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NDA08

小説のタイトルを若干変更しました。

『 Non Division Adventure 』

名前の通り、終わらない冒険の始まりです。





英語の文法的にはツッコミどころ満載ですが、そこはご愛嬌ということで。

「ユーリっ!!」


「わかってる。カジ、そっちは任せたぞ!!」


「おう、おめぇもヘマするなよ」


 夜の平原で狼狩りをしていた三人は突如と現れた狼の群れに襲われていた。三人を囲むその数は少なくとも30体を越えている。そして、囲まれていると気付いた時には既に手遅れだった。


「うーん、まさか、ここでモンスターハウスに引っかかるなんてね」


 普段は滅多なことでは動じないノエルも苦い顔を浮かべていた。モンスターハウスとはその名前の通り、モンスターが大量に配置された部屋やエリアのことで、パーティーを組んでいても下手をすると全滅しかねない危険なトラップだった。初級者向けのエリアということで油断していたことも含めて、状況はかなり悪かった。


「ちょっと油断し過ぎてたってことかな。とりあえず、二人ともこの隊形を維持して」


 後衛のノエルが前衛の二人に指示を出す。即席の陣形だか、単独で戦っては数で勝る狼達に各個撃破されることは目に見えている。一対一なら負けることはないが、数の暴力はやはり侮れない。この場を切り抜ける為には三人の連携が必要不可欠だ。


「ちなみに、二人とも使えそうなスキルは?」


「ない」


「俺も」


 二人は即答する。予想通りの答えにノエルは独り、ため息を漏らす。


「とりあえず、私が弓と魔法でできるだけ数を減らすからそれまでは私を護りなさい」


「任せろ」


「了解。というかノエル、魔法スキル持ってたのかよ、ずりぃ」


「うるさい。話があるなら後でいくらでも聞いてあげるわよ……っ!!」


 放たれた矢が前衛二人の間を駆け抜けて、目の前の狼の眉間に突き刺さる。モンスターにはそれぞれ急所が設定されていて、そこを攻撃することができれば攻撃力が低くても一撃で倒すことができる。そして、動物系の急所は基本的に頭だった。急所を射抜かれた狼はそのまま光になって消えていく。


「まずは一匹……二人とも、来るわよ!!」


 仲間がやられたことに激怒したのか、三人を囲んでいた狼が唸り声を上げながら次々に飛びかかってくる。


「くそ、こいつら!!」


 ユーリは飛び掛かってきた狼を右に避けて、擦れ違いざまに狼の横腹を切り裂く。その一撃で襲いかかってきた狼は光に消えた、しかし、狼達の連撃は止まらない。ユーリに休む間を与えずに、狼達は次々に襲い掛かってくる。


「ちっ……【二段切り】」


 昼間の間に習得した【技】を使って、ユーリは二匹の狼を同時に切り裂く。本来は一体のモンスターを一度で二回攻撃する技なのだが、そんなことに構っている余裕はユーリにはない。


「ユーリ、どいて!!」


 ノエルの声に反応してユーリは後方に飛んだ。そして、次の瞬間、そこに眩い閃光が炸裂した。雷属性の初級魔法の中の一つ『フラッシュ』である。威力は低いが、相手の視覚を一時的に狂わせる付加効果を持った魔法である。


「二人とも、今よ!!」


 ノエルの声よりも先にユーリとカジカは狼に切りかかる。フラッシュの効果は4秒しか持たない。一瞬一秒たりともも無駄にするつもりはなかった。目が眩んで動けなくなっている狼達の弱点()を狙ってユーリは剣を振るう。一匹目、二匹目は容易く仕留めることができたが、三匹はユーリが剣を振り上げると同時に、飛び掛かってきた。


「っ!!」


 狼の渾身の体当たり。VITの低いエルフではその攻撃を受け止めきることができず、ユーリはそのまま押し倒されてしまう。そして、狼の鋭い牙がユーリに襲い掛かる。しかし、次の瞬間、その眉間に矢が突き刺さり、ユーリの上の狼は光と消えた。


「おい、無事か」


 カジカの鋭い声。見るとユーリのHPが2/3程度に減少していた。


――――うわ……予想はしてたけど、やっぱ、弱っ……


 フランに仕立ててもらった服のおかげで並の防具以上の防御力はあるはずなのだが、エルフは元々のSTRが圧倒的に低い為、人間が着たときほどの防御力は期待できない。おそらく、今のユーリの防御力は初期装備の人間とほとんど変わらない。これ以上、攻撃を受けることはできなかった。


「あぁ、なんとか。そっちは?」


「大丈夫だ、問題ない」


 カジカのHPバーは一割ほど減少していた。しかし、それを気にする様子もなく、カジカは狼にナイフを向ける。フラッシュのせいで勢いを挫かれた狼達は先ほどよりも距離を取りながら、三人を囲んでいた。今の攻防で、倒した狼はカジカとノエルの分も合わせて7匹である。半分とまではいかないが、かなりの数を倒すことができた。希望が見えたせいか、カジカの表情がわずかに緩む。


「なんとかなりそうだな……」


「油断しないで。狼は仲間を呼ぶことがあるから、安心できないわ」


 矢を(つが)えて、ノエルは狼を睨みつける。残る狼は二十匹弱。今と同じ手を使えば二回か三回で倒せるはずだが、距離を取られているせいで、すぐには近づけない。フラッシュの効果時間を考えると、反撃を受ける危険(デメリット)のほうが大きい。しかし、下手に長引かせて、仲間を呼ばれると数で劣るユーリ達の方が不利になる。


「いっそのこと、突撃してみるか?」


 カジカが提案してみるが、ノエルが反対する。


「ダメよ。各個撃破に持ち込まれるのが目に見えてる。あぁ、もう……タンク役がいればいいのに……」


 タンクとはPT戦において敵の攻撃を引き受け、仲間を護る役である、いわゆる、殴られ役ではあるがタンク一人に攻撃が集中するため、他のメンバーが攻撃に集中できるので欠くことのできない重要なポジションだ。タンク役のキャラクターはその役割上、他の追随を許さない防御力や高いHPを持っている。逆に、それらが揃っていないとタンク役にはなれないことを意味している。エルフのユーリとノエルはもちろん、人間であるカジカもタンクの役割を果たせるだけの能力はない。


「でも、このままだとこっちが不利になる。いっそ、ばらけて、相手を分散させたほうが……」


「忘れているようだから言ってあげるけど、私の防御力はユーリ以下なんだからねっ!!」


 普段は冷静なノエルが珍しく叫ぶ。ユーリと同じくエルフであり、かつ後衛職であるノエルの防御力は三人の中で最も低い。しかも、武器は弓。雷属性の魔法が使えることを加味しても、単独戦に向いているとは言い難い。


「あぁ、もう……仕方ないか……今から、あいつらに大きいの(魔法)を一発打ち込むから、それまで二人でどうにかしなさい。スキル【乾坤一擲】発動」


 そういうとノエルはすぐに詠唱に始める。すると、足元に雷属性を示す紫色の魔法陣が広がった。魔法陣が広がるのは中級魔法以上であり、今のノエルが使えるはずのない魔法である。しかし、ユーリの目の前には間違いなく、魔法陣が広がっていた。あふれ出た魔力が稲光のように迸っていた。その恐ろしさがわかるのか、狼達は吠えながら距離を詰めてくる。


「おい、俺たちで時間を稼ぐぞ!!」


「言われなくても」


 ユーリとカジカが剣先を狼に向け、狼達を切り捨てる。幸い、狼の防御力は昼間倒した兎や狐に毛の生えた程度なので、攻撃が当たりさえすれば倒すことは難しくない。二人の剣が飛び掛かってきた狼をそれぞれ切り裂いて光に変える。続く二撃、三撃でユーリは二匹目を切り捨てる。しかし、その隙をついて、再び狼がユーリに飛び掛かってきた。


「二度も同じをくらうか」


 ユーリはそのまま飛び上がると右足で飛び掛かってきた狼の顔面を思い切り、踏みつけ、もとい、蹴りつけた。続けて、サーベルを狼に突き立てる。弱点を見事に貫かれた狼はそのまま光に消える。そのままバランスを崩すことなく、着地すると狼に攻撃させる隙を与えずに、再度剣を狼に向ける。


「へぇ、なかなかやるね」


「たぶん【軽業】のおかげ」


 剣道と習っていたとはいえ、ユーリの運動神経は基本的に人並みである。本来であれば、空中でバランスを崩すことなく、蹴りを入れたり、剣を振るうことはできない。それにも関わらず、できたということはおそらく、スキルのおかげとしか考えられない。そして、詠唱を完了したノエルの声がようやく二人に届く。


「……降りそそげ、天からの御剣。サンダーブレードっ!!」


 狼達の中心に目がけて紫電の剣が落ちてきて、狼を貫き、そして、爆ぜた。その瞬間、弾けた魔力の奔流が幾つもの稲光となって迸り、狼達を貫いていく。初級者向けのこのエリアで中級魔法の攻撃を凌げるモンスターは存在しない。雷に貫かれたモンスターは次々に光となって消えていく。ようやく、稲光が収まった頃には狼の姿は影も形も存在しない。焼け焦げた草が暗にその威力の凄まじさを物語っていた。静けさと取り戻した平原にノエルの声が響く。


「あ、やり過ぎちゃった?」


――――やり過ぎちゃった?で済む問題か……


 中級魔法であれば、十数体の雑魚モンスターを一撃で葬ることは難しくない。つまり、サンダーブレードの威力だけを見れば妥当な威力ではある。問題は、そんな強力な中級魔法(サンダーブレード)を初級魔法しか使えないはずのノエルが使えた点だ。それについてはカジカも同じ疑問を抱いたようで、二人してノエルを見つめた。


「後で説明するわ……とりあえず、もう、街に戻りましょう?」



ノエルがそう言った直後に、エリア中にアナウンスが響く。




――――――チュートリアルクエスト『群狼討伐』が達成されました。これより『Non Division Adventure』のチュートリアルを終了し、正式サービスの告知を行います。フィールドにいるプレイヤーは強制的に『始まりの街』へと転送されます――――――





 次の瞬間、眩い光が三人を包み込み、気が付けば三人は始まりの街の広場にいた。三人以外にも多くのプレイヤーが広場に集まっていた。400mトラックの陸上競技場よりも一回り広い広場を埋め尽くすプレイヤー達の数は軽く見積もっても一万人近くはいる。普通はありえないその光景は異様というしかない。


「なにこれ……強制転送なんて死んだときしか起きないはずなのに……」


 HPが0になったプレイヤーは最寄りの安全地帯に強制転送される。それ以外で強制転送されるはずがない。あり得ないことが起きたことにノエルも戸惑いを隠せない。プレイヤー達も強制転送されてきた者がほとんどらしく、戸惑う者や怒鳴り声を上げる者も少なくない。そして、そんなプレイヤー達を絶望の底に突き落とす言葉が広場に響き渡る。





――――――この時より、このゲームはログアウトができなくなりました―――――





 一瞬にして、広場が静まり返った。まるで、音という音がなくなってしまったかのような完全な沈黙。そして、その沈黙を破るようにプレイヤー達の怒声や罵声が響く。しかし、そんな声を無視してアナウンスは続く。





――――再度、繰り返します。この時より、このゲームはログアウトができなくなりました―――――





――――正式サービス開始に伴い、『ギルドシステム』の使用が可能になりました。ギルド設立条件を満たせば、どなたでもギルドを作成することが可能です―――――




―――――正式サービス開始に伴い、『掲示板システム』の使用が可能になりました。どなたでもスレッドを作成することが可能です。掲示板への書き込み及び閲覧は掲示板のある場所であればどなたでも可能です―――――




―――――正式サービス開始に伴い、『ワープゾーン』が解放されます。これにより、一度行ったことのある街へのワープが可能になります――――――




―――――正式サービス開始に伴い、『ユニークスキル』および『ユニークスキル取得に関するクエスト』が解放されます。ユニークスキルは職業(クラス)スキル同様、一人のプレイヤーにつき、一つしかスキルポケットにセットできません――――――




―――――正式サービス開始に伴い、チュートリアルフィールド『始まりの平原』は消滅します――――――




―――――正式サービス開始に伴い、新フィールド『はじまりの平原』が解放されます――――――




――――――正式サービス開始に伴い、ゲーム内時間が現実時間の1000分の1に圧縮されます。現実世界の1秒がこの世界の1000秒に相当します。心ゆくまでNDAの世界をお楽しみください――――――




――――――ゲームから脱出する方法は複数存在します――――




――――――ゲーム内で死亡してしまった場合、現実世界に戻ることができなくなってしまいますのでご注意ください――――




―――――敵モンスター、プレイヤー、及びNPCに対する窃盗行為は可能です。ただし、敵モンスター以外からの窃盗を行った場合、MORが減少します。




――――――安全地帯ではプレイヤー間の戦闘は不可能です――――――




――――――プレイヤー同士の戦闘は可能です。方法は二種類あります。一つ目は闘技場を利用した『決闘』。二つ目は『F(フレンドリー)F(ファイア)S(システム)』の使用です。FFSを使えば安全地帯を除く全てのエリアでプレイヤーを攻撃することが可能です。FFSをオンにしているとプレイヤーの頭の上に『FFS』と表示されます。




――――――PK(プレイヤー・キル)は可能です。ただし、死亡時にプレイヤーの持っていた装備品、アイテム、所持金は全て消滅しますので、経験値のみの獲得になります。また、MORが著しく減少します――――――




――――――ゲーム内で性行為は合意の有無に関わらず、可能です。疑似性行為ですので現実の体には一切影響しません。また、ゲーム内の性行為によって性行為感染症になることはありません。妊娠もしません。強姦(レイプ)など合意のない性行為を行った場合、MORが著しく減少します――――――




――――――MORが一定値を下回ると、そのプレイヤーは自動的に【賞金首】になります。【賞金首】は街の中に入ることができません。プレイヤーが賞金首を捕えると賞金が獲得できます。特別NPC『憲兵(ジャッジ)』に捕まった場合、犯した罪に応じて処罰(ペナルティ)を受けることになります。なお、処罰の中には死刑も含まれます――――――




――――――その他、ご意見、ご質問はメニュー画面下のヘルプよりお問い合わせください――――――






アナウンスが終わると広場は沈黙と絶望に包まれた。





というわけで、ログアウト不可のデスゲーム、いよいよ始まります。


PKや強姦はMORが一気に低下します。なので、メリットはかなり低いです。

まぁ、それでもする人はいるんでしょうけど。




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