NDA43
お待たせしました。エル剣43話です。
どうぞ、お楽しみください♪
馴染みの顔を見つけてユーリは手を振った。
「カイ、久しぶりだな」
「あれ、ユー姉、街道に行ったんじゃなかったの?」
街道に行くと言って、準備万端に整えてユーリ達が始まりの街を出て行ったのはつい先日のことである。ユーリ達の実力を知るカイはモンスターに殺されてしまう心配はしていなかったが、すぐに戻ってくるとは思っていなかった。
「まぁ、な……昨日、ゴブリンの大群に襲われるクエストに巻き込まれてな……それで回復系アイテムの底が尽いたから補給に戻ってきたんだ。あ、それと、彼女は俺たちの新しい仲間のエリザだ」
「あぁ、そういうこと……そういえば、そんな話を誰かがしてたかも。災難だったね、ユー姉。えーと、初めまして、エリザ。僕はカイ。見ての通り、鍛冶職人をやってて、ユー姉達にはいつも贔屓にしてもらってます」
カイは営業スマイルを浮かべてエリザは握手を交わすと、エリザは怪訝な表情を浮かべた。
「……ユー姉?」
「あ、もちろん、ユー姉の性別は知ってるよ。でも、見た目がユー姉って感じだし」
そうなのか、とエリザはユーリを見ると、ユーリは苦笑交じりに頷いた。見目麗しい外見故に女に間違われることに関しては半ば、諦めている。そして、特に必要がなければ、男だと教えることもしていなかった。下手に教えて女装癖があると誤解されたくはなかったし、なにより、女のふりをしていた方が他のプレイヤーが優しくしてくれることの方が多い。今回のように、厄介事に巻き込まれることや、下心剥き出しで近づいてくる男達の相手をするのは億劫だったが、それよりもメリットの方が大きかったのである。
「まぁ、そういうわけで、剣を酷使したから、ちょっと見て欲しいんだ。代金はこれで頼む」
ユーリはそう言って、サーベルと取っておいた【子鬼のナイフ】をカイに渡した。カイは小さく頷いて、それを受け取るとスキルを使ってユーリの剣の修理を行った。ユーリの剣は【黒甲】の名を冠する通り、切れ味よりも頑強さを重視した剣であるとはいえ、無数のゴブリンを相手にしたおかげで小さな傷が目立ち、耐久値の限界も近づいていた。
「ユーリ、いいのか?私が口を出すべきことではないが、流石にそれは割に合わないだろう?」
武器や防具の修理は【鍛冶】のスキルを持っているプレイヤーならば誰でもできるほど簡単なもので、鍛冶師の仕事の中で最も値段が安いものである。生産職に進むと決めたプレイヤーにとって武器や防具の修理は小遣い稼ぎ的なものでしかなく、【子鬼のナイフ】に釣り合うほどのものでもない。つまり、ユーリの方が圧倒的に損をしていることになるのだ。
「あ、やっぱり?でも、誰かに売るよりはカイにあげた方が俺として嬉しいし、これでカイの【鍛冶】のレベルが上がってくれると俺たちも助かるし……」
ユーリ自身、その自覚はあった。ゲームの中の常識に疎いユーリとはいえ、【修理】の代金の相場は知っている。そして、それが【子鬼のナイフ】の相場に比べてかなり低いことも知っていた。エリザはよく思っていないようだが、ユーリはこれで構わないと思っていた。見る者によってはただの馴れ合いにしか見えないやり取りであるが、ユーリはそれよかった。所詮、ここはゲームの世界である。ゲームである以上、誰が何と言おうと、これは馴れ合いの延長でしかない。ユーリはそう信じたかった。
「まぁ、それはそうだ。自覚があってしているのなら、これ以上は何も言わない」
一方のエリザは小さく頷くと言葉通り、それ以上は何も言ってこなかった。
「僕もしてもらってばかりで申し訳ないと思ってるから色々とサービスはしてるんだよ。まぁ、微々たるものかもしれないけどね」
カイは申し訳なさそうに苦笑する。しかし、カイのそれは決して微々たるものではない。ユーリ達の武器を作ったのはカイだが、そのときの値段は相場に比べると驚くほど安かった。他にも、素材を買い取ってもらうときは相場の値段よりもいい値段で買い取ってもらってもいる。全体的に見れば、カイとユーリ達のやりとりは五分五分と見てもいいくらいである。
「いや、カイには助けてもらってるよ。ありがとう」
「うん……あ、そうだ……これも噂で聞いたんだけど、ユー姉の言ってたゴブリンのクエストですごい活躍してたエルフの女魔法剣士がいるんだって……それって、もしかして……」
これ以上は空気が悪くなると判断したのか、カイはそう言って、話題を強引に変える。
「もしかしなくても、俺のことだろうな」
そして、ユーリはその流れに乗るかのようにあっさりと頷いた。
「ユーリ、自分で言っていて悲しくならないか?」
ユーリの性別は男である。紛れもなく、男である。どんなに可憐で、か弱くて、夜の男性達が守ってあげたくなるような外見をしていても男である。そして、故あってメイド服を着ることはあっても、決して女装癖があるわけでもない。正真正銘、男である。しかし、エリザの目にはユーリが女に間違われることに関して、ほとんど抵抗がなくなってきているように見えた。そんなエリザの問いかけにユーリはため息まじりに呟いた。
「……今更だよ」
どこか諦めたようなユーリの口調にカイもエリザもそれ以上、何も言えなかった。
・*・
武器の修理を終えたユーリはそのまま闘技場に向かった。闘技場は名前のとおり、戦うための施設であり、プレイヤー同士で戦ったり、モンスターと戦ったりすることも可能である。ちなみに、モンスター相手に戦った場合、ドロップアイテムは手に入らないが、モンスターの強さに応じた報酬と経験値を得ることができる。また、死んでしまえば、即終了のこのゲームだが、闘技場だけは唯一例外で、仮に死亡してしまってもペナルティは発生しない。つまり、安全にレベル上げのできる施設であるため、プレイヤーの数も少なくなかった。しかし、プレイヤーが集まるのはあくまでもモンスター戦の受付のみであり、プレイヤー戦の、それも団体戦の受付にはほとんど人はいなかった。
「ユーリ、こっちだ、こっち」
呼ばれた声にユーリが振り返るとそこには森から帰ってきたカジカ達の姿があった。そして、開口一番にカジカの怒鳴り声が響く。
「お前は馬鹿かっ!!売られた喧嘩ならともかく、自分から喧嘩を売るような真似をして……」
「ぁ、ぃや、それはそうなんだけど、さっき説明した通り、あの時は状況が状況で仕方なく……なぁ、エリザ?」
助けを求めるようにユーリはエリザを見ると、エリザも渋々ながら頷いた。
「あれが最善だった、とは言わないがあのまま逃げてもあいつらが諦めたとは思えない。それに、あいつらのせいでこちらはあんな屈辱的な想いをさせられたんだ……相応の報いは受けてもらわないと私の気が収まらない」
具体的に男たちに何かをされた、ということはなかったがエリザにとっては男たちに囲まれて、下卑た視線に晒されただけでも許せないことのようだった。もっとも、その点に関してはユーリも同意見であり、男たちを仕返しするために喧嘩を吹っかけた、というのはあながち的外れでもない。
「それはそうと、頼んでおいたものは準備してくれたか?」
「あぁ、一応、作ってはある。けど、そんなのは気休め程度にしかならねぇぞ?」
カジカから目当てのものを受け取るとユーリは頷いた。
「あぁ、それは俺だってわかってるよ。今回の相手は俺たちより格下だ。けど、油断は禁物だし、念には念を、と思ってね……レベルは上でも、俺はエルフだ。単純な力比べでは不利だし、その点はわかってるつもりだ」
「それにしても2対6か……なぁ、今からでも遅くない。俺達も加わろうか?」
「そうです。お姉様、私たちが加われば間違いなく、勝てますよ」
カジカ達のレベルは間違いなく、男たちより上である。回復役がいないことを除けば、パーティーのバランスも悪くなく、総合的な実力は攻略組の下位グループに匹敵する。むしろ、索敵や回復といった役割を排除している分、火力だけなら攻略組の上位グループにも引けは取らない。
「いや、いいよ。それだと条件云々でまた因縁をつけられかねないからな。それに、これは俺の売った喧嘩だからな。少しくらい、意地を張らせてくれ」
「勝手にしろ。ちなみに、俺の有り金全部、お前たちの勝ちに賭けてきたから負けたら承知しねぇぞ?」
闘技場のプレイヤー戦に関してはその勝敗が賭けの対象になっている。もちろん、勝つか負けるか、あるいは引き分けるかのいずれかしか結果は有り得ない為、決して倍率が高いとはいえないが、娯楽らしい娯楽の乏しいこの世界では数少ない娯楽の一つだった。もっとも、攻略組のような凄腕のプレイヤーが参加することはほとんどないため、娯楽と呼ぶにはいささかもの足りたい部分があるのは否めなかった。
「絶対に勝つ、とは言い切れないか。そうだな……その時は体で払うから勘弁してくれ」
思いもかけなかったユーリの言葉にカジカは苦笑を浮かべながら、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、とユーリの頭をコツンと叩く。
「勝てよ」
カジカはそう言ってユーリ達と別れた。そして、程なくして男たちが姿を現した。リーダー格の男を先頭に十人ほどの男を引き連れて歩く姿はどこか威圧的で、他のプレイヤー達も物珍しそうな目で男たちを見ていた。そして、当の男たちは闘技場に着くなり、ユーリ達に下卑た視線を投げかける。
「へぇ……結構、イイ女じゃん」
「だろ?」
既に勝利を確信しているのか、品定めするようにユーリとエリザを見比べながら、余裕の表情を浮かべている。そんな男たちの視線を受け流しながら、ユーリは男達の数を数えた。闘技場のシステム上、団体戦はパーティーの数は同じにしなくてはならない。その為、2対6で戦うことになるのだろう、と思っていたユーリだが、男たちのその倍近い数を揃えてきた。
「11人か……それで全員か?」
「あぁ、一つのパーティーは6人までだが、2パーティーずつのチーム戦なら問題ねぇ。仲間を連れてこいって言ったのはそっちだ。今更、卑怯だとは言わせねえぞ?」
男は不敵に笑いながら、ユーリに言い放った。ユーリはわずかに顔をしかめながら、エリザを見た。卑怯だと思う一方で、相手の人数に制限を掛けなかったのは、ユーリのミスである。喧嘩を売った立場として、また相手が格下であることをことを考えると下手に取り乱した姿は見せられない。
「だ、そうだ。別にいいよな?」
「問題ない。あの程度の相手なんて何人いても変わらないからな」
フードに隠れて外見からはわからないが、既に夜モードになっているエリザの言葉は自信に溢れていて、動じた様子は微塵もなかった。
「人数についてはこれで決まりだな。他の条件も確認しておくが、時間は無制限で、勝負は闘技場ルールに準ずる。これでいいな?」
「あぁ、で、俺たちが勝てば、お前たちを好きにしていいんだろ?」
下卑た欲望を剥き出しにした男の笑みにユーリは頷く。
「それでいい。で、こちらが勝った場合だが、お前たちは潔く自首してもらう」
「は?何言ってやがる?俺たちは自首するようなことなんてしてねぇぜ?おめぇが勝手に勝負を持ちかけてきたんだじゃねぇか」
男は小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ユーリに詰め寄った。
「そうか。自首する気がないなら、憲兵を呼ぶだけだから別に構わないが……どうせ、女性プレイヤーを囲ってるんだろ?」
根拠らしい根拠はどこにもなかった。しかし、ユーリ達を囲んだときの男たちの慣れた動きを見て、ユーリはそれを確信していた。
「自首した上で、監禁しているプレイヤーの解放。これが、こちらの勝った場合の条件だ。受け入れられないなら、この勝負はなかったことにする」
「っち……勝手にしやがれ」
負ける気はない、という自信か、あるいは勝負をなかったことにされて、ユーリを手に入れる機会を失いたくはなかったのか、男は不服そうな顔を浮かべながらも、ユーリの出した条件を了承した。
「じゃあ、行くか」
そして、一行は闘技場の奥へと進んでいった。
というわけで、次回はいよいよユリエリVS男達のバトン回です。
数で勝る男達にユーリ達がどんな風に立ち向かうんでしょうか……
諸事情によりGWくらいまで投稿できませんので、ご了承ください。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは。




