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NDA46

読者の皆様、お待たせいたしました。なんとか、書き上がりましたので投稿します。


どうぞ、お楽しみください。

ではでは。




 それから、ユーリ達はミカンを宥めながら今回の一件に関する情報を聞き出した。もともと、ミカンは生産寄りのプレイヤーとしてゲームをプレイしていた。生産兼ゲーム攻略、というプレイスタイルは今のNDAにおいては主流といってもよく、完全に生産、或いは攻略に専念しているプレイヤーはプレイヤーの総数から見ると一部でしかない。そのような状況になってしまった原因はもちろん、ゲーム中の死がそのまま現実に直結するデスゲームという仕様にある。ゲーム攻略を進めていけば、当然のことながら死ぬ危険性も高くなる。それを恐れた多くのプレイヤーが生産職に走った結果、生産系プレイヤーの数が飽和してしまい、フランのように古参の一部のプレイヤーを除いた、ほとんどのプレイヤーは生産だけでは生活できなくなってしまったのである。ミカンもそういったプレイヤーの一人であり、森に素材集めに行っている最中に男たちに攫われてしまったのだ。


「一人で森に行くなんて無用心だな」


「……他にも人はいたんです。ただ、その人たちがあの男たちの仲間で……」


 カジカの言葉にミカンは顔を歪ませる。ミカンのようなソロプレイヤーのは掲示板や酒場で即席のパーティーを組んで、エリアに出ることが多い。しかし、今回、ミカンとパーティーを組んだプレイヤーの中に男たちの仲間が紛れていたのである。


「それは、なんというか……災難だったな」


「でも、ユーリ達のおかげで助かりましたから」


 大丈夫です、と微笑むミカンの表情は安らかそうに見えた。それを見たカジカは一行に切り出した。


「とりあえず、その子も落ち着いたようだし、これからどうするかについて言いたいことがある。いいか?」


「あぁ」


「そうですね」


 カジカの言葉にユーリ達はそれぞれ頷く。それを確認したカジカはミカンを向いた。


「まず、最初に言っておくことがある。ミカンには申し訳ないが、俺たちは、というかユーリは君を助けるために男たちと戦ったわけじゃない。色々と事情が重なって、男たちと戦うことになって、そのついでに君を助けるに至った。だから、助けたからといって君をこのまま保護するつもりはないし、そもそも、それだけの力もない。その点はわかってほしい」

 

 ユーリとエリザは男たちに絡まれなければ、男達と戦うことはなく、当然のことながらミカンを助け出すことは間違いなくなかった。それは間違いなく、事実であり。正義感や義侠心からミカンを助けたわけではない。つまり、ユーリ達がミカンを助け出したのはただの偶然と言っても間違いではない。


「そう、ですか……」


 ミカンは少し残念そうな顔を浮かべながらも、小さく頷いた。ミカンとしてもその可能性を考えていなかったわけではない。しかし、男達に捕えられたあの状況で助けに来てくれたユーリ達が白馬の騎士に見えてしまったのは事実であり、そうあって欲しいという願望があったのも紛れもない事実だった。このままカジカ達の庇護を受けられるのであればミカンにとって願ったり叶ったりの展開なのだが、流石にそこまで甘くはなかった。


「だから、これからどうするかを決めてくれ。このまま以前のようにソロプレイをするのもよし、他のプレイヤーとパーティーを組むもよし。もし、生産一本でいくのなら、知り合いのいる職人系ギルドを紹介する」


「……えーと。それはどういうこと、ですか?」


 遠まわしに、ミカンを連れて行くつもりはない、と宣言したカジカの言葉にミカンは困惑の表情を浮かべた。


「言葉通りだ。俺たちは近いうちに街道攻略のために街を出る。というか、一度出発してゴブリンのイベントに遭遇して戻ってきたところだ。攻略組と呼べるほど実力があるわけではないが、分類するとすればそこに入る……だから、このまま君を連れて行くわけにはいかない。けど、ここで会ったのも何かの縁だからできることはしておきたい。俺たちと別れて、また何かあったりしたら、俺たちも気分が悪いからな」


「そう、ですか……ありがとうございます」

 カジカにお礼の言葉を述べながら、ミカンは考えを巡らせる。今回の一件もあり、ソロプレイ、という選択肢はない。もし、何かあったときに守ってくれる人もいなければ、助けてくれる人もいない。そうなると、誰かとパーティーを組むしかなないのだが、それも気が進まなかった。見ず知らずのプレイヤーと組むことのリスクの高さは身に染みて理解した。そうなると、残る選択肢は生産一本に絞って、カジカに紹介してもらう職人系ギルドを頼りにする、という道だが、ミカンの生産系スキルのレベルは低く、生産職だけに絞って生活していくには心許ない。そして、職人系ギルドは結局、職人の集まりであり、ミカンの身に何かあったときに身を守ってくれる、という保証はどこにもない。ギルドメンバーに手を出せば、他の生産系プレイヤーから総スカンを受ける、という一点のみが職人系ギルドの持つ抑止力であり、それを上回る暴力に抗うだけの力はない。


「……ちなみに、その職人ギルドの名前は?」


 そもそも、正式なギルドを作るためには街道を攻略し、次の街であるニコスに行かなければならないため、現時点で成立しているギルドは多くなく、そのほとんどが劫掠組のギルドである。そして、非戦闘系の職人系プレイヤーがギルドを作る為には攻略組の支援が必須であり、現在、存在している職人系ギルドはミカンの知る限り、ひとつしかない。、


NDA労働組合(ユニオン)っていうギルドだ」


「やっぱり……」


 カジカの口から出たギルドの名前にミカンは溜め息をこぼす。NDA労働組合(ユニオン)は古参組の生産系プレイヤーが中心となって作られた現在、唯一の職人系ギルドである。ギルドに入る為の条件は難しくなく、ミカン程度の生産スキルでも入ることは可能である。しかし、ギルドメンバーになったからといって、ギルドから素材や顧客に関して何らかの援助や保護がもらえるかというと、そういうわけでもない。あくまでも、生産系プレイヤーに不利益なことが起きた場合に組織だって対処するためのだけのギルドといっていい。つまり、NDA労働組合ユニオンに入ったとしても、ミカンの身の安全は保証される、とは限らないのである。生産プレイヤー達から総スカンを受けたとしても、NPCの店から必要物品を購入することは可能であり、そもそも、そこまで話が広まってしまえば、憲兵(ジャッジ)が動き始める。つまり、ミカンがNDA労働組合(ユニオン)に入るメリットはそれほど大きいとは言えない。そこまで考えて、ミカンは決断した。


「……あの、もし迷惑でなければ、私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」


 ミカンの言葉に場の空気が一瞬、静まり返る。ユーリ達と一緒に行く、それがミカンの選んだ道だった。身の安全、という観点で見るならば、カジカ達と別れても大差はない。そうであるなら、このままカジカ達の庇護の下にいたほうがいい。


「さっきの俺の話、聞いてたよな?」


「はい」


 カジカの問いかけにミカンははっきりと頷く。


「お願いします。【鍛冶】のスキルは持っているので、武器や防具に手入れならできます。見ての通り、ドワーフなのでStrもそれなりにあるつもりです。(タンク)役なら任せてください。雑用や荷物持ちとしてでも構いません。それに……」


 ミカンはカジカからわずかに視線を逸らし、恥じらうように頬を薄紅色に染めた。


「……もし、カジカさんが望むのなら……身体(こっち)の方も、好きにしていいです」


 震える肩を抑えるように手を添えて、ミカンはカジカを見つめ直した。そんなミカンの仕草に一瞬、呆気にとられたカジカだったが、すぐにミカンの言葉の意味を理解し、慌てて首を横に振る。


「ちょ、ちょっと、待てよ。こっちって、そういうことを俺は求めてるんじゃなくてだな」


「やっぱり、ドワーフみたいな幼児体型だとダメですか?」


「いや、そうじゃなくて、そもそも、そんなの求めてねぇし、こいつらだってな……」


 振り返ったカジカはそこで、ようやく気づいた。



一人は見た目だけなら極上の美人エルフ。

一人は小柄ながらも元気溌剌な黒猫少女。

一人は胸元が扇情的な不思議系巨乳魔女。

一人は銀髪が艶かしい、薄幸系吸血少女。


 それぞれ個性はあるが、美女、美少女と呼んでいいレベルであり、その中で唯一の男であるカジカはまさにハーレム状態である。男達の下卑た欲望に晒されたミカンにとってその四人とパーティーを組んでいるカジカがどんな人間に見えるのか容易に想像がついた。だからこそ、ミカンは自身の操さえ条件に差し出したのだった。


「……誤解しているようだから言っておく。俺は、こいつらとそういった関係じゃないし、お前にそれを求めてもいない」


 急に両肩が重くなったように感じたカジカはうなだれるようにミカンに言った。


「……本当に?」


「あぁ、みんなも言ってやってくれ」


 そう言ってカジカがユーリたちを見る。しかし、反応はない。驚くほどの静けさが部屋を支配する。四人の誰もがカジカと目を合わせようとせず、視線を逸らしていく。まるで時が止まってしまったかと錯覚してしまうような沈黙を破ったのは、ミカンだった。


「いいですよ、カジカさん。男の人なんて、そういう生き物なんですから」


 切なげな、それでいて、非難めいたミカンの声にカジカの表情が固まる。


「おい、やめろよ。それだと認めてるみてぇじゃねぇか」


 ミカンからの不審な目を向けられたカジカは普段の様子からは考えられないくらい焦った様子でパーティーに向かって叫ぶ。その慌てぶりに堪えきれなくなったのか、ユーリの口から笑いが漏れ、それに引きずられるようにクロエも笑い出した。普段、滅多なことでは笑わないシオンも唇の端がわずかに上がっている。エリザも表情こそ、いつもと同じだが目に鋭さはなく、微笑んでいるように見えなくもない。


「ごめん、ごめん、いつものカジカからは想像もできない慌てぶりだったから、つい……」


「つい、じゃねぇ!!」


 叫ぶカジカにユーリは肩をすくませる。


「お前たちが余計なことをするから、こいつが誤解しちまっただろうが」


 ミカンを指差しながら、叫ぶカジカにユーリは小さく頷いた。


「まぁ、確かに。でも、ミカン、カジカの言ったことは本当だよ。見た目はこんなで、パーティーメンバーはこんなのだけど、でも、そういったことはないから。誠実な男だよ」


「えぇ、それは間違いなく」


「確かに」


「そうですね」


 四人が四人とも頷いたのを見たミカンは若干、納得していない様子であったが頷いた。


「わかりました。みなさんの言葉を信じます」


「で、話を元に戻すぞ?ミカンのことをどうするんだ?」


 尋ねたカジカにユーリは笑顔を浮かべた。


「今更だよね」


「今更ですね」


「……今更」


「確かに、今更話し合うまでもないことです」


 四人が頷いたのを見て、カジカも頷き、握手のために右手を差し出した。


「満場一致だな。というわけで、ようこそ、ミカン。改めて、よろしくな」


「はい、よろしくお願いします、皆さん」

 しかし、ミカンはカジカの手を握ることなく、お辞儀をカジカに返した。


「……まぁ、いいか。お互い、疲れてるだろうし、後の話は明日でいいだろ。今日はもう、寝るか」


 カジカの声にそれぞれ頷いて、カジカとユーリは部屋を出ていく。


「じゃあ、おやすみ」


 二人だけが出ていくのを見たミカンは扉が閉まっから、ぼそりと呟いた。


「……やっぱり、男の人ってそういう生き物なんですね」


「どうしたの?」


 ミカンの呟きを隣で聞いていたクロエが尋ねるがミカンは、なんでもありません、と首を横に振るだけだった。事実だけを述べるなら、宿屋の都合上、二部屋しか取れなかった為、男女に別れただけである。しかし、ユーリの性別を知らないミカンにはカジカとユーリがそういった関係に見えたとしてもおかしくない。


「いいと思いますよ、お互いが合意してるなら……」


 二人の関係を誤解したまま呟かれたミカンの言葉にクロエ達は首を傾げるばかりだった。この誤解は翌日、解けるのだが、その時、真実を知ったミカンは今までの人達と同じく、驚きの声を上げることになる。


というわけで、珍しくカジカが被害を受けるお話でした。まぁ、ハーレム作ってるんだから、これくらいは当然かと。



ユーリは本作の真のヒロインです。悪しからず。



次回は三連休に投稿できる……かな?

頑張りますので、お楽しみに♪



ではでは。




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