表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/65

NDA49

ボス戦編後半です。どうぞ♪

 ユーリ達が離脱したことを確認したカジカはクロエに一旦離脱するように指示を出し、自身も幼竜(ベビードラゴン)と距離を取った。


「っ……やっぱ、ナイフじゃ無理があるか」


 幼竜相手に悪態を尽きながらカジカは武器を構えなおす。適正レベルを大幅に超え、フランの仕立てた服のおかげで現段階では全プレイヤーの中でもトップクラスの防御力を誇るカジカだが、攻撃力という点においては一般プレイヤーよりやや上といった程度しかない。レベル相応の高いSTR値を持っていても、使用している武器がそれに見合っていないからである。もっとも、見合っていない、とはいいつつもこのエリアに限定すればカジカの攻撃力は決して低いわけではない。しかし、INT値がそのままダメージに反映されるユーリ達の魔法攻撃に比べるとカジカの攻撃は一段も二段も劣っていた。


「クロエは離れて魔法に専念しろ。こいつの弱点は氷属性らしいからな」


「了解」


 カジカの指示を受けたクロエは短く返事をして、そのまま魔法の詠唱に移る。放たれた氷の槍はそのまま幼竜の体に突き刺さり、頭上に浮かぶHPバーを削っていく。ダメージを受けた幼竜の注意がクロエに向きかけたところでカジカがナイフで切りつけ、自身に注意を向けさせる。


「ユーリ達が復帰するまでは俺が盾役(タンク)に徹するから、どんどん撃ちこめ」


「言われなくたって……お姉さまの仇っ!!」


 ユーリのことをお姉さま、と慕うクロエは容赦なく、憎き幼竜を狙って魔法を放つ。そんな様子を見ながらカジカはため息を零した。


「おい、縁起でもないこないこと言ってんじゃねぇよ」


「え、あ、はい。その……言葉の綾で、つい……」


 そんなやり取りをしながらカジカとクロエは幼竜の攻撃を避けながら、確実にダメージを与えていく。そして、ユーリとミカンが復帰するまでに二人で幼竜のHPを一割近く削っていた。


「お待たせ、カジ、クロエ」


 ブレスを受けて一旦離脱していたユーリとミカンが合流する。ユーリの服が若干煤けて黒くなっているが、それ以外は問題なさそうなユーリを見て、カジカは安堵のため息を零した。この世界は一応、ゲームの世界である。しかし、ダメージはともかく、再現される痛みは紛れもなく本物だった。しかも、生きたまま焼かれる、という経験をしたのだから、トラウマで戦えなくなったとしてもおかしくない。実際、一部のプレイヤーは痛みが原因のトラウマで所謂、引き籠り組になってしまっている。しかし、ユーリはそんなことは微塵も感じさせず、勇ましい姿で剣を構えていた。


「無事のようだな」


「当然だろ、これでもエルフだからな」


 自慢気に胸を張るユーリにカジカもミカンも笑顔になる。関係のないことだが、もちろん、ユーリに胸はない。


「よし、じゃあ、作戦通り……」


「あ、そのまえに少しだけ暴れてきてもいい?やられっぱなしってのはやっぱり面白くないから」


 そう言ってユーリは剣を構えなおす。頑強な黒い刃は妙に艶っぽく、色白のユーリの肌によく映えていた。


「おい、暴れてきてって、何するつもりだ」


「えーと、確か新しい魔法の中にAGI値を上げるのが……あ、あった、あった。フォローウインド。クロエ、アイスエンチャントを頼む」


 カジカの言葉を無視してユーリは自身に補助魔法をかける。


「は、はい、お姉さま。アイスエンチャント」


 クロエの魔法によって氷属性を付与されたユーリの剣は青白い光を纏う。そして、ユーリ自身を対象にして唱えた【フォローウインド】の効果でユーリの体が淡い緑の光を放つ。【フォローウインド】は一定時間AGI値を上昇させる魔法であり、例のゴブリンの一件でユーリが新たに覚えた魔法の一つである。もともと軽装で身軽な上に、【軽業】を持っているユーリが更に速くなり、そこに幼竜の弱点である氷属性が加わった。その意味を理解し、ユーリの意図に気付いたカジカが止めようと動き出すがそれよりも速く、ユーリは駈け出した。カジカ達が止めるよりも先に動いたユーリはそのまま幼竜に肉薄し、剣を振るう。


「はぁあっ!!」


 氷の属性を帯びた剣劇はユーリのSTR値の低さを補って余りある力を持っていた。腹部に一撃。そのまま、反撃の暇を与えずに二撃、三撃、と切り付け、上に飛び上がる。そして、一瞬遅れて幼竜の腕が振り下ろされる。


「遅いっ!!」


 躱しながら【流し切り】を発動させて幼竜の腕を切り裂く。そして、幼竜の背に上手く着地すると迷うことなく剣を突き刺した。幼竜の悲鳴が辺りに響き渡り、激痛で暴れまわる。振り落とされないようにユーリは剣を握りしめて踏ん張りながら、左手を幼竜の背に添えて、最大威力の魔法を放つ。


「ウインドブラストっ!!」


 【ウインドブラスト】は幾つもの風の刃で敵を切り刻む攻撃であり、単純な威力だけなら、ユーリの使える魔法の中で最も強力なものである。ウインドカッターほど射程は長くない為、確実に当てるためには今のように至近距離で発動するしかないのだが、そのリスクに見合う威力は持っていた。絶叫する幼竜を尻目にユーリは突き刺した剣を引き抜いて、離脱する。既にアイスエンチャントの効果は切れ、フォローウインドの効果も切れようとしている。できることなら一矢報いた、と言うにはやり過ぎなぐらい暴れまわったユーリは幾分、すっきりした表情をしていた。そして、カジカ達の元に戻ったユーリを待っていたのはカジカの拳骨だった。


「お前は馬鹿かっ!!」


 ゴツン、という鈍い音と同時に響き渡る怒声。ギロリと睨みつけるカジカの目は本気で怒っている目だった。


「な、痛てぇ……殴ることないだろ」


 いきなり殴られたことにユーリも苛立ちを隠さずにカジカを睨みつけるが、それを蹴散らすようにカジカが叫ぶ。


「一人で特攻なんてして、お前は死にてぇのか!!」


 今がボス戦の最中であることを忘れさせてしまいそうなほど大きな声。その声を正面から浴びせられたユーリは驚いた表情を浮かべている。決して長い付き合い、というわけではないが、相手の目を見ればそれが本気か冗談なのかはユーリにもわかる。カジカは本気でユーリを心配して、だからこそ、本気で怒っているのだ。それがわかった途端、ユーリは自身の中で疼いていた苛立ちが嘘のように消えていくのを感じた。


「いや、でも、【軽業】とフォローウインドがあるから回避は問題ないし、ブレスだって……」


 エルフだから問題ない、と続けようとしたユーリの言葉を遮ってカジカは叫ぶ。


「アイスエンチャントの弱点くらいお前なら知っているだろう」


 カジカの言葉にユーリはばつの悪そうな顔を浮かべた。カジカの言葉は図星だった。アイスエンチャントに限らず、エンチャント系の魔法の効果は対象一名の攻撃に属性を付与する、というものではない。正確には、対象一名に属性を付与するのである。つまり、攻撃だけでなく防御にも属性が関わるようになるのだ。ゲームのあれこれに関しては疎いユーリだが、風属性のエンチャントが使えることもあり、このことに関しては知らないとは言えなかった。


「安全策をとって、確実に倒すって言ったぞ」


 このエリアのボスである幼竜の弱点は氷属性であるため、攻撃に氷属性を付与できるアイスエンチャントは有効であることには違いないのだが、デメリットもある。幼竜の炎のブレスは火属性の魔法攻撃に分類される。つまり、氷属性にとは相性が悪いのだ。ただでさえ、厄介な攻撃とされているブレス攻撃が更に厄介になるのだと考えるとアイスエンチャントによる属性付与はリスクの高い作戦であり、事前の相談でも却下された案だった。


「……すみませんでした」


 ボスを前にしながらも本気で怒るカジカを前にして、ユーリは謝るしかなかった。


「カジカ、今は目の前の敵を倒すほうが集中してください」


 苛立ちの混じったクロエの言葉にカジカはわずかに眉をしかめながらも頷いて、ナイフを構えなおした。カジカ自身、まだまだ言い足りないことはあったが、言いたいことを一から十まで言える状況でないことは自覚している。続きは後だ、とユーリに言い残すとカジカは幼竜に向かって駈け出した。


「まったく……カジカって意外と過保護なんですね」


 カジカがいなくなった後でクロエはぼそりと呟いた。そして、ユーリににっこりと微笑んだ。決してカジカのように怒っているわけではなかったが、ある意味、カジカ以上の凄味を感じさせるその笑顔にユーリは思わず、一歩退いてしまう


「お姉さま、私もお姉さまに言いたいことがありますから、そのつもりでいてくださいね」


「……はい」


 笑顔で紡がれたクロエの言葉にユーリは頷くしかなかった。

 



・*・




 ユーリの猛攻で三割程度までHPが減った幼竜に対して、カジカ達は堅実な攻めに徹していた。カジカが幼竜の注意を惹き付け、ユーリとクロエ、シオン、そして商人の護衛についているエリザまでもがそれぞれ魔法で確実にダメージを与えていく。六人中四人が魔法を使える、というこのパーティー最大の利点を生かした作戦である。もちろん、ミカンも隙を突いては幼竜の自慢のハンマーで殴打している。初見ならばともかく、既に何組ものプレイヤーが倒し、幾つかの攻略法が掲示板に出回っている相手である。適正レベルに達しており、なおかつ、先ほどのユーリのように無茶な戦い方をしないのであれば安全に倒すことは決して難しいことではない。


「カジカ、こっちの準備は完了」


「よし」


 仲間の声にカジカは頷き、幼竜の前から離れる。そして、それを合図に、幼竜の注意が他に逸れるよりも先に風の刃と氷の槍が命中する。それに遅れて無数の火の玉が炸裂し、地面から伸びた黒槍が容赦なく、幼竜の体を貫く。既にHPは一割を切っており、今の集中砲火で残りも僅かしかない。そして、そこにとどめの一撃と言わんばかりに黒槌を振りかぶったミカンが迫る。ラストアタックはミカンに、というのも事前に決まっていた事項である。これに関しては現在のパーティー内のレベルとラストアタックの経験値ボーナスの都合上、ミカンに決まったという事情がある。


「アイスエンチャント」


 クロエが絶妙のタイミングで氷の属性付与をミカンにかけ、それを確認したミカンは現在、使える唯一の技を発動させ、全力をもってハンマーを振り下ろした。


「パワーヒットっ!!」


 弱点属性付きの鈍器による一撃を頭部に受けた幼竜は悲鳴をあげる間もなく絶命し、その場にぐったりと倒れこんだ。そして、淡い光となって消えていった。それを見たミカンは一瞬驚いた顔を浮かべ、そして、その表情はすぐに笑顔に変わった。


「……やった……やりました」


 込み上げてくる達成感。それは他の五人も同じで、それぞれ笑顔を浮かべている。


「なんとかなったな」


「まぁ、攻略方法が掲示板に出てますし、このパーティーのレベルを考えると余裕で倒せる相手ですから」


「……終わった」


「やっぱり、昼間だと威力が落ちすぎて使えない」


 ユーリもまた、安堵のため息を零すのだが、それも長くは続かなかった。


「で、ユーリ。ボスも無事倒したわけだし、さっきの続きと行こうか」


 先程とは一変して穏やかな、しかし、妙な冷たさと威圧感の入り混じったカジカの言葉にユーリの表情が硬くなる。更に追い打ちをかけるように、クロエの言葉が続く。


「私も、言いたいことがありますから、そのつもりで。お姉さま」


 助けを求めるようにユーリはミカンを見たが、ミカンが首を横に振るだけだった。シオンとエリザに至ってはユーリと視線を合わせようとさえしなかった。逃げ道はない、と理解したユーリは小さくため息を零し、降伏するかのように両手を上げた。それから、しばらくカジカとクロエによるお説教が続き、マイペースなシオンやエリザがそれを止めに入るはずもなく、結局、ウィルキンソンがお礼を言い出すまで話は続いた。



あっさり倒していますが、これはパーティーのレベルが適正レベルを越えていたのとボスの情報が出回っていたからで、初見で戦ったノエル達は結構、苦労しました。



次回はようやく次の街に……でも、50話かかって次の街って……まぁ、いいか


今後もこんな感じでのんびり、ゆっくり話は進んでいきますので、どうぞ、ご贔屓にしてください。


ではでは、次回もお楽しみに♪




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ