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今回は製作者sideのお話です。

何気にこっちのお話を書くのは初めてでしたね。

「あのさ、今更かもしれねぇけど、この実験って違法スレスレだよな」


「というか、完全にアウトだろ。今更だけど」


 モニターに映し出されるデータを見ながら白衣姿の男達はぼやく。この実験とは、言うまでもなく『Non Division Adventure』のデスゲーム化である。よりリアルな環境の中で、人間の行動パターンを分析しよう、というコンセプトで秘密裏に立案された実験は、ここに至るまで色々と紆余曲折があったものの、つい十数分前に実行された。つまり、『Non Division Adventure』のデスゲーム宣言である。実際には、死亡するわけではなく、ゲームクリア、あるいはゲーム終了まで再ログインができなくなるだけなのだが、ゲームに参加しているプレイヤー達はそんなことなど知るはずもなく、当然のことながら世間にも公表されていない。知らないからこそ、本気で足掻く人間のデータが取れるんだよ、とこの実験を計画した男は言っていた。その言葉に関しては二人も同意するが、やりくちが汚い、という点でも二人の考えは同じだった。ちなみに、実際に死なせない理由は単純で、死なせるメリットがないから、である。


「明日とかになったらマスコミがうるさいんだろうな……」


「まぁ、だろうな……あ、また、一人死んだ。というか、性行為まで可ってやり過ぎじゃねぇか?」


「そりゃ、少なからず強姦(レイプ)とかはあるだろうけど、でも、そういうのも含めての行動パターンの収集だし、仕方ないだろ」


 実際、上層部でもその議論はあったのだが、殺人を実装するのに、強姦を実装しないのはおかしいだろ、という暴論が押し通ってしまい、実装されることになった。ちなみに、実装を提案した人間はあくまでも、よりリアルな環境を実装するために性行為を可能にしたのであって、初めから強姦目的でシステムの実装を行ったわけではない。運営側もなるべく起きないようにある程度のペナルティを課すなど防止の処理は実施している。


「今度は1、2、3人か……これはPK臭いな。なんとなくだけど」


「うわ、やっぱり出たか……PKなんてしてもメリットねぇようにしてあるんだけどなぁ」


 ブラインドタッチで次々に必要事項を入力していくその顔はどこか暗く、雰囲気も重い。ちなみに、表情が暗いのは実験に対する罪悪感云々によるものではない。ゲーム内の死が現実世界に直結しないとわかっている以上、プレイヤーの死など彼らにとっては記録すべき事項の一つでしかなく、同情する余地などどこにもない。二人の表情が暗いのはそれぞれのモニターに表示される、そして、これから表示され続けるだろう膨大なデータを考えてのことである。ゲームの進行状況の監視が任務である二人はこれから一晩中モニターと睨めっこしなければならないのだ。


「注意書きにそれっぽいことは仄めかしてあるだけど、誰もあんなところまで読まないよな」


「俺らが言うのもおかしな話だけど、詐欺だよな。ん?また、死んだ。お、もう一人」


 ゲームのパッケージに同封されている説明書のファイルには『Non Division Adventure』がVR技術研究のための実験を兼ねていることや、そのために個人情報を含む各種データを収集すること、ゲームへの参加を以ってそれらの諸事項に同意したとみなすことなど実験参加に関する記載は存在する。生粋の技術屋である二人にはよくわからなかったが、曰く、法律上はゲーム中に起こったことは基本的にプレイヤーの自己責任になるようになっている、とのことだった。しかし、細かな注意書きや規則等を含めると下手な辞書よりも文字数の多い注意書き全てに目を通しているプレイヤーなどいるはずもなく、仮にいたとしてもこのような形の実験になるなど誰も想像していない。


「まぁ、史上初のVRMMOだし、万が一の可能性があることくらい、みんな考えてるよな……」


 そうあってほしい、と願いながら言い訳めいた言葉を男は呟いた。VR技術そのものに関しては十年前に開発されたがその主な用途は消防や警察、軍隊などの訓練であり、娯楽目的での使用は一部の医療施設で行われた程度である。今回のように一万人近い人間が同時に使用したことなど存在せず、そういった意味では不安事項がないわけではない。しかも、思考加速による擬似時間圧縮などまだ正式化されていない開発中の技術も幾つか導入されており、何も起きない、という確証はない。


「新しいからってだけですぐ飛びつくような、そんな連中だぞ?考えてねぇよ」


「……いや、そんなはずはない」


 しかし、言い切った男の表情に自信はなかった。


「けど、分析班の連中は気の毒だよな……これ、全部、調べるんだろ?俺、運営班でマジよかった。あ、一気に五人死亡。こりゃ、パーティー全滅したな」


 プレイヤーの総数は一万近くに及び、各人ごとにデータは収集している。見積もりでは、ゲームクリアまでにかかる時間はゲーム内時間でおよそ一年前後であると言われているため、単純計算で一万人分の行動パターンが一年分貯まるわけである。それを分析するなど、地獄のような作業になることは男の目にも明らかだった。


「調べるのはどっかの大学の偉い先生とかじゃなかったか?分析班の連中の仕事はその資料作りだろ、きっと。まぁ、俺もしたくはねぇけど」


 一万人分のデータを整理するだけでもそれにかかる労力は並大抵のものではない。詳しい要領は知らなかったが、楽な作業であるはずがなかった。


「こら、そこの二人、喋ってばかりしないで、手を動かしなさい」


 凛と響く班長の声に二人は顔だけを班長に向ける。もちろん、手は動かしたままである。


「「ばっちり、動かしてますよ、如月班長」」


 見事にユニゾンした二人の声に運営班の班長である如月は溜め息を零した。肩口で切り揃えられた髪に色気のない化粧、細めのフレームのメガネは知的な印象を与え、白衣によく似合っていた。実際、見た目だけではなく、能力に外見に相応しいものを兼ね備えている。まだ20代にも関わらず、今回の実験の班長に抜擢されたことからも優秀な人間であることはわかる。しかし、若いだけあってまだ人を動かすことには慣れていない様子なのは二人の目から見ても明らかだった。


「まったく……ほかの人は静かに作業しているっていうのに……」


「班長は難しく考えすぎなんですよ、これでも仕事はしっかりしてますって」


「そうそう。そんな顔だとせっかくに美人が台無しですよ」


 男の言葉に如月は眉をしかめた。


「桂、それ、セクハラね。次、言ったら、処理班に回すから」


 如月の言葉に二人は顔色を変えた。処理班はゲーム中に発生したバグやトラブルをリアルタイムで処置していくための実働部隊あり、その忙しさは運営班や分析班の比ではない。しかも、現実世界で作業していては処理が間に合わない、という理由でプレイヤーと同じくVR世界で、思考加速による時間圧縮という状況下で作業しているのだ。労働基準法をはるかに超える長時間労働が約束されている部署に行きたがる人間などそういるものではない。


「班長、それ、冗談ですよね?」


「心配しないで。桂だけじゃなくて、柳も一緒にしてあげるから」


 にっこりと笑った如月を見て、その本気を知った二人はそれまでの態度を一変させて、黙々と作業に取り掛かり始めた。そんな二人の様子を見ていた他の職員達はそれぞれ溜め息を漏らした。


(今更だよな)


(今更ね)


(今更かよ)


(今更だろ)


というわけで、実は誰も死にません、というのをお伝えしたかったお話です。


VRMMOものでデスゲームってよくありますけど、現実に死なせるメリットがあるのかと考えると私は何も思い浮かばないんですよね。結局、プレイヤー

達をその気にさせる口実以上にはならないんじゃないか、ということでこういった設定にしています。



今後は少しずつこういった話も入れていこうと思います。



次回はいよいよ、城下街ニコス編が始まります、たぶん。

どうぞ、お楽しみに♪


ではでは。




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