表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/65

NDA42

遅くなってしまいましたが、ようやく投稿です。

どうぞ、お楽しみください。


「ん?何か言ったか?」


「いえ……」


 伏せ目がちに首を振るユーリの姿に男達がゴクリと喉を鳴らす。そんな男達を盗み見ながら、ユーリはほくそ笑んだ。男達の欲望に晒されながらもユーリは意外なくらい冷静だった。男だから襲われてもどうにかなるだろう、という意識もあったがそれ以上に、ユーリを安心させたのが男達の対応だった。以前、デスゲームが宣言された直後に襲われた時に比べると、今回の男達ははるかに理性的かつ、計画的に行動している。ユーリ達が反抗的な態度を示さなければ、暴力は振るわないと宣言していて、実際に、その通りに行動している。人目が少ないとはいえ、街の中心にいることを考えると気絶させてどこかに運び込む、ということをおそらくない。特に根拠があるわけではなかったが、なんとかなるだろうという確信がユーリにはあった。


「大丈夫だ。なんとかするから、安心して」


 エリザにしか聞こえない程度に小さな声で囁くとエリザも小さく頷いた。ベータ版からの古参組で、実力もあるエリザだが、女性であることに違いはなく、男達に囲まれているこの状況は恐怖しか感じない。一見すると平気そうに見えるが、その実、男達の下卑た欲望の対象にされて、体の奥底から震えそうになるのを必至に堪えているのだ。そんな中でのユーリの大丈夫だ、という言葉は、たとえ、根拠がないものだとしても、エリザの心を支えるものだった。ユーリの服の裾をぎゅっと握りしめ、身を寄せた。


「ステータスはまだ昼のまま?」


 再度、エリザは頷いた。日は沈みかけているが、エリザの髪はまだ黒いままだった。吸血鬼(ヴァンパイア)の本領が発揮される夜であれば、竜人(ドラグーン)相手でも素手で戦い抜ける自信があるが、昼はエルフにすら力負けしかねない。男達に力づくで襲われてしまえば、抵抗する手段はないと考えて間違いない。


「……【魅惑】って使える?」


「あぁ……だが、火に油を注ぐようなものだろう?」


 【魅惑】は視線の合った異性を惑わすスキルであるが、下手に使うと相手を欲情させるだけの結果になりかねない。しかし、下手に動くよりも相手を注意を惹きつけることはできる。


「いや、一瞬でも隙を作れればそれでいい。俺が合図をしたら……」


「おい、おめぇら、何を相談してんだ」


 背後から男達のヤジが飛ぶ。すぐにでもどこかにユーリ達を連れ込んで、ことに臨みたいらしく、その声には苛立ちが混じっている。


「そ、そんな大きな声を出さないでください……」


 小刻みに肩を震わせながら、ユーリが男達を見つめる。か細いエルフの震えた声と眼差しが男達の加虐心をそそる。もちろん、震えた声も眼差しもユーリの演技であるが、ユーリを女だと信じ込んでいる男達は疑いさえしない。


「なぁ、いいかげん、待ちくたびれたぜ?さっさとヤっちまおうぜ」


 舌舐めずりしながら、ユーリに手を伸ばし、その髪に触れる。


「やっ……」


 小さな悲鳴と共にユーリは男の手を払い、そのまま男の顔面を張り倒した。パシン、という音を立てて、男の体が揺れる。突然の抵抗に男達もすぐに構えるが、それよりも先にユーリが叫ぶ。


「エリザっ!!」


 ユーリの合図に応えて、エリザはフードを外す。【魅惑】は異性と視線を交わすだけで効果を発揮する。薄暗いとはいえ、目と鼻の先にいる男達がエリザの視線から逃れる術などない。闇を封じ込めた漆黒の瞳が男達を射抜き、惑わせる。エリザに気を取られた男達は動きを止めてしまう。その隙を逃すことなく、ユーリはエリザを抱きかかえると、壁を蹴って飛び上がり、男達の頭上を越えていく。ユーリを可憐な乙女と思い込んでいた男達は反応することさえできず、それを黙って見ていることしかできなかった。あっさりと男達の包囲を突破したユーリはエリザを下ろすと男達を睨みつけた。二人の背後は既に大通りであり、逃げ出すことは容易であるが、このまま終わらせるつもりはなかった。


「さて……これで、ゆっくりお話しできますね」


 にこりと微笑んだユーリに男達は息を呑む。そこに立っているのは、先ほど見せた動きが嘘だったかのような可憐な乙女だった。しかし、その瞳は欠片も笑っておらず、ただならぬ気配を感じた男達は動けずにいた。一瞬にして、立場は逆転してしまった。男達がユーリ達に優位を保てていたのは、人目に付かないところで、包囲していたからである。そのどちらも失ってしまった男達などユーリにとって恐怖の対象ではない。


「最初に言っておきます。私は、いえ、私達はあなた方を許すつもりはありませんし、見逃すつもりもありません」


「な、なんのことだ……俺たちは……」


「言い訳ですか?見苦しい……」


 凛としたユーリの眼差しが男達を射抜く。見た目は可憐な美女でも、レベルだけを見れば攻略組の端に引っかかるユーリである。更に言うなら、先日、ゴブリン百匹以上を相手する、という荒行を潜り抜けてきたばかりである。正面から対峙すれば、レベルも技量も、経験さえも劣る男達など怯えるに値しない。


「まぁ、私達がここで悲鳴を上げればそれまでですが」


 ユーリの言葉に男達の顔色が変わる。現状ではまだ、男達はユーリ達に触れてはいない。つまり、限りなくグレーに近いとはいえ、罪に問われることはない。しかし、ユーリ達が悲鳴を上げてしまえば一瞬にして、既成事実ができあがってしまう。包囲しているのならまだしも、大通りまでの距離はユーリ達の方が近く、男達が取り押さえるよりも先に逃げられてしまう。状況の不利を悟った男達はどうせ捕まってしまうのなら、と考えた男達はそのままユーリ達に襲い掛かろうと動き出すが、それをユーリの笑みが止める。


「一つ、勝負をしましょう。方法は簡単、私達とあなた方で、コロシアムで決闘……いかかですか?」


 まさか、逃げないでしょう、と挑発的な笑みを浮かべるユーリの男達の顔その言葉に男達は好色な笑みを浮かべ、しかし、すぐに冷静な表情に戻った。


「別に戦う理由なんてないだろう?」


 ユーリの身のこなしを見て、不利を悟ったリーダー格の男は戦いを避けようとする。今ならば、なかったことにすることができる。男達がユーリ達を襲おうとした証拠はどこにもない。しかし、それを見透かしていたかのようにユーリは妖艶な笑みを浮かべる。


「あなた方が勝てば、この体を自由にしてくださって構いません……こちらは二人、あなた方は……そうですね、お任せします。仲間がいるのでしたら、どうぞ、連れてきてください」


 誘うような、艶やかな視線に男達はごくりと喉を鳴らした。


「ほぅ……」


「時間は……そうですね……お互い、準備があるでしょうか今から二時間後、コロシアムの前で待ち合わせしましょうか。もし、時間になっても現れなければ、逃げ出したとみなします。いいですね?」


 ユーリはそれだけ言い残して、その場を去っていく。残された男達はお互いに顔を見合わせて頷き合った。挑戦的な態度や動きから察する限り、ユーリの実力な男達の個々の実力を上回っている。しかし、ユーリの示した条件は一対一ではなく、チーム戦で、しかも、ユーリ達は二人だけである。たとえ、個々の実力で劣っているとしても男達も勝ち目はある。


「おい、残りの連中にも声をかけろ。なに、全員でいけばいくらあいつが強くなって関係ねぇ……頭数揃えりゃ負けるわけねぇぜ」


 誰からとなく、笑みが零れる。この勝負に勝てば、ユーリ達を手に入れることができるのであると考えると、無理もない。


「やべぇ……今から、楽しみだな……」


 数で勝り、勝利を確信している男達は既に勝負など眼中になかった。




・*・




「というわけで、売り言葉に買い言葉であいつらと戦うことになった……すまない」


 男達から離れたユーリはまず、エリザに許可を得ずに戦いに巻き込んでしまったことをユーリが詫びた。しかし、エリザは静かに首を横に振った。


「いや、それは構わない。二時間後なら、私も存分に力を振るえるからな……それに、あいつらを黙って許せるほど優しくもない」


 エリザはフードの下で不敵な笑みを浮かべた。二時間も経てばエリザのステータスは最弱から最強に変わる。竜人(ドラグーン)以上にレベルが上がりにくい種族であるため、単純なレベルだけで見ると街道の適正レベルにようやく引っかかった程度のエリザであるが、その実力は飛び抜けて高い。その力を十全に発揮すれば、さきほどの男達など何十人いたとしても物の数でない。


「まぁ、それを期待して二時間後に指定したんだけどな」


 ユーリとしても、勝ち目のない喧嘩を売ったつもりはない。ゴブリン達との一戦で、ユーリ自身の実力が他のプレイヤーと比較してかなり上であることは理解できた。プレイヤー相手に戦うのは初めての経験であるが、数名相手であれば負けない自信があった。しかし、男達の口調から察する限り、他にも仲間にいることは間違いない。


「チーム戦は最大で6人までのはずだから、3人ずつか……まぁ、いい……久しぶりに全力を出すとするか」


 みせしめにしてやろう、と微笑むエリザはまさしく怪奇伝説に登場する吸血鬼(ヴァンパイア)であり、ユーリは背筋が冷たくなるのを感じた。


「あ、うん……けど、やり過ぎないようにね?」


 男達のせいで怖い思いをしたエリザの心情を考えると、その気持ちもわからないではないが全力を出したエリザを想像すると男達に同情してしまう。本職の魔導師以に匹敵する威力の魔法と素手でゴブリンを倒す技量。はっきり言って、反則である。その気になれば、エリザ一人で男達を相手することも可能だろう。


「とりあえず、まだ時間はあるから先に用件を済ませてからコロシアムに行こう?」


「あぁ……」


 これから戦う男達に軽い同情を覚えながらも、ユーリはカイの店へと向かった。




と、いうわけで次回はコロシアムで男たちとバトル……になるかな?


これから投稿が不定期になるかもしれないので、次回予告はいたしません。

ご了承ください。


三月中には次話を投稿できるように頑張りますので、よろしくお願いします。


ではでは。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ