機会だ)

 人の本質は、追いつめられたときにこそ光る。

 プログラム1は人間のように体があったら、きっとほくそ笑んでいただろう。

「だって、九鴉ってようは俺TUEEEEEでしょ。人類史でちょっとだけ流行った」

「だーかーら! 違うんだって、あいつは」

 2と3がまだ言い合っているが、プログラム1は無視して作業に入る。

(丁度いいさ。問題となる人物は他にもいるが、まずは九鴉が何者かを探る話にして――それから)


 023


 五番街。

 楽園教内部は白亜の建物が林立し、薄汚れた地下都市ではかなり異質だ。

 人類史でいうなら、エーゲ海に面したギリシャのサントニーニ島の町並みに似てるかもしれない。

 いや、五番街はどこも平坦な町並みで、建物もシンプルな外観だけじゃなく、装飾や構造に凝った西洋建築風の建物も数多く見受けられるなど違いももちろん多いのだが。


 今、五番街で最も人が集まるここも、ローマ・コロッセオを模した円形の外壁がある大広場で、観客席がない代わりに人々のいる空間は広く、その奥には二階建てほどの処刑台があった。

 即席で作ったと思われる木製の処刑台。ここで、二人の若者が処刑されるはずだった。そばには、楽園教の最高権力者であり、処刑を命じた教祖も在籍している。彼は命令した。

 殺せ、と。

 二人の若者。一人は少年で、一人は少女。

 二人の兵士が、彼らを処刑するはず――


//[system_on][revise_check]

プログラム1:「しまった。兵士じゃなく、騎士だった」

プログラム2:「おい、気をつけろ。普通だったら一大事だぞ」

プログラム1:「申し訳ない。訂正、訂正」

//[system_on][/revise_check]


 二人の“騎士”が、彼らを処刑するはずだった。


 024


 観衆は息を呑んで鑑賞していたが、段々ととんでもないことが起きてるのに気づき、ざわつきはじめる。


 騎士は今、宙を飛んでいる。


 サーベルで少女を殺そうとしたときだ。

 サーベルは何かによって弾かれ、その後、銃声のような音がして刀身が折れる。その次に黒ずくめの少年が降りて、騎士を一人投げ飛ばす。「何事か!」と慌てたもう一人は、大男が現れて殴り飛ばされた。次に――小柄な機械族と、金髪の少年が駆け上がり、処刑台の上に到着。

 最後に、褐色肌の男が処刑台を登ってきた。


「何だ、貴様等は」教祖は拡声器も忘れて地声でつぶやいた。


「……君達は?」ツバサ――処刑されそうだった少女はたずねる。

 処刑台の上に突如現れた五人は、彼女を守るように円で囲んだ。

「他はどうか知らないけど、僕は守るために来た」五人の内の一人、黒ずくめの少年は答えた。

 彼の名は九鴉――。


 025


 楽園教にある武力集団は大きく分けて三つ。

 一つ目は、内部の治安維持を担当する『教団警察』。

 主に教団内部の治安維持を担当し、厳しい目で団員(主に下等団員)を取り締まる。

 二つ目は、『騎士団』。


「何て、罰当たりな奴らだ」神聖な処刑台をふみにじっただけじゃなく、自分らに恥をかかせたと憤る。「重罪だ」


 背丈は並より少し高い程度だが、彼のけわしい表情はそこら辺のチンピラを黙らせるほどだ。目つきが悪く、いつもにらんでるかのよう。前頭部はやや髪がうすく、全体的に見ると寂しい、足りない、がんばれ、と言いたくなる頭。

 彼の名は、ダンネル・ローツ。由緒正しき二等団員であり、三十代半ばにして騎士団の団長を務める猛者である。


<kishidan>騎士団</きしだん>

楽園教の最高武力とされている武力集団。

教団内部の治安維持を担当する『教団警察』とは違い、

外部に対する治安維持。楽園教だけじゃなく地下都市の平和まで守るのが彼らの役目だ。

彼らの能力はかなり高く、上等団員の中でも選りすぐりのエリートだけが入団できる。

<word>●</word>


 ダンネルは、大広場の中央で警戒にあたっていた。

 本来なら、彼らの存在が抑止になり、実際どんな敵が現れても万全の準備をしていたはずだ。

 だが、彼は一連の光景を黙って見届けてしまった。

(……頭に妙な光景が入ったからだ)

 彼の中のプライドが傷つき、下等団員には理解できない香水くさい情熱が燃える。

「許さん、許さんぞ!」

 処刑台に残った教祖様は、ダンネルの怒りを代弁するかのように叫んでいる。

 周りはざわついている。

 ダンネルのことは目に入ってないし、耳もかたむけていないが。


 026


 最初にクチを開いた少年――九鴉は長身痩躯だが、顔立ちはキレイすぎて一見頼りない。

 しかし、彼の雰囲気はどことなく鋭いものを感じさせる。

「おい貴様等、一体何なんだと聞いて――」教祖が聞くがみんな無視。

「私もそうだ」メガネをかけた褐色肌の男がしゃべる。「守るために来た。この少女をな」

 と、ツバサに視線をやった。

 彼の首には、黄色い首巻きがしてある。

「は?」九鴉は突然声色を変えた。「貴様が人助け? 信用ならないな」

「……知り尽くしてるかのような口ぶりだな」褐色肌の男は聞く。「私に何か恨みでもあるのか。大体、キミが誰かも分からないのだが――」

 九鴉は動いた。

 男も反応したが、九鴉が一、二回フェイントを混ぜるとついていけず易々と背後を取られ手首をねじられ、足下に叩きつけられる。

「やめて!」ツバサは叫ぶ。「……あ、あぁぁ、きみの苦しみは分かるけど」

 彼女は動機を知ってるかのように話す。

 しかし、九鴉年は止めない。怒り心頭で彼女の言葉も聞いちゃいない。

「三番街の族、『(ファイブ)』の九鴉だ」九鴉は手首を強くにぎりしめながら言う。「お前等に何もかも奪われた、な」

 その瞬間、Vを知ってる者は絶句した。

 三番街の族『V』。

 これまで、ある勢力に占領され続けた三番街だが、最近はある新興勢力によって奪い返されている。三番街の族『V』は、その奪い返した新興勢力のことだ。

「――なる、ほど」男は顔面を強く押し付けながらも、納得したかのような顔だ。

 褐色肌の男、彼の名はDORAGON。

 四番街の族『(きば)』の副リーダーであり、参謀役。

 そして、九鴉の住んでいた三番街を下部組織に襲わせ、長らく占領していた原因の一人でもある。

「何故ここに来た。貴様、また何か企んでるのか。楽園教に対抗するため、この子を利用しようとしてるのか、この蛮族」

「やめてください、その人は違うんです、九鴉さん」さっきからツバサは、二人のことを詳しく知ってるかのように話に割り込んでくる。

「答えろよDORAGON」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 と、突如大男が雄叫びを上げる。


 027


「何だ何だ!?」      

                      「怪物の声か」

   「うわぁっ!」                   

                           「耳がっ!」

       「ぎやあああああああああっ!」

 観衆は耳をつんざく絶叫を聞いて、鼓膜に強い衝撃を受けた。

 ある者は耳をふさぎながらうずくまり、中には泣いている者もいる。

 白亜の建物すら震撼し、騎士団の者も数名が打ち震えていた。

 だが逆に、耳もふさぎもせずず凝視している者もいた。

「何をやってるか、総員配置につけ!」騎士団団長のダンネルだ。


 028


 大男は右腕を上げて、そのまま九鴉達に殴りかかった。

 ガラスが割れるような破裂音が響き、DORAGONだけが吹き飛ぶ――が、その身は何故か空中で停止した。


「き、貴様っ……何をして」DORAGONは現状が理解できないながらも、己の傷を確かめる。

「………」九鴉はというと、すばやくその場から離れ、大男と距離を取っていた。


 大男は、オレンジ色の布きれ一枚を腰に巻くだけという原始的な格好だ。全身の筋肉は鎧のように固く、大木のように太い。全身にみなぎる生命力が鮮明で、処刑台を見上げる観衆でさえ言葉を失うほどだった。

「何故さっさど殺さないだ!」

 彼は声を張り上げた。

「は?」自分に聞いたのか、と九鴉は疑問符を浮かべる。

「お前に聞いでるだ。この根暗!」九鴉の目が鋭くなる。「せっかく戦って、トドメというときにクチばかり開いで殺そうどしない。戦士として失格だ!」

 いや、失格と言われても。

 しかも戦士って。

 九鴉はしばし言葉を咀嚼してみるも、やっぱりわけが分からないと吐き捨てた。

「意味が分からない。……ったく、これだから六番街は」思わずつぶやいた。

「なっ!? 今のは六番街をバガにしだのが!?」大男はまた拳を振り上げる。「オラならまだしも、故郷を侮辱するど怒るど! 六番街が最強の戦士、陸王丸の拳を受けるだ!」

 大声を張る割には、九鴉にとってはゆっくりな動きだった。

 彼は難なくナイフを取り出し、拳を避けたのちに斬り殺そうと――ナイフが弾かれた。

「んだっ!?」

 大男の拳も途中で止まった。

 拳が、見えない壁にぶつかったかのように弾かれたのだ。


 なにヲヤッテル、おおばかどもガ。


 小柄な機械族は、空間に文字を表示させた。

<check>

 機械族は口頭で話さず、いつも機械を用いて空間に文字を表示させる。

</check>

 さらに付け加えると、左手の中指を突き出してFUCKという文字まで表示している。

「……何、それ?」英語は少ししか知らない九鴉は首をかしげる。

「???????」英語がほとんど分からない大男――陸王丸は疑問符ばかり並ぶ。

「おい、こらガキ。全員が馬鹿だと思ってるんじゃねーぞ、Fuck you, asshole(死ね、アホ野郎)」

 DORAGONが処刑台にもどる。

「貴様等、わたしの話を聞け!」教祖がまだ何か言っている。今度は拡声器まで使っているが。

 DORAGONは小柄な機械族とにらみ合う。

「私を助けたのはお前か? そのことに関しては感謝するがお前が言った大馬鹿ってのは」


 ばかヲばかトいッテ、なにがわるイ?


 DORAGONの口元が怒りで震える。

「機械族が……得たいの知れない集団だとは思っていたが、やはりどことなく排他主義だな」

「僕は馬鹿じゃないぞ」九鴉も九鴉で怒っている。DORAGONはもちろんのこと、陸王丸と小柄な機械族に対しても怒りを覚えた。

「オラだっで――こりゃ、まずはこっちを済ませなきゃならねーとな」


 ホントばかバッカ。コノママジャこうげきサレルダケナノニ。


 小柄な機械族は親指を下に向けながら言った。

「だっだら、ふざけだ言葉を浮かべんじゃねぇ」どう馬鹿にされたか分かってないが、とりあえずむかついている陸王丸。

「私だって喧嘩するために来たつもりじゃないが。だからといって寛大な心を持つとは」クールを装ってるようで、内心怒り心頭のDORAGON。

「……僕も信用できない奴と組むつもりはないしな」九鴉はナイフを取り出す。

「やめてよ!」ツバサは叫んだ。「あ、あなた達は何しに来たんですか。守るためにって言っておきながら喧嘩して!」

 喧嘩というより、殺し合いの準備だ。

「………(がくがくっ)」

 金髪の少年。青いパーカーを着て、細い袋を持った彼は隅っこで震えていた。


 029


 騎士団団長、ダンネルは眉間にしわを寄せて処刑台を眺めていた。

「何を遊んでおる……」

 処刑台に現れた五名は円を囲んでいがみあっている。何しに来たんだ。処刑を止めるために来たのではないのか。


「わたしの話を聞けぇっ!」


 何より許し難いのは、楽園教のシンボルでもある教祖をシカトしていること。

 あのまま殺されるよりかはマシだが、ダンネルの拠り所である楽園教自体を馬鹿にされてるようで心底腹が立った。

「下等団員にも告げよ。すぐに警戒Cのサイレンを鳴らす。乱入者を許すな」


 030


「………」ツバサと同じように処刑されそうだった少年――ダイチは現状が理解できていなかった。

(あの人――Vの人だったんだ。いや、それだけじゃない四番街のあのDORAGONもいるし、六番街の戦士もいる。さらに、機械族。あの金髪の少年はどこか分からないが……すごいメンツじゃないか)

 地下都市で名高い族が勢揃い。本来なら、拳を向かい合うのは変なことではない。そもそも、こんな場に一同が集まるのがおかしいのだから。

(どいつもこいつも、ただ者じゃない。六番街は屈強の戦士ばかり、機械族は未知のテクノロジーを持ってるし。牙の参謀役は言わずもがな。そして、三番街の族は敵を殺してバラバラにして街に撒くという残虐非道の集団)

 ダイチはガチガチッと恐怖で歯を鳴らす。


「私はそこの九鴉に謝罪するつもりはない。どうせ、謝ったところで許されるものではないし、私も後悔してるわけじゃない」その言葉に九鴉のこめかみがピクッと動く。「だが、ここで素直に死ぬわけにもいかない。せめて、まずはその子を助けてからにしないか」

「その前に、オメェはオラが殺すだ」陸王丸が割って入る。「そもそも、オメェ! 昼間に戦った奴らじゃねーが!」

「……あ」九鴉はクチを大きく開けた。「もしかして、あのときの」

 ツバサが巻き添えを喰らって死にそうだった、あの事件。

 そう、あそこで暴れていたのはこの陸王丸だ。

(――っ!?)ダイチは途端、恐怖でふるえる。

「あなたが」ツバサは目をしばたたかせる。

「……あのときも、キミは私に「集団でいるとは卑怯な奴だ」とつっかかって来たよな」

 それを聞いて、一同が「は?」となる。

「当たり前だ! 集団でしか戦えないなんて、戦士の誇りもねぇ!」

 いや、それって族の存在そのものを否定してるし。

「というか、ちょっと、喧嘩してる場合じゃ!」ダイチが慌てだした。辺りがざわついて、物騒な掛け声も聞こえてくるのだ。


「何をしてる。早くこやつらを捕らえろ! 殺せ、殺せぇ!」教祖も血気盛んだ。

 ダイチだけがそれに反応して怖がっている。


「知らねーだ。そもそも、そこの根暗がはじめだことだ」陸王丸は拳を打ち付ける。

「……きみはどうでもよかったんだけど、そうはいかなくなったらしいね」九鴉は目がぎらつく。

「説得すればとも一瞬考えたが、無駄なようだな」DORAGONは肩をすくめる。

 ばかバッカ、小柄な機械族はため息をついた。


「もう、みんなやめてください!」

 ツバサの想いが見当違いの方に届いたかのように、処刑台に向かって攻撃が放たれた。


 031


 小柄な機械族以外にも、観衆の中に紛れている機械族がいた。

「………」

 辺りには、白いタンクトップの老人や、親子連れの者――とバリエーション豊かだが、機械族は一貫して緑一色。緑のフード付きロングコートと顔にガスマスクだ。

 処刑台にいる小柄とは体格だけが違う、そこにいたのは大柄な機械族。

 そして、その大柄なののうしろにも機械族が三名いた。

 おそらくは、三名とも女性の機械族だろう。シルエットは細く、背丈もそこまで高くはないし、胸もふくらんでいる。

「………」

 彼らがクチを開くことは、まずありえない。ガスマスクを取ることもしない。

 だから、彼らが何を考えているか全く分からないし、知る手段もない。

 だが、その光景を黙って凝視していた。


 処刑台を、竜巻が襲った。


 032


「………」

 四鹿は教会の天辺から、それを眺めていた。

 魂が抜けたかのようだが、それでも九鴉の危機を見つめていた。


 処刑台に放たれた直線上の竜巻――騎士団団長ダンネルが放ったそれは、うなりを上げて回転し、大砲のようにうがたれた。観衆も大勢巻き込み、中には余波だけで死んだ者も発生した。

「騎士団、戦闘用意!」

 それを見て処刑台の上で悲しむ者もいたが――それだけじゃない。陸王丸は雄叫びを上げて処刑台から跳んだ。


「ウダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 彼は右腕を突き出し、竜巻を暴風で押し返す。


 033


 竜巻は同じ威力によって相殺され――弾かれた風が辺りに流れ、観衆が悲鳴を上げた。

「あぁぁぁっ――」それを見ていたツバサは嗚咽を上げた。

 感情が、一斉に伝わる。

「……何だ、この感情は」それをDORAGONは神妙そうに見つめた。「もしかして、これがお前の能力なのか?」

 彼の脳内には、自分のものとは思えない悲哀の念が涌いていた。


 処刑台の隅で金髪の少年は泣いていた。

「うぅ……(何でボクがこんなとこに。こんなはずじゃ――)」

 ただ、あの空を見て体が動いただけなのに。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 陸王丸の絶叫と竜巻の衝撃が拡散し、辺りに流星群のように降り注ぐ。

 処刑台もあおりを食らった。柱の数本が壊れたようで、ガタッ――とバランスが崩れ、次に柱の全てがひき裂かれ、落下する。

「……おい、そこの機械族とビビリ」DORAGONは落下しながらも、小柄な機械族と金髪の少年に聞く。「お前等の名は?」

 119204号

 と、機械族は空間に表示させた。それを見てDORAGONは「そうか、色々と言いたいことはあるがよろしくな、119204号」と語る。

<check>

 機械族は、全員(~号)とまるで機械のような名前である。どういう意図かは不明だが、何らかの信念があるのだろう。

</check>

「……ぁ……その……」隅にいる少年は答えずらそうにするが。

「ちゃんどしゃべろ! それでも戦士が!?」陸王丸が不満の声を上げた。無駄に耳がよいようだ。

「……え、そ……その……」

「名前は、『イナズマ』ですね?」彼をフォローするかのように、ツバサが話に割り込む。

 だがそれは、誰も知らない情報のはずだ。金髪の少年、『イナズマ』は目を見開く。

「……すいません。頭に、入ってきましたので」ツバサは申しわけなさそうに頭を下げた。


「うわあああああああああああああああああっ!」ダイチは一人、恐怖で絶叫していた。ある意味、この中じゃ一番マトモだ。


 DORAGONは渋い表情をする。

「お前の能力は――」ダイチを無視してツバサの能力を考えていた。

 と、あまり時間はない。全員、落下してる最中だ。

「おい、そこの根暗」「殺すぞ?」

 九鴉は即答する。

「殺したいときに殺せ。それだけのことをした。自覚はしてる。……だが、今はホントに勘弁してくれ。でなきゃ、この少女を逃がすこともできない」

 DORAGONは九鴉を見て言う。

「あんたを信用しろと?」九鴉は訝しげに聞いた。「ここに来たのだって、牙の利益のためじゃないのか」

「違う」即座に否定した。「ここに来たのは、あの空に釣られてだ」

 その言葉に、九鴉は沈黙した。

「………」納得したわけじゃない。だが、その言葉を否定できるワケでもない。

 何故なら、彼も同じ理由で来たのだから。

「「………」」

 どうやら、他の二人も同じ理由だそうだ。

「それぞれ族も思想も違うが、これだけは一致してるな」

 DORAGONのつぶやきに、否定の声は聞こえない――

「オラはちげぇ! お前等などと馴れ合わないど!」何しに来たんだよ……と、一同はため息をついた。「オラはオラで勝手にやる! 勝手に生き延びろ!」

「そうさせてもらう」DORAGONは呆れながら言う。


(こいつら――今落ちてるんだってのに!)ちなみにダイチはというと、落下の恐怖で死にそうだ。


「………」ツバサは処刑されそうだったとこを助けてもらったのに、困惑していた。

 何なんだ、この人達。

 さっきまで殺す気マンマンだったのに、急に戦いを止めて協調し出した。

 いくら地下都市が殺伐としてるとはいえ、変化の適応がありすぎる。


 だが、事態はツバサの事情など関係ない。

 処刑台が崩れる。


 034


「……へっ、楽しそうにしてんじゃねぇーかよ」


 処刑台から遠く離れた場所で、五狼は一連の光景を眺めていた。

 白亜の建物になじめない黒ずくめの格好。Vのロゴが描かれたジャケットを着ている。

「九鴉も、やりたいことをやってる。じゃあ、オレ様も――だろ?」

 彼は行動を開始する。


 036


 五人は、それぞれバラバラに散った。


 DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――


 サイレンは警戒C。

 下等団員だけじゃなく、上等団員などエリートも大量に投下される戦いの合図。


 next-RUN!!

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