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NDA47

どうも、兎です。

今回は短めですが、どうぞ、お楽しみください。

「ミカン、今だっ!! 」


「はいっ!! 」


 ユーリの声に応えるようにミカンはアーマービートルに狙いを定めて木槌を振り下ろす。木製とはいえ、ミカンの身の丈ほどもある頑丈な一品であり、相応の質量もある。鎚や斧といった重量系の武器は取り回しが悪く、剣や槍に比べると使用しているプレイヤーは少ない。しかし、一撃の威力は他の武器の追随を許さず、硬い装甲で覆われたモンスターに確実にダメージを与えることができるため、ダメージディーラーにはそれなりに人気のある武器だった。ユーリの援護で手足をもがれたアーマービートルは為す術なくミカンの一撃を受けて、その身を光に変える。


「これで五つ目。これだけあれば十分です」


 倒したアーマービートルのドロップアイテムを回収してミカンはにっこりと微笑んだ。付け加えるなら、レアドロップである【鎧甲虫の角】も手に入れている為。ミカンの装備を整えるには十分な量を確保することができた。


「レベルは?」


「なんとか4になりました」


「よかった。4なら街道はなんとかなるね」


 クロエはクスリと笑う。レベルが4というのは街道の適正レベルの最低ラインにようやく引っかかったところである。全員がミカンと同じレベル帯であれば心許ないパーティーであるが、ユーリ達のレベルが街道の適正レベルを超えているため、攻略に支障はない。ちなみに、ゴブリンとの一戦があったおかげでユーリとカジカはそれぞれ13に達し、クロエ達も街道の適正レベル後半には達している。


「じゃあ、一旦、街に戻ってカジカ達と合流して、装備を整えてからまた来るか。武器の熟練度もあげないといけないし」


 今回、一行はパーティーを分けて行動していた。ユーリ、クロエ、ミカンの三人はミカンのレベル上げ兼素材調達のために森に、残りの三人は情報収集や生産関係の仕事で街に、という配分である。


「けど、本当によかったんですか?ミカンさんの防具をフランさんに頼まなくても」


「いいんです。【鍛冶】の練習にもなりますし」


 ユーリ達のパーティーは皆、フランに仕立ててもらった服を装備している。仕立て職人としての技量はおそらく、生産プレイヤーの中でもトップクラスであるフランの仕立てた服は並の防具以上の防御力を持っており、ユーリ達以外にも愛用しているプレイヤーは少なくない。ミカンがパーティーに加わった、ということでまたフランに一着頼もうと考えていた一行だが、ミカンがそれを拒否した。曰く、盾役(タンク)には服は不向き、というのがその理由だった。防具は防御力以外にも重量や耐久力などのパラメーターが存在し、防具の種類によって様々な特徴がある。例を挙げるなら、服は軽く、プレイヤーの動きを妨げないが、その分、耐久力が極めて低い。一方、鎧などは重量がある分、耐久力は高い。敵の攻撃を受け止めることが仕事であるタンクにとっては多少、防御力が落ちたとしても耐久力の高い鎧の方が都合がいい、というのは至極尤もな意見だった。


「戻るついでに薬草も摘んで帰ろうか」


「はい」




・*・




「あ、あの、貴女が【百合姫(ホワイト・リリー)】さん、ですよね?」


「……はっ?」


 森の入口付近まで戻ってきたユーリは見ず知らずのプレイヤー達からいきなり声をかけられて、困惑の表情を浮かべた。念のためにクロエとミカンを見るが二人とも首を横に振る。三人の中の誰とも面識のないプレイヤーである、と判明したことでユーリはそのプレイヤー達から距離を取る。幸い、まだ森の中であるため、剣も魔法も使用可能である。剣の柄に手を添えたまま、ユーリは男達を睨みつけた。


「貴方達は?それに、【百合姫(ホワイト・リリー)】って何?」


 警戒感を顕にしているユーリを見て、男達も自分たちの過ちに気づいたのか、何度か深呼吸をして名前を名乗った。


「俺はガロって言います。こっちはミツバとドル。はじめまして、えーど、ですね……【百合姫(ホワイト・リリー)】さん」


「だから、その【百合姫(ホワイト・リリー)】って何?俺の名前はユーリだ。人違いだろ」


 ユーリの一喝にガロは困った表情を浮かべる。


「あ、いえ、そうじゃなくて……」


「だから、ガロ、まずはそれを説明しねぇとわかんねぇって言っただろ。ユーリさん、俺が説明します」


 そう言ってミツバと呼ばれた男が話を引き継いだ。


「この前のゴブリンクエストでのユーリさんの活躍が掲示板の方で話題になって、それでユーリさんにぴったりの二つ名をつけようって話になったんです」


 二つ名、という言葉を聞いてユーリは顔を顰めた。


――――勘弁してくれ……


「で、ついたのが【百合姫(ホワイト・リリー)】ってわけ?」


「あ、いえ、まだ決まっていません。他にも【純白の戦乙女ホワイト・ヴァルキリー】とか【精霊剣士(エルフェンリッター)】とか【妖精の踊り手ダンシング・フェアリー】とか色々候補が上がったんですが……」


――――もう、やめてくれ……


 候補に挙がった二つ名を聞いて、ユーリは内心、溜め息をこぼす。ミツバたちに悪意がないことは間違いないのだが、放たれた言葉の刃はグサリとユーリの胸に突き刺さっていく。中二病臭漂う二つ名を付けられて喜ぶほど、ユーリももう若くない。しかも、そんなユーリの心情を察したのか、クロエがポンっと肩に手を乗せた。


「一番有力なのが【百合姫(ホワイト・リリー)】で、一度はそれに決まりかけたんですがなんですけど、一部のプレイヤーが【姫百合ホワイト・リリー】の方がいいって言い出したんです。まぁ、確かにヒメユリの花言葉は『強いから美しい』なんで悪くはないんですけど、ヒメユリって花の色が橙で、ユーリさんのイメージとちょっと違うんですよね。それだと、ホワイト・リリーじゃなくてオレンジ・リリーになっちゃいますし。私たちとしては『純粋』とか『無垢』とか、そっちの方に重きを置きたくて、それで……」


 延々と説明を続けるミツバにユーリは隠すことなく溜め息をこぼす。ユーリとしては二つ名がどんなものになるか興味はない。どんな二つ名がついたとしても、ユーリが恥ずかしい想いをするのは間違いなく、それがわかっている以上、【百合姫】でも【姫百合】でも構わなかった。しかし、ガロやミツバ達にとってその些細な違いが重要なことであることは理解できた。もっとも、理解できたところで、ユーリはこれ以上、口を挟むつもりもなかった。


「で、結局、貴方達の何の為にお姉様に会いに来たんですか?」


 見かねたクロエが口を挟むと男達の表情が固まる。


「「「お、お姉様!?」」」


 男達はそのままクロエに視線を移し、互いに顔を見合わせると頷きあった。


「なるほど、白と黒、か……これは決定だな」


「よし、これで姫百合派に勝つる」


「リアル百合……これは想定外だった、だが、これで我々の勝利は確定した!! 」


 男達はそれぞれきらきらと顔を輝かせると意気揚々とどこかへ消えてしまった。そんな男達を見送りながらユーリは溜め息混じりに呟いた。


「……結局、あいつらは何しに来たんだ?」


 当然のことながら、その呟きに答えられる者はいなかった。それから、ユーリ達は何事もなかったかのようにカジカ達と合流し、装備を整えて、翌日街道に出発することになる。それと並行するように掲示板では白熱した議論が繰り広げられ、ユーリが出発する頃には二つ名が【百合姫(ホワイト・リリー)】に決まっていることなどユーリが知る由もなかった。



というわけで、ユーリの二つ名が決まりました。はい、それだけのお話です。


ちなみに、ユーリ以外のメンバーの二つ名についても議論されましたが、ユーリのインパクトが大きすぎてまだ決まってなかったりします。掲示板で出てきて案としては以下の通りです。


カジカ

戦う料理人ファイティング・コック

炎の料理人(レッド・ナイフ)

etc...


クロエ

黒爪(ブラック・クロウ)

猫忍(クノイチ)

etc...


シオン

紫の魔女(ポイズン・ウィッチ)

狂艶の紫髪ルナティック・エロティック

etc...


さて、どんな二つ名に決まるのでしょう?どうぞ、お楽しみに♪


ではでは



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