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NDA44

お久しぶりです。月兎です。

お待たせしました。久しぶりの戦闘パートです。


どうぞ、お楽しみください!!






 闘技場(コロシアム)はプレイヤー同士が、あるいはプレイヤーがデスペナルティを恐れることなく戦うことを目的とした施設である。通常の戦闘とは若干異なり、アイテム使用などに関して若干の制限がある。また、プレイヤー同士で戦う場合であれば、パーティー数を同じにしなければならないなど、人数制限も存在する。もっとも、パーティーの数が同じであればよいのであって、パーティー内のプレイヤーの数に関しては制限がない。その結果、今回のように2対12という状況が発生してしまうのである。


「で、どうするんだ?予定より相手の数が増えたけど」


「ゴブリン以下の雑魚が何人いても関係ありません……」


 待機室で開始の時間を待つエリザは銀色に変わった髪をたなびかせながら鋭い目でユーリを睨みつける。そこにはカジカお手製の料理を頬張るユーリの姿があった。しかも、先日のゴブリンイベントで手に入れた食材を利用したステータス強化の特別メニューである。レベルはユーリ達の方が圧倒的に上であるが、ユーリのSTRの低さを覆すことができるほどではない。エルフでありながら剣を主体として戦うユーリにとって、STRを補うことは必須であり、男達と戦うことが決まってすぐにカジカに頼んで用意してもらっていたのだ。ちなみに、メニューは猪肉と鹿肉の合挽ミンチで作ったハンバーガーもどきである。戦闘開始まで間もないということもあり、口の中に突っ込めるだけ突っ込んでいる様子は栗鼠のような小動物を思わせた。


「ま、そうだけどさ……エリザは食べる?」


「いえ、結構です」


 エリザは素っ気無い口調で首を横に振る。


「まったく……あの連中の目、思い出すだけで気分が悪くなる……私に手を出したことを後悔させて差し上げます」


「まぁ、ほどほどにね」


 その気になれば、ゴブリン百匹を相手にしても勝てると豪語するエリザの顔に不安はない。あるのは、男達に対する怒りである。一歩間違えば、あの場で男達に辱められていたかもしれないと思うとエリザの怒りはユーリにも理解できる。しかし、エリザほど腹が立たないのはユーリの性別が男だからか、あるいはそういった危機感を持っていないのか。いずれにしろ、口の中のハンバーガーをゴクンと呑み込むとユーリは騎士服に着替え、鞘を腰にぶら下げる。エリザもフードを被り直して、戦闘態勢に入る。


「そろそろ、時間だし、行こうか」


 そして、二人は、待機室を出て、闘技場へと向かった。




・*・




 平たく均された闘技場に立ったユーリは真っ直ぐに男達を見つめた。下心丸出しの下卑た笑みを浮かべる男達に戦いを前にした気概はなく、既に勝ったつもりでいることは明らかである。両者の力量が拮抗しているのならば、勝利を確信してもおかしくない状況だが、プレイヤーとしての力量はユーリ達の方がはるかに上である。それを知らないからこそ、男達は余裕の表情を浮かべていられるのだ。知らぬが仏、とはこのことである。


「剣が四人に、槍が三人。弓と斧が二人ずつ……残りの杖を持ってるのは魔法使いか?」


「どうでもいいです」


 既に臨戦態勢のエリザは今にも飛びかかりそうな様子だ。そして、開始を告げる鐘の音が鳴ると同時にエリザが駆け出した。既に日が沈み、闘技場(コロシアム)を囲むように並んだ篝火が赤々と燃えている。油断している男達はエリザの接近に気付き、すぐに武器を構えるがそれよりも早く、ユーリの魔法が炸裂する。


「ウインドカッターっ!!」


 攻略組にも劣らない風の刃は紙切れのように男達の防御を切り裂く。そして、それによって生じた隙を逃すことなく、エリザの拳が男の顔面を捉え、そのまま男が吹き飛んだ。


「……えっ?」


 ドスン、という鈍い音と共に壁にぶつかった男はそのまま光となって消えていく。疑似HPがゼロになった為、待合室に転送されたのである。一瞬の出来事に男達は言葉を失い、その場に固まってしまう。その隙を逃すことなく、エリザの拳を男達の顔面を殴り飛ばしていく。ゲームの中とはいえ、大の男が、エリザのか細い腕に殴り飛ばされていく光景というのは受け入れがたいものがある。そして、男達はようやく、状況を理解し、絶叫する。


「な、なんなんだ、こいつら、ありえねぇだろ」


 攻略組でさえ、素手で人間を殴り飛ばすなどという芸当はできるはずがない。唯一、できるとすれば、並はずれた膂力を持つ竜人(ドラグーン)だが、エリザが竜人(ドラグーン)でないことは一目でわかる。フードを被っている為、はっきりと顔を見ることはできないが、エリザの種族はおそらくは人間(ヒューマン)かホビットである。どちらの種族にしても、人間一人を殴り飛ばすほどの膂力はない。


「てめぇら、びびってんじゃねぇぞ、数はこっちの方が優ってんだ。囲んじまえば問題ねぇ」


 リーダー格の男が叫び、男達はすぐにエリザを取り囲む。しかし、その背後からユーリは容赦なく、剣を振るう。


「はぁぁああっ!!」


 逆袈裟で切り上げるように放たれた剣撃は男の背中を切り裂き、振り返った男を折り返しの唐竹で両断する。そして、男が光となって消えてしまうよりも先に、ユーリは男を踏み台にして飛び上がる。そして、小柄なドワーフ族の男に狙いを定めて、風の刃を放つ。エルフとは真逆で、INTの低いドワーフは当然のことながら、魔法攻撃に弱い。低レベルのドワーフ族にとって、ユーリの放つ魔法攻撃はまさしく、一撃必殺の威力を持っていた。


「この野郎っ!!」


 また、一撃で仲間を殺された男達は叫び声をあげながら武器を振るうが、その攻撃がユーリに届くことはない。本能のまま、闇雲に振るわれる武器などゴブリンの攻撃にも劣るものであり、【軽業】を持っているユーリはひらりひらりと男達を躱していく。


「私のことを忘れないでもらえますか……シャドウランス……」


 エリザの影から伸びた無数の槍が周りの男達を容赦なく、貫く。そして、そのまま手を伸ばして、男の頭を掴んだ。その気になれば、男一人を殴り飛ばすことのできる腕力で掴まれたのだから、その痛みは尋常ではない。男は声にならない悲鳴を上げながらもがくが、エリザが力を緩めることはない。エリザを囲む男達もあまりの光景に言葉を失い、立ち尽くしている。両者の実力差は明らかだった。片や、条件さえ整えば攻略組さえ圧倒できる古参組の一人、片や数を頼りにした低レベル集団。数で攻めれば、あるいは、策を練ればどうにかなる、という話ではなかった。しかし、既に戦意を失った男達にエリザは容赦しなかった。


「で?」


 心の折れた男達に見せつけるようにエリザは掴んだ男を放り投げる。ゴツン、という鈍い音を立てて、男は光の粒になってしまった。


「ば、化け物……」


「その化け物に先に手を出したのは貴方達でしょう?」


 冷ややかな笑みを浮かべて、エリザは闇属性の魔法を唱える。黒い球体が男達を包み込んだかと思うと、次の瞬間には、破裂して、男達の体が吹き飛ぶ。残った体も光となってすぐに消えていく。瞬く間に、男達を消し去ったエリザは小さくため息を零した。


「まったく……これでは私が弱い者いじめをしているみたいですね」


「まぁ、間違いとも言い切れないけど」


 エリザと同じく、剣と魔法を駆使して男達を屠ったユーリはエリザに同意するように頷いた。ユーリが考えていた以上に男達との実力差は大きく、【軽業】で相手を翻弄しながら剣を振るえば、ほとんどの相手を倒すことができた。敵の攻撃を全く受けなかった、と言ってしまうと嘘になってしまうが、フランの作った服の防御力の前では男達の攻撃力など塵も同然だった。


「で、残ったのはあいつだけなんだけど、エリザに任せるよ?」


 相手側は既に壊滅していて、生き残っているのはリーダー格の男、只一人である。厳密には、敢えて残した、と言った方が正しい。


「えぇ、もちろん。あの男には今までの行いを悔いてもらわないと……二度とこんな馬鹿な真似をしようだなんて思わないように、徹底的に」


 にっこりと微笑むエリザの微笑にユーリの顔は引き攣った。ユーリとしては、最後の華をエリザに譲る程度の気持ちで、リーダー格の男を残しただけである。エリザに徹底的に痛めつけさせるために残したわけではない。


「ふ、ふざんけんじゃねぇぞ……俺に指一本触れてみろ、あの女がどうなっても知らねえぞ」


 最後の切り札だ、と言わんばかりに男はエリザに人質の存在を突きつける。しかし、エリザは首を傾げるだけだった。


「あの女?誰のことですか?」


「な、何言ってるんだ、お前達が助けようとしている女のことだ。嘘じゃねぇぞ、もし、俺に触れたらそいつの命は保証しねえからな」


 見苦しいくらいに足掻く男にエリザは冷ややかに言い放つ。


「どうぞ、ご自由にしてください。勘違いしているようですが、私はその女性とは面識はありませんし、助けるために貴方達と戦っているわけではありません」


 ユーリが戦う前に条件で提示した女性の身柄引き渡しは言ってしまえば、おまけであって、それが主目的というわけではない。ユーリ達の目的はあくまでも、男達への復讐であり、人質云々はついで、なのだ。少なくとも、エリザにとって、人質は人質の役目を果たさない。抑止の効果を期待した男の行動は全くの無駄だったのである。むしろ、悪手といってもよかった。


「まったく……」


 エリザにしてみれば、泣いて命乞いをするのであれば、それで許してもいいと思っていた。しかし、男が選んだのは、人質を盾にする、という最悪の方法であった。


「や、やめろ、やめてくれ……」


 人質が通用しないと理解した男は狼狽え始めるが、もう既に遅い。ユーリ達の力量を測り損ね、手を出したことがそもそもの間違いだったのだ。エリザは冷ややかな笑みを浮かべたまま、男との距離を詰めていく。まるで、何事もないかのように歩くその姿が逆に恐ろしく、男は蛇に睨まれた蛙のように動けずにいた。そして、エリザは男の喉に手を伸ばす。


「心配しなくても、死ぬわけじゃありませんから」


 喉元を掴み、そのまま、片腕だけで男を持ち上げるその姿は異様と呼ぶより他にない。男は苦しそうな呻き声を上げるが、エリザは力を緩めることなく、むしろ、一本ずつ確実に、じわじわと指に力を込めていく。華奢と言ってもいいほど細い腕一本で、男を持ち上げるその光景にユーリは改めてここがゲームの世界なのだ、と実感した。


―――エリザって、怒らせるとマジで怖えぇ……


「でも、私だって鬼じゃありません」


 すぐに楽にして差し上げます、と甘い声で囁き、エリザは吸血鬼(ヴァンパイア)の固有スキルを発動した。


「エナジードレイン」


 真紅の光が男を包み込み、その顔に苦痛の色が広がる。しかし、一切の悲鳴さえ出すことができず、男は首を掴まれたまま、もがき続けた。【エナジードレイン】は相手のHPを吸収するアビリティであり、モンスターはもちろん、プレイヤーにも効果を発揮する。発動するためには直接、対象に触れなければならない為、使い勝手がいいとは言えず、一瞬でも離れてしまえば無効化できるのだが、首を掴まれた男にそれだけの気力は既になかった。HPがほとんど無傷のままで残っていたせいもあり、男の苦痛は長く続き、男は苦悶の表情を浮かべている。


―――鬼畜……


 その光景を見ていることしかできなかったユーリは男に軽い同情を覚えながらも、エリザを見守っていた。ようやく、HPの尽きた男は光の粒となって消えていき、それと同時にユーリ達の勝利を告げるアナウンスが闘技場(コロシアム)に流れた。



というわけで、いかがでしたでしょうか、エリザ無双。



夜のエリザさんが本気を出せば、こんな感じになるんです、という意味でも無双させてみました。

所詮、奴らはゴブリンにも劣るんです……にしても、圧勝過ぎましたかね?



次話は……すみません、いつ投稿できるのか未定です。



必ず投稿しますので、それまで気長にお待ちください。

ではでは。



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