瞬巡
美しい春の言葉を紡げなくなったのはいつからだろう。
あの頃は、青春をそのまま文字にしただけのような、そんな拙い文章だって書けた。
私はいつから愛やら恋やらいうものが分からなくなったのだろう。
いつからか、この指先から紡がれるものは死やら生やら、そんなややこしいものばかり。
透明感のある、あの昼下がりの日曜のような香りのする言葉達。
あれらをいつから胸に抱けなくなってしまったのだろう。
都会に焦がれ、出てきたはよいが
あの広大な丸い地形を思い出させる田舎に戻れば
太陽に洗い流されるかのように静まる骨や地を
失ってしまった私は果たしてこの道で正しかったのかどうかを問うてしまう。
誰ぞ答えをくれるわけでもないのに。
空の狭さと星のなさ、虫達の鳴き声。
あれらは全てあの場所にしかないものだった。
コンクリートの暑さを肌に項垂れながら私は何故ここに来た。
笑う友はここにはいない。
後悔なんてものは、しながら自覚できるものでもなく。
冷たい風を肌に感じながらあるくビルの隙間は、ゴミの臭いで溢れかえっている。
目だけは笑わないあの人。
彼は何を思っているのだろう。
じっとこちらを見つめる少女。
彼女はいつ笑うのだろう。
私を見て笑うもの、私を見て嘆くもの、私を見て怒るもの、私を見て呆れるもの
全てのものがはりぼてのように固まって
薄っぺらく倒れてゆく。
さざ波のようにとめどなく形を変えてゆく都会の喧騒は、私を。
私を波に連れてゆく。
私の帰る道はどこなのだろう。