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NDA41

ようやく、投稿できました。



どうぞ、お楽しみください。

「さて……売るか……」


 市場にはNPCはもちろん、プレイヤーの姿も見受けられ、手に入れた素材や自ら作ったアイテムを広げている。ユーリもいつものように場所代を払い、品物を並べていく。今回の品は街道で倒したゴブリン関 係の素材がほとんどであり、それなりに売れることが〉見込まれる。単純な売り上げだけを考えるなら、決して落ち込むようなことはないはずなのだが、ユーリは小さくため息を零した。悩ましげな、憂いに満ちたユーリの表情を見て、エリザは首を傾げる。

「どうかしたのか?」


「……いや、なんでもない……」


――――もう、今更だよな……


 自問自答しながら、ユーリは苦い顔を浮かべる。市場に来た以上、ユーリのするべきことは一つしかない。街道で集めてきた素材を売ることがユーリの任務であり、果たすべきことである。


「……最初に言っておく。これはあくまでも、効率よく売るためにするのであって、俺に女装癖があるわけじゃない……」


 そう言うとユーリの体が淡い光に包まれていく。それが装備変更のエフェクトであることを知っているエリザは一瞬、首を傾げ、そして、ユーリの格好を見て、小さく頷いた。


「なんだ、よく似合ってるじゃないか」


 蜂蜜色の髪の毛と透き通った白い肌。シックな感じのするブラウンのエプロンドレス。細身の体に、ピクッと尖ったエルフ耳。今にも消えてしまいそうなほど儚げなその眼差しは男の庇護欲を掻き立てるものがある。今にも穢れてしまいそうで、しかし、最後の一線を越えずにいるかのような絶妙な加減は凶悪と呼ぶより他にない。そこには世の男性の欲望を忠実に再現したかのようなエルフのメイドが立っていた。


「……うっ……」


 エリザの言葉がユーリの胸に突き刺さる。それが何の含みもない、純粋な褒め言葉であるゆえに、ユーリのダメージは余計に大きい。そんなユーリの心の内を知ってか、知らずか、エリザは思い出したように言葉を続ける。


「……そういえば、掲示板に美人エルフメイドが市場に出没とあったが、なるほど、そういうことだったのか……」


「え、なにそれ、初めて聞いたぞ?」


 思いがけないエリザの言葉にユーリは顔を顰める。


「いや、ストーカー云々の話の時に耳に挟んだ程度だから、詳しいことは私も知らない……ただ、そういった噂があった、というだけだ。気になるなら、後で確認してみるといい」


「……考えておくよ」


 エリザは確認してみるといい、と言っていたがユーリにその気はなかった。掲示板を探せば、おそらくはそういった情報はすぐ手に入る。しかし、それを目にしてしまうとユーリの中で何かが壊れてしまいそうな気がした。


「とりあえず、エリザにも応対してもらうから……ちなみに。こういった経験は?」


「ない」


 潔く言い切ったエリザにユーリは苦笑を返す。ソロプレイヤーで、生産職に知り合いがいるエリザが、売り子の経験などしたことがないであろうことは予想していたこととはいえ、ここまではっきり言われるとは思っていなかった。しかし、ここまで潔く言い切られるとそれはそれで清々しくもある。


「とりあえず、笑顔で応対すればほとんどのことはなんとかなるから」


「……なんとかなる、のか?昼でも【魅惑】の影響が出てしまうからあまりそういったことはしたくないんだが……」


 【魅惑】は視線の合った異性を惑わすスキルであり、異性であればモンスターはもちろん、NPCやプレイヤーに対しても効果を発揮してしまう、ある意味、凶悪なスキルである。固有職業(クラス)スキルの一つとして組み込まれている為、外すことはできず、オン・オフの切り替えもできないため、強力ではあるが、使い勝手のいいスキルとは言えない。相手とのレベル差が起き蹴れば大きいほど、成功率や効果が大きくなってしまうため、エリザ自身、困らされることも少なくない。


「市場に行くって言ったのはエリザ自身なんだ。やるって言ったことには責任を持ってくれよな」


「あ、あぁ……わかった」


 有無を言わせないユーリの言葉にエリザは頷くしかない。


「お、今日は街道のドロップアイテムか……」


 ユーリが準備をしてまだ間もないというのに、顔馴染のプレイヤーが近づいてきて、敷物に広げられた品物を物色していく。来客に気付いたユーリはすぐさま営業スマイルに切り替えて、笑顔で応対する。そんなユーリの様子を見ていたエリザは軽い眩暈を覚えながら、ため息を零した。


「そういえば、今日はいつもと違う人だね。いつもの三人はどうしたんだい?」


 男は既に何度もユーリの売り場に足を運んでいるプレイヤーである。当然、ユーリがカジカ達と組んでいることも知っていたし、カジカ達がいつも一緒にいることも知っていた。その三人がいなくて、代わりに見知らぬプレイヤーがいるのであれば、気になるのは当然のことだった。

「あ、えーと、三人は今日は森に行ってるんです。ポーションの素材を集めに」


「あぁ、なるほど……そういえば、掲示板にそんな情報が出たって誰かが言ってたな。じゃあ、明日からはポーションもここに並ぶことになるのかな?」


「さぁ、それはどうでしょうね」


 男の問いかけにユーリはとぼけてみせる。カジカ達がポーションの材料を集めに行っていることは間違いではないが、それはあくまでも自分達が使うためのポーションの材料を集めているのであって、売るためのポーションの材料を集めているわけではない。十分な数が集まったならば、おそらくすぐに出発するだろうし、足りなければまた材料を集めに行くだけである。市場で売りに出す、ということはまずあり得ない。


「まぁ、楽しみにしてるよ」


 ユーリの言葉の真意を知ってか知らずか、男はそう言って、ゴブリンのドロップアイテムを買ってどこかへ行ってしまった。それから先もユーリの元には多くの、主に男性の、プレイヤーが集まってきた。カジカ達がいないせいか、買い物ではなく、勧誘やナンパが目的のプレイヤーも少なくなかったが、そういった人達をユーリは慣れた口捌きであしらっていく。中には、数日通い続けている強者もいたが、見た目は美人メイドエルフでも、中身は男子高校生のユーリである。靡くはずもなかった。ようたく、ひと段落ついたときには敷物の上の売り物はほとんど売り切れてしまっていた。


「すごいな……結局、ユーリ一人でほとんど捌いてしまったな」


「あ、うん……まぁ、そういえばそう、だな……」


 ユーリはそう言いながら。手を組んで上に伸ばす。しかし、その顔はどこか複雑そうだった。


「何も買わないで、ナンパや勧誘目的の奴もいたからな……」


 日の沈み始めた空を見上げながら、ユーリは愚痴を零した。いつもであれば、カジカ達がいるためそういったことを言ってくる輩はあまりいないのだが、幸か不幸か、今日はカジカ達がいない。この機会を逃すか、と言わんばかりに多くのプレイヤーがユーリに声をかけてきたのである。無論、普通のお客さんもいたのだが、振り返ってみるとユーリ狙いの客の方が多かったように思える。


「まぁ、彼らの気持ちもわからなくはないな。女の私でも守ってあげたいと思いたくなる……」


「勘弁してよ、エリザ……だいたい、そんな真っ当な目的で声をかけてきたわけじゃないことぐらいわかるだろう」


 くすりに微笑んでみせたエリザにユーリは苦笑を浮かべる。ユーリ自身、そういった容姿であることは自覚しているが、名も知らない男たちの庇護の対象になりたいとは欠片も思わない。もちろん、一人で生きていけると強がるつもりはないが、手を差し伸べてくれる仲間は既にいるのだ。


「まぁ、な……しかし、そういうことを女性に言うのはデリカシーに欠けていると思わないか?」


 若干、硬い声音のエリザにユーリは冷めた声を返す。


「なら、言わせてもらうけど、男だからって傷つかないと思うなよ」


 二人の視線がぶつかり合い、エリザが先に視線を逸らした。


「わかった。私は悪かったよ。けど、冗談で言ったわけじゃないし、ユーリもその自覚はあるだろう?」


「まぁ……それは……」


 エリザの言葉を否定できないユーリは曖昧に頷く。女装癖があるわけではないが、ユーリが自らの意志でメイドの格好になっているのは紛れもない事実である。理由はもちろん、騎士服や普段着で売り子をするよりもメイド服で売り子をした方がはるかに客受けするからである。客受けする、とは言いつつもユーリは決して過度な露出をしているわけではない。むしろ、手首や足首の先までしっかりと隠して、露出は極力抑えている。しかし、それが逆に男性プレイヤーの心をくすぐるらしく、市場での人気はかなり高かった。世の男性たちが抱く、清楚で可憐、純真無垢を忠実に再現しているのだから人気が出るのも当然だった。

「なら、それは当然の報い、というものではないのか?」


「報いって……そういう言い方はないだろ」


ユーリは拗ねたように唇を尖らせながら、慣れた手付きで店仕舞いをしていく。


「もう店仕舞いするのか?まだ、商品は残ってるだろう?」


 敷物の上には【子鬼の骨】が幾つか残っていたが、ユーリはそれも一緒に敷物と一緒に片付けてしまった。


「いいんだ。これが知り合いにあげる分だから」


 そう言って、ユーリはメイド服から普段着に着替える。システム上は装備を変更している、ということになるため、一瞬で着替えることが可能なこのシステムは非常に便利であり、最近になってこのシステムの存在を知ったユーリは面白がって、よく使っていた


「そう、なのか?なら、別に構わないが……」


 そして、ユーリ達は足早に市場を後にした。無論、二人の後を追う影に気付くことはなかった。




・*・




 近道をしようとユーリ達が細い路地に入った途端、行く手を遮るように男が立ち塞がった。薄暗く、細い路地は大柄の男が目一杯両手を広げれれば、塞いでしまうことは容易く、通すつもりがないことは明らかだった。にやけた男の表情を見て不気味に思ったエリザはすぐに来た道を戻ろうと振りかえるが、通りへ続く道は別の男達によって塞がれてしまっていた。その男達も欲望丸出しの、下卑た笑みを浮かべていた。男達の表情を見て、その目的を悟ったユーリは苦い表情を浮かべた。


「……これは何のつもりだ?」


 聞くまでもないことだろうが、と思いながらもユーリは正面を塞ぐ男に尋ねた。


「何のつもりかって?見ての通りだよ……それにしても、やっぱ、すげぇよな、お前は……いじってねえんだろ、その顔」


 プレイヤーの容姿についてはゲーム開始前の設定で変更することが可能であるため、このゲームは美男美女が多い。というよりも、プレイヤーの大半はそういった容姿の持ち主である。しかし、素人が何も考えずに手を加えた顔、というものはどこか歪でよく見れば不自然さが滲み出ている。逆を言えば、不自然さのない美男美女というのは、現実世界でもその容姿をしている、ということになる。ユーリの場合、髪型こそ種族補正がかかっているが、それ以外は一切手を加えていないため、後者にあたる。そのせいか、ユーリが現実世界でも美人である、と思った男性プレイヤーからナンパ目的で声をかけられることもないわけではなかった。


「前に市場で見て気になってたんだよ。すげぇ美人のエルフだなって……」


「それはどうも」


 皮肉のつもりで笑顔を返してみせたユーリに男達の下卑た欲望が降りそそぐ。


「いいね、その強気な顔……めちゃくちゃにしてやりてぇナ……」


「思いっきり、よがらせてやるからな」


「そっちの女もよく見ればなかなか美人じゃねぇか……こりゃ、運が良い」


 正面に一人、後ろに三人。通路を完全に塞がれたユーリ達は男達を睨みつけるしかない。


「あの男の中古品ってのは面白くねえけど、まぁ、この際、気にしねえ……」


 あの男、という言葉がカジカを指しているのだと知ったエリザは顔を真っ赤にする。


「な、何を言っている。私とカジカはそんなふしだらな関係ではないっ!!」


 言わずもがなであるが、エリザはもちろん、クロエも、シオンも、もちろん、ユーリもカジカとそう言った関係は持っていない。このパーティーはあくまでもゲームを攻略していくために組んだパーティーであり、そこには恋愛感情はもちろん、愛欲で結ばれた関係など存在しない。 エリザ自身、それを目的にこのパーティーに入ったわけではなく、もちろん、望んでもいない。それを邪推されたのだから、怒るのも当然のことだった。


「お、ラッキー、まだ新品だってよ……まぁ、確かに三人も女、囲ってるんだから、そういうこともあるか……」


「何を言っている!!、私は……」


「いいよ、エリザ……こいつらには何を言っても無駄だから……」


 激昂するエリザを冷めた口調でユーリが宥め、正面の男に言った。


「それより、いいのか?こんなことをして……ここは街中……合意なしだとすぐに憲兵(ジャッジ)がやってくるぞ?」


 ゲームのシステム上、両者の合意がなくても性交渉は可能である。しかし、それは文字通り、可能である、というだけであって合法という意味ではない。合意のない性交渉、つまり強姦はゲーム内においても犯罪行為であり、行った場合、道徳心を示すMORが著しく減少するうえに、憲兵(ジャッジ)に追われることになる。どちらもゲームを進めていくうえで重要なことであり、一瞬の性的快楽と引き換えにするにはあまりにも重すぎた。そのため、ゲームが始まってしばらく経つが、強姦事件が起きたという話はほとんど聞かなかった。


「あぁ、そんなことは言われなくたってわかってるさ。けど、そんなのは簡単に解決できる……おめぇらが合意さえしてくれれば何の問題もねぇ……そうだろ?」


「合意するとでも?」


 まさか、と笑って捨てたユーリに男が硬く握った拳を見せつける。


「おめぇだって、痛い目に遭いたくねえだろ?心配しなくてもすぐに気持ちよくしてやっから」


「なるほど……けど、それって合意になるのか?」


 暴力で相手を屈服させたとして、それが合意と言えるのかというと答えは否である。しかし、男は余裕の笑みを崩さない。


「なるんだよ。少なくとも、この世界ではな……大人しくしてくれれば痛い思いはさせねえし、一生、面倒みてやるから、どうだい?二人も俺たちに飼われてみるつもりはないか?」


 厳密に言うと男の言葉は嘘である。暴力で相手を屈服させても、それが合意とみなすほどこのゲームのシステムは単純ではない。しかし、強引に性行為に及んだとしても、すぐに憲兵(ジャッジ)が飛んでくるほどユーザーフレンドリーなゲームでもなかった。憲兵(ジャッジ)が直にその行為を発見するか、あるいは、誰かが憲兵(ジャッジ)に通報しない限り、憲兵(ジャッジ)は動かない。つまり、誰にも気づかれずに、どこかに監禁してしまえば、強姦し放題なのである。もっとも、監禁されていてもフレンド登録をしている者同士で連絡を取ることは可能であるため、連絡を受けたプレイヤーを通じて、憲兵(ジャッジ)を動かすことはできる。つまり、遅かれ早かれ、ばれてはしまう為、実質、できないに等しいのだが、男達はそうは考えていないようだった。


「断るって言ったら?」


「その時はちょっと痛い思いをしてもらうことになるかな?」


 男の言葉にユーリは小さくため息を零した。


「まぁ、俺たちだって傷ものにはしたくねぇから、加減はするけど、反抗的な態度を改めさせる程度には厳しくいくから。あと、他にも仲間はいるから、ここで憲兵(ジャッジ)を呼べば、そいつらが黙ってねぇからな?」


 憲兵(ジャッジ)に頼っても無駄だ、と笑う男は更に言葉を続ける。


「今まで、男がいたから動かなかったけど、今日はその邪魔な奴もいねぇ……こんな絶好の機会、逃すわけねぇだろ……」


 反抗する気を挫いてしまえば、この計画は成功する。そう思い込んでいる男はユーリ達を絶対に逃がさない、と舌なめずりしながら呟いた。そして、そんな男達を前にして、ユーリはため息を零した。


「本当にクソ野郎だな……けど、こんな奴らでも殺したらPK扱いされて、俺のMORが下がるんだろうな……」




と、いうわけでユーリ達がピンチ……のはずが、あまり危機感を感じていないユーリ君でした。


性犯罪に匂わせる話ですから不快に感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、このゲームの仕様上、こういった話が出てくるのは仕方ないかな、と思います。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


次回は3月12日に投稿予定です。


それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。



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